プロデューサー・吉岡宏起 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第53回)
ライターcrepuscularの連載第53回は、株式会社ENGI代表取締役社長で、“熱きSAMURAI魂”を持つプロデューサー、吉岡宏起さん。吉岡さんはゲーム業界出身のアニメプロデューサーで、「ガールズ&パンツァー」や「楽園追放 -Expelled from Paradise-」といった名作を世に送り出し、日本にCGアニメを根付かせる礎を築いた人物である。ENGIに移ってからは、「旗揚! けものみち」や「宇崎ちゃんは遊びたい!」をプロデュース。代表取締役社長となった本年6月以降は、ENGIを世界に羽ばたかせるべく、新たな経営戦略の策定に取り組んでいる。今回の独占インタビューでは、キャリアやフィルモグラフィーを振り返りながら、吉岡さんならではのヒット哲学、プロデュース論を探っていく。組織マネジメントや現在のアニメ業界に対する見解もズバリうかがった。サムネイルのポーズは、どんな逆境にも負けない、“盾突く(縦突く)”精神の表れだというが、競争激化する世界市場に挑むアニメPのアニメづくりとはいかなるものなのか。ぜひ最後までお読みいただきたい。
制作プロデューサーは「本来のプロデューサー」
─年末の大変お忙しい中、本当にありがとうございます。ゲーム業界ご出身とのことですが、吉岡さんにとって「アニメプロデューサー」とはどういう存在なのか、まずは教えていただけますか?
吉岡宏起(以下、吉岡) ゲームとは違うところもありますけど、基本的にプロデューサーというのは、「生み出す役割を担っている人」です。ひとりで生み出すプロデューサーもいれば、いろんな組織や人を使って生み出すプロデューサーもいます。日本の場合は、「お金を集めて握っている人がプロデューサー」というイメージが強いんですけど、僕は、「制作プロデューサー」(編注:クレジット上は「アニメーションプロデューサー」)が本来のプロデューサーだと思っています。「制作プロデューサー」は企画の立ち上げから関わることもあるんですけど、僕の場合は、企画や製作委員会がすでに決まっていて、そこから実際に制作を行っていく、というケースが多いですね。企画趣旨や製作委員会の人たちの思いをしっかりとヒアリングして、その中で自分やスタジオのカラーに合った設計プランを構想し、「こういう形で作ってみてはどうでしょうか?」と提案していく。それが「制作プロデューサー」としての僕の仕事だと思っています。
─プロデューサーの教科書ではよく、「ビジネスとクリエイティブ、2つの柱がある」と説明されますが、吉岡さんはクリエイティブ面を重視するプロデューサーなのですね。
吉岡 ゲーム業界で働いていた時までは、マネジメントスキルが特化していればプロデューサー的な仕事ができるだろうと思っていました。ゲーム業界を離れてゴンゾというアニメ制作会社に入った時も、アニメ業界は初めてだけど、自分のマネジメントスキルは悪くないと思っていたんですよ。けれど、「ブレイブ・ストーリー」(2006)とか、僕が関わった作品がなぜかあまり売れない。そこで、冷静に敗因を分析してみると、スケジュールや予算の制約ももちろんあったんですけど、「この作品の時は、こういう提案をすればよかった」とか、「スタッフはこういう研究をしてたんだ。それなら、こういうこともできたのに」とか、自分の俯瞰(ふかん)的な視点欠如などさまざまな問題があることがわかってきて、「もっと自分の権限や幅を広げて、しっかりとスタッフたちと会話したうえで積極的に提案していかないといけないな」と思うようになったんです。
幸い、ゴンゾの次に転職したグラフィニカには、挑戦できるチャンスがたくさんありました。そうした新たな気持ちで臨んだ最初の作品が、OVA版「HELLSING」第8~10話(2011~12)でした。原作者さんや企画プロデューサーのやりたいことを汲み取りながら、監督のやりたいことをどう見せていくべきかを考えつつ、僕からも監督に対して「こういう感じでまとめてみるのはどうですか?」と提案など行うようにしました。
「ガールズ&パンツァー」で「徹底的にリアルな戦車」を提案
─「ガールズ&パンツァー」は、今やアニメファンなら知らないものはいない、名作アニメですね。CGプロデューサーとして、吉岡さんはどういった立ち回りをされたのでしょうか? 制作プロデューサーの時と同様に、積極的に提案をされたのですか?
