「新サクラ大戦 the Stage ~二つの焔~」上演記念ロングインタビュー! 田中公平が語る、各国楽曲制作論から新旧「サクラ」舞台の裏話まで!
株式会社セガによるクロスメディアコンテンツ「新サクラ大戦」の新作舞台「新サクラ大戦 the Stage ~二つの焔~」が2021年12月17日~19日、シアター1010にて上演される。
これにからんで「サクラ大戦」「新サクラ大戦」をはじめとするシリーズで音楽を担当し、「檄!帝国華撃団(ゲキテイ)」を含む珠玉の主題歌たちを手がけてきた田中公平さんにインタビューを行なった。舞台を中心に新旧「サクラ」を横断したエピソード・裏話をうかがったほか、楽曲の制作論についてもとても興味深い話をうかがうことができた。
ぜひ、最後まで楽しんでほしい。
※ステージ写真は、前作「新サクラ大戦 the Stage」の撮影写真です。
──「新サクラ大戦 the Stage ~二つの焔~」に向けて新曲を制作されているとうかがいました。
田中 演出の伊藤マサミさんから新曲が欲しいと(言われたので)。「脚本のここで使う楽曲なんです」と言われて「おお、ここか」と。一幕の最後に歌います。途中で台詞が入ったり、いろいろおもしろい仕掛けがあるので、聴き逃さないでほしいですね。迫力ある楽曲ですよ。
──コンセプト的にどういう楽曲でしょうか?
田中 それは言えないんだけど、そうだな。(「サクラ大戦歌謡ショウ」で帝国華撃団花組の)マリアさんが歌っていたある曲に近いかな。
──「サクラ大戦」全体、そして花組の「歌謡ショウ」をはじめとする舞台をずっと見て(作り上げて)きた公平先生から見た「新サクラ大戦」の舞台の印象や魅力を教えてください。
田中 まず、「サクラ大戦歌謡ショウ」は声優さんがやっている。これは舞台版に俳優さんを立てている今回とは根本的に違います。
──声優さんがそのまま舞台をやるということ自体、当時としては画期的なことでした。
田中 ゲームの「サクラ大戦」がものすごく売れたんでね、(総合プロデューサーの)広井王子さんと相談して1回こっきりの企画イベントとして舞台をやりましょうとなったんです。最初は3日間だけだったの。
──最初の歌謡ショウ、花組特別公演「愛ゆえに」はかなりタイトな準備スケジュールだったそうですね。
田中 結果は大成功だったんだけど、声優さんたち自身から見るとあまりにも完成度が低かったので、「これでは終われない!」と言い出したんですよ。もう一度ちゃんと作れないかという声が声優さんから出たので、それなら第2回をやりましょうとなって、続いていく「歌謡ショウ」がはじまりました。
──その後「サクラ大戦 歌謡ショウ」は10年続くイベントになっていきます。
田中 続いていくと、声優さんも売れていくんだね(笑)。ルフィ(桐島カンナ役の田中真弓さん)がいるんだからね。だから稽古でなかなか集まれなくなっちゃった。全員が揃って稽古できるのはやっとゲネプロ(最終通し稽古)なんてこともあった。それで今回「新サクラ大戦」の舞台をやるとなった時、声優さんで舞台をやるという選択肢は残念ながらなかった。皆さん本当に忙しくて、2時間の歌の収録も月単位で調整が必要だったりするんです。そんな人たちを1か月拘束できるかと言うとそれは無理なんですね。まず物理的に無理。だから俳優さんでお願いしたいと思ったんです。けど、舞台には専門の俳優さんを立てるとなると、ほかの2.5次元舞台と差別化が難しい。
──“舞台と声優を同じキャストが演じる”ことはかつての「サクラ大戦」の特色であり個性でした。
田中 それ(舞台を別の役者が演じること)は歌謡ショウをずっと見てきたファンからするとなかなか受け入れづらいことかもしれないなと私は思った。だからブログで全部ていねいに説明して、役者さんにも役者と役がどんどんシンクロしていってほしいとまず最初に伝えたんです。いろんな形で「新サクラ大戦」の作品に触れてほしいし、私が伝えられることならなんでも話すからと。おかげで去年の「新サクラ大戦 the Stage」ではなんとか役者とキャラクターのシンクロができたと思います。でもね、今回の「新サクラ大戦 the Stage ~二つの焔~」ではさらにすごいよ! 舞台に立っているのが本人かと思うからね。
