和氣あず未、Machico、25時、ナイトコードで。──クリエイターやボカロと声優のクロスオーバーが魅力の新譜をピックアップ!【月刊声優アーティスト速報2022年2月号】
いま注目したい声優アーティスト作品をレビューする本連載。2022年2月号では、和氣あず未さん、Machicoさん、25時、ナイトコードで。の全3組をピックアップした。
和氣あず未 コンセプトアルバム「あじゅじゅと夜と音楽と」(1月26日発売)
2020年1月末のアーティストデビュー以来、この2年間でシングル4枚にアルバム1枚と、コンスタントに制作活動をしてきた和氣あず未さん。“ハイスパンリリースガール”としてその存在感を強め続ける彼女が、自身のニックネームをタイトルに据え、充実した音楽活動を証明するかのように、コンセプトアルバム「あじゅじゅと夜と音楽と」を届けてくれた。
本作に収録されるのは、“夜”をテーマにしたコンテンポラリーR&Bの全5曲だ。思えば、2021年2月発売の1stアルバム「超革命的恋する日常」では、ポップロックな[Side A]とエレクトロな[Side B]といったように、収録楽曲を2軸に分割していた。この[Side B]が特に好評を博したり、自身初のワンマンライブでも、[Side B]収録の90’s R&Bナンバー「Tuesday」を開幕曲に据えたりと、今作のテイストに近い楽曲が確かに評価されてきた。そういったエピソードを踏まえると、最新作でこうした方向性を示したことにもうなずける。
収録曲は順に、ピアノとフルートでスムースな雰囲気を演出する「茉莉花(ジャスミン)」。木暮栄一氏(the band apart)書き下ろしの歌詞の中でも、〈手招き〉を“て・ま・ね・き”、〈ステップはブレイクビーツ〉を“ステッ・プは・ブレイク・ビーツ”など、ぽつりぽつりと単語を区切る譜割りで歌唱する部分や、ゆったりとしたリズム運びが、聴き手の胸に手を当ててドキドキとした心をすっと落ち着かせるようで、自然と感情のモードが夜へと切り替えられる。
また、そこはかとないノスタルジックさとじんわりとした湿度を纏い、水面に浮かんでぼーっとたゆたうような聴き心地のチルトラップで、みずみずしい歌声を聴かせる「夢よりも早くこの恋が覚めても」、ダンスホールレゲエのテイストを取り入れながら、バース部分のダウナーなラップと、そこから少しテンションを上げたフックのコーラスで、表現方法豊かなボーカルのコントラストを巧みに披露する「キャラメラテ」。同楽曲では途中、〈元弓道部? その重要な情報 気になるんだけど…〉という、気になる男性のキャラ設定をモノローグ調で唐突に語る部分もまたインパクト大だ。
4曲目「眠れなくていい」は、ベッドルームポップ的な曲調に。こちらもまた、曲中で歌のフロウが自在に変化する1曲。今作には、こうしたラップ/ヒップホップ的なボーカル表現が随所に散りばめられているところもまたポイントだ。
アルバムを締めくくるのは、アーバンポップな「アイリスの夜」。「茉莉花」にも通ずるミニマルなトラックがまどろみを誘うほか、〈君に会えばきっと(またいつもみたいに)素直になれない〉のフレーズは本人もお気に入りとのこと。好きな人を前にすると、気持ちが高揚して普段通りの自分が出せない。幸せな形で結ばれていても、あるいはまだ結ばれる前でも、誰かに恋する人であれば共感してしまう部分だろう。
全楽曲とも、オントレンドなコンテンポラリーR&Bの珠玉曲が集まった本作。この名盤を語るうえで、金子麻友美氏の存在を忘れてはならない。これまでに、和氣さんのデビュー曲「ふわっと」で関