アニメ「ルパン三世」50周年を飾る大野雄二の最新作──CD「ルパン三世PART6 オリジナル・サウンドトラック1『LUPIN THE THIRD PART6~LONDON』」【不破了三の「アニメノオト」Vol.11】

「アニメノオト」第11回は、2021年11月3日にVAPより発売になったCD「ルパン三世PART6 オリジナル・サウンドトラック1『LUPIN THE THIRD PART6~LONDON』」に注目します。

1971年にモンキー・パンチ氏原作のアニメ「ルパン三世」(第1シリーズ)の放送が始まってから今年で50周年。そのアニバーサリー・イヤーにふさわしい新作テレビアニメ「ルパン三世PART6」も2021年10月9日より日本テレビ系で放送が始まっています。その主題曲・主題歌・挿入歌・BGM音楽を集めたサウンドトラック盤が本CDとなるわけですが、もちろん、すべての音楽を作曲しているのは、1977年放送開始のアニメ「ルパン三世」(第2シリーズ)から44年にわたってルパン・ミュージックを担当し続けている作曲家・ピアニストの大野雄二氏です。CDの内容に触れる前に、まずは大野氏とルパン三世との出会い、そしてともに歩んだ44年間を振り返ってみたいと思います。

※以下、敬称略。

大野雄二は1941年静岡県生まれ。慶応義塾大学在学中に名門ビッグバンド「ライトミュージックソサエティ」に所属し、同じくジャズピアニストとなる鈴木"コルゲン"宏昌、佐藤允彦とともに「慶應のピアノ三羽烏」と呼ばれるなど、すでに頭角を現していました。在学中にジャズクラリネット奏者:藤家虹二のクインテットに参加してプロデビューを果たし、続いて白木秀雄クインテット、日野皓正カルテット等に参加した後、みずからのバンド「大野雄二トリオ」を結成。1971年には大野雄二トリオとしてのファーストアルバム「Mr.Happy-Gon」も発売されています。
'70年代に入ると作編曲家としても旺盛な活動を開始し、しばたはつみ、成田賢、ソニア・ローザ、松田優作等への楽曲提供やプロデュース、サスペンステレビドラマ「火曜日の女」「土曜日の女」シリーズ(1971~1974/日本テレビ)、石立鉄男主演のユニオン映画製作のドラマ「おひかえあそばせ」(1971)、「水もれ甲介」(1974)、「気まぐれ天使」(1976)等(すべて日本テレビ)の劇伴音楽、多くのCM曲の製作などを経験します。そんな中、映画界の風雲児・角川映画による第1回作品「犬神家の一族」(1976)が大ヒット。その音楽を担当した大野もブレイクを果たし、一気に人気作曲家として引く手あまたの存在となっていきます。「ルパン三世」(第2シリーズ)の始まった1977年とは、そういうタイミングの年だったわけです。

大野雄二さん

「火曜日の女」「土曜日の女」シリーズ、石立鉄男ドラマシリーズに大野を起用したのは、ジャズ好きで知られた日本テレビのプロデューサー・小坂敬でした。そして小坂の後任として石立ドラマのプロデューサーを「水もれ甲介」から引き継いだのが吉川斌(あきら)。小坂・吉川両氏の招聘でこれらのドラマ音楽の経験を積んだ大野は、いつしかコメディにもサスペンスにも対応できる作曲家となっていました。
そして吉川が1977年にプロデューサーとして担当についた新番組が「ルパン三世」でした。音楽担当者の検討では、制作会社・東京ムービー(現トムス・エンタテインメント)のアニメ作品、「巨人の星」(1968)、「赤胴鈴之助」(1972)等ですでに実績のあった渡辺岳夫の名前もあがっていたそうですが(ルパンと同じ放送枠での前番組「元祖天才バカボン」(1975)の音楽担当も渡辺岳夫)、アニメは初経験ながら上記のドラマでの経験を買われ、大野に白羽の矢が立ったということになります。
当時の日本テレビは、ドラマ「いろはの"い"」(1976)、「西遊記」(1978)ではゴダイゴ、アニメ「宝島」(1978)では羽田健太郎、ドラマ「俺たちは天使だ!」「探偵物語」(ともに1979)のSHŌGUN(ショーグン)、アニメ「鉄人28号」(1980)では清水靖晃・笹路正徳らが参加する実験的バンド「マライア」が音楽を担当するなど、気鋭の作曲家やバンドなど、それまでのテレビ音楽の世界にはいなかったような新しい才能を次々に登用し、新風を吹き込んでいましたが、大野の「ルパン三世」への起用は、まさしくそうした流れのさきがけだったと言えるでしょう。

