伊藤美来、南條愛乃、駒形友梨、近藤玲奈──個性的な世界観がさく裂する声優作詞曲に注目!【月刊声優アーティスト速報2022年1月号】

いま注目したい声優アーティストのリリース作品をレビューする本連載。

今回のテーマは、“声優アーティストによる作詞曲”。本連載では以前にも同じ切り口にて、harmoe、小倉唯さんや斉藤朱夏さんらの作品を紹介済みであるため、このたび取り上げる2021年12月にリリースされた4作品と一緒に、まとめて復習や比較をしていただければ幸いだ。

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■伊藤美来 9thシングル「パスタ」(2021年12月22日リリース)

そのどれもがビビッドな色合いで、見るだけで楽しくて、おしゃれで、既製品のソースがあれば、誰でもおいしく、手軽に料理を満喫できる。シンプルこそ正義。ひとり暮らしならば、誰もが頼ってしまうはず。どうしても生き急ぎがちで、切羽詰まった毎日だからこそ、食事の時間くらいはインスタントであることに、喜びを見出したい。そんなやさしい想いが、〈気づかせてあげる 簡単って幸せ/時間なんて気にしないすぐ〉という1番サビの歌い出しに凝縮されている。

伊藤美来さんの新シングル表題曲「パスタ」のことだ。

同曲では、大好きなパスタをテーマに本人が歌詞を書き下ろし。よくあるのが、そのパスタ愛を歌い上げるパターンだが、伊藤さんはひと味違う。なんと、この楽曲の歌詞はパスタ目線、つまり“パスタの擬人化”をしたものとなっているのだ。

企画会議でボケを狙ったところ、制作スタッフ陣が思いもよらず興に乗ってしまい、そのまま楽曲化まで押し流されてしまったというエピソードからして最高なわけだが、食事の時間が生活の癒しだと大切なことを改めて教えてくれる、ナチュラルさが心地よい1曲となっている。

また、伊藤さんはこの楽曲で自身初の作曲にも挑戦している。編曲はこれまでに「PEARL」「hello new pink」などでもタッグ経験のある水口浩次氏が担当しているためだろう。トラックは、過去作に通ずるアーバンなネオシティポップテイストになっているが、特徴的なのはやはりサビの構成。 サビの途中で楽器隊が一気に山を作る構成はフックが効いており、メロディの上がり下がりも、彼女のこれまでのトラックリストになかったような仕上がりで、いい意味で異質で耳に残る。

歌詞の話に戻るならば、〈ゆったりとしていたくて 芯まで溶かして欲しくて/ah ただ かっこよくなりたいだけなんだ〉と歌う1番Bメロは、パスタが完成するまでの過程を思い浮かべればその理解もスムーズになる。と言いつつ、麺のくたくたな状態と〈かっこよく〉という、普通であれば相反するイメージの言葉を結びつけるセンスは独自なものかと。これもまた自然体をよしとする伊藤さんの豊かな感受性があって生まれるものかもしれないと感じられるだろうか。

そのほか、パスタ目線でありつつ、ところどころで都会での日常生活や、好きな人に振り向いてもらえない健気な女の子らしさを感じさせるフレーズは、前述の「PEARL」「hello new pink」の延長線上にあるようにも思えた。

あくまでも、本シングルは彼女の活動5周年を記念し、ノンタイアップで制作した“おまけ”的な位置付けとのこと。と言いつつも、これまでの活動とも地続きとなっており、“伊藤美来のポップス”というブランドが、わざとらしく意識せずともにじみ出るくらいに確立したものだと示す1枚になったといえる。

ちなみに、パスタに見立てた毛糸にからまり、もにゅっとした笑顔を見せる伊藤さんがかわいすぎるので、MVは全人類が観たほうがよい。

■南條愛乃 4thアルバム「A Tiny Winter Story」(2021年12月22日リリース)

2022年末には、音楽活動10周年を迎える南條愛乃さん。約4年半ぶりとなるオリジナルアルバム「A Tiny Winter Story」は、前回の本連載でも取り上げたのと同じ、“冬”をテーマに掲げた1枚となっている。

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南條さんが本作で作詞をしたのは4曲。そのうち、表題曲「A Tiny Winter Story」は、こちらも約4年半前に制作した楽曲「白い季節の約束」へのアンサーソングとなっている。恋人同士のような2人が初夏の夜空を見上げて、“今年の冬も一緒に、同じ気持ちでいられたら”と願った同楽曲から、今回、ついに季節の移り変わりを感じられるという仕掛けである。

何より〈瞳に映る雪たちが 星のカケラのように光って/僕らの明日を照らしているような気持ちになった〉というサビの歌詞は、「白い季節の約束」と通ずる描写や、同楽曲から引用したキーワードを散りばめたものとなっている。当時からこの楽曲を愛してきたリスナーには、たまらないフレーズだろう。

また「白い季節の約束」に〈いつかはこの空 白い雪たちが舞う季節も 同じ気持ちで/あなたの横顔 当たり前のように/見続けたいと 願うの〉にあった通り、女の子側の視点で願いを歌った“あの頃”を経て、今度は男の子側が大切な人と一緒にいられる幸せを同じ想いとして共有しながら、星のように輝く女の子の顔を見つめている。流れた時間は半年だけか、それともメタ的な視点にはなるが、現実の時間軸に即した4年半か。いずれにせよ、物語(=Story)とは紡がれ、続いていくもの。タイトルである「A Tiny Winter Story」の“Story”には、“2人の時間が永遠に続けばいいな”という願いが込められているのだと思う。

