映画「アイの歌声を聴かせて」公開記念! 思春期の気持ちを思い出して臨んだ収録──興津和幸×小松未可子×日野聡インタビュー

「イヴの時間」「サカサマのパテマ」など、こだわりの映像とSFマインドあふれる作風で知られる吉浦康裕監督が原作・脚本・監督を務める長編映画「アイの歌声を聴かせて」が全国公開中だ。

ポンコツ“AI”が周りを幸せにしていくという、ハッピーで楽しいオリジナル劇場作品「アイの歌声を聴かせて」。土屋太鳳さん演じるAI・シオンの明るい声と歌声は、きっと劇場に爽やかな風を吹かせるだろう。

今回はそんなシオンに振り回されながらも、大切なものに気づいていくクラスメイトの3人──運動も勉強もそつなくこなすイケメン・ゴッちゃん役の興津和幸さん、ゴッちゃんの彼女ではっきりとものを言う、気が強いアヤ役の小松未可子さん、そして初勝利に燃える柔道部員・サンダー役の日野聡さんにインタビュー。

物語の脇を固める3名のキャストに、本作の魅力を語ってもらった。

演じるときに心がけたこと、3人が選ぶ見どころは?

ーー台本を読んだ第一印象を教えてください。

興津 楽しくて爽やかで魅力的で素直に楽しめる内容で、「こういう作品、久しぶりだな」と思いました。どんな画になるのか、想像をふくらませてくれる台本だったので、完成が楽しみでした。

小松 AIを題材にしているんですけど、SF過ぎず、リアルとファンタジックなところの融合とバランスが素敵だと思いました。かつ音楽も多様性のある感じだったので、新しいエンターテインメント作品ができあがるんだろうなと思いました。実際に歌を聴いたとき、想像以上の美しさと壮大さだったんです。個人的にはサンダーとシオンが乱取りしているときに歌っていた曲が大好きです。

日野 これからの世界でAIというものが発展していったとき、どう向き合っていくのかを真剣に考えなければいけないなと思ったし、そういうテーマが込められた作品ではあるのかなと思いました。シオンという、かわいくてちょっと抜けているAIがいて、まるで人間に近い感情を持っているかのように感じられるところに、すごく興味をそそられました。そういうAIがいる未来になってくれればいいですよね。

ーーご自身が演じるキャラクターについて教えてください。

興津 ゴッちゃんは学校No.1のイケメンなんですけど、No.1イケメンにも、No.1イケメンなりの悩みがあることに気付かされました。他のみんなと同学年ですけど、少し達観していて、一歩引いて俯瞰で見ることができる人間だからこそ、人との付き合い方を模索しているところがあるんです。ただ、同学年から見たら少しオトナかもしれないんですけど、まだまだ子供なので、その揺れ動いているところが表現できればなと思いました。

小松 アヤの第一印象って、すごくイヤな子に見えるんですよね。ゴッちゃんと付き合っているけど少しうまくいっていない状態からのスタートだったので、気の強さが出ちゃっていたというのもあると思うんです。何でこんなに当たりが強いのかなって思うけど、それも恋愛に一途なゆえの、周りが見えなくなりやすいところが出てしまっているのかなって。それが彼女の悪いところでもあり魅力でもあると思います。物語が進むと、ちゃんと周りが見えていて、気も使える子で、意外と人の背中を押せる子だというのはわかると思います。

日野 サンダーは、ひたすら真面目でがんばり屋で、ちょっと抜けているところがあるマスコットキャラですね!

小松 間違いない!

日野 オイシイところもちょこちょこありました。あと監督に言われたのは「シリアスなところも、サンダーはそこに寄り添いすぎないように」ということで。深刻なんだけど、わかっているようでわかっていない感じで、テンションはみんなと違う感じにしようと意識していました。

ーー興津さんと小松さんは、演じるときにどんなことを意識しましたか?

興津 付き合っているんだけど喧嘩をしている、というお芝居は初めてだったんじゃないかな……。付き合うところまで演じたうえで喧嘩をするというのはあるけど、付き合った状態で喧嘩しているところから物語が始まることってなかったから、お互いの気持ちがあるんだけど……という微妙なさじ加減は考えましたね。全然嫌いじゃないし、別れてもいないよね?みたいな。お互い気にしているのは明らかだったので、思春期の気持ちで臨みました(笑)。

小松 監督は「イヤな子には見せたくない、最終的にいい子なんだと思ってもらいたい」と言っていたので、最初から「この子はやらかすぞ」みたいな感じにはしませんでした。嫌味を言おうというより、物言いがストレートだからそう聞こえてしまうだけなので、そこの加減が難しかったです。特に最初にバスの中でサトミに言ったセリフなんですけどね(笑)。

興津 イヤなこと言ってたわ(笑)。

小松 まぁ、イヤなことを言ってたんですけど(笑)。それを言うのも思うところがあるからで、ある意味彼女なりの正義感ゆえだったりもするのかもしれない。それを(セリフで)全部説明できるわけではなかったので、その温度感とかは難しかったですね。あとは対ゴッちゃんに対しての向き合い方は大事にしました。仲直りするところとかは特に……。

興津 あそこ、よかったよ!