そして第1シリーズとは少々おもむきが変わり、明るくコミカルで、ハードボイルドタッチは後退しつつも時にはシリアスで、世界中の都市やリゾート地を舞台に描かれる第2シリーズの新しい「ルパン三世」の世界に、大野の音楽がこの上なくマッチしたのは皆さんご存じのとおりです。その後44年もの間、大野がルパンの音楽を担当し続けていることが、大野の起用が間違いでなかったことのなによりの証しでしょう。その放送中には、次々と刷新される主題歌・主題曲のアレンジや、映画「ルパン三世 ルパンVS複製人間」(1978)、「ルパン三世 カリオストロの城」(1979)の各種音楽などでも、私たちを大いに楽しませ驚かせてくれました。

また、「ルパン三世」第2シリーズの放送期間中には、映画「犬神家の一族」、「人間の証明」(1977)、「野性の証明」(1978)の初期角川映画三部作、松田優作主演のハードボイルドアクション映画「最も危険な遊戯」、「殺人遊戯」(ともに1978)、「処刑遊戯」(1979)、ドラマ「大追跡」(1978)、「24時間テレビ~愛は地球を救う」(1978~)、アニメ「キャプテン・フューチャー」(1978)の音楽なども次々に担当し、売れっ子作曲家として確固たる地位を築いていきます。

さらに1980年代に入っても第3テレビシリーズ「ルパン三世 PARTIII」(1984)、劇場第3作「ルパン三世 バビロンの黄金伝説」(1985)などが続き、1989年にはテレビスペシャル第1作「ルパン三世 バイバイ・リバティー・危機一発!」が放送されています。'90年代以降は、年に1作ペースで放送されていくこのテレビスペシャルが大野ルパンの主戦場となっていくわけです。しかし、ルパン三世を演じ続けてきた俳優・山田康雄が1995年3月に逝去。「ルパン三世」第2シリーズで出会い、ソロアルバム「せ・しゃれまん」(1979)のプロデュースを引き受けるほどの盟友となっていた山田の死に際し、やはり気持ちの変化があったのか、大野は翌1996年公開の劇場版「ルパン三世 DEAD OR ALIVE」、およびテレビスペシャル「ルパン三世 トワイライト☆ジェミニの秘密」を担当していないのです。

しかし翌年の「ルパン三世 ワルサーP38」(1997)で復帰。二代目ルパン声優となった栗田貫一を囲む新体制に戻ってくることになりました。この時の復帰の決断がなければ、ルパン三世という作品も、大野雄二の音楽も、今とは違った未来を歩んでいたかもしれません。「あなたが今一番見たいルパン三世」人気投票の結果、テレビスペシャル全27作から第1位に選ばれ、10月22日に金曜ロードショーで放送された「ルパン三世 ワルサーP38」とは、そういう重要なタイミングでの作品だったわけです。

1999年頃になると、自身のルーツであるジャズピアニストへ回帰するような方向に大野の活動が変化し始めます。それまでのルパン音楽をモチーフとした、コンボ編成のジャズアルバム「LUPIN THE THIRD JAZZ」を発売し、同時期には「大野雄二トリオ」をベースとした各種ライブスポットでの演奏活動に意欲を燃やしていきます。2006年にはトリオにトランペット、サックス、ギターを加えたセクステット(6人編成)の「Yuji Ohno & Lupintic Five」を結成。アルバム「LUPIN THE THIRD JAZZ」シリーズも、「Bossa&Fusion」(2002)、「PLAYS THE "STANDARDS"」(2003)、「the 10th New Flight」(2006)、「FOR LOVERS ONLY」(2008)等、続々とリリースを重ね、トリオ、Lupintic Five混在で演奏の幅を増やしていきます。
またこの頃より、テレビスペシャル「ルパン」のBGM音楽もLupintic Fiveでの演奏が増え、作編曲家としての劇伴製作作業と、ジャズピアニストとしての演奏活動とが自然に融合していくという進化を遂げます。

