【アニメ10年ひとむかし!】アニプレ×ufotable×LiSAという最強コラボのさきがけとなった「Fate/Zero」放送開始! 夏に続いて名作多数だった2011年秋アニメを振り返ろう!

「十年ひと昔」と申しますが、アニメの世界で10年前は大昔のように感じることもあれば、今でもバリバリ現役のシリーズ作品がすでに放送されていたりという、微妙かつちょうどいい間合いの時間です。今回はそんな、今から10年前の2011年秋クールに、TVアニメの世界ではどんな作品が放送されていたのかを振り返りたいと思います。

Fate/Zero

前クールに続き大豊作の2011年秋クールアニメですが、やはりこの作品は最初にあげざるをえないでしょう。

原作の大本である「Fate/stay night」はTYPE-MOONの同人ノベルゲームからスタートし、幾度もTVアニメ化、劇場アニメ化されている人気作品です。「Fate/stay night」では日本の架空の地方都市・冬木市を舞台に、七組の魔術師“マスター”と英霊“サーヴァント”が契約を結び、願いをかなえる聖杯を巡ってペアで争う“第五次聖杯戦争”が描かれています。「Fate/Zero」は、その10年前に冬木市で描かれたもうひとつの暗闘、“第四次聖杯戦争”を描くスピンオフ作品です。

ところが、「Fate/Zero」の成り立ちは普通とはひと味違い、ひとりの大物クリエイターが関わってきます。それがニトロプラスに所属する虚淵玄さんです。当時の虚淵さんと言えば「Phantom -PHANTOM OF INFERNO-」「吸血殲鬼ヴェドゴニア」「鬼哭街」といった、硬派な美少女ゲームのシナリオや監督として知られており、その作風は血と硝煙が似合う硬質でハードなものでした(虚淵さんは「Fate/Zero」のアニメ化より少し前に、「魔法少女まどか☆マギカ」の脚本家として大きく知名度を上げていました)。

そんな虚淵さんのスタイルに惹かれたTYPE-MOONサイドからコンタクトがあり、虚淵さんが自分が書きたい題材として熱望したのが“第四次聖杯戦争”でした。「Fate/Zero」では冷徹なマスター・衛宮切嗣が策略を巡らし、暗殺・騙し討ちなんでもありの手段を選ばぬ戦いを繰り広げますが、これには虚淵さんの作風が大きく関わっているわけです。

ただし、第四次聖杯戦争には設定マニアの原作者・奈須きのこさんが無数の設定や制約を設けており、それらの条件を全て満たしながら針の穴を通すように傑作に仕立て上げたのは虚淵さんにしかできない離れ業と言えるでしょう。

小説「Fate/Zero」Vol.1「第四次聖杯戦争秘話」は、2006年12月のコミックマーケット71で同人小説としてリリースされました。コミケの企業ブースにこの小説を売るためだけの巨大なブースが作られたのは大きな衝撃でした。はじまりの同人小説版は翌年のコミックマーケット73までに計4冊が刊行され、“もうひとつのFate”の物語が誕生しました。

そして2011年に「Fate/Zero」がTVアニメとして制作されるまでに、TYPE-MOONは、劇場アニメ「空の境界」でアニメーション制作を担当したufotableという、TYPE-MOONの世界をハイクオリティなアニメーションで表現できる盟友を得ていました。「TYPE-MOON × ufotable プロジェクト」の第1弾が「空の境界」であり、第2弾として「Fate/Zero」をufotableが手がけるのは自然な流れでした。そして、TVアニメ「Fate/Zero」の第1期オープニングテーマ「oath sign」を担当したのがLiSAさん。「oath sign」はLiSAさんの初シングルCDでした。

ufotable×アニプレックス、そしてLiSAさんという、2021年の今なら誰もが「鬼滅の刃」を思い浮かべるであろう組み合わせも、この作品があればこそ生まれたものと言えるでしょう。

僕は友達が少ない

2011年という年は、ライトノベル発アニメの世代がひとつ交代しつつある時期でもありました。2000年代を彩ったラノベアニメといえば、「ブギーポップは笑わない」「キノの旅」「灼眼のシャナ」といった、電撃文庫の初期作品発のアニメが思い浮かびます。少年少女を主人公としたジュブナイルの香りが残る作品群で、剣や魔法、さまざまな不思議が登場する作品も多いです。2011年秋クールは「灼眼のシャナ」シリーズの最終シリーズ「灼眼のシャナIII -Final-」が放送されており、大きな時代の転換点のひとつと言えるでしょう。