吉岡 そうですね。戦車の資料をスタッフと見ながらいろいろ悩んでいたのですけど、最初はどれも動きが普通の車っぽくて、「何か違うな……」という感じだったんです。そんな時に、当時のグラフィニカに所属していた3Dアーティストのひとりがものすごくリアルな戦車の挙動を作ってきて、それを見た僕も「これはいいね!」と思ったので、アクタスさんに「せっかくだから戦車のモーションをとことんこだわってみませんか?」と提案して、彼にCG監督を任せることになりました。アニメファンの方々って、たとえウソの世界だとわかっていても、ちゃんとリアリティ追究していくなど制作者のこだわりがないと、食いついてきてくれないんですよね。バンダイビジュアル社のプロデューサーさんにも「これは見ごたえがありますね!」と言っていただけたので、徹底的にリアルな戦車を作る方向で決まりました。
─どういった時に、アニメプロデュースのやりがいを強く感じますか?
吉岡 視聴者さんとスタッフにほめられた時ですね。視聴者さんって、「このシーンは、〇〇だからこうなったのかな?」とか、いろいろ考察してくれるんですよね。それが、僕らが意見を出して狙ってやったことだったら、「おお、わかってるじゃん!」と脳から汁が出てくる気持ちになります(笑)。
スタッフに関しては、「楽園追放 -Expelled from Paradise-」(2014)の時、監督の水島精二さんが「絶対アクションをカッコよくしてくれるから」と京田知己さんに後半のコンテを任せられたんですけど、僕が板野一郎さんの名前を出したら、京田さんは「えっ、グラフィニカには板野さんがいるの!?」と驚いて張り切って、超カッコいいコンテを上げてくれました。たとえば、「銃がガチャガチャ、ガキンと変形するシーン」は、憧れの板野さんによろこんでもらおうと頑張って描いたシーンらしいんですけど、板野さんも水島さんも東映アニメーションの野口Pも僕もよろこんで、視聴者さんにもウケて。そういうのがうまくハマった時には、めちゃくちゃうれしいですね。
─ENGI制作作品ですと、「宇崎ちゃんは遊びたい!」(2020)も大変話題になりましたね。同作は第2期も決定しています。
吉岡 「宇崎ちゃん」は、原作ファンが大勢いて、アニメ化の前にYouTubeで第1話のボイスコミック化もされて声優さんも決まっていましたので、最初は「難しい作品になるかもしれないな……」と思っていました。スケジュールや予算にも厳しい制約がありました。だけど、スタッフたちが「原作ファンにも納得してもらいながら、視聴者層を広げていくにはどうしたらいいんだろう?」と知恵を絞り、三浦和也監督にはバランスのいい作品に仕上げていただきました。
「スター・ウォーズ」や「ヒーローもの」が好き
─一番影響を受けた作品は?