今回のアルバムに登場する既発曲は、「白い季節の約束」を除くと、2021年11月に発表したばかりの「全ては不確かな世界」のみ。この約4年半の間でのリリース内容を見るに、「白い季節の約束」は、本来的には今回がアルバム収録タイミングではないはず(というより、同楽曲収録シングルの表題曲が、前回のオリジナルアルバム「サントロワ∴」にすでに収録されているのだ)。そのあたりの事情を踏まえると、南條さんの作品ファーストで、コンセプトや統一感を大切にするアーティスト観をますます汲み取れるのではないだろうか。

ちなみに〈同じ時を感じ合って 共に過ごしていける事が/特別な事だと 僕はそう知ったよ〉というサビ終盤のフレーズは、南條さんからファンへのメッセージとも受け取れるが、ともに過ごしてきたのは、ファンだけでない。本作の初回限定盤に収録された、女性声優界最強の映像コンテンツこと「南條一間」に登場する“じじい”(もとい、CV:鷲崎健さん)もまた同様。

最新シーズンでも、自堕落な南條さんの姿にめちゃくちゃ癒される。お手に取られる際は、ぜひ初回限定盤をどうぞ。

■駒形友梨 1stフルアルバム「stella」(2021年12月15日リリース)

“過去と未来”をテーマに、アーティストデビュー3周年にして初のフルアルバム「stella」を発売した駒形友梨さん。これまでも作詞経験が豊富な彼女だが、本作では共作分を含めた3曲を新たに書き下ろしている。そのうち本稿では、自身単独の作詞曲「happy weekend」の内容を掘り下げていきたい。

駒形さん本人も敬愛する、坂本真綾さんに近い感性の朗らかラブソングこと「happy weekend」。日曜日の夕暮れ時、仲むつまじい恋人同士のやりとりを描いた歌詞は、いい意味で思わず見ていられなくなるほど微笑ましさ満点だ。1番Bメロで歌われる〈世界中にたった1人/こんな君を愛してるの〉に対して、2番の同パートでは〈世界中にたった1人/こんな私を愛してくれるの〉と返すなど、歌詞のアレンジがさりげないにも関わらず、とても印象的に染み渡ってきて“テクい”。

また、1番サビの終わりが特徴的だが、この歌詞で紡がれる物語の前後に余白がある部分も、楽曲を聴くうえでの心地よさに繋がっているのだろう。ここで描かれる歌詞でこそ、相手側がふて寝をしたり嫌味を言ったりしているが、きっと主人公側もちょっかいを出したり、逆にそっけない反応をしたりしているだと勝手に想像してしまう。この2人は、“どっちもどっち”だが、“どっちもキミが大好き”なのだ。

■近藤玲奈 コンセプトアルバム「11次元のLena」(2021年12月1日リリース)

キャリア2作目にして、2021年の声優音楽シーンの中でも、屈指の問題作を生み出した近藤玲奈さん。

hisakuni氏をプロデューサーに迎えた本作「11次元のLena」では、彼女が演技や歌唱の際に誰かになりきる“憑依型”の表現者であることから、明確な登場人物を設定。中学生の“僕”と、そのクラスメイトである“玲奈”。そして、11次元(=宇宙)に存在する、“玲奈”のもうひとりの自分として“Lena”の3名が、自身の想いをさらけだす。

作品の大枠を形作るのは、“僕”や“玲奈”に対する周囲からのいじめ。周囲から与えられる精神的苦痛や、逆に自身の中に彼らとの“差”や“引け目”を感じてしまった時の、どうしようもない絶望。そこから、自分自身を責め立てたり、加虐対象にその行動を“理解ができない”とうっぷんを撒き散らしたり。とにかく背筋がゾッとするほどの言葉の刃が向けられるが、そうした心を痛めつける行為が、聴き手の日常でも起こりえる(あるいは起こっていたかも)リアルなあたりに、本作の最も怖い部分があるのかもしれない。

そんな「11次元のLena」は、最終曲「ライカ」で“僕”が精神的に超越する変化を迎えるまで、作品全体を通してストーリー仕立てとなっている。途中、“とある事件”が起きた周辺エピソードは、CDブックレット内のショートストーリーに収録されている。本稿では近藤さん自身が作詞したメロディアスなギターロック「僕が愛される日は」のみに焦点を当てるが、何が言いたいかというと、曲単位ではなく、ぜひ全編を通して聴いてみてほしいということだ。

さて、前述の“とある事件”をきっかけに、“僕”が加害者たちに想いをぶつける「僕が愛される日は」。サビの〈利己主義的な君たちが/何不自由なく生きている 君たちが/わからない〉は、“普通”の群衆に収まっていたいと、本当は同じ“人”であるはずの誰かを蹴落とす周囲に向けた皮肉として象徴的なフレーズだ。そんな周囲の態度が“理解できない”ことを、次々と浴びせるように具体的な言葉で言い換えることができる近藤さんの言語化能力の豊かさも感じられる。

そして“僕”が本当の意味で強いのは、2番サビで〈認め合うこと卑屈に感じますか〉と歌うように、どこか達観と諦観さえ持ってしまっているところ。それがこの後の「ライカ」では……。

「僕が愛される日は」のほか、作品全体を通して、お世辞にもシチュエーションを問わず、楽しい時でも聴けるものとは評価し難い。それほど一点を突き詰めた作品だからこそ、歌詞を通して描かれるのと同じ悩みや苦痛を抱いている誰かには、間違いなく救いを与えられるはず。そんな可能性を持った1枚であり、近藤さん作詞の「僕が愛される日は」は、それを決定づけた1曲のように感じられた。

(文/一条皓太)

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