【WOWOW開局30周年記念アニメ「永遠の831」特集 第3回】作品世界の季節を一歩進める楽曲を目指して──アニメ「永遠の831」主題歌「ひとひらの未来」を歌うangelaにインタビュー
神山健治監督によるWOWOWオリジナル新作長編アニメ「永遠の831」が2022年1月30日、WOWOWで放送される。
同作はWOWOW開局30周年記念作品で、神山監督自身が脚本を手がける完全オリジナル新作だ。とある超常的な能力をモチーフとした作品で、閉塞した時代や現実の社会状況感をダイレクトに落としこんだ内容となっている。
今回、アキバ総研では「永遠の831」を大特集! キャストおよび主題歌アーテイストたちへのインタビューを連続でお届けする。
インタビュー連載第3回は、同作で主題歌「ひとひらの未来」を担当するangelaが登場。作中では日本の停滞した30年がモチーフのひとつとして描かれているが、angelaは1993年に音楽活動をスタート。テーマとなる時代の中を現在進行系で生き続けているアーティストだ。
そんな彼らは、どんなメッセージを本作から受け取り、楽曲に反映していったのだろうか。
angelaが振り返るこの30年
──「永遠の831」主題歌を担当することになった感想を教えてください。
atsuko 今回は、キングレコードで普段担当になることが多いディレクターとは違う方からお話が来たんです。以前その方と一緒にやったお仕事は超ギャグアニメの主題歌だったので、「永遠の831」のようなこんな硬派な作品の曲を私たちに?という驚きがまずあったし、この作品でangelaの存在を思い出してくれたことが嬉しかったです(笑)。
KATSU 僕も驚いて、「永遠の831」というタイトルからしてギャグアニメではないし、異世界に転生もしなそうだと(笑)。だからまずどういう作品なのかと知ることから入りました。神山健治さん(監督・脚本)の作品というと「攻殻機動隊」というイメージがあったので、最初は硬派なSF作品なのかなと思ったんですが、クライムサスペンスでした。
──台本を読んだ印象を教えてください。
KATSU 神山健治さんのメッセージはどういうところにあるんだろうと考えながら読んだら、今の社会情勢や日本が置かれている状況にリンクしている部分がめちゃくちゃあって、すごい作品だと思いました。だから“面白い”という言葉だけでは表現できない。ストーリーの完成度が高くて、作品として共感せざるをえないドキドキがあるエンターテインメントでした。仮の映像も見させてもらったんですが、スズシロウ君の心情の描き方がとてもていねいな作品だと感じました。
atsuko 主人公に近い年齢の方が見るととても共感できる作品だと思うんですが、大人になった私の目線から見て、この20年とか30年、日本の経済とか社会が停滞しているような問題をテーマとして感じました。大人の目線でも共感して、このままじゃいけないなって問題提起を強く感じました。
atsukoさん
──神山健治監督の作品にどんなイメージを持っていましたか?
atsuko 私は「永遠の831」が初めてふれる神山作品だったんです。フラットに作品に入っていくことができたので、それもよかったかもしれないと思っています。この作品に触れてすごくメッセージ性が強い方なんだなと思いました。それを押しつけるんじゃなくて、問題を提起して、こちら側が考えるきっかけをくれる印象を受けました。
KATSU 僕にとってはやっぱり「攻殻機動隊」シリーズが大きくて、菅野よう子さんが作る音楽に魅せられて見始めたんです。そんな作品を手がけられた神山健治監督が、違う作品の中でどんな表現を見せてくださるのかとても楽しみでにしています。
──この30年間、時代が停滞していることが作品のテーマのひとつになっています。リアルタイムで体験してきたお2人は、平成以後の時代にどのような印象がありますか?
atsuko 私は約30年前に高校を卒業して上京してきたんです。スズシロウ君と同じように。そこから29年ほどKATSUさんとangelaをやっていまして、だからスズシロウ君や、オープニングテーマを担当しているカノエラナさんが生まれる前からangelaをやっているんです(笑)。でもそんな私にも歌手になりたくて東京に出てきた時はあって、もちろんすぐに歌手になれるわけじゃないからアルバイトをしていたんですね。それでびっくりするのは、私が20歳ぐらいの頃にアルバイトをしていた時給と、今のファミレスや居酒屋のアルバイトの時給がほとんど変わらないんですよね。日本は物価は安い国だけど、世界的に需要があるものはやっぱり高いし、これじゃ今の若者が楽しく生きられないじゃないか、とはすごく思いますね。
KATSU atsukoさん、立候補するのかな?