──私も声優さんの演技に思い入れがありましたが、「新サクラ大戦 the Stage」では、これはクラリスだ、と納得してしまう説得力がありました。
田中 姿もそうだし、声も近づいてくるんだよね。あれは似せてるわけではなく、何度も(早見沙織さんが歌ったり演じたりしている)クラリスを聴いているうちにそうなっていった。だから今回の舞台では、まずはそのシンクロ具合に期待してください。どんどん本人になっていっている。
──同じキャラクターで同じ歌を声優と俳優、違う人が歌うことになると、音域などさまざまな違いがでてきて、難しさもあると思います。
田中 よくわかっていらっしゃる。アナさん(アナスタシア)が一番大変そうでね、舞台の平湯樹里さんは宝塚の男役出身だから、福原綾香さんと比べると3音ぐらい低いんですよ。だから福原さんの元のキーに合わせて歌うのはかなりつらいと最初おっしゃっていた。ところがこの半年に上がどんどん伸びてきてね、かえって低い歌声が出なくなったとまで言っていた(笑)。
──そこをアジャストしていくのもプロの技のうちという。
田中 経験こそが全てだよね。もちろんボイストレーニングもあるんだけど、本番こそが彼女たちを育てていく。1回の本番が100回のボイストレーニングに勝る。
──本番の中で成長して成熟していくというのはかつての「サクラ大戦」の舞台にも通じるところだと思います。
田中 歌謡ショウは自由度が高かった。私も側で指揮していたからわかるんだけど(※注……初期のサクラ大戦歌謡ショウではオーケストラが生演奏していた!)、ステージで台本ちょっと忘れちゃったーとかもあるんですよ。でもそれをなんとかしてしまう彼女たちのすごさ。田中真弓さんなんか、とあるシーン全部アドリブだったことがあるからね。
──そのあたりの温度感は、新サクラではちょっと違うかもしれませんね。
田中 新サクラはすごく緻密に作ってるね、音楽のタイミングとかも。全部計算されてるから、ちょっとずれると怪我につながりかねない。ここからここに行くのに何秒かかって、何カウントで行くというのが全部決まってるから、ものすごく大変よ。舞台裏で見ているとね、カウントしながら5で出て、7で斬ってとかみんなやってるの。すごい舞台なの。だからまるで違うアプローチのものだと思ってほしい。でもきっと両方の違ったよさがあると思うんだよね。昔からのファンの人も、こういうのもあるのかと楽しんでもらえると嬉しいと思います。
──今回の舞台には上海華撃団と倫敦華撃団も登場しますね。
田中 最初からちゃんとシンクロしてるから困ったもんだよ(笑)。ユイなんかそのままだと思うよ。(ユイ役の)西田ひらりさんはエイベックスでアイドルをしていたんだけど、民謡コンクールで優勝してるからね。だから中華風のこぶしなんかもやらせてるんですよ。普通だと回らない音がちゃんと回る。倫敦の(ランスロット役の)小松穂葉さんは熱血少女ですよ。本人ですよ。お母さんが私の30年来のファンだって言ってたから、今度連れておいでと言ってあるよ(笑)。
──各国の華撃団の個性や特性を音楽で表現する時にはどんなことを考えているんですか?
田中 どうしても偽物にはなるんだよ。しょうがない、中国人が書いたほうが本物にはなるじゃん? でもその偽物度合いなんですよ。昨日「八十日間世界一周」(1956)という映画を見ていたんだけどね、横浜についた時の音楽がもう中国で、見る側は違うだろとなるんですよ。でもそれがステレオタイプだから、「SAYURI」(2005)だって音楽は中華風なんだよ。だからね、私は中国の音楽を書く時は、中国の人が聴いた時に新しい中華だよね、と思えるかを考えるんです。ロンドンの人が聴いても面白いよねとなるように。(ランスロットが歌う「円卓の騎士」に)ウェストミンスターの鐘の音という歌詞があるんだけど、ちゃんと音に本物のウェストミンスターの鐘を使っているからね。やるんだったら本気で真似しよう、彼らが書けない中国を書こうと考えてます。「天外魔境」で音楽をやった時は、海外の人から見たエセ日本を意識して書いた。それとは逆の発想で、今回は日本から見たステレオタイプは外して、現代の中国の人が作りそうな楽曲を作ったつもりです。
──「サクラ大戦3」では巴里(パリ)、「サクラ大戦5」では紐育(ニューヨーク)を描いていますが、アプローチは同じですか?
