【2012年冬アニメ】今年で10周年の「シンフォギア」「ブラック★ロックシューター」「ラグランジェ」! ライブ、動画サイト、聖地巡礼などアニメの新たな楽しみ方を提示した名作たち【アニメ10年ひとむかし!】

「十年ひと昔」と申しますが、アニメの世界で10年前は大昔のように感じることもあれば、今でもバリバリ現役のシリーズ作品が既に放送されていたりという、微妙かつちょうどいい間合いの時間です。今回はそんな10年前の冬クール、TVアニメの世界でどんな作品が放送されていたのかを見ていきたいと思います。

戦姫絶唱シンフォギア

同クールの作品でも異彩を放っているのが「戦姫絶唱シンフォギア」です。同作の原作を努めているのが、作曲家集団Elements Gardenの代表である上松範康さん。本作は、「うたの☆プリンスさまっ♪」の原案としても知られる上松さんが初めて手がけるアニメオリジナル作品です。音楽プロデュースもElements Gardenが手がけており、上松さんとエレガのクリエイター色がとても強い作品です。制作コンセプトには“すべての中心に音楽が据えられた作品を作りたい!”の文言があります。

「戦姫絶唱シンフォギア」の世界の舞台は近未来の日本。人類を脅かす認定特異災害“ノイズ”に対し、唯一対抗できるのはシンフォギアシステムを身にまとった少女たちのみという世界観です。シンフォギアシステムを非常にざっくり説明すると、装着者の歌唱と共鳴して強くなる装束という感じです。

歌や音楽が異種の存在と戦う力となるというコンセプトと言えば、思い出されるのが「超時空要塞マクロス」(1982)にはじまる「マクロス」シリーズです。上松さんも2008年の「超時空要塞マクロスF」などの作品から、ライブとアニメの融合というコンセプトに手応えを得たと語っています。そして本作のアニメーション制作は、「マクロスF」と同じくサテライトが担当しています。

この歌と音楽が力となるコンセプトに、戦う美少女の文脈を加えたのが本作と言っていいでしょう。“すべての中心に音楽が据えられた作品”というコンセプトは、キャスティングにも見えます。主人公・立花響役の悠木碧さんをはじめ、メインキャストには水樹奈々さん、高垣彩陽さん、井口裕香さん、日笠陽子さん、南條愛乃さん、高山みなみさんなど、アーティストとしても歌唱するメンバーがズラリ。主題歌も水樹奈々さんや高垣彩陽さんが担当しています。シリーズを重ねる中で、出演キャスト自身が歌うライブ「シンフォギアライブ」も恒例となっています。

ブラック★ロックシューター

「ブラック★ロックシューター」は、元はhukeさんが描き下ろした1枚のキャラクターイラストからスタートしました。2008年6月にはhukeさんがイラスト&動画、supercellのryoさんが音楽を担当した動画「初音ミクがオリジナルを歌ってくれたよ「ブラック★ロックシューター」」がニコニコ動画に投稿されて大きな話題となります。初音ミクとニコニコ動画は2007年~2008年頃のネット文化を象徴する存在でした。

そして2010年夏、「ブラック★ロックシューター」最初の商業アニメがリリースされるのですが、同作を収録したDVDは雑誌特典などの形でフリー配布されることが大きな話題となりました。アニメDVDを無料で配布するという驚きの展開が可能になったのは、同作の製作委員会の中心になっていたのがフィギュアメーカーのグッドスマイルカンパニーだったことが大きいです。アニメーションの無料配布でキャラクターの認知度を上げて、フィギュアの販売を中心に利益を回収するという新しいビジネスモデルだったのです。もっとも、1980年代以前のアニメはスポンサーメーカーのおもちゃを売るためにアニメを制作するモデルが主流でしたから、これはある意味、原点回帰と言えるかもしれません。

この狙いは当たり、アニメーション版をベースに制作されたフィギュアは、予約だけで16万個を越えるヒットとなったと言われています。この人気の高まりを受けて制作されたのが2012年冬クールの「ブラック★ロックシューター」で、フジテレビ「ノイタミナ」枠にて放送されました。正確には2012年2月2日から3月までの8話構成という変則的な編成です。基本設定や声優陣は配布されたOVA版を踏襲。物語を8話に拡張し、少女たちの生々しい人間ドラマをより拡張した作品になりました。

TVアニメ版での大きな変化が、アニメーション制作にサンジゲンが加わったことです。TVアニメでは、本作中のもうひとつの世界、幻想的な“裏世界(虚の世界とも言われます)”を3DCGで描写しており、こちらのパートをサンジゲンが担当しました。当時サンジゲンは「ラブライブ!」で「僕らのLIVE 君とのLIFE」や「Snow halation」といった初期楽曲のCGプロデュースと3DCGを担当して話題となっていましたが、本作が初の元請作品(Ordetとの共同制作)となりました。今や「BanG Dream!」シリーズや「D4DJ First Mix」などでセルルックな3DCG表現の旗手となっているサンジゲンですが、そのルーツのひとつがこの作品でした。

2020年12月にあのAdoさんが「ブラック★ロックシューター」の歌ってみた動画を投稿した時には“ブラックロックシューター 何処へ行ったの?”の歌詞に、本当にどこへ行ったんだろうかと郷愁にひたったものです……が、ところがどっこい「B★RS」は生きていました。

2021年12月に、「ブラック★★ロックシューター DAWN FALL」の制作が発表されたのです。放送は2022年4月で、制作チームやキャスト陣は大きく刷新されるようです。最初のTVアニメから10年の節目での新作制作発表は、このコラム的にも感慨深いものでした。

輪廻のラグランジェ

「輪廻のラグランジェ」はProduction I.G原作のオリジナルロボットアニメで、総監督は佐藤竜雄さん。2012年1月クールと7月クールの分割2クールで放送されました。本作の舞台となるのは2032年の地球にある千葉県鴨川市。古代文明の古代文明の遺産であるロボット・オービッドが登場する近未来を描く作品でありながら、鴨川というローカル感のある土地とのマッチングが面白い印象でした。

「輪廻のラグランジェ」のイントロダクションが“青い海の広がる千葉県・鴨川市”から始まるのを見てもわかる通り、本作は鴨川とのリンクを大きく打ち出した作品です。2013年には、主人公のまどかたちが鴨川ふるさと特別大使にも選出されています。また、2015年にはアニメの制作過程で生まれた資料を、鴨川市に移設し保管する発表も話題となりました。2007年放送の「らき☆すた」の成功以来、実在の地域を舞台とする作品が数多く制作されていますが、その中でもご当地との二人三脚を企画時点から打ち出していたのが本作でした。

2012年冬クールには、長野県の小諸市とタッグを組んだ「あの夏で待ってる」も放送されており、ご当地との連携が当時のキーワードのひとつだったことがうかがえます。同年中には、茨城県の大洗町と連携した怪物作品が爆誕することになるのですが、それはまたいずれ。

さて、「輪廻のラグランジェ」についてもうひとつ触れておきたいのは、本作のメカ(オービット)デザインが、日産自動車のグローバルデザイン本部に依頼されたことです。日産ではカーデザインと同様に、全デザイナーを対象に社内デザインコンペを開催。コンペには60人以上が参加し、大須田貴士さんのデザインが主役ロボの「ウォクス」シリーズとして採用されました。流線型を多用したスタイリッシュなデザインは日産ならではのもの。デザインの発表会は横浜の日産グローバル本社で行なわれましたが、大須田さんが普段は車内のインテリアデザインを担当しているという話が印象に残っています。異業種のデザインセンスを取り入れたという点でも画期的な作品でした。

(文/中里キリ)

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