atsuko 夢を描けないんじゃないかなと思うんです。
KATSU 僕が子供の頃は電話を持ち歩くような未来は想像できなかったです。「こち亀」で駅から電話しながら人が出てくる未来が来るぞというような話があったんですが、それも全然信じてなかった。そうやって新しい道具が出てきたり、インターネットが普及して2ちゃんねるとか、ニコニコ動画とか、新しい文化が出てきては移り変わっていく今の時代をすごく楽しんでいます。だから新しい文化が出てきた時は、同時にその先を考える時代でもありますね。
KATSUさん
主題歌で、季節をどう夏から春に進めるか
──「ひとひらの未来」の楽曲制作や、作品から受けたインスピレーションなどについて聞かせてください。
KATSU atsukoさんが先に脚本を読んでいて、まずこういう楽曲はどうだろうって提案をもらったんです。最初のアイデアではもっとシンプルで、カントリーとかブルースみたいな、ギター1本で行くみたいな世界観が合うんじゃないかと話していました。具体的な歌手名だとスザンヌ・ヴェガみたいな雰囲気はどうだろうと。それで僕も脚本を一気に読んでみて、この物語を楽曲で完結させる方法はなんだろうと考えたんです。「永遠の831」、8月31日には、季節を変えることが必要なんじゃないかと思いました。楽曲を通して季節が変わって、スズシロウ君が一歩踏み出した、というところに持っていくにはどうすればいいかを常に考えていました。あと、早稲田のあたりでスズシロウ君が新聞配達をしているような雰囲気を楽曲に落としこみたいと思ってましたね。
atsuko 私は脚本を読みこむと、歌詞で全部書いてしまいそうになる癖があるんです(笑)。だから今回もKATSUさんに説明しすぎ、と言われたところを直す作業を何度も繰り返しています。シナリオを読んだ時に浮かぶ風景がすごくきれいだったので、そういう情景が浮かぶ歌詞にしたいと思いました。楽曲を通して場面が変わったなと感じられるようなアレンジを、KATSUさんと協力しながら作っていきました。
──神山監督とのコミュニケーションなどはあったんでしょうか。
KATSU 今の歌詞は最初と変わっていて、当初はもう少し暗いというか、青春のもやもやみたいなものが残った感じだったんです。監督から明るい未来が見えるものにしてほしいというオーダーがあって、書き直したものになっています。そのイメージと、831という夏の終わりから季節を変えるということを考えて、春が感じられるサビにしたいと思っていました。
atsuko 前向きな歌詞をというオーダーをいただいたので、一歩踏み出すところまで楽曲の中で書きこんでいいのかな、書いちゃえ!という感じで落としどころにしました。
──「ひとひらの未来」というタイトルに込めた想いやイメージを教えてください。
atsuko 輝いた未来って、ある日突然訪れるものじゃないと思うんです。自分が一歩を踏み出すことで、今を変えることで未来は変わっていくんだと思うんですね。サビのところに「舞い散る桜」というフレーズを入れていて、桜の花びらってひらひらと舞うもので、枚数も多くて。その花びらの数だけの未来がたくさんある中の、ひとひらの未来が感じられるようなものを楽曲にこめていて、その部分をタイトルにしました。
KATSU タイトルに関しては(atsukoさんに)任せていて、天才的なひらめきを何度も見ているんです。だからもうタイトルに関しては信じきってますね。
──作中に時間を止めるという能力が登場しますが、時間を止めたいと思う時や、もし時間が止められたらどうしたいかなどあるでしょうか。
atsuko 偉い人もいる食事の場でお寿司が大きな桶である時とか、高そうなネタって取りにくくないですか?
KATSU なんの話なの(笑)。取りづらいよね。
atsuko うに、いくら、トロとかは取りにくいけど、好きなもの食べてとか言われるし。かっぱ巻きから食べたほうがいいかなとか思うじゃないですか。そういう時に時間を止めて、とりあえずいただきたいものをさっと食べたいですね! あれ、大トロいつの間にかないですね、最初から2個だったのかな?みたいな。
KATSU 時間を止める能力は、男に与えちゃダメなやつですね! 記事で書ける話だと、僕、焦らせられるのが苦手なんですよ。遅刻キャラみたいになってますけど、僕なりに焦ってるんです。だから遅刻しそうな時にあれば便利だと思いますね。
──angelaも結成30周年を控えています。今の心境や今後の展望を聞かせてください。
KATSU angelaは自分たちのことをアニソン屋って言っているんですが、デビューした頃はこんなにアニソンブームじゃなかったし、そこに憧れる人も今ほど多くはなかったと思います。だから今のアニソンを取り巻く環境は財産だし宝だと思います。今はコロナで世界との行き来は難しいですが、神山監督の新作である「永遠の831」に期待している人は海外にも大勢いると思います。angelaとしても、そういう世界に発信するものをこれから10年、20年と作っていきたいです。水木一郎さんや堀江美都子さんが作ったアニソンという世界を新しい世代にもきちんと伝えていけたらなというのが、これからのangelaだと思います。
atsuko 18年19年、やってきても正解がわからないし、楽曲を作る時は毎回悩むし、もがくし、あがきます。でもそういった中でも時代は変わっていって、求められるものや流行も変化していく。その中で自分たちはその流れによりそっていくのか、変化していくのか。常に考えてやっています。まだ我々に新しいエンターテインメントを作るお話をくださるんだということがありがたいし、絶対に裏切れない、中途半端なことはできないと思います。そういう覚悟がより強くなっているので、正直怖さもありますが、angelaらしく変化しながら、進化していきたいと思っております。
──最後に、「永遠の831」を楽しみにしているファンの皆さんにメッセージをお願いします。
atsuko 大人の目線から見てもいろいろと考えさせられる作品だと思います。何歳になっても夢を持っていいし、新しいことをはじめていいと思うんです。今をなんとなく生きるのではなく、今を疑って、自分の信じたものをつかみとりにいく行動力。そういうものをこの作品を見て感じてもらえたらいいなと感じております。
KATSU 「永遠の831」という作品で、神山さんが表現する世界をお手伝いするものとして楽曲があると思っています。この作品を観た人がどう感じるか、ということがこの作品の本当のテーマだと思うので、先入観なく観てほしいです。今この日本という国に生きている人には、必ず刺さる何かがあるのがこの作品の魅力だと思います。そして観て感じたものを、発信してくれたら嬉しいと思います。それだけのメッセージがある作品です。
オープニングテーマを歌うカノエラナさん(左)と、主題歌を歌うangela
(取材・文:中里キリ)
【作品情報】
WOWOW開局30周年記念オリジナル長編アニメ「永遠の831」
2022年1月30日(日)夜8時~[WOWOWプライム][WOWOWオンデマンド]
※WOWOWオンデマンドでは無料トライアル実施中
angela「ひとひらの未来」 1月21日(金)デジタルリリース
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