「映画トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!」公開記念インタビュー! 志水監督と伊藤プロデューサーが明かす制作秘話!
大ヒット上映中の「映画トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!」(以下、「映画トロプリ」)より、志水淳児監督と伊藤志穂プロデューサーのインタビューをお届けする。
本作は好評放送中のプリキュアシリーズ18作目「トロピカル~ジュ!プリキュア」(以下、「トロプリ」)の劇場作品であり、映画シリーズとしては記念すべき30作目。舞台は、雪の国・シャンティア。その新たな女王となるシャロンのお祝いに招待された夏海まなつたちを待ち受けているものとは……? 彼女たちの活躍はもちろん、シリーズ7作目の「ハートキャッチプリキュア!」(以下、「ハートキャッチ」)が登場するのも注目だ。
そんな「映画トロプリ」はどのようにして作られたのか。キャラクターや主題歌の注目ポイントなど、志水監督と伊藤プロデューサーにたっぷりお話をうかがった。
「普段見せない顔を見せるローラを、変わらないまなつが支える」関係値を意識
――映画が公開されて1週間経ちました(インタビュー時点)。反響や手応えはいかがでしょうか?
志水 いろいろな人に見ていただいていると聞き、本当にありがたいことだなと思っております。
伊藤 初週で久しぶりに1位になれたこともありますし、何よりも初日の午前中に劇場に見に行ったら、親子連れで埋まっていて。また子供たちが映画館にたくさん来てくれるようになったことが一番嬉しかったです。映画館を出ていく時に、歌を口ずさみながら帰る子がいたのも嬉しかったですね。
――それは嬉しいですね。今回の「映画トロプリ」の舞台は、海沿いの明るい街が舞台であるTVシリーズとは対照的に雪の国です。雪の国を舞台とした経緯を教えてください。
伊藤 TVシリーズはあおぞら市を舞台として、そこからあまり外にいくことはなさそうでしたので、せっかくの映画ならスケール感を出して普段行かないところに行かせたいなと思いました。そして、普段は海だから空にしてみようか……などといろいろ風呂敷を広げて考える中で、「雪」というワードが出てきたんです。
真逆なのでどうかな?とも思ったのですが、逆に太陽のような子たちだからこそ、雪を解かしにいく“雪解け”のイメージなら意味が出てくるかなって。それに、キュアサマーは歴代のプリキュアの中でも特殊な白×トロピカルがベースの配色。雪と言えば真っ白い世界なので、そんな白い世界をトロピカるに染めに行こう!といったビジョンならありかな、と雪の国に決まりました。
――そんな雪の国・シャンティアに列車に乗って行くのは、ちょっとした旅行のようでワクワクするような感覚もありました。映画ではありますが、今までなかなか難しかった旅行ができる楽しさといいますか。そのあたりの演出はどのように作っていったのでしょうか?
志水 招待されてみんなでどこか別のところに行くのは、プリキュアの映画の定番ではあるんですけど、今回の「トロプリ」チームなら“行く過程”も楽しめると思ったんですよね。本当は行く過程だけで30分とってもいいぐらいで(笑)。
――行く過程はダイジェスト的に描かれていましたが、本当に楽しそうでした。そして、ストーリーとしてはローラが軸になっているのもTVシリーズにはない要素です。彼女を軸とした経緯についてもお聞かせください。
伊藤 今回は2世代のプリキュアが登場しますから、ゲスト側の視点ではなくプリキュアのストーリーにしたいと思ったんです。(2世代の)全員がそこにいる意味があってほしいですし、お子さんにも感情移入してもらいたいなって。
最初はもちろん(メインにするキャラクターを)まなつで考えたのですが、まなつは「変わらないよさ」といいますか「いつもそこに輝いていてくれる太陽」みたいな子、という印象があったんですね。それに対して、ローラは言いたいことをそのまま言える感情むき出しなタイプですから、「ローラが普段は見せないような顔を見せて、それを変わらないまなつが支える」といった関係値のほうがいいなと思いました。
――確かに、普段のTVシリーズとは違う素直な会話や表情を見せていたと思います。そのあたりは、監督も見せ方を意識したのでしょうか?
志水 TVシリーズでも、最初の頃は少し嫌な感じに描いているところもありましたが、最近はローラのやさしいところや魅力を出すようにしています。映画の制作が始まった時はまだそこまで話は進んでいませんでしたけど、たぶんそうなるだろうと思って、割と落ち着いた感じのローラにしました。
――ということは、監督はTVシリーズの第6話の演出をされていますが、映画の制作はその後に始まったのでしょうか?
