プロデューサー・紅谷佳和 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第52回)

ライターcrepuscularの連載第52回は、株式会社テレビ東京のアニメ制作部で長年にわたりアニメを作り続けてきた名プロデューサー、紅谷佳和(べにやよしかず)さん。地上波キー局のプロデューサーといえど、“社会現象”と呼べる大ヒットを生み出すのは容易なことではない。だが、紅谷さんはこれまで「ケロロ軍曹」、「FAIRY TAIL (フェアリーテイル)」、「のんのんびより」シリーズ、「妖怪ウォッチ」シリーズ、「Re:ゼロから始める異世界生活」など、数多くの“社会現象”作品に携わってきた。現在も「妖怪ウォッチ♪」、「新幹線変形ロボ シンカリオンZ」、「SHAMAN KING」、「境界戦機」、「takt op.Destiny」、「古見さんは、コミュ症です。」といった話題作のプロデューサーを務め、その実力を遺憾なく発揮している。今回の独占インタビューでは、そんな紅谷さんの常勝の秘訣を初公開。加えて、スタッフィングやキャスティング、キャリア上の転機、アニメ業界の課題、テレビと配信の関係性、今後の挑戦についてもお話いただいた。テレ東アニメのキーパーソンが語る、日本アニメの実態とは。ぜひ最後までお読みいただきたい。

テレビ局プロデューサーは「制作現場が観せたいと思う作品を放送する」


─12月のお忙しい中、本当にありがとうございます。最初の質問ですが、紅谷さんにとって「アニメプロデューサー」とはどういう存在でしょうか?


紅谷佳和(以下、紅谷) ひとえに「アニメプロデューサー」といっても、制作会社のプロデューサーもいるし、製作委員会に参加している出資社のプロデューサーもいるし、僕みたいなテレビ局のプロデューサーもいまして、それぞれ役割は違っています。そのうえで、テレビ局のプロデューサーにとって一番大事なことは、「制作現場が観せたいと思う作品を納品してもらって、放送させること」です。そのために僕らがやるべき役目は、「誰に対しても頭を下げること」です。たとえば、現場のやりたいことを尊重して、納品が放送ギリギリになってしまう場合には、社内の各部署に頭を下げて回って、「すいません! ギリギリまで引っ張らせてください!」ということをしなきゃいけない。


テレビ局のプロデューサーは常に、テレビ局と制作現場・製作委員会の間で板ばさみになっていて、都度どちらの側に立つかを決めなければなりません。僕は、制作現場よりもテレビ局を守るというのは、局のプロデューサーとしてあるべき姿ではないと思っています。せっかく、「作品をテレビ東京で流したい」と選んでくださっているのだから、最大限、現場ないし委員会が視聴者さんに見せたいと思うものを作っていただく。それが局のプロデューサーの一番の仕事だと思っています。


─「頭を下げる」のが主業務となると、相当タフでないと務まりませんね。


紅谷 僕は番組の担当を引き受けた時から、作品と一蓮托生、腹をくくっています。作品を成功させるために自分に何ができるのか、というのを常に考えます。テレビ局のプロデューサーというのは、作品に関わっている人の中で、一番普通のサラリーマンだと思います。どういうことかというと、制作会社で画を描いている方たちや、音楽を作っている方たち、声優の方たちというのは、まさに現場で作品を作っているプロフェッショナルです。製作委員会のプロデューサーの方たちも、アニメビジネスのことがわかっているプロの人たちです。でも、テレビ局のプロデューサーは普通のサラリーマンなので、人事異動で全然違う仕事に移ることだって普通にありうるんです。テレビ東京のアニメ局にも、もともと営業、報道、スポーツ、宣伝といった別の部署で仕事をしていたプロデューサーが山ほどいて、僕も営業出身者なんです。僕らは、もしまた異動があれば、アニメから離れざるをえない。だからせめて、僕がアニメプロデューサーでいる間は、制作現場が満足する形で放送させてあげたいんです。

テレ東アニメの「プロデューサー」とは?