そして2015年12月、結成10周年記念の「ルパン三世コンサート~LUPIN! LUPIN!! LUPIN!!! 2015~」をもってYuji Ohno & Lupintic Fiveが解散。突然の解散発表に誰もが大野雄二サウンド、ルパン・ミュージックの今後を心配しましたが、2016年3月にはメンバーを入れ替え、さらにハモンドオルガンを新たに加えたセプテット(7人編成)の「Yuji Ohno & Lupintic Six」の結成が発表され、多くのファンを安心させました。
Lupintic Sixには、「犬神家の一族」「人間の証明」「野性の証明」等のアルバムレコーディングに参加しているドラマー・市原康や、元SHŌGUNのメンバーで、「ルパン三世」(第2シリーズ)のレコーディングにも参加しているベーシスト・ミッチー長岡ら、大野の長年の朋友であるベテランのリズムセクションが参加したことも、ファンを大いに喜ばせました。今年で結成5周年を迎えたYuji Ohno & Lupintic Sixのメンバーは以下の通り。ピアノ・エレキピアノ:大野雄二、ドラム:市原康、ベース:ミッチー長岡、トランペット:松島啓之、サキソフォン:鈴木央紹、ギター:和泉聡志、ハモンドオルガン:宮川純。コロナ渦でなかなか演奏活動がままならない状況が続きましたが、この7人衆が元気に全国を飛び回るツアーも、ようやく元の姿に戻りつつあります。

10月9日に放送が始まった新作テレビアニメ「ルパン三世 PART6」でも、もちろんLupintic SixがBGM音楽の演奏を担当しています。CD「ルパン三世 PART6 オリジナル・サウンドトラック1『LUPIN THE THIRD PART6~LONDON』」には、本作のためのBGM音楽、挿入歌、エンディングテーマ、そして新作のたびに刷新される「ルパン三世のテーマ」の新バージョンがもちろん収録されています。
イタリアを舞台にした2015年の「ルパン三世」(第4シリーズ)ではマンドリン、フランスを舞台にした2018年 の「ルパン三世 PART5」(第5シリーズ)ではミュゼット風のアコーディオンなど、近作では当地ゆかりの楽器や音楽がフィーチャーされてきました。
さらに、2019年の劇場版「ルパン三世 THE FIRST」では、1977年の初代「ルパン三世のテーマ」のおもむきが復活。2019年11月放送のテレビスペシャル「ルパン三世 プリズン・オブ・ザ・パスト」では、「ルパン三世」(第2シリーズ)のピートマック・ジュニアによるあのボーカル版「ルパン三世のテーマ」が、大野の古くからの盟友・松崎しげるによってよみがえる……など、新作のたびに新たな形に生まれ変わる「ルパン三世のテーマ」を楽しみにしている方も多いでしょう。

そしてイギリスはロンドンを舞台にした今回の「ルパン三世 PART6」では、「THEME FROM LUPIN III 2021」と題され、ロックの故郷にふさわしいギターサウンドがフィーチャーされた新バージョンがお目見えしています。Lupintic Sixのギタリスト・和泉聡志の元には、「THEME FROM LUPIN III 2021」のギターソロをコピー演奏したいが譜面は手に入らないのか?との問い合わせが、すでに国内外から届いているという人気ぶりです。その要望に応えるかのように、大野雄二の公式YouTubeでは、和泉本人による“弾いてみた”動画も公開されています。

