【WOWOW開局30周年記念アニメ「永遠の831」特集 第2回】スズシロウとの共通点は「怒り」!?──主人公スズシロウ役・斉藤壮馬インタビュー

WOWOW開局30周年記念アニメ「永遠の831」。2022年1月30日に放送される本作は、神山健治監督・脚本による新作長編アニメである。

“未曾有の大災厄”により世界中が混迷を極める現代。とある事件をきっかけに、周囲の時間を止める能力を手に入れた青年・スズシロウは、同じく心に傷を負い、時間が止められるようになってしまった少女・なずな。そして彼女を利用して犯罪を行う彼女の異母兄・芹と出会う……というストーリーの本作は、現代社会の問題に鋭く切り込む神山監督ならではのメッセージが詰まった作品だ。

今回、アキバ総研では「永遠の831」を大特集! キャストおよび楽曲アーティストたちへのインタビューを連続でお届けする。

第2回は、激しい怒りの感情に包まれると時間を止めてしまうという能力を手に入れてしまった大学生・スズシロウを演じる斉藤壮馬さんが登場。

斉藤さんが考える本作の魅力、スズシロウとの共通点。そして、思い出のWOWOW作品についてたっぷり語っていただいた。

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「永遠の831」はやさしいだけの物語ではない

──本作のシナリオを読んだ時の感想は?

斉藤 最初のオーディション時は、スズシロウという時を止める能力を持つ主人公がいて、大災厄というものが日本を襲って……という概略をいただく感じだったので、どんな物語が展開するのだろうと想像しました。収録を終えた今は、たとえば世界と自分とか、社会と個とか、いろんな問題を重層的に描いている作品で、ひとつの主題をわかりやすく提示する単純明快な作品ではないので、視聴者の皆さんも、おそらく、ひとりひとりかなり違う意見を持たれるのではないかと思います。その多様な意見、感想を対話する場を作ってくれる作品というか……、何度も繰り返し観て、自分の中で熟成させていく作品だと思います。

──確かに自分も脚本を拝見する前は、SFアクション的なノリの強い作品なのかなという先入観があったのですが、実際に読んでみると、ガラリと印象が変わりました。

斉藤 僕が収録した段階では、まだこれからどんどん絵が作りこまれていく状態だったと思うんですが、時間が止まった世界の描写は、すでに壮大なスケール感で映像面でも楽しめそうだと思いましたし、人間ドラマとしても何かひとつの正しさみたいなものがあるわけではなく、それぞれの正義が示されていて、収録する側としてもやりがいがありました。何しろスズシロウはものすごくたくさんしゃべっているので、すべて録り終えた時は大きな達成感を感じました。あとは観てくださる皆さんにゆだねたいなと思います。

──現代社会に通じる部分もある、非常にリアルな世界観の作品ですが、共感するところや印象に残っているのはどんなところでしょうか?

斉藤 この作品はストーリーについて放送前に話すのは難しいんですが、おっしゃるように世界や時代に対する閉塞感というものは現代と重なる部分もあるのかなと思います。ただ、その中でも人は日々仕事をし、生活をしていかないといけない。先ほども話しましたが、全体と個とか、世界に対して自分はどう生きていくのかという描かれ方って、意識しているかいないかにかかわらず、そうならざるを得ない部分は確実にあると思います。だから少し強い言葉になるかもしれませんが、この物語に共感する人もいればしない人もいるとは思っていて、でもそれがいいんじゃないかという気はしています。

やさしいだけの物語ではないというか、ある意味、神山健治監督から我々への問いかけだとと思います。なので、今、自分が明確にこの作品に共感できるかどうかは言えないんですが、きっとこれからいろんな方にさまざまな形で届いていくと思いますので、そこで皆さんがどう感じたかはぜひ教えていただきたいところです。

いっぽうで、なずなとスズシロウの会話シーンではちょっとユーモラスに感じたりするところもあって、お互いに、はっと目が合ってそらしちゃうというシーンなんかは、自分もかつて大学生だったので懐かしく思ったりしました。物語の緩急が非常にていねいに作られています。

──神山監督からは、スズシロウというキャラクターについて何かディレクションはありましたか?

斉藤 実は、そこまで濃密なディスカッションを交わしたわけではないんです。今回は収録日が2日用意されていて、初日はキャラクターの構成を決めるためにいろいろと意見をやりとりさせていただいたんですけれど、神山監督の演出のされ方が、最初に説明をしてくださってそれを演じるというよりは、自分がそれをどう感じたかを一度聴かせてほしいというようなやり方だったんです。自分も演技プランをいくつか準備していったわけですが、最初のお話をうかがった時に、たぶん一回素直に感じたままに表現したほうが結果的にいいものになるのではないかと直感して、そのようにしてみたらどうやらそれは大きく外れてはいないようでした。

実際の収録時は、たとえばここはもう少し苦しそうな演技が欲しいとか、そういう細かいディレクションはいただいたんですが、大筋は脚本を読んで、自分のとらえたスズシロウのまま演じさせていただきました。

──斉藤さん自身は、スズシロウをどういうキャラクターとしてとらえられましたか?

