【サンライズフェスティバル2021】制作現場はまさに戦場だった……! 高橋良輔監督が当時のエピソードを語りつくした「ドキュメント 太陽の牙ダグラム」「チョロQダグラム」「ザブングルグラフィティ」上映イベントレポート!
劇場版アニメ「ドキュメント 太陽の牙ダグラム」「チョロQダグラム」「ザブングルグラフィティ」上映イベントが、2021年10月23日、東京・グランドシネマサンシャイン池袋で開催され、上映前のトークステージに「ダグラム」2作品を手がけた高橋良輔監督、「ダグラム」「ザブングル」両作品に企画・文芸・設定などでかかわった元サンライズスタッフの井上幸一さんが登壇。当時の思い出話に花を咲かせた。
本イベントは、2021年10月1日~31日に開催された上映イベント「サンライズフェスティバル2021 REGENERATION」の一環として開催。当初は、高橋監督とともにメカニックデザインの大河原邦男さんが登壇予定だったが、当日は体調不良ということで大事をとって欠席となった。その代わりに、ということで大河原さんの指名で井上さんが登壇することになった。
1983年の劇場公開時を思い出そうということで同じパッケージで、と企画されたという今回の上映イベント。まず高橋監督は、映画公開当時の舞台挨拶のエピソードから語り始める。
最初の舞台挨拶は新宿の劇場だったそうで、新宿駅に降りたところ偶然「ザブングルグラフィティ」の富野由悠季監督と顔を合わせたという。その時は、いつも通りのかっこうでスーツケースを持っていた富野監督だが、いざ舞台に立つときには白いスーツに着替えて登場。その姿を見て「(舞台挨拶に)慣れているな」と、初めて舞台挨拶を経験した当時の高橋監督は感じたそうだ。
また、「ザブングル」のオープニングテーマが流れると、劇場が「わっ」と盛り上がったそうだが、「ダグラム」のオープニングテーマが流れるとシーン……と重苦しい雰囲気に包まれたそうで、そこでも「富野監督とは違う」と痛感したと当時を回顧する。
いっぽう井上さんは、劇場版公開時に宣伝を担当していたそうで、「ザブングルグラフィティ」のポスターが「ダグラム」サイドのポスターの倍くらいの大きさだったため、「これを並べて飾るのか……」と思ったそうだ。
ちなみに、ここで「当時、映画館で観た人」と観客に挙手を求めると、なんとほとんどの来場者がリアルタイム世代ということが判明! あの頃の舞台裏エピソードが、冒頭からバンバン飛び出す今回のトークステージは、ファンにとってはたまらなかったのではないだろうか。
そんな同窓会ムードが漂う中、お2人は当時、ともに作品を作ったスタッフのことを振り返る。
「今日、大河原さんに会えないのは残念。(脚本の)星山(博之)さんもいないし、後半ほとんど監督していただいた神田(武幸)さんもいない」(高橋監督)
「(美術監督の)中村光毅さんもいない。40年とはそういうもの」(井上)
と鬼籍に入った戦友たちをしのびつつ、
「神田さんのオーダーで大河原さんのところに行ったら、(指示が)わからんと怒られたり……。神田さんはミリタリーが好きだったんですよね」(井上)
「自分はそこが弱いので、おんぶにだっこでした」(高橋)
と、制作エピソードを語り合う。
高橋良輔監督
特に注目なのが、魅力的な兵器群がいかにしてデザインされたかである。
「アイアンフットはその回の演出がラフスケッチを描いて、それを大河原さんに起こしてもらったんです」「大河原さんは『どういう風に使うのか』とよく聞いてくるので、神田さんはそれを考えていた。2人乗りのブロックヘッドは、上に乗るのが車長だから、下にいるパイロットを蹴れるように設計してください、と神田さんが指示して、それに大河原さんがこたえてくれた」と、井上さんからコンバットアーマー制作秘話が明かされた。
いっぽうの高橋監督は、そういうスタッフ間のやりとりについては「あとは任せた!」という気持ちで見ていたという。
「あとは任せた、というかこれで98%はできたというような気持ちが強いです。最初のイメージを作って、これをスタッフに伝えたら、たぶんその路線でもっと工夫してくれるだろうと思っていた」とスタッフを信頼していたという。
というのも、ひとつ前に手がけた「サイボーグ009」(1979年版)を監督する前まで、しばらくアニメ制作の現場から遠ざかっていたため、まだアニメの仕事に対する不安が抜けていなかったためだそうだ。そのため、共同監督を務めてくれた神田武幸さんには助けられたという。
そして高橋監督は、大河原邦男さんとは本作を皮切りに「装甲騎兵ボトムズ」「機甲界ガリアン」「蒼き流星SPTレイズナー」まで4作連続で作品に携わることになる。
高橋監督は「大河原さんとは4歳違いなんだけど、あの頃の4つ違いというのは体験したものが似ているんです。大河原さんは『鉄』でできているものが好きで、僕も『鉄』でできているもののほうがイメージしやすい。戦後のアメリカの駐留軍が使っていた、日頃から見る兵器類──それは主にジープなんですが、そういうものの存在感が共有できていました。大河原さんはさんとは、根本のところは話さなくても共有できたので、いつも仕事がやりやすい」と大河原さんとの仕事について語った。
井上幸一さん
続いて主役メカ・ダグラムのデザインについて、井上さんが語る。
「ダグラムのデザインには非常に時間がかかって、前年の夏から秋にスタートして9か月ほどかかった」と、デザインが確定するまでに1年弱もかかったという。