シャーロック・ホームズが登場し、「ミステリー」をキーワードに繰り広げられる本作は、放送前のティザーポスターには「この男、悪人か、ヒーローか」の文字が躍り、ゲスト脚本家として押井守、辻真先、芦辺拓、樋口明雄、湊かなえが参加するなど、これまでの「ルパン三世」とはひと味違う、一歩踏み込んだハードな展開が期待されています。そうしたストーリーを支えることになるBGM音楽には、これまでどおりのルパンジャズに加え、ギターをフィーチャーしたロック風のアレンジや、霧深いロンドンの情景を思わせるサスペンス曲、ハードボイルドタッチがより強く前に出た曲などが多いのが特徴といえるでしょう。

もうひとつ、これまでのルパンサントラで多く見られていた、第2シリーズ以来、大野が積み重ねてきた過去のルパンソング&BGMからの引用や再アレンジによる曲が、今回のCDでは鳴りを潜めています。「ルパン三世PART6」のために新たに書き下ろされた新曲が大半を占めているのも特徴のひとつです。過去のイメージにとらわれない新たなルパン像を描き出そうという、製作スタッフの意欲の現れのようにも感じます。

また、Yuji Ohno & Lupintic Sixを支えるコーラスユニット「Fujikochans」のメンバーでもある稲泉りんが歌うミステリアスな挿入歌「FOGGY LOVE feat. 稲泉りん」や、気鋭のシンガーAkari Dritschler(アカリ・ドリチュラー)が歌うキュートなエンディングテーマ「MILK TEA」ももちろん収録されています。

アニメ50周年に登場した「ルパン三世 PART6」。放送開始前日の2021年10月8日には、これまでに大野雄二の手がけた約1,200曲におよぶルパン音楽が配信サービス開始、いわゆる「サブスク解禁」になり、また、次元大介を長年演じ続けてきた小林清志が勇退し、大塚明夫による新次元の扉が開かれるなど話題に事欠きませんが、さらに来年2022年1月27日・28日には、「~大野雄二 80歳記念 オフィシャル・プロジェクト~ 映画『ルパン三世 カリオストロの城』 シネマ・コンサート! And 大野雄二・ベスト・ヒット・ライブ!」と題されたコンサートが東京国際フォーラムで開催されることが発表になりました。

大野は、2018年4月に「角川映画 シネマ・コンサート」(東京国際フォーラム)、2019年10月に「ルパン三世 カリオストロの城 シネマ・コンサート」(パシフィコ横浜 国立大ホール)と、大規模なシネマ・コンサート(映像上映にシンクロさせた生演奏のコンサート)の総指揮をすでに何度も経験済みで、その映像とのマッチングやシンクロの巧みさは、近年増えつつあるこのタイプのコンサートの中でも随一の質の高さを誇っています。「ルパン三世 PART6」の展開と合わせ、こちらも楽しみにしていきたいと思います。

(文/不破了三)

【商品情報】

■CD「ルパン三世PART6 オリジナル・サウンドトラック1『LUPIN THE THIRD PART6~LONDON』」

Yuji Ohno & Lupintic Six

・発売日:2021年11月3日(水)

・価格: 3,850円(税別価格:3,500円)

・レーベル:株式会社バップ

■収録内容
1. THEME FROM LUPIN III 2021

2. RAILWAY ADVENTURE

3. BETTING

4. FOR THE MISSION

5. FOGGY LOVE feat. 稲泉りん

6. EYE CATCH 2021 #1

7. LUPIN VS HOLMES

8. GET READY

9. EXECUTED

10. JUMP AHEAD

11. MILK TEA feat. Akari Dritschler (TV size ver.)

12. LILY'S WILL〜I'll go too

13. THEME FROM LUPIN III 2021〜British ver.

14. MISSING PIECE

15. CONGRATS!!

16. I'M HOME〜as usual

17. MEANWHILE

18. MILK TEA~twilight

19. EYE CATCH 2021 #2

20. THE STRANGERS

21. TWO FACES

22. THIS IS HOW I DO

23. I'M HOME

24. LUPIN VS HOLMES Part II

25. FOGGY LOVE~in the dream

26. THEME FROM LUPIN III 2021 (TV size ver.)

27. MILK TEA feat. Akari Dritschler *エンディングテーマ

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