田中 巴里の「御旗のもとに」も紐育の「地上の戦士」も、あれは「ゲキテイ」なんですよ。あとは伯林(ベルリン)もあるんだけど、この3つは各国の「ゲキテイ」を作りました。だから上海でも倫敦(ロンドン)でも最初に作る曲はその国の「ゲキテイ」のつもりで作ります。
──各国の「ゲキテイ」を作ると言っても、新しいものはオリジナルを超えてようやく同等と評価されるようなところがあると思います。
田中 そういう意味では、(「新サクラ大戦」の)「檄!帝国華撃団<新章>」はよくできているでしょう(笑)?
──素晴らしかったと思います。
田中 いろいろ工夫しているからね。そこはそうで、自分の作品というものは日進月歩していないといやなの。過去の栄光を捨て続けることが、私が今やっていることだから。昔の成功体験をなぞらない、自分からの盗作をしない。それはどんな偉い作曲家でもみんな失敗しがちなポイントなんだよね。
──常に進んでいるんですね。アニソン業界のクリエイターに話を聞いていて、宝塚や歌劇をモチーフにした音を考える時の公平先生という壁の強大さを語られたことがあります。
田中 「レヴュー〇〇〇ライト」には負けてられない(笑)。上松(範康)とか神前(暁)にはね、早く引退しろってよく言われるよ。君らが僕を超えていけばな、って返してる。
──高い次元での世代争いが(笑)。
田中 君のほうが先に引退することになるかもしれないぜ、とね(笑)。
──神前さんの下の世代の方たちからも公平先生の名前は出てきます。
田中 田中秀和にも言われたもん。彼は先生がやってない方法を考えるといって、すごく面白い私がやってない技を使ってくる。さすが田中秀和は頭いい。「Wake Up, Girls!」の音楽も素晴らしい。吉岡(茉祐)さんもいい子だし。
──吉岡さんは「新サクラ大戦」でも西城いつき役で出演していますね。
田中 舞台もできるなら出演してほしかったんだけどね。やっぱり声優さんはスケジュールが難しかった。
──「サクラ大戦」、「新サクラ大戦」、「サクラ革命」などプロジェクトが拡大して、制作スタッフにも変化があります。公平先生が音楽を担当していることを心のよすがというか、シリーズの連続性としてとらえているファンも多いのではないでしょうか。
田中 私がやっているから「サクラ」、と思ってくれている人がいるなら、それは嬉しいよね。「ONE PIECE」の音楽もやっているけど、いろいろな入り口がある作品だし、何より尾田先生の作品というのがまずあるから。「サクラ大戦」に関しては広井王子さんと私でやってきた作品だという想いがあるから、広井さんのイズムは私が引き継いでいるつもりでやっています。
──いろんなシリーズを貫く「サクラ大戦」の音楽の芯はどんなところにあると思いますか?
田中 私に言わせれば「サクラ大戦」の音楽の芯はメロです。太いメロ。今の時代はリズムとかハモリとかいろいろな方向にいってますけど、伴奏をつけずにメロだけを抜き出した時に太いってことがよくわかるから。「走れ光速の帝国華撃団」って聴けば一発でしょ(笑)。わかりやすく言うと5秒でつかむということかな。最近TikTokとかの影響で短い曲が増えてる。イントロがなかったり、聴かせたいところを頭に持ってくるようになっている。だからね、「ゲキテイ」もある意味頭サビなんだよ。「チャーチャーチャーチャーチャーチャー♪」のところ(イントロ)がもうひとつのサビなんだよ。
──なるほど! そのあたりは「サクラ大戦」のサウンドがゲーム音楽という出自であることにも関わってくるんでしょうか?