斉藤 彼は過去にある事件があって心に傷を負っている青年なんですけれど、個人的な解釈としては、その事件の前までは自分の物差しをわりと素直に信じられていた人だと思いました。

でもその事件をきっかけにそれがわからなくなってしまった。自分の正しさとは何だろうとか、自分の価値観と他人の価値観を対話させるというのはどういうことだろうとか、それまである種疑いなく信じていた正しさとか公平さがわからない状態になってしまい、だからこそ時間を止めるという能力に目覚めてしまったのでは……。彼もある意味、心が停滞してしまっている人ではないかなと思いました。

──そんなスズシロウにとって、なずなはどういう存在だと思いますか?

斉藤 スズシロウにとっては唯一同じ能力を持つ人なので、いろんな意味で特別な存在だとは思いますね。そのいっぽうでなずなとのかけあいでは、一番予測できないことが描かれていると思ってて、人間はすべて何らかの意図のもとにきちんと日々行動できるわけではないという日常的、生理的な部分がなずなとの関係では描かれていると思います。スズシロウにとってそういう部分が出てしまうのも、同じ能力を共有するナズナだけなのかなと思うので、やはり特別な存在でしょうね。



かつてのスズシロウと似たところがあって……

──アフレコ現場はいかがでしたか?

斉藤 収録初日が、日笠陽子さんと大塚明夫さんと一緒の収録で、それが本作の最初の収録だったんですが、コロナ対策もあって、明夫さんだけ別の部屋にいらっしゃって収録は同時に行いました。

アフレコ時によくあるのですが、そのシーンで担当キャラクターのいない方が、現場にいないキャラクターのセリフを代読されるんです。やはりタイミングとかテンポ感とか、芝居をかけあえるほうがやりやすいですからね。今回、その代読を明夫さんが全てやってくださって、そういう風にして先輩方のいろんな思いや力をお借りして収録できたと思います。

やはりこういう(新型コロナウイルスが流行している)状況なので、全員そろっての収録というのが難しいんですよ。だから今、これができないではなくて、何ができるかという前向きな思いが嬉しかったですね。

雰囲気がすごくよかったです。

2日目は興津(和幸)さん、M・A・Oさんと一緒の収録で、本番はすごく集中して、休憩はほのぼのとした雰囲気という風にメリハリがきいた現場でした。

(M・A・Oさん演じる)なずなってセリフ自体はそこまで多くないんですが、スズシロウにとってはほかの人とは違った会話ができるキャラだったので、素敵なパスをいただきましたし、僕が投げかけた言葉をていねいにすくいあげてくれて、M・A・Oさんの心のきめ細やかさというか、芝居にも現れているやさしさみたいなのも感じました。

興津さん演じる芹というキャラクターも、魅力的というかスズシロウにとっても強烈な印象を与えるキャラクターで、後半は興津さんの演技も相まってスズシロウも感情をかき乱されるというか、刺激的な演技ができて楽しい収録でした。

──共演者の皆さんと、作品について語り合ったりはしましたか?

斉藤 スズシロウに関しては皆さんと「どういう思いでこうしてるんだろう」という話はしたんですが、そこまで現場では考察はしませんでしたね。たぶん僕と同じように、皆さんも自分のキャラクターは深堀りされていると思うんですけど、完成映像を観てみないと今の角度からでしか解釈できないというか。

僕だとどうしてもスズシロウとしての目線で見ざるを得ないですが、芹やなずなの視点で観直してみるとまた違ったものが見えてくると思うので、その先に共感があるかもしれません。

だからちゃんと観た後に、改めて皆さんと座談会をやってみたいとは思いますね。

──共感したキャラはいますか?

斉藤 スズシロウは大学生で、作中の年齢で言うと失われた30年間で生まれ育った、ある意味、我々と近しい立場だと思うんですね。この作品のキーワードのひとつが「わからない」だと思うんですけど、それは理解できないとか共感できないとか知らないとか、いろんな「わからない」があると思うんですけど、それをどうとらえるかということがすごく大事だと思います。

スズシロウは途中までずっと、自分が信じるべきものは一体何なのか、それがわからないキャラクターです。世界の裏側ではいろんなことがあって、いろんな思わくの人がいる。でも自分はそれがわからない。じゃあどうすればいいんだ、っていうのがこの作品の問いのひとつなのかな。

僕も陰謀論的な意味ではなく、世界の仕組みとか知らないことのほうが圧倒的に多くて、まずはそこを認めるところから始めないといけないのかなと思っていて。劇中でもスズシロウが芹と各務総理大臣の間では成立している会話に対して、自分には知識がないから判断材料がない、というところにはすごく共感を覚えました。それを知ったかぶらずに「わからない」とわかったところから、勉強したり積み重ねていくことが必要だと感じたので、スズシロウが「わからない」というところにすごく共感しました。

──ちなみにスズシロウと斉藤さんは似たところはあると思いますか?