小松 試写会で見て、めちゃくちゃ恥ずかしかったんですよ(笑)。演じている側として客観的には見られるんですけど、妙に恥ずかしくて。でもそれは、横に興津さんがいらっしゃったからというのもあるかもしれない。

興津 椅子2個くらい挟んでいたね~(笑)。

小松 でも、こっ恥ずかしくなれたのは思春期の気持ちが理解できたからなのかなって思いました。

興津 いいシーンだった。

ーーサンダーは乱取りに青春感ありましたよね。

日野 シオンとの乱取りというドキドキするシーンがありましたね。そこでは、小悪魔的なシオンの表情とそれにドギマギしちゃう思春期なサンダーの対比みたいなところが出ていたので、皆さんに見てほしいです。

小松 惚れた瞬間(笑)。

日野 落ちた瞬間ね(笑)。

ーーキャラクターに共感したところやシーンはありますか?

興津 AIがあって、AIのロボットであるシオンが来るというのは未来的な雰囲気なんですけど、登場人物にはリアルな高校生感を感じたので、昔の自分がどんな高校生活を送っていたかな?って思い出しながら演じていたところはあります。

小松 アヤ自身は感情的になる部分が多かったので、自分がそういうタイプなわけではないんですけど、そうなってしまう彼女の心理的な部分には共感できたというか。でも学生のときはアヤみたいにストレートに言えるほうではなかったので、ヤキモチを焼いたとしても、クッ!と見ているだけでした(笑)。だからアヤがうらやましいなって思います。私は、シオンみたいに引っ掻き回してくれる存在が現れることを夢見て想像しているような、中二病の学生時代でしたね。

日野 AIとの乱取りは当時もよくやっていたので……嘘です(笑)。収録中は高校時代を振り返ることはなかったんですけど、改めて思うと、シオンが転校してきた時ですよね。女子が転校してくるときの男どもって、あんな感じだよなって思いました(笑)。

小松 俺の隣の席空かないかな?とかね(笑)。

ーーお気に入りのシーンや作品の見どころというと?

興津 ロボットが寝るのか寝ないのか、というシーンは好きですね。

小松 個人的には、シオンがAIであると度々思わせてくれる、“お腹ボーン”は面白かったです。なんでそういう作りにしたの?って思いました(笑)。でも随所にシュールで笑えるシーンがあるんですよ。それが絶妙な感じで盛り込まれていて、監督のセンスが光っているなと思いました。サンダーとかそのシュールなセンスが爆発していると思います。

日野 サンダーの乱取り以外だと、サトミとお母さんとの「今日も元気にがんばるぞ、オー」がすごく好きで、あれは元気が出るんですよね。

小松 状況によってテンションが変わっているのがいいですよね。あれ、アフレコ前にやりたい。

日野 公開されたら挨拶で使おうかと思っています(笑)。

シオンの歌の魅力とは? そして、3人が幸せを感じる瞬間は?

ーー今回はミュージカルのようになっていて、歌が物語の展開するきっかけとなっていますが、シオンが歌う楽曲を聴いていかがでしたか?

小松 ミュージカルって感情的なところで歌が出てくるんですけど、シオンって絶妙なAI感があるんですよ。シオンは何か目的があってメロディを奏でているんですけど、最初の象徴的な曲「ユー・ニード・ア・フレンド ~あなたには友達が要る~」に関しては、AIであるシオンが歌っている感じもしたんです。でも、それこそ乱取りのシーンで流れる歌とかは、シオンに変化があったのかな?って思うほどテイストがガラッと変わったんです。それこそサンダーが落ちた、ちょっとセクシーな感じの歌い方とかは、シオンの中にも徐々に何かが起こったのかな?って想像する余地があった気がするんです。

興津 学習してバージョンアップしている雰囲気があるんですよね。

日野 乱取りは曲のリズムも変わって、小悪魔的な大人の魅力のシオンが見られましたよね。攻めることに対してのレクチャーをしてくれているところでの曲の変化は効果的でした。あのレクチャーの仕方があったからこそ、その後のサンダーにも生きてきたし、(恋に)落ちちゃったのかなと(笑)。