そんな時期に現れた「僕は友達が少ない」は、2009年8月にMF文庫Jから第1巻がリリースされました。2010年にライトノベルとして大きくブレイク、2011年にはアニメ化しているので、かなりテンポよくスターダムへ駆け上がったと言っていいでしょう。作中では主人公・羽瀬川小鷹がひょんなことから(便利な言葉ですね)、友達を作るための部活「隣人部」のメンバーになることになり、隣人部には次々と美少女や、美少女にしか見えない男子部員が集まってきて……という物語が描かれます。

主人公がヤンキーっぽい目つきの悪さから誤解されていたり、何をするでもない部活が作品の主な舞台になったりと、じわじわっと当時流行しはじめていた要素も感じますが、“なんだかよくわからない部活で繰り広げられる、恋愛を軸においた人間模様”というスタイルは偉大なテンプレートのひとつになっていきます。

「僕は友達が少ない」というタイトルは(が、互いに憎からず思っている美少女はたくさんいる)と続けたくなるのでツッコミを受けることも多いですが、タイトルからひらがなを拾った「はがない」という略称はあまりにも秀逸です。


機動戦士ガンダムAGE

「機動戦士ガンダム」シリーズの中でも異色の作品のひとつ、「AGE」もちょうど10年前のスタートです。同作の制作にはゲームメーカーのレベルファイブが企画協力として参加しているのが特徴で、シリーズ構成として同社の日野晃博さんが参加しています。日野さんはレベルファイブの代表取締役社長でありながら作品プロデュースやシナリオライティングも手がけるマルチな才能の持ち主で、「イナズマイレブン」や「ダンボール戦機」、後の「妖怪ウォッチ」などのメガヒット作品を数多く手がけています。30周年を越えて新たに若いファン層も開拓したかった「ガンダム」の制作陣にとって、キッズ層相手に大ヒットを連発する日野さんのセンスとノウハウは魅力的だったのでしょう。

「機動戦士ガンダムAGE」の基本構想は、フリット・アスノを主人公とした第1部・フリット編、フリットの息子のアセム・アスノが主人公の第2部・アセム編、そしてアセムの子のキオ・アスノが主人公の第3部・キオ編と、3代に渡って続く大河ドラマを描き、その中に改修しながら受け継がれる伝説の機体「ガンダム」を置くというものでした。フリット編、アセム編、キオ編に加えて終章の三世代編までを1年で描くために展開がやや早足になることは避けられませんでしたが、前部までの主人公が成長した姿で父親・祖父として登場し、想いや物語が受け継がれたり、親心が伝わらなかったりする縦のスケール感には特筆すべきものがあります。作中に歴代ガンダムシリーズへのオマージュが散りばめられているのも見どころのひとつです。

たまゆら ~hitotose~

2007年に放送された「らき☆すた」の舞台となった鷲宮町と鷲宮神社が“聖地”として大きな話題となって以来、特定の地域をイメージして作品を制作し、後に自治体と協力して作品と地域を一緒に盛り上げていく取り組みが増えています。そんな作品のひとつとして、2011年秋クールに放送されたのが「たまゆら ~hitotose~」でした。2010年リリースのOVA「たまゆら」をベースに制作されたTVアニメシリーズです。

「たまゆら ~hitotose~」は写真が大好きな女の子「ぽって」こと沢渡楓がおだやかな瀬戸内海の町、広島県竹原市に引っ越してきた時からはじまる、おだやかでやさしい物語です。原作・監督・シリーズ構成を務めるのは佐藤順一さんで、山と水に囲まれた竹原の街と人々を美しく魅力的に描き出しています。「たまゆら」では竹原市と、ぽってが以前住んでいた横須賀が聖地となっており、現地で何度も出演声優さんを招いた作品イベントが開催されています。なかでも佐藤順一監督と、司会を担当することが多い声優の儀武ゆう子さんのかけ合いは名物になっています。出演声優さんと土地の結びつきもとても強い印象です。

地域と作品の息が長い幸福な関係性という意味で、「たまゆら」は記憶に残る作品のひとつだと思います。

(中里キリ)

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