斉藤 自分は昔のスズシロウと似たところがかつてあって、これが正しいと思うからみんなもそう思っている、という風に、なんとなく自分のものさしを過信しすぎていた時期があったんです。そこに当てはまらないことがあると怒りを覚える自分がいたんですが、後に冷静になった時に感情的にふるまってしまってよくなかったなと反省することがたくさんあったんです。

自分のベースのひとつに「怒り」があると思っていたんですが、3~4年くらい前に不思議なことにすっと自分の中から怒りが減った時期があったんです。

これを言うと変に思われるかもしれないんですが、人って転生を繰り返して魂のレベル上げをしていると思っていて、自分の今生のテーマが「怒りにとらわれないこと」だと思っていて、その時は「やった! レベルが上がった!」って気持ちが楽になったんですが、またしばらくすると怒りが宿るようになってきて、人間ってそういうことの繰り返しなのかなって思います。今回の作品に触れた時、ちょっとそれを思い出しました。

だからスズシロウに共感してしまうというか、かつての自分にも同じものがあったなというのは確実に思いましたね。



斉藤壮馬の思い出のWOWOWアニメは?

──本作には「失われた30年間」というワードが出てきますが、これはつまり平成時代の停滞した社会を表現したものと思います。そこで、平成生まれの斉藤さんにとって平成はどういう時代でしたか?

斉藤 この作品同様、ひとつの角度から考えていくのは難しいんですが、自分は平成3年生まれで平成という時代しか知らないので、そこを相対的には考えられないですね。ただどの時代にも思い出が深く刻まれているというのがあって、それこそ1990年代半ばくらいから後半くらいの世紀末感や退廃的な感じとか、2000年代に入って空気が変わってきた感じとか……。そういうところも含めて自分の一部であり、自分もその一部であるという感じですね。

──平成生まれなので、失われた30年と言われても失われた感覚はない?

斉藤 平成以前を知る方から見たらたしかにそう見えるんでしょうが、我々世代からすると失われたも得るも何も、という感覚なんですよね。

──ちなみに、スズシロウのように時間を止める能力があれば、使いたいですか?

斉藤 ぜひ使いたいですね。この作品は、その力の使い方が面白くて、自由に時間を止められて自分だけが動けるというわけではないんです。また、スズシロウの周囲の空気も静止しているからけっこう息苦しいという設定があるんですが、そういう制約がなかったら無限に本が読めるなと。

僕は自分で作詞作曲もするんですが、時間の止まった世界で音楽は存在するのかと思ったり、どこが振動するのかな?とか思うんですけど、時間があるなら曲を書き放題ですよね。止められるだけ止めていたいですね。

あとは絶対にアラームをかけずに寝ると思います(笑)。

──本作はWOWOW開局30周年記念作品ということで、WOWOWの番組で思い出に残っている作品があれば教えてください。

斉藤 「神霊狩/GHOST HOUND」ですね。この作品のシリーズ構成・小中千昭さんの作品が好きで、「serial experiments lain」とかも観てましたし、僕は心霊・オカルト好きなんですが、この作品はいろいろな境遇の男の子たちが現世と幽世を行き来するSFとファンタジー要素のどちらもあるアニメで、いまだにOPテーマをそらで歌えるくらい大好きなんです。

個人的な印象なんですが、WOWOWさんにはいい意味で個性的で、ほかの局にはない魅力を放っている作品が多くて、その中でも特にこの「神霊狩/GHOST HOUND」が好きですね。

──そういう意味では、「永遠の831」も相当尖った作風ですよね。

斉藤 そうですね。30周年記念作品でこの尖り方ってすごいですよね。……あれ? 30周年ということは、WOWOWさんって1991年に開局したんですか?

──そうですね。

斉藤 まったく同い年!? ……じゃあ僕も尖って生きていきたいと思います!

──それでは最後に読者の皆さんへのコメントをお願いします。

斉藤 ここまでお話してきたように、「この作品の主題はこれです」ということがわかりやすく提示されているというよりは、観た人それぞれの中にどんな思いがわいてきたのかが大事な作品だと個人的には感じました。なので、自分もまずは完成した作品を観て、どんな想いがわきあがってくるのか楽しみにしてますし、時間が止まった世界をどんなふうに映像で表現するのか楽しみですね。

音響面でも、収録時は当然音がない状態で録るんですが、じゃあ音ってどうなるんだろうとか、声がどう聞こえてくるんだろうとか、映像、音響表現を含めて、完成版を楽しみにしています。

本作を入り口にしていろんなことについて考えることのできる作品だと思うので、皆さんもぜひ僕と一緒にいろいろなことを考えていただけたら嬉しいです。



【作品情報】

■WOWOW開局30周年記念オリジナル長編アニメ「永遠の831」

・2022年1月30日(日)夜8時~[WOWOWプライム][WOWOWオンデマンド]

※WOWOWオンデマンドでは無料トライアル実施中

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