今年もっとも注目すべきアニメ「地球外少年少女」の磯光雄監督が、「宇宙」と「未来」をテーマにすえた理由を明かす【アニメ業界ウォッチング第86回】

ひさびさに、アニメーションの力を信じたくなる作品が登場した。全6話からなる「地球外少年少女」は、アニメーターとしても知られる磯光雄監督が原作と脚本も兼ねる、完全オリジナル作品だ。月面で生まれた少年少女が、商業宇宙ステーションを襲った危機に直面して、地球から来た仲間たちと力をあわせる。誰もが感情移入できる生き生きとした冒険物語でありつつも、AIやインターネットなど今日的な要素が多彩に盛り込まれており、一歩先の未来を真摯に考える作品となっている。
「電脳コイル」(2007年)以来、15年ぶりの監督作品に挑んだ磯光雄監督にお話をうかがった。

いま、誰もやっていないような作品こそ、つくる価値がある


──磯監督は、「電脳コイル」の前に「ラーゼフォン」(2002年)の第15話「子供たちの夜」の脚本・絵コンテ・演出を手がけています。あのエピソードが、磯監督のルーツではないかと思うのですが?

 担当したエピソードは私の世界観から生まれたオリジナルですが、「ラーゼフォン」自体は、あくまでもほかの人の作品です。あのエピソードに似ているとしても、ルーツは私の中にある物語の原型みたいなものなんでしょうね。

──複雑な生まれの子どもたちが悲壮感を抱きながらがんばって生きる姿は、今回の「地球外少年少女」でも同じですよね。

 そういう物語のほうが、実感をもって描けるんです。サーフボードを持って歩いている爽やかでカッコいい人たちが主人公だとしたら、私には何を描いたらいいのかわからない。作品で描くべきものは、その作家がずっと心に抱いているものに集約されると思うので、同じような実感をもってくれる人たちに見てもらえればいいのかな、と思います。


──子どもたちの冒険するアニメなのに、子ども向けとは言い切れない奥深さがあります。

 「電脳コイル」のとき、「こんな難しい言葉は子どもにはわからない」とよく言われました。だけど、私が子どものころは見ていた作品はわからない言葉が出てきたとしても、少しも気になりませんでした。言葉がわからなくても、面白さはちゃんと伝わってきたからです。子ども向けという言葉には「どうせ子どもはバカなんだからわかりやすくしておけばいい」といった軽蔑的なニュアンスを感じますが、私にはそういう意識はありません。なぜなら私は、子ども向けと言われて軽く見られていたジャンルの評価が変わっていく様を、まざまざと見てきた世代だからです。おそらく「ウルトラセブン」あたりから始まって、「機動戦士ガンダム」もその流れにあると思います。ですから、前知識がなくても面白くなるように、子どもたちが退屈しないように留意しました。そういう意味では、「地球外少年少女」は全年齢向けです。

──なぜ、宇宙を舞台に選んだのですか?

 かつては宇宙モノがたくさんありましたが、みんなが宇宙にばかり目を向けているその時代に、日常のささやかな出来事を描いたらすごく貴重だと思うんですよ。今は逆に日常モノのほうが主体になっていて、宇宙を目指すアニメはほとんどありません。誰もやっていない今こそ、そういうものをつくったら貴重な作品になると思いました。キャラクターデザインをお願いした吉田健一くんも、「今は流行っていないだけでこれが面白いんだ」という感覚を忘れない人でした。ほかのみんながつくっている、似たようなものではなく、誰もつくっていないものこそをやりたいという感覚が、彼にはあったんです。ですから、初めからキャラクターデザインは吉田くんしかいないと思っていました。案の定、ほかの企画を提示しても、「これをやりたい」と「地球外少年少女」迷いなく選んでくれましたよ。
今回は宇宙だけでなくAIも出てきますが、こういうものは考証を真面目にやりすぎるとドキュメンタリーのようになってしまって、アニメにする意味が薄れてしまうんです。面白くするためには嘘もつくし、物事をふくらませて別のものに見せてしまったりもしています。リアルなだけではない、手描きのキャラクターの価値を吉田くんは忘れないでいてくれて、そういう意味でも彼は「地球外少年少女」という作品にはピッタリでした。

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