【WOWOW開局30周年記念アニメ「永遠の831」特集 第4回】怒りを込めて、言葉で闘う──OPテーマ「キンギョバチ」を歌うカノエラナ・インタビュー

神山健治監督によるWOWOWオリジナル新作長編アニメ「永遠の831」が2022年1月30日、WOWOWで放送・配信開始となる。

同作はWOWOW開局30周年記念作品で、神山監督自身が脚本を手がける完全オリジナル新作だ。とある超常的な能力をモチーフとした作品で、閉塞した時代や現実の社会状況感をダイレクトに落としこんだ内容となっている。

今回、アキバ総研では「永遠の831」を大特集! キャストおよび主題歌アーテイストたちへのインタビューを連続でお届けする。

第4回はオープニングテーマ「キンギョバチ」を担当するカノエラナさんにインタビューを行なった。

作中では日本の停滞した30年がモチーフのひとつとして描かれているが、カノエさんは1995年生まれ。本作の主人公・スズシロウに近い世代の彼女から見た本作のテーマや楽曲に込めた想いについて聞いた。

脚本を読み込んで作られた「キンギョバチ」

──「永遠の831」オープニングテーマを担当することになった感想を教えてください。

カノエラナ(以下、カノエ) とにかくびっくりしたのが最初でした。私自身が夢みたいなものを掲げる時に、主題歌や挿入歌などアニメ作品に音楽で携わりたいと言ってきたんです。普段はあまり表情筋が動かないんですが、このお話をいただいた時はうわーって走っちゃうぐらい驚いたし、嬉しかったです。

──台本を読んだ印象を教えてください。

カノエ アニメの脚本というものをいただくことが初めてだったので、こういうものが届くのかという感激がまずありました。登場人物の設定資料とかもすごく細かくて、脚本を読んでいて映像が浮かんでくるようでした。誰に視点を置くと曲が書きやすいのかなと考えた時に、やっぱり自分と年齢が近い(主人公の)スズシロウ君が思っていることが自分に近いかなと感じました。同世代に刺さる物語なんじゃないかなと思います。

──神山健治監督の作品にどんなイメージを持っていましたか?

カノエ 私は「東のエデン」を観ていたんですが、社会の空気とか、誰が敵なのかみたいなことがわからないなりに、どうにかしよう!という力を強く感じる作品だと思いました。私自身、誰がどうやってこの国を動かしているのかなとか、そういうことを考えることが多かったので、入りこみやすかったです。

──この30年間、時代が停滞していることが作品のテーマのひとつになっています。その最中に生まれたカノエさんはその時代にどんなイメージを持っていますか?

カノエ 私はガラケーを体験していて今スマートフォンを使っていて、パソコンを使ってネットで検索するという経験を小学5年生ぐらいからしている世代です。平成7年生まれの私たちは“ゆとり世代”と呼ばれていて、大人の人に「君たちは」「若者は」と言われがちだったんです。でも、じゃあその仕組みを作ったのは誰なんだろう、という疑問がずーっとありました。「何に怒ったらいいの?」「どこに進んだらいいの?」というとまどいのようなものは、スズシロウ君に近いものがあったんじゃないかと思います。

──オープニングテーマ「キンギョバチ」の楽曲制作や、作品から受けたインスピレーションについて聞かせてください。

カノエ 歌詞の組み立てをどうしようかと考えている時に、スタッフさんから等身大で思ったとおりに、登場人物の誰に気持ちを入れるとどう曲が書けるか好きに考えていいよって言ってもらえたんです。まずは脚本を読みながら登場人物の重要な過去や、分岐点になるだろうところに付箋をつけていきました。私は歌詞と曲が同時進行で生まれるタイプで、自分の言葉で、皮肉だったり、比喩や言葉遊びだったりをどう入れようかなと考えながら、パズルみたいに楽曲を作っていきました。

──どの登場人物に一番感情移入しましたか?

