アニメライターが振り返る、2021年注目アニメ映画レビュー【アニメコラム】

2021年公開のアニメ映画をほぼすべて見てきたライターが、現在上映中もしくはパッケージが発売中のタイトルから注目作を振り返り! 「逆襲のシャア」の12年後が舞台「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」、35mmフィルム化プロジェクトも話題「映画大好きポンポさん」、ワンちゃんレスキュー隊の劇場版「パウ・パトロール ザ・ムービー」、新人フラダンサーの1年間を描く「フラ・フラダンス」、1995年公開の押井守作品がIMAXで上映される「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 4Kリマスター版」の5作品をピックアップしました。

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ


ガンダムの最新作、それも第1作の舞台である宇宙世紀のタイトルともなれば、見る側はどうしても歴代シリーズとの連なりを意識してしまうものだ。そう考えると風になびくヒロインの髪をじっと見つめるハサウェイの描写は「ガンダム Gのレコンギスタ」の第1話を思い出させるのに十分なものだったといえる。あのカットは富野由悠季の小説から作品を受け継ぐことへの決意表明なのだろうかと勘ぐってしまうほど。
それが事実かどうかは知る由もないが、中盤の山場である市街戦のシーンはモビルスーツの空中戦に巻き込まれた地上の人間がいかに被害を被るのかを徹底的に描いた点において、「機動戦士ガンダム」の第1話でザクマシンガンの薬莢が落下するカットに繋がるだろう。光を極力抑えて暗いまま進行するアクションは出色の出来映えだ。
冒頭の往還シャトルでの無重力を意識した表現も印象的。窓の光が遮られただけで異変を察知するケネス大佐の洞察力や、ハイジャックによって吹き飛ばされた客室乗務員をがっちり受け止めるハサウェイの背筋力など、有能さをさりげなく見せているのもうれしい。第2部の公開を期待して待ちたい。



映画大好きポンポさん


映画公開後に35mmフィルム化するクラウドファンディングを実施し、12月には支援者以外にもお披露目となった本作。制作工程からセル画やカメラが消えた現代のアニメの場合、デジタルのほうが狙い通りの画面になっていいのではないかと早合点していたが、実際にフィルムを見てその認識を改めさせられた。「ポンポさん」の特徴である輪郭線の色トレスは、フィルムを通すことで少しにじんでやわらかな趣きとなり、また違った美しさを味わえる。あえてシネフィル風に語るとすれば、35mmフィルム版を体験していない人には「お楽しみはこれからだ」と言いたくなってしまうぐらいの差に驚いてしまった。
本編のラストでは、原作にはない編集シーンに多くの時間が割かれており、新米監督は何十時間もある素材を切り詰めて、ついに1本の映画を完成させる。全体のために無駄なものを切り捨てられるようになった主人公が権威から表彰されるという結末の恐ろしさには震えるしかないが、そのときに思い出すのは、作中でも言及される「ニュー・シネマ・パラダイス」である。この映画にもフィルムがカットされる場面が存在していたはずだ。プロデューサーのポンポさんには「嫌い」だと一蹴されてしまった作品だが、その理由は上映時間の長さなどではなく、カットされたフィルムにかけがえのないものが宿っていたという物語が、監督にとって不都合だったからなのかもしれない。



