【インタビュー】作曲家・梶浦由記が語る! 「SAO」シリーズ劇場版最新作「劇場版 SAO プログレッシブ」のサントラは新しさと懐かしさを感じる1枚に
2021年10月30日から全国の劇場で公開される「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア」。シリーズの原点である《アインクラッド」編をアスナの視点から語り直した、ファン注目の1作だ。サウンドトラックを手がけるのは、もちろん梶浦由記。CDは劇場公開の1日前に発売されることが決定している。
シリーズの原点に戻った作品ということで、制作にもより熱がこもったという梶浦。本作品のサウンドトラックの全貌を語り尽くしてもらった!
改めてTVシリーズ第1期のときに、いい曲を作っていたんだなと思いました
──TV番組「セブンルール」の取材を受けたとき(放送は2021年6月8日)、ちょうどこのサントラの制作時期だったんですよね。番組内のインタビューで制作期間はトータルで1か月だとおっしゃっていて、驚きました。
梶浦 まるで、劇場版のスタッフさんから1か月しか制作時間をいただけなかったかのように聞こえてしまったかもしれないんですけど、そうではなくて、ひとつの作品にかける私の集中力が1か月しか持たないんです。だからその期間にぎゅっと集中して終わらせるか、少し休んでまた続きをやるかという、どちらかなんですね。
──いろいろな作品のお仕事を同時並行させるのではなく、ということですね。
梶浦 いくつかの作品を並行して進めるというのは本当に苦手で、私はシングルタスクみたいです(笑)。途中でどうしてもほかの作品の音楽を手がけなければならなくなったときは、なかなか元の作品に戻ることができず、時間のロスが著しいんですね。特にサウンドトラックの仕事は、楽曲のテーマが常に3つか4つくらい頭の中にあって、全体の設計図ができ上がった状態で作っていて、いったん、その作品から離れてしまうと、それが消えてしまうんですね。ですから、脚本をもう一回読み直して、作った曲も聴き直してという作業が必要になってくるんです。
──サントラは1曲1曲が独立しているのではなく、同じストーリーの中でつながっているわけですからね。
梶浦 そうですね。ですから、こちらの曲で使ったテーマをこの曲でも匂わせようとか、いろいろな構想が頭の中にあって、(ほかの仕事を挟んだことで)それが全部消えてしまうと、元に戻すのがすごく大変なんです。
──「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア」は、一番最初の《アインクラッド》編をアスナ目線で描き直すという作品です。サウンドトラックの作り方にも、それが大きく影響したのではないでしょうか。
梶浦 スタッフさんやファンの方々、みなさん一緒だと思うんですけど、TVシリーズが「ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld」で大団円を迎えて、ひとつの大きな物語が終わった後で、もう一度はじまりの地である《アインクラッド》に戻るということはすごく感慨深くて、物語好きとしては、純粋にうれしかったですね。
──キリトとアスナの出会いから、また描かれるというのはエモいですよね。
梶浦 そうそう、このころはまだこんなに初々しかったのねという(笑)。
──サウンドトラックの方向性については、河野亜矢子監督や音響監督の岩浪美和さんから、どのような要求があったのでしょうか?
梶浦 基本的には《アインクラッド》編の音楽を踏襲するということでした。TVシリーズのときと同じシーンも出てくるので、そこは同じ曲でいきましょうという提案が岩浪さんからあったりして、音楽的にもあのころに戻った感があるものにしましょうという話になっていきました。
──タイトルの最後に「~progressive mix」と付いている曲がサントラ盤の前半に5曲入っていますね。
梶浦 それらがTVシリーズと同じ楽曲です。TVシリーズのときはステレオミックスなんですけど、今回は映画なので新たに5.1chミックスにしたということですね。TVシリーズの曲をアレンジしたものはタイトルを変えてますが、本当にそのままでミックスだけ変えたのが、この5曲です。さらに今回は、アスナのテーマを多用しましょうということになりました。
──アスナ目線での物語ですからね。
梶浦 アスナのテーマを使ったバトル曲を当時も作ったんですけど、アスナが戦うときはだいたいキリトが一緒で、彼が大活躍するので、アスナ独自のバトル曲はほとんど劇中では使われなかったんです。また、そのほかのシーンでもアスナのメロディがピックアップされること自体、TVシリーズでは少なくて。それを今回、よみがえらせましょうということになり、岩浪さんからいただいたメニューの半分くらいはアスナメロのアレンジだったと思います。私にとってはすごく懐かしいサントラになりましたね。改めて、TVシリーズのとき、いい曲作ってたんだなあって思いました。自分で言うなって感じですけど(笑)。
──いえ、本当にすばらしかったです。
梶浦 私の「ソードアート・オンライン」に対する萌えが、特に初期のサントラには詰まっているんです。初期は特にヘビーな世界観ではありましたが、やっぱりゲーマーが夢見る世界なんですよね、仮想空間にフルダイブできるというのは。仮想世界は幻想的で美しくて、ゲームの世界はやっぱりこうだよねという背景がアニメにあふれていました。それに音楽をつけられることに、私自身すごくワクワクしていたんですよね。あのころの感覚を思い出しながら制作できたのが、今回のサントラの楽しかったところでした。私の生きている間に「ソードアート・オンライン」みたいなゲームが現実でも可能になってほしいですね。ログアウトできず、ゲーム世界に閉じ込められるのは困りますけど(笑)。
──たしかに(笑)。魅力が多い作品で、2012年にTVシリーズがスタートしたとき、「ソードアート・オンライン」がすぐにファンの心をつかんだのは必然という感じがしました。
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