この状況は、なんとアニメの制作がスタートしても続いていたそうで、第1話の朽ち果てたダグラムには、「当初は側頭部のミサイルポッドが付いていなかった(後で描き足されたそうだ)」り、リニアガンの設定はできていたものの、それを腕に取り付けるという設定はできていなかったことが明かされた(第1話を観ると、地面にリニアガンが放置されているが、それを腕に装着するのか、手に持つのかなどは確定していなかったそうだ)。
そのほか、コクピットへの昇降機は、背面に装着するターボザックがあったら使用できない、ということで、パイロットは片足で降りることになったりと、そういった設定の変遷を最終的にまとめたのが大河原邦男さんということで、井上さんは「大河原さんには苦労させている」と語った。
高橋監督は「ダグラム(のデザイン)には何も言っていない印象。オファーが来たときには、ほぼデザインが終わっていた」という。
そんな高橋監督が、オファー時に山浦栄二さん(サンライズ3代目社長。当時は企画部長)からまず言われたことが、「とにかく毎日『ガンダム』を見てくれ」「こういうものが作れる時代になったんだ」ということだったそうだ。そこで「富野さんの『ガンダム』の素晴らしさを、身をもって知ったんだけど、同じことをやるわけにはいかない」と思ったという。
「『ガンダム』は戦艦が舞台ということで海軍的な要素があった。そして“いきまーす!”で空軍的な要素が入っている。そして安彦良和さんの要素だと思うけど、制服もかっこよかった。『ガンダム』は空軍、海軍のカッコよさが表現されていたので、あとは陸軍をやろうということで、泥臭さをディレクションした」「お話は星山さん。星山さんが全共闘世代だから、デロイアセブンにその要素を吹き込んでくれた」という具合に、「ダグラム」の方向性が決まっていったという。
そのうえで、サンライズからのお願いは「ロボットが売れること」だけだったという。そこで、「松本零士の要素を取り込めないか」と思ってスケッチしているうちに、あの朽ち果てたダグラムにたどり着き、「『ダグラム』という作品はこれでいいだろう、という第一歩になった」と振り返る。
この「朽ち果てたダグラム」が生まれた経緯には、もうひとつ理由があったそうで、「ロボットを売るのに自信がなくて、第1話の前に予告編のようなエピソードを作りたい」と、高橋監督が頭を下げたことがきっかけだという。このお願いが飛び出したのが、すでに制作が始まったタイミングだったそうで、現場からは「この時期までは待つから、責任を取ってね」と言われて了解を取り付けたそうだ。
しかし、期日のミーティングまでにできていたのが朽ち果てたダグラムのラフのみ。これを見て「これは絵コンテができてない!」と察した神田監督が、青筋を立てる原画マンを解散させて急ピッチで絵コンテを仕上げたそうだが、結局、放送開始は予定から3週間遅れることになった……という、なかなか壮絶な裏話が明かされた。
「神田さんに頭を下げて参加してもらったのに、絵コンテもできてないと知られたら、離れられるかもしれないと思ったから……」と、ちょっぴりばつの悪そうな高橋監督であった。
そんなわけで、「ダグラム」を制作しているサンライズ第1スタジオがヤバい、と聞いてヘルプとして異動してきたのが井上さんだという。当の井上さんは、いろいろなことがあったものの「いいスタッフだった」と振り返った。
そんなさまざまなエピソードが秘められている「太陽の牙ダグラム」だが、現在40周年を記念して太田垣康男さんによるコミカライズ版「Get truth 太陽の牙ダグラム」が展開中だ。
コミカライズ版について高橋監督は、「太田垣さんが熱をもって描いてくれるので、原稿をもらうたび、いいんだろうか、こんなに描いてもらって」「太田垣さんのラフが、たいていラフじゃないので、とてもダメ出しできない」「これじゃ何も言えないよ、というくらい仕上がってくる」と大絶賛。
ひと言で言って「僕はねじ伏せられた感じ」だそうだ。
12月には「Get truth」版ダグラムのプラキットを同梱したコミックス第1巻も発売されるということで、気になる方はぜひチェックしていただきたい。
最後に井上さんは今回の上映の見どころについて、「チョロQダグラム」と答える。いわく「75話かけた物語が、7分に凝縮されています!」とのことだ。
いっぽう高橋監督は、「ドキュメント 太陽の牙ダグラム」について、「わがままな再編集だったと思う。今観直してもそう思う」と語る。また、「ダグラム」制作時に立てたテーマは後の高橋作品にずっと生きているそうで、ひとつは「ドキュメント 太陽の牙ダグラム」にも少し入っている「ジャーナリスティックな視点」だという。
それが後の「FLAG」(2006~2007年に発表。女性ジャーナリストの一人称視点を通じて、架空の中央アジアの小国の内戦を描く作品)や、最近までやっていた中国との仕事にもつながっている(企画自体は流れてしまったそうだが、こちらもカメラマンの物語だったそうだ)と語る。
もうひとつが「父と子」というテーマだ。「『ダグラム』はデビュー作だと思っているんですが、デビュー作(のテーマ)って引きずるんだなと最近は思っています。そういう意味では、40年経って、まだこういう(イベントの)機会があることの喜びを感じています」という言葉で、トークステージを締めくくった。
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