カノエ 主人公のスズシロウ君に一番共感しました。怒りの感情を一番落としこみたいと思ったので、曲調も少し攻撃的になったほうがいいのかなと考えました。だからボーカルもいつもよりとげとげしいニュアンスを入れてみたり、少しかすれさせてみたりして空気を変えています。普段私はまあまあふざけた曲も多いんですが(笑)、今回はめちゃくちゃ真剣に問題提起と、純粋な怒りを込めて作りました。言葉で闘う!という感じですね。

──歌詞中の“ニクを切らせては死を愛でる”というフレーズがとても印象的でした。

カノエ ニクという文字をカタカナにしているのは、「クニ」を逆さまにした言葉遊びも入っています。作品の中で“死”の瞬間に起こる現象が扱われていて、キーワードとして入れたいと思っていました。死については誰しもが考えたことがあると思うし、一番インパクトのあるサビに入れたいと思いました。身を切らせていろんな人を救ったとしても、自分はボロボロに傷ついて、何も残らないんじゃないか。自分の死を誰が愛でてくれるんだろう、誰か助けてくれ!という気持ちをこめました。

──「キンギョバチ」というタイトルに込めた想いやイメージを教えてください。

カノエ タイトルの候補がいっぱいあったんですが、その中で一番わかりやすくて伝わるのが「キンギョバチ」でした。8月ってなんだっけ、夏ってなんだっけといろいろ考えた時に、夏休み、夏祭り……そういえば金魚すくいしたな、と連想ゲームをつなげていって。そういえば私、すくった金魚どうしたっけって考えると、覚えてないんですよ。忘れちゃって、放置しちゃったかもしれない。あの金魚ってどうなったんだろうってところに思考が吸いこまれていったんです。金魚ってすごくきれいで楽しい感じだけど、案外そのあと忘れさられがちなんじゃないかな、と思って。なんだか自分の人生とも重ね合わせてしまって、これは(タイトルとして)あるな、と思いました。脚本の中で透明な壁とか、見えないものと闘っていくイメージがあったので、鉢って狭いな、この狭い世界の中で、金魚はどういう風に生きていけばいいんだろう、ゆらゆらとゆらめいてもがいている感じがして、タイトルは「キンギョバチ」だなと思いました。

──金魚鉢を見ているのは内側から? 外側から?

カノエ 歌詞の中では、金魚鉢の外から青年のもやもやを見つめているイメージです。どの立ち位置からでも聴ける楽曲になればいいなと思っています。

夢のアニメソングを手がけて

──作中に時間を止めるという能力が登場しますが、時間を止めたいと思う時や、もし時間が止められたらどうしたいかなどあるでしょうか。

カノエ 私は自分の感情や、やりたいことは全部曲に込めるタイプなんです。だから自分がやりたいことを言葉にすることや、コミュニケーションがめちゃくちゃ苦手なんです。それで困ることが多いので、そういう時にちょっと考える時間をくれ!ということで時間を止めたいです。

──カノエさんにとっても大きな節目のひとつになる楽曲、作品だと思います。今後の展望や意気込みなどを聞かせてください。

カノエ 私は歌手になることが夢だったのではなくて、アニメソングを絶対に歌うという夢を持ってやってきました。活動歴は短いし、まだまだ足りないことだらけで、前しか見えなくてもがいているような感じです。「永遠の831」はキングレコードさんに初めてお世話になる作品で、これから先どんな未来が待っているかはわかりませんが、根っこにある夢は変わらず、強い想いを持っているつもりです。いろんな作品に関わらせていただいて、自分自身もこれから成長していきたいと思っています。

──最後に「永遠の831」を楽しみにしているファンの皆さんにメッセージをお願いします。

カノエ 私と同世代ぐらいや、ちょっと下ぐらいの人にぜひ観てほしいと思っています。大学に入ったり、専門学校に行ったりすることにどういう意味があるんだろう、将来の夢が決まっていないのに何をすればいいんだろうって悩んでいる人が、私の身近にも大勢いるんです。そういう子たちが何か考えるきっかけになる作品だと思います。自分の曲も寄り添いたいという一心で書いているので、よろしくお願いします。

カノエラナさん(左)と主題歌を歌うangelaのおふたり

(取材・文:中里キリ)


【作品情報】

WOWOW開局30周年記念オリジナル長編アニメ「永遠の831」

2022年1月30日(日)夜8時~[WOWOWプライム][WOWOWオンデマンド]

※WOWOWオンデマンドでは無料トライアル実施中

カノエラナ「キンギョバチ」 1月26日(水)デジタルリリース

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