パウ・パトロール ザ・ムービー


テレビアニメにおいて16:9のアスペクト比より横に長いスコープサイズは、今流れている場面がドラマチックなものだと示すためのお約束として用いられる。そのため劇場アニメでスコープサイズと聞くと「とりあえず横長にしておけば映画になるだろう」とあなどっているのではないかと警戒してしまうが、本作がそんな安易な考えと無縁の作品であることは冒頭のシークエンスを見れば明らかだ。
巨大な橋の上で大型タンクローリーが事故を起こすという横長のスクリーンにふさわしい事件が発生。今にも川に落ちようとするタンクローリーをヘリや船を駆使して救出する上下を意識した構図も決まっていて、レスキュー隊員が子犬というユニークな世界観の導入に最適。犬をヒーロー、猫をヒールとして描くという、猫派にとって見過ごせない瑕疵はあるものの、一気に引き込まれる。
心や体を壊してしまう過酷な働き方を肯定しない姿勢も好印象。かつて飼い主に捨てられたトラウマに向き合いながら任務に向かうチェイスのがんばりに励まされ、そんな彼にやさしく手を差し伸べるケントの理想の上司っぷりに憧れるが、キャラクターの中ではもはやヴィランと呼ぶべき悪役・ライバールの存在感が圧倒的だ。不正選挙で市長になったライバールは単につまらないという理由から、図書館、博物館、そして(犬と遊べる)公園の模型を破壊し、市民の前でその廃止を匂わせる。公共施設を潰そうとする人間を首長にしてはいけないという当たり前の教訓を、キッズ向けアニメで教わることになろうとは……。



フラ・フラダンス


高校卒業を機に、スパリゾートハワイアンズに就職して新人フラダンサーになった少女5人の青春オリジナルアニメ。フラダンス未経験の主人公・夏凪日羽(なつなぎひわ)が、スタイルの維持が苦手だったり、笑顔が上手く作れなかったりと、ちょっと変わった同期たちとともに歩んだ1年間を描く。初ステージで前代未聞の大失敗をしでかしたせいで「史上最も残念な新人たち」という不名誉なキャッチコピーを付けられてしまうものの、本人の努力や周囲の助けもあり、日羽たちは一人前のダンサーへ成長を遂げていく。
ステージで完璧なフラを披露する5人に心を動かされるいっぽう、どこか寂しさも感じてしまうのは、スパリゾートハワイアンズという場所が日羽たちにとって安住の地ではなく、やがて別れが来ると示唆されているからだ。これまで支えてくれた先輩社員たちはそれぞれの理由から新天地へ移り、彼女たち自身にもそれぞれ違った夢や目標があることが明かされる。
そう思えば、本作の脚本を手がけた吉田玲子の作品は、「映画けいおん!」しかり「きみと、波にのれたら」しかり、現在公開中の「映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」しかり、いつか離れ離れになると知りながら今を懸命に生きる主人公たちが描かれていた。女子高生が戦車で戦う「ガールズ&パンツァー」ですら、仲間たちが脱落した後半戦にはどこか寂しさが漂っていたことを思い出そう。そんな心地のいい寂寥感に身をゆだねたくなる一作。



GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 4Kリマスター版


デジタルリマスターというと映像の美しさに目が行きがちだが、「攻殻機動隊」はむしろ画質の異なるカットが複雑に入り混ざっている点が魅力なのだと改めて気付かされた。本編ではキャラクターや監視カメラなどの視点から見た主観映像が細かく挿入されており、たとえば冒頭の草薙素子がハッキングして覗き見る室内は熱線映像風であったし、犯人を追うバトーの主観には走査線のようなノイズがあることにリマスターでは嫌でも目に付く。バトーはあんな大げさな眼をしているのにブラウン管テレビ程度の解像度だったのかと、映画公開から四半世紀が過ぎた事実にショックを隠せないが、基本的に主観映像は画質が粗いものとして描かれていた。
唯一の例外は本編の最終部、素子の主観による約45秒の長回しだ。鏡にズームするとソファに腰かけた少女が認められるが、その姿がこれまでと違った“リアル”で細やかなタッチで描かれており、次のカットでは元の質感に戻ることもあって大きなインパクトを残す。遅れて現れたバトーは急ごしらえで用意した闇ルートのボディだと話すが、そんな義体がバトー以上に高性能な眼を持つわけがない。あの主観映像は、素子が肉体の制約から解き放たれて、観客の我々とも違う視点で世界を見る存在に変わったという表れなのだろう。「攻殻機動隊」が映像の肌理(きり)を巡る物語だったと再確認できるリマスターとなった。



(文・高橋克則)

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