─紅谷さんのクレジットは、デビュー作「ケロロ軍曹」(2004~07)から一貫して、「プロデューサー」となっています。ご経歴を考えると、そろそろ「企画」や「エグゼクティブ・プロデューサー」と表記されてもおかしくないと思うのですが……。


紅谷 これは僕の意向ではなくて、「アニメ制作の担当者を『プロデューサー』として、放送責任を負わせる」というのが、テレビ東京アニメ局のスタンスなんです。アニメのオープニングを観ると、「紅谷佳和(テレビ東京)」とカッコで所属がついていますが、これも局内で決めていることです。所属をあえてつけている理由は、放送を観た人が倒れたとか、映像上のミスがあったとか、放送内容で傷ついた人がいるとか視聴者さんからのクレームがあった時に、誰が責任が負っているのかはっきりさせるためです。だから、「紅谷佳和(テレビ東京)」と表記されたアニメ番組が放送されるうえでは、僕が一身に責任を負っています。先ほどの「頭を下げる」に近いんですが、僕に限らず、テレビ東京のアニメプロデューサーは、放送責任から絶対に逃げない。「〇〇(テレビ東京)」は、そういう覚悟の表れなんです。


─なるほど。そうすると、製作委員会の構成メンバーが多くても少なくても、紅谷さんが責任を負うわけですね。


紅谷 「テレビ東京のアニメ番組として流れている」限りにおいては、僕が責任を負っているということです。


─「SHAMAN KING」(2021)は、紅谷さんのみが「プロデューサー」となっています。これは、紅谷さんが企画の立ち上げから関わった、ということなのでしょうか?


紅谷 そういうわけではありません。「SHAMAN KING」は、講談社さんとキングレコードさんからご提案をいただき、テレ東もご一緒させていただきました。これも、アニメ局のクレジットレギュレーション上、そうなっているに過ぎません。テレビ東京の場合、編成が制作費を負担している作品で「プロデューサー」として名前を載せるのは、局の担当者、その制作費を支払った会社の担当者、それからアニメ制作会社の担当者ぐらいです。「SHAMAN KING」の場合は、同じ座組の別作品に準じたり、特段適任な担当者がいなかったので別の肩書をご提案して、結果的に僕だけが残った、というのが種明かしです。


─どんな時に仕事のやりがいを感じますか?


紅谷 やっぱり作品がヒットした時には、「やっててよかった!」と思いますね。子ども向けの作品は、「その作品を何で知りましたか?」とアンケートを取ってみると、原作がマンガやゲームであったとしても、ほぼ間違いなく「テレビアニメ」と返ってきます。原作や派生商品がヒットした時には、テレビアニメが一番のきっかけになっているわけなので、作品に関わってよかったなと思いますね。


もうひとつ、やりがいを感じる瞬間があります。作品を作りあげるのに大事なのは人間関係だと思うので、現場や委員会の方たちに「テレビ東京の担当が紅谷でよかった」と思ってもらえることもすごくうれしいです。何かトラブルがあった時に現場の側に立って戦ってくれたとか、そういうことがいろんな人間関係に発展していくし、「紅谷さん、また次に一緒にやりましょう」という話にもつながっていく。アニメ業界は狭いので、ぜひいい関係で終わって、次の仕事も、また次の仕事もとつながるように、気持ちよくやっていきたいんです。

「School Days」で「深夜アニメとの向き合い方」を学ぶ


─製作活動にあたり、一番影響を受けた作品は?


紅谷 どういう答えが一番適切かなと思ったんですけど、一番わかりやすくて話しやすいと思ったのは、「School Days」(2007)です。テレ東のアニメ制作部に配属された当時は、「残酷描写も、エロ描写もあってはならない」と言われて作っていたんですけど、制作部に3年いた後、AT-Xに出向することになって、その時に向き合ったのが「School Days」なんです。AT-Xはこの作品には制作に関わったわけではなくて、購入して放送しているだけだったんですけど、AT-Xが「School Days」の最終話を放送するちょうど1週間前になって、tvk(編注:テレビ神奈川の略称)が放送を止めることになって、AT-Xもどうしようかという話になりました。


僕らはその時放送されなかった残酷シーンも観ているんですけど、正直、テレビ東京にいた時には向き合いようのない作品でしたね。AT-Xは有料チャンネルなのでどんな作品でも流してきたんですけど、「School Days」の最終回は、バイオレンスや猟奇的な部分では突き抜けていました。もちろん、いろんな作品があっていいし、いろんな表現があっていいとは思っていたものの、当時は、「これを地上波で流そうとしていたのか」、「一体誰がチェックしたんだろう?」と衝撃を受けました。なので「School Days」は、「深夜アニメと向き合うというのはどういうことか」、「テレビ東京でやるとしたら、どういう手続きを踏む必要があるのか」というのを考えるきっかけになりました。


─「Re:ゼロから始める異世界生活」(2016)にも残酷描写がありましたね。


紅谷 昔と比べると、テレ東の残酷描写への向き合い方は全然変わりました。僕がアニメ制作部に入った頃は、「アニメは子どもが観るもの」という前提があって、「どんな時間帯に流れていようが、子どもが観て正しいアニメを作れ」と言われていました。なので、血の表現はこうだとか、残酷表現はこうだとか、パンツは見せちゃいけませんとか、そういうのを徹底していました。それが徐々に風潮が変わって、「深夜に流れるものに関しては、その時間帯にテレビをつける人向けに」というふうになりました。それをふまえて、自分なりの表現の限界を現場に提案しながら進めていきました。

「特撮ヒーロー」、「西部警察」が大好き


─お好きな作品も教えていただけますか?


紅谷 趣味だけでいえば、アニメに限らずアクションものが好きで、特に特撮ヒーローが大好きです。子どもの頃はアニメよりも、特撮ものばかり観ていましたね。1970年代の特撮ものだったら何でも知っている、と言えるくらい好きです。ただ、それ以上に一番好きなのが「西部警察」です。「西部警察」って正直、アニメだと思うんですよね。だって現実で、ショットガンを持った刑事が敵にぶっぱなすことなんて普通起きないし、第1話なんて、銀座の交差点を敵の装甲車が走っていますからね(笑)。

「ギャグもの」は作っていて楽しい


─お得意なジャンルはありますか? フィルモグラフィーを拝見すると、「ケロロ軍曹」シリーズや「妖怪ウォッチ」シリーズ(2014~)をはじめ、「メタルファイト ベイブレード~爆~」(2010~11)、「クロスファイト ビーダマン」(2011~13)、「ビーストサーガ」(2013)、「新幹線変形ロボ シンカリオンZ」(2021)など、子ども向け作品が比較的多いようです。


紅谷 お話してきたように、子ども向け作品は、テレ東アニメの個性のひとつだと思います。なかでも僕自身は、「ギャグもの」が好きですね。「ギャグもの」は作っていて楽しいし、僕らプロデューサーもどんどんアイデアを出していけるので、やりがいも感じます。シナリオでも、ストーリー重視のものは、原作のままにしてほとんど触れなかったりとか、監督やシリーズ構成さんがはっきりとした方向性を持っていたりして、プロデューサーが意見を述べるのをためらってしまう場合も多いので、それに比べると意見が言いやすいんですよね。その点で僕は作品に恵まれていて、自分を出しやすい、「ケロロ軍曹」や「妖怪ウォッチ」といった動きのあるドタバタしたギャグものに数多く関わらせていただきました。


─紅谷さんの関わった作品には、「パロディ」も多いように感じました。たとえば「シンカリオンZ」第15話には、「ブラタモリ」をパロッた「ブラゲンブ」というのがありました。


紅谷 「ブラゲンブ」は自分のアイデアではないですが、僕は意識して、「ぜひそれのパロディを入れましょう!」、「あれのパロディを入れませんか?」というのをやっています。本当はやっちゃいけないのかもしれないんですけど、パロディを入れられる作品というのは、プロデューサーとしてのやりがいを感じるんですよね。ある一線を越えると権利者から怒られるし、場合によっては訴えられるんですよ、パロディって。だけど、どこまでがOKかと模索しながら作れるというのは、作り手冥利なんですよね。責任を取る者の特権というか。


ただし、誰もパロディって気づかなかったら意味がないので、現場には「マニアックなパロディは止めてください」と言っています。たとえば「ケロロ軍曹」は、最初からパロディを狙ってやっていて、あの時は「子どもは知らないけど、親の世代は元ネタを知っているパロディ」をやっていました。そして親子で観た時に、「これは、パパが子どもの頃に観たアレの話なんだよ」という会話が生まれたら、しめたものだと思っていました。僕は「妖怪ウォッチ」でも同じことを目指していまして、できれば家族で観てほしいと思っています。


─「シンカリオンZ」第16話には「ハローキティ」のシンカリオン、第21話には「新世紀エヴァンゲリオン」のキャラクター、第26話には「銀河鉄道999」のメーテルのような人物が登場していました。


紅谷 これはパロディではなく、公認のコラボです。コラボ作品に関しては僕の発案ではなく、製作委員会のほうであらかじめOKをもらったものを登場させています。

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