アニメライターによる2021年秋アニメ中間レビュー【アニメコラム】

2021年秋アニメは総勢50本以上。今回はその中から話題作を紹介します。「WebComicアパンダ」連載の「見える子ちゃん」、「週刊少年サンデー」連載の「古見さんは、コミュ症です。」、「マンガハック」連載の「王様ランキング」、群馬県公認のマスコットキャラクターをアニメ化した「ぐんまちゃん」、そしてASMRをテーマにしたショートアニメ「180秒で君の耳を幸せにできるか」をピックアップしました。

見える子ちゃん

主人公・四谷みこが不安げに振り返る顔のアップを畳みかけるという、市川崑監督の「金田一耕助シリーズ」を思わせるOPアニメから始まる本作。一般人にはわからない何かに気付いてしまう名探偵と、何かが見えてしまう女子高生を重ね合わせる巧みなパロディである。しかし探偵が気付きを披露すれば事件は解決するのに対し、みこは見えてはいけない存在を徹底的にスルーし続けなければならず、地獄の日々は終わることがない。
演者がノーリアクションを強いられるというシチュエーションはバラエティではおなじみで、声を上げることを禁じられたり、時間が止まったりするという設定の中で困惑する様子を楽しむ背徳感が気持ちいい。みこが無反応を装いつつも恐怖から涙を浮かべてしまう姿にゾクゾクさせられる一作だ。

古見さんは、コミュ症です。

人とのコミュニケーションが苦手な女子高生・古見硝子が、あらゆる面で普通の同級生・只野仁人の助けを借りながら、友だち100人を目指す学園コメディ。他人とうまくしゃべれない古見さんは全編にわたってセリフらしいセリフをほぼ発しておらず、モノローグも使われないため、声を聞くことができるのはごくわずか。そのため彼女の心境は吹き出しや字幕、オノマトペ、ナレーションなど、多彩な演出で表現されている。
アスペクト比もスタンダードやシネスコなど縦横無尽に変化し、まるで画面全体でクチべたな古見さんを後押ししているように見えるほど。黒板を使って筆談をする1話のラストシーンでは、こぼれ落ちるチョークの粉に感情を代弁させるなど、小道具を使った鮮やかな演出にも目を奪われる。

王様ランキング

偉大な王様の第一王子ではあるが非力で生まれつき耳が聞こえないボッジ。そんな彼が初めての友だち・カゲと出会い、運命を切り拓いていく冒険ファンタジー。原作のシンプルな絵柄の魅力をそのままに映像化しており、アニメーションの面白さが詰め込まれている。特に3話で描かれる剣と鎗の殺陣は、お互いが無言のまま斬り合いが始まるなど、まるで時代劇のような緊張感だ。戦闘シーンはもちろんボッジと仲間たちとの間で交わされる手話の所作も美しく、全体を通じて手の印象が残る作りとなっている。
ノイタミナで連続2クール作品が放送されるのは2018年の「BANANA FISH」以来約3年ぶり。ストーリーはまだまだ序盤で今後もていねいなアニメ化を楽しめそうだ。

ぐんまちゃん

我々が知る群馬とは異なる不思議な世界・ぐんまの日常を描いたほのぼのアニメ。現知事の名前が企画として単独クレジットされており、「製作群馬県」という、ある意味で究極の製作委員会方式のような表記がインパクト大。本編も負けず劣らず少しカオスで、主人公・ぐんまちゃんがおじさんと一緒に競輪場に行って三連単と三連複の違いを学んだり、ナレーションがキャラクターになってぐんまちゃんと一緒に名所巡りをしたりと、自虐やメタも交えた演出を味わえる。
群馬県のソウルフードの焼きまんじゅうをはじめ、特産品も多数ラインアップ。「この世で一番美味しい苺」を問われた魔法の鏡が、忖度をせず正直に答えたせいで説教部屋へ連れていかれる展開に笑わされるが、現実の群馬は先の衆議院選において開票1時間足らずで全小選挙区に与党の当選確実が出た保守王国であることに思いを馳せてしまう。ED後のコーナーで流れる「ぐんまちゃんえかきうた」や視聴者投稿のイラストコーナーはどこかノスタルジックで、大人が日曜の休みに見るアニメとして最適だろう。

180秒で君の耳を幸せにできるか

「ASMR（自律感覚絶頂反応）」と呼ばれる聴覚や視覚への刺激によって得られる心地よさをテーマにした初のTVアニメシリーズ。本編前に「この番組はヘッドフォンでのご視聴をお勧めしております」というテロップが表記されており、耳かきや炭酸水、さらには赤ちゃん言葉など心地いい音を堪能でき、視聴者を快感の世界に誘ってくれる。
さらに唇や口内のクローズアップが使われるなど映像面もマニアック。本編にはバイノーラル録音に使われるダミーヘッドマイクがそのまま登場しており、100万円はくだらない超高級品がなぜか日本家屋の縁側に放置されているというシュールさも何だか癖になってくる。公式サイトでは出演声優陣が紹介されているが、やはり男性声優として唯一キャスティングされている速水奨に注目せざるを得ない。あの低音ボイスがASMRでどう表現されるのか、期待がふくらんでいく。

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