志水 そうですね。それが終わって映画に入った感じです。
えりかとまなつの会話から見えてくるものもあります
――2世代という話があったように、本作の注目のひとつが「ハートキャッチ」のメンバーも登場することです。こちらについても登場させた経緯などお聞かせください。
伊藤 春映画「映画ヒーリングっど♥プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!」からの流れにもなるのですが、昔見ていた人にもう一度作品に向き合ってもらいたい思いがありました。
――志水監督は「ハートキャッチ」でも演出などに携わられていましたが、10年ぶりにキャラクターを動かしてみていかがでしたか?
志水 当時のことをいろいろ調べながらやりました。ただ、監督ではなかったので、どこまでが正しいことなのかはわからないままやっているところはありましたね。
――そうだったのですね。両作品のメンバーのやり取りでは、“まなつとつぼみ(花咲つぼみ)”よりも“ローラとえりか(来海えりか)”の交流が話を動かしていく印象もあって、面白いなと感じました。
伊藤 シナリオ会議で話を作っていく中で、「トロプリ」の子たちって意外とローラに対してやさしいというか、ズバッと核心的なことは言わずに受け入れている印象がある、という話になって。ローラとまなつの関係性を客観的に描いていくには、えりかのほうが意外と切り込んでくれるかも、となったんです。
それを成田さん(脚本の成田良美さん)がうまくまとめてくださいました。えりかとまなつの会話から、実は普段(ローラに対して)思っていることが見えたりもするんですよ。
――当時「ハートキャッチ」を見ていた人間からすると、懐かしさもあり新しいキャラクターとの交流にワクワクもしました。おふたりはこの2作品の共演はどのように感じましたか?
伊藤 バランスが本当にいいなと思いました。2世代のプリキュアをここまでガッツリからませるのは挑戦でもあったんです。(両作品の)9人がいる意味はしっかりあるけど、映画として話の軸を歩いているのは「トロプリ」の子たち。そのバランスをうまく取ってくださったなと。
志水 そこは成田さんの力ですよ。視点を変えれば「ハートキャッチ」の新規エピソードとしてもできるような内容ですから。
伊藤 そうなんです。それでいて、毎週「トロプリ」を楽しんでいただいている方にも受け入れられるような内容になっていますので、全体のバランスをぜひ感じてもらいたいですね。
――映画のオリジナルフォームも見どころですよね。
志水 そうですね。「トロプリ」と「ハートキャッチ」のモチーフをうまく融合させて、できるだけイメージを再現するようにしています。
シャロンは表情の変化、瞳の描き方も注目してもらいたいです
――映画オリジナルキャラクターであるシャロンについてお聞きします。彼女は結構重たいバックボーンがあるわけですけど、どのように生み出されたのでしょうか?
志水 それもシナリオ会議の中から生まれた感じですね。
伊藤 「トロプリ」は“今、一番大事なことをやろう”というテーマの作品で、みんな“今”に向かっている子たちなのですが、それの真逆の子を置こうという話になって。“過去”にしかとらわれておらず、ローラと同じく女王になる者、という形でシャロンができあがりました。シャロンの見た目に関しては、志水監督がアジアンテイストを入れて、単純なお姫様ではない感じにしたいと発注されていましたよね。
志水 そうですね。
――シャロン自身もシャンティアの国も異国感漂う雰囲気がありますね。
伊藤 上野さん(キャラクターデザイン・総作画監督の上野ケンさん)がシャロンに本当に力を注いでくださいました。髪型もいろいろ変わりますし、瞳の処理も変わったりするんですよ。
志水 変わりますね。
伊藤 具体的に言うと、瞳にある星が変わります。本当に細かいところですが、彼女の心がそういうところに表れたりしていますので、2回目3回目に観られる方は注目してみると面白いと思います。
――表情が少しずつ変わっていくのはすごく印象的だったのですが、そういう細かな部分もあるのですね。ほかのキャラクター、たとえばローラなども表情の作り方でこだわった点はあるのでしょうか?
志水 ローラは最初の明るい感じからショックを受けていくわけですけど、そこでの表情のギャップといいますか、表情も幅広い感じになるように描いています。
――TVシリーズとは違った味付けをしている部分も?
志水 TVシリーズと並行して制作していましたので、あまりTVシリーズは意識していないですね。もちろん、TVチームに絵コンテとかを見てもらって、こういう表情はしないといった指導はいただきましたが。
――シャロンの話に戻りますが、演じられる松本まりかさんは、どのような理由から選ばれたのでしょうか?
