アニメライターが選ぶ、2021年秋アニメ総括レビュー! 「ジャヒー様はくじけない!」「白い砂のアクアトープ」など、5作品を紹介!!【アニメコラム】
2021年12月に完結したTVアニメの中から、仕事にまつわる作品をピックアップ! 「月刊ガンガンJOKER」連載の「ジャヒー様はくじけない!」、一迅社にてコミックスが刊行中の「先輩がうざい後輩の話」、P.A.WORKSのお仕事アニメ「白い砂のアクアトープ」、暗殺者を主人公にした「世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する」、人気ゲームが原作の「キミとフィットボクシング Fit Boxing Animation」を紹介します。
魔界No.2の実力者として君臨していたジャヒー様が人間界に堕ち、魔界復興のために魔石収集とアルバイト生活にはげむコメディ。ジャヒー様が暮らすアパートが風呂なし4畳半という設定をはじめ、どこか懐かしい要素が盛りだくさん。家賃滞納をめぐって大家とケンカしたり、警察からやたらと職務質問を受けたり、開きっぱなしのマンホールに落ちたり、エンディング後にプロレスや料理コーナーが始まったり、UFOが空から降ってきたりと、ノスタルジックなギャグがテンポよく繰り出され、止めどきを見失ってしまう。
キャラクターに根っからの悪人がいないところも好印象。これまで登場した商店街の人たちが、御輿を担ぐジャヒー様を応援するという最終話の一幕は、まるで人間界で魔界復興を成し遂げたかのように見える。アニメは夏祭りの花火で締められているが、「ジャヒー様」の物語はずっと続いていくと感じられる爽やかなフィナーレだ。
入社2年目の主人公・五十嵐双葉と少しうざいけれど頼れる先輩・武田晴海の交流を描いたオフィスラブコメ。本編では営業やプレゼンの風景は見られるものの仕事の具体的な描写はなく、視聴者の興味はキャラクター同士の関係性に向かっていく。
1話で双葉は酒の勢いで告白めいたことを口走ってしまうが、武田には恋愛対象とさえ思ってもらえない。子どもに見間違えられるほど小柄な双葉は椅子に座った武田よりも背が低く、その絶望的な身長差が縮まない距離を表わしている。しかし季節は巡って最終話のラスト。今度は武田のほうから意外な発言が飛び出して双葉を驚かせる。それはなだらかな坂というシチュエーションがお互いの身長をわずかに近付けていたからなのかもしれない。
P.A.WORKSが手がけた全24話のオリジナルタイトルは、沖縄県の水族館で働く人々を描いた青春群像劇。ペンギンをはじめとする海の生き物の飼育についてはもちろん、生態を紹介する展示企画や病院での移動水族館など、普段はなかなか見られない仕事場の裏側に興味津々。青を基調とした色使いも鮮やかで、主人公・海咲野くくるの髪や水族館の制服、そして沖縄の澄んだ海と空が美しい。
ストーリーはくくるの祖父が営む「がまがま水族館」の経営再建がメインになるのかと思いきや意外な方向に。仕事の幅や人間関係が少しずつ広がり、それまで見えなかったものがだんだん見えてくるという、2クール作品でなければ描けない物語にも惹かれる一作だ。
「角川スニーカー文庫」より刊行中の異世界ファンタジー小説が原作。剣と魔法の世界に生まれ変わった暗殺者が勇者抹殺というミッションを遂行すべく、幼少期から過酷な鍛錬を積んでいく。
多くの異世界転生アニメにとって主人公の前世は語るに値しないものであり、下手すれば開始数分で死んでしまうが、本作は1話を使って生前最後の仕事と死に様をていねいに描いている。老齢を迎えた主人公が新人パートナーに向けて暗殺者の心得を説くシーンは、森田順平のダンディーな芝居も相まり、このまま転生なんか起きずにおじいちゃんアサシンの活躍を見たいと思ってしまうほど。生まれ変わった世界でも暗殺者という職業にこだわる主人公は、最終話において真剣勝負では絶対に敵わない強大な相手を不意打ちによって打ち倒す。そのトリックを明かす回想シーンで前世の映像にまで遡るのは、転生前の彼の人生が決して無駄ではなかったからだろう。
キミとフィットボクシング Fit Boxing Animation
Nintendo Switchのエクササイズゲーム「Fit Boxing(フィットボクシング)」シリーズを原作とするショートコメディ。インストラクターに著名な声優陣をキャスティングしたことも話題になり、ゲームの全世界累計販売数は200万本を突破した。
アニメ版では原作を遊んだだけではわからない登場人物たちのパーソナリティやバックボーンに迫っているが、どのメンバーもエッジの効いたクセモノ揃い。体験レッスンを受けようとしたら事務処理ミスでインストラクターになってしまった新人のカレン、笑顔を見せるたびに歯の輝きで相手の目をくらませるイケメンのヒロ、プライベートヘリで職場にやってくる超セレブなソフィと、その知られざる一面に驚いてしまう。
全体的にシュールで攻めた作風ながら、インストラクターとしての悩みを打ち明けるシリアスなエピソードも。釘宮理恵演じるチアリーダーのジャニスが「来なくなってしまう生徒さんもいるし……」と寂しそうに語る姿を見ると、ゲームを買ってはみたが長期間サボっている罪悪感に苛まれる。
(文・高橋克則)
(C) 昆布わかめ/SQUARE ENIX・「ジャヒー様はくじけない!」製作委員会
(C) しろまんた・一迅社/先輩がうざい製作委員会
(C) projectティンガーラ
(C) 2021 月夜 涙・れい亜/KADOKAWA/暗殺貴族製作委員会
(C) Imagineer Co., Ltd.
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