田中 「ゲキテイ」に関してはね、秋葉原を歩いている人が「何!」となって振り向いてくれる曲を書いてくれと言われたんです。「はい、わかりました」と書いた結果であのイントロが生まれました。
──「ゲキテイ」がアニソン界に及ぼした影響ははかりしれないと思います。ライブなどでのカバーも何度見たことか。なんで「ゲキテイ」はこんなに特別なんでしょうか。
田中 まぁ、特別だからです、しょうがないですよね(笑)。25年ずーっと愛されている。やっぱり太いメロ、キャッチーなイントロ、そして歌うことに挑戦したくなる歌なんだと思います。難しすぎず……ね。もっとも、ちゃんと歌おうとするととても難しい曲なんだけどね。「歌ってみた」でちゃんと歌えている人はいないから、私がディレクションしてやろうかと思うぐらいで(笑)。
──「新サクラ大戦」でそんな難曲の<新章>を制作するにあたって、「はしーれー」の高音の追いかけとか、さらに難しくするのはスパルタですね(笑)。
田中 あれはね、佐倉綾音さんがEが出たから。あの人F#も出るからね。Eの音が出るんならこれをやってもらおうと思ったんですよ。だから舞台で天宮さくら役に関根(優那)さんを選ぶ時も、表声でEが出る人という条件だったんです。
──ハードルが高い分、ちゃんとできる人を選んで、特訓にもつきあって。
田中 そうしたらもっとレベルが高くなった。いい関係性ですよ。そりゃ彼女(関根さん)もいろいろな舞台に引っ張りだこになるよね。
──作曲の姿勢と同じく、常に高みを目指しているからよりよいものへ更新していけるんですね。
田中 常に更新していかないと、消えるしかないんです。作曲の世界でどうしてこんなにすごい人が消えてしまったんだろうと考えて、それから逆に消えなかった人たちを見たんです。そうすると、生き残っているのは、性格がよくて見た目も若くて、常に自分を更新していける人だった。渡辺宙明さん、菊池俊輔さん、みんな腰が低い。だったら自分もそうすればいいよねと思ったんです(笑)。私はビクターにもちょっといたから、そういうのをよく見て、過去に学んだんです。
──個人的に、「御旗のもとに」で「ゲキテイ」を超えうるものを作ってきたな、と感じたのが一番の驚きであり感動でした。
田中 あの時の打ち合わせ、覚えてるよ。広井さんから「『ゲキテイ』よりもパワーアップして、パリっぽくて、大ヒットする曲をください!」って言われてね。野球でホームラン打てってサイン出すやつがいるかよってオーダーでしたね(笑)。だからホームランを打ってやった。その意味では新ゲキテイ(「檄!帝国華撃団<新章>」)もホームランになったんじゃないかと思います。違うバットでね。
──最高のホームランでした。最後に、舞台を待っているファンの皆さんにメッセージをお願いします。
田中 昔から応援してくれている方も、「新」から入った方も、どちらも楽しめる舞台になっていると思います。1秒たりとも瞬きせず、すべてを見て、記憶して帰ってもらいたいと思います。すごくいい舞台になっていますので、期待を違えないことをお約束します。よろしくお願いします。
(取材・文:中里キリ)
【イベント情報】
■公演タイトル:新サクラ大戦 the Stage ~二つの焔~
・スタッフ
原作:「新サクラ大戦」(株式会社セガ)/シリーズ原作:広井王子/音楽:田中公平/演出/脚本:伊藤マサミ/制作:Office ENDLESS ほか
・キャスト: 【天宮さくら】関根優那、【東雲初穂】高橋りな、【望月あざみ】寒竹優衣、【アナスタシア・パルマ】平湯樹里、【クラリス】沖なつ芽、【ヤン・シャオロン】本条万里子、【ホワン・ユイ】西田ひらり、【アーサー】楓、【ランスロット】小松穂葉、【神崎すみれ】片山萌美、【神山誠十郎】 阿座上洋平(声の出演)
【芽組】山田せいら、矢澤梨央、本宮光、飯嶋あやめ、石田彩夏、小太刀瑞姫、永井毬絵、牧野澪菜、三島依、山下由奈
※出演者は変更になる可能性がございます
・日時・公演スケジュール:
2021年12月17日(金)~12月19日(日)全6公演
・劇場:シアター1010
・主催:エイベックス・ピクチャーズ株式会社
※公演内容は変更になる可能性がございます。
チケット一般好評発売中!
ORIGINAL ©SEGA ©SEGA / エイベックス・ピクチャーズ
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