ーー土屋太鳳さんの演技もそうですよね。AIから徐々に人間っぽくなっていく。

興津 見ていると、どんどんシオンのことを好きになっている自分がいて、シオン怖い! 俺も落とされている!って思いました。最初は急に歌い出すおかしな子に感じたんですけど。

日野 確かに、土屋太鳳さんが意識してやられていたのかは確認していないのでわからないですけど、最初のAI然としたシオンから、どんどん人間としての感情みたいなものがバージョンアップされていて、表現の繊細な変化が感じられるんですよね。それがまた、すごいなと思って観ていました。

小松 そのグラデーションですよね。ホントに後半なんですけど、ちょっとずつシオンのバックボーンが明らかになっていくシーンの芝居は鳥肌モノでした。繊細かつ大胆な表現というか、シオンの突飛な部分とブレないところを表現しているんですよね。

最初のほうは、ちょっとした不気味さもありつつ、それも(感情が)わからないから怖く感じるという見え方もあるし、ある意味生まれたてのAIのような雰囲気でやられていた感じがするんです。だから歌もそういうAI感みたいなものが軸にあると思うんですけど、それって歌唱の技法としても相当難しいと思うんですよ。感情を出しすぎないっていう、ゆらぎをなくすことなので。そこが素晴らしいなと思いました。

ーーちなみに、サトミ(CV.福原遥)についてはいかがですか?

興津 サトミちゃん、かわいいですよね。

日野 ショートがまずポイント高いですね。爽やかな好印象があります。サトミの控えめだけど芯が強く真っ直ぐなところが、福原さんのお芝居と声でより魅力的に感じて惹き込まれましたね。

小松 アヤは、サトミに対して最初当たりが強かったからなぁ。

興津 ゴッちゃん的にはそこが問題! 「告げ口姫」とか、そういう言い方すんな!と(笑)。

小松 アヤ視点だと「何、優等生ぶってんだい!」みたいなところはあったのかもしれないけど……。

興津 その告げ口も、みんながしてほしくなかった告げ口だったからね。当たりが強くなっちゃったんだよね。

小松 でも、アヤも言い方がよくなかった。だからサトミは悪くない! サトミがいい子に見えれば見えるほど、正義ぶっちゃってって気持ちがあるのかもしれないけど。何か最近そういう邪悪な部分がわかるようになってきました……(笑)。

日野 ダークサイドを理解するようになったんだ(笑)。

ーートウマ役の工藤さんは、最初に収録をしていて、誰の声も聞いていなかったそうです。

小松 全然そんな感じがしなかったです! トウマとしての第一声がトウマ過ぎて、すごくナチュラルにトウマだ!って思いました。

日野 工藤さんを全く感じないんですよね。ドラマで拝見している工藤さんのイメージが一切出てこなかった。それってとてもすごいことで、トウマの機械とサトミにしか向かってない感じがすごくよかったですよね。

興津 逆にひとり収録だったからよかったのかもしれない。

ーー皆さんとアフレコしたかったそうですよ。

一同 それはやっぱりそうですよね……。

ーーところでこの作品は、シオンが「幸せ?」と聞くところが印象的で、幸せって何かを考えさせてくれるようなところもありましたが、皆さんが幸せを感じるときを教えてください。

日野 子供の寝顔! 

小松 今、何もかもが吹っ飛んでいきました。それは最強でしょうね!

日野 どんなに困らされても、寝顔を見ると全部忘れますね。

小松 私は猫を2匹飼っているので、猫を吸ってるときですね(笑)。顔中毛だらけになりながら「ただいま」って言うのが幸せです。猫の寝顔もかわいいですし、いたずらもめっちゃしますけど、しょうがないな~!ってなります。

興津 この流れで僕に来ますか……。

日野 フィギュアのコレクションを眺めてるときとか?

興津 あぁ……。フィギュアのコレクションを眺めながら一杯やっているのも幸せですねぇ。つまみはいらないですから。手にとって、まじまじと見て、ちょっと向きを変えて置いて、離れて見て、「いいなぁ」とボソリとつぶやき、グビッとウイスキーを飲む……。

日野 オトナだからこそできる嗜み(笑)。

ーーでは最後に、代表して興津さんに映画を見る方にメッセージをお願いします。

興津 どんなときでも楽しい気持ちになれるすごく素敵な作品になっています。ちょっと未来だけど日常と地続きの、少し不思議でかわいくて爽やかな、ハートが揺さぶられること間違いなしの映画なので、ぜひご覧ください! よろしくお願いします!

(取材・文/塚越淳一)

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