吉岡 いろんな作品に影響を受けまくっているんですけど、ジョージ・ルーカス監督の「スター・ウォーズ」を観た時には衝撃を受けました。「エンターテインメントのビジネスをやりたい」と最初に思ったのは小学生の時で、「スター・ウォーズ」は、そのきっかけになった作品なんです。宇宙空間を宇宙船が飛びまくって、主人公が光のブレードで戦っている。こんなのテレビでも映画でも観たことがない。全く新しいタイプの作品でした。
─SFがお好きなのですね。
吉岡 子どもの頃は「仮面ライダー」や「ウルトラマン」といった、ヒーローものも大好きでした。今も好きなので、ヒーローものはいつかやりたいですね。ヒーローものによくあるパターンとして、「敵か味方かわからないキャラクター」がいて、周りの人たちがそいつを疑っていたとしても、主人公は常にそいつを信じ切っている、という定番の設定があるんですよ。子どもにとってヒーローというのは教訓なので、そういう設定は重要なんですよね。人を信じるとか、人の本質を見抜くとか、人間としてしっかり生きようとか、そういう思想が根底にあるヒーローものを作ってみたいと思っています。
作品に「プロデューサーの考えを入れすぎるのはよくない」
─お得意なジャンルや企画はありますか? フィルモグラフィーを拝見すると、男性向け作品が多い印象があります。
吉岡 男性向け作品や萌え作品は僕自身好きで、よく見るんですけど、得意ではないんです。視聴者目線になりすぎるんですよね。プロデューサーは視聴者さんの気持ちを汲み取るのも大事なんですけど、自分の考えを入れすぎるのはよくない。どちらかというと、制作現場のまとまらない意見をまとめるために、バランスを取るために、自分の考えを伝えるんです。もちろん、それを押しつけたら僕の色になっちゃうから、最終的な判断は監督にお願いしています。
─ひとつ具体例をいただけますか?
吉岡 「旗揚! けものみち」(2019)の時、「プロレス」というアイデアは最初からありましたけど、「どこまでプロレスをやるのか」についてはなかなかまとまりませんでした。完全にガチのプロレス団体の選手を出して……みたいな話もありましたが、僕は「これはファンタジーなんだから、それはさすがにおかしくないですか?」、「監督は、それが本当にやりたいことなんですか?」と問いかけて、整理していきました。
─「けものみち」は、吉岡さんが立ち上げた企画なのですか?
吉岡 僕ではなく、KADOKAWAさんから来た原作ありの企画です。最初はいろいろな作品の話があったんですけど、僕が「最初の元請け作品はギャグ作品がやりたいです!」と言ったら、コミックスの「けものみち」を勧められて。実際に読んでみるとすごくおもしろかったので、三浦監督に話を持って行くと、「みんなまともそうに見えるけど、実はバカだった」という構想をいただけて、原作者の暁なつめ先生も「それはおもしろそうですね!」というお返事だったので、ENGIがアニメ化する運びとなりました。
─「けものみち」のオリジナルエピソードは、どのようにして作られたのでしょうか?
吉岡 6話の「ポンコツ×ご主人様」は、暁先生が原作マンガには載せていないけど、以前から温めていたお話をアニメ化したものになります。先生から「これ、アニメで使えないですかね?」というご相談があり、三浦監督や僕らもおもしろいと思ったので、アニメにすることにしました。それ以外の話数については、KADOKAWAから「原作をそのままやってしまうと、プロレスの見せ場がなくなってしまうので、もう少しプロレスの要素を増やしてほしい」というお話があったので、監督からシリーズ構成の待田堂子さんにご相談して、考案していただきました。
─「宇崎ちゃんは遊びたい!」はいかがでしょうか?
吉岡 これも、KADOKAWAさんからいただいたお話です。「ちょいバスト萌えですけど、ギャグアニメなのでどうですか?」、「YouTubeで配信されたボイスコミックが評判いいから、アニメ化は外せないんです!」、「ENGIさんなら制作状況も見えやすいので、ぜひお願いしたいんです!」とうまく乗せられてしまい……。でも、原作者の丈先生はすごくおもしろい人でして、最初の会食時から話が超盛り上がって、スタッフ一同「やるぞ!」って気持ちになりました。大阪出身の方だったので、関西のノリが僕たちと合ったんだと思います。
─丈さんは、いろいろなモブキャラのアフレコをされていますね。これは、吉岡さんと馬が合ったことと関係があるのでしょうか?
吉岡 それは関係ないですね。ご自身の作品だから当然思い入れがあるし、多分、丈先生もアニメが好きだからだと思います。
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