伊藤 今回はゲストを多数出すのではなくシャロンのみに絞っていて、シャロンは最初から最後までずっと出てくる重要な役ですので、声優経験のある方にご依頼したいと思いました。どなたにご依頼するかいろいろ考える中で、志水監督が松本さんの名前をあげてくださったんです。以前、出ていた番組で声質が特徴的だったから声優もいけるんじゃないかと。
志水 声優経験もだいぶあると聞いていましたので。
伊藤 ご本人もおっとりしつつ芯の強い印象の方で、結果的にシャロンにピッタリでした。それに、シャロンは二面性が大事なキャラクターですから、女優の側面として、演技の幅をアフレコでも出してくださったかなと思います。
――ちなみに、アフレコはご時世的に皆さん別録りでやられたのでしょうか?
志水 「ハートキャッチ」の4人は一緒でしたけど、そのほかの方は別録りです。
――「ハートキャッチ」の4人の収録はどんな感じでしたか?
志水 和気あいあいとやっていましたね。
伊藤 さすがというところがありつつ、技が合わなかった場面も(笑)。
――志水監督の方から演技に関してオーダーはあったのでしょうか?
志水 もうお任せというか、昔の感じでやっていただければ何も言うことはなかったです。当時をきっちりと再現していただいたので、ありがたかったですね。
主題歌は「シャンティアの人たちが歌っていた四季の歌」をイメージ
――そして、主題歌「シャンティア〜しあわせのくに〜」も印象的でした。劇中とエンディングは別バージョンなのですよね?
伊藤 そうですね。アレンジ違いになっています。
――この楽曲は、どのような発注だったのでしょうか?
志水 プリキュアのクリスマスソング(「Precure Holy Night」歌:うちやえゆか)をイメージして、そういう曲にしたいなと思いました。それと、リトグリ(Little Glee Monster)のようにみんなで合唱するイメージですね。みんなでユニゾンするのではなく、それぞれのハーモニーで聴かせる風にしたい。皆さん歌がお上手な方ばかりなので、いけるかなと。
――みんなで歌をリレーしてバトンを繋いでいくシーンは、とても感動しました。
伊藤 エンディングでは、ひとりずつ振りも違いますからね。
――歌詞の発注について、もう少しお聞きしたいと思います。〈真夏の太陽〉の部分をまなつが歌い、〈芽吹く春〉の部分をつぼみが歌うなど、歌唱者とリンクしているのもうまいなと思ったのですが、発注時点で歌割りもイメージしていたのでしょうか?
志水 歌詞に関しては、よくある恋愛ソングみたいなものではなく四季を歌ったものとか、そういう広く聴かれるような歌詞にしてほしいという要望でした。
伊藤 国(シャンティア)の歌ですから、いわゆるプリキュアソングではないところが大きかったと思います。六ツ見(純代)先生が、シナリオを読んで「シャンティアの人たちが歌っていた四季の歌」というイメージで素晴らしい歌詞をあげてくださいました。その歌詞をベースにして、誰がどこを歌うのか歌割りを決めていった感じですね。
――最後に、改めて観ていただきたいポイントをお聞かせください。
伊藤 まなつとローラ(キュアサマーとキュアラメール)の関係性ですね。2人の関係性はシャロンとラメールとは別に出したかったところで、今回の映画にはサマーの「言葉にしない格好よさ」があると思っています。たとえば、とあるシーンで手を握るところは、最初セリフがあったんですよ。
志水 シナリオではありましたね。
伊藤 でも、演出の過程で「言わない格好よさ」のためになくしたと、監督からうかがって。映像を見て、なるほどなと思いました。そこは最初に話した「変わらない格好よさ」でもあると思いますので、まなつとローラの絆は注目してほしいです。
――これからご覧になる方、2回目3回目とご覧になる方、皆さんにメッセージをお願いします。
志水 この映画は小さいお子さん向けに作ってはいますけど、小さいお子さんにはわかりにくいところもあると思います。そこは保護者の方と「今のはこういうことだったんだよ」とコミュニケーションを取っていただき、お子さんが成長に繋がってくれたらありがたいです。
伊藤 普段は明るくて底抜けに弾けている子たちが、今回は真逆の世界で「ハートキャッチ」の子たちと出会います。9人が出会う意味、「トロプリ」の子たちが雪の世界に行く意味がしっかりある作品ですので、2回目3回目に見ていただく際は「なぜそこに行ったんだろう?」などと一歩考えて観ていただけると、より深みを知ることができると思っています。たくさん観ていただけたら嬉しいです。
(取材・文/千葉研一)
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