【インタビュー】澤野弘之がピアノソロアルバム「scene」をリリース。ピアノ曲に生まれ変わった名曲たちを語る!

澤野弘之が手がけてきたアニメ・ドラマのサウンドトラックの中から厳選された曲を、ピアノソロにアレンジしたアルバム「scene」が、2021年12月22日にリリースされる。もともとはファンクラブサイト【-30k】内で生まれた、自作曲をピアノで演奏するという企画。その中から19曲を1枚のアルバムに収めたものだ。12月末のリリースということで、澤野弘之が大好きなクリスマスソングも1曲含まれている。
今回のインタビューでは、自身のピアノとの出会いから、原曲を作ったときの思い出、そしてピアノソロになったときの印象などを、多角的に語ってもらった。作曲家としての歩みが一望できる、澤野ファン必見の内容になった。

リラックスして聴いていただきたい、ピアノアルバムです


──澤野さんご自身が演奏するピアノソロアルバムというのは、初めての試みですね。どういうきっかけで制作に至ったのでしょうか?

澤野 2年くらい前に【-30k】というファンクラブサイトを立ち上げて、その中に、月に1回くらいのペースでピアノ演奏を公開するコンテンツを作ったんです。既存の楽曲を弾いたり、アドリブで弾いたりできればいいかなと思ってやってきたら曲が溜まってきて、CDにまとめたいなと。最初はライブ会場限定のCDとして出そうみたいな話をしていたんですけど、話が広がって一般流通するCDとしてのリリースが決まりました。

──ということは、【-30k】で演奏された音源をまとめたアルバムということなのでしょうか?

澤野 そうですね。1曲だけこのアルバム用に弾き直した曲がありますが、ほかの18曲は【-30k】のときの音源です。だからほとんどの曲は、ファンクラブ会員の方ならネットで聴ける音源ではあるんですね。それに、「今回はこんな曲をやってみよう」と毎回その場の気分で決めて弾いてきた曲ばかりなので、CDとして改まって聴かれるのには気恥ずかしさもあって(笑)。ぜひ、みなさんにはリラックスして聴いていただきたいなと思います。勉強や仕事をしながらでもいいですし、寝る前でもいいですし。

──リラックスできる1枚であることは、間違いないですね。ピアノで弾くために、新たに譜面を起こしたりはしたんですか?

澤野 いや、ピアノ用に二段譜面を書き起すようなことはなかったですね。サウンドトラックを制作するときに使ったメロディとコードが書いてある譜面を使って、自由に弾いていきました。僕にはそのほうが弾きやすいんです。もともとクラシックのピアノをバリバリ弾いてきたわけではないので、逆に二段譜面を書いて譜面通りに演奏するとなったら、時間をかけて練習しなければならなかったと思います。

──そもそも澤野さんは、ピアノとどのように関わってきたのでしょうか?

澤野 僕はピアノを始めたのがほかの子たちよりも遅くて、小学校6年のときでした。ずっと、ピアノを習っている子のことをうらやましいなと思っていたんですけど、僕らの世代だと、男がピアノを習っているとクラスメイトにからかわれるような気がして、親に言い出せなかったんです。あるとき、母親が僕の手を見て、細くて長いからピアノに向いているかもと何気なく言ったことがあって、「そんなふうに言うんだったら、習ってもいい」と。本当はすごくやりたかったんですけど、半分、親のせいにしてピアノを始めたということがありました(笑)。

──男の子らしいエピソードですね(笑)。

澤野 ピアノは高校1年まで続けたんですけど、始めるのが遅かったせいか、クラシックの曲を弾けるようにはなれなくて、もう教室に通うのはやめようかなと。最後に1曲、何か弾けるようになりたいと思って練習したのが、音楽の教科書に載っていたビートルズの「イエスタデイ」でした。そのときに、自分はやっぱり曲に触れていたいんだなと思って、作曲家の先生の教室に移ってピアノを練習しながら作曲の勉強を始めたんです。

──作曲家としてのスタート地点は、そこなんですね。

澤野 当時から映像作品のサウンドトラックには興味があって、同時にポップスも書いてみたいと思っていました。だったら、メロディとコードの譜面でピアノ演奏ができるようになるといいよと、先生からアドバイスをもらって、今に至るという感じですね。

──【-30k】のピアノ演奏には、澤野さんのルーツが垣間見られるということですね。

澤野 【-30k】に限らずライブのときもコードの譜面しかみていないので、リハーサルの1回目と2回目で全然違う弾き方をしていることがあるんです。もちろん、確実に弾かなければいけないフレーズはありますが、それ以外のところはその場の雰囲気で弾いていることが多いんです。性格的にも譜面通りに同じ弾き方を繰り返すよりも、自由に弾くほうが楽しいんですよね。

──ということは、このアルバムの収録曲も、そのときにしかない演奏になっているということですか?

澤野 そうですね。同じ曲でも、弾き直したらまた違うものが出てくると思います。【-30k】では完全にアドリブで弾いた回もあって、たとえば1曲目の「scene」がそうですね。フレージングが気に入っていたので、アルバムのタイトル曲にしました。もうひとつ、16曲目の「PIANO[-30k]-001」もアドリブで、タイトル通り【-30k】の第1回目に弾いた曲です。

──この2曲は譜面すらなかったということですね。まさに唯一無二という。

澤野 「scene」はメロディアスな曲ですし、弾く前になんとなくこういう曲を弾こうと考えていたから、今も再現可能なんですけど、「PIANO[-30k]-001」は本当にその場のインスピレーションで弾いていったので、二度とできないです(笑)。譜面に起こせば弾けると思いますが、たくさん練習しないとダメでしょうね。

──ご自身で一度は演奏した曲なのに、ですか?

澤野 不思議なんですけど、譜面がない状態で自由に弾いているときにはできた細かい指の動きが、譜面を書いてその通りに弾くとなると、「あれ、どうやったんだっけ?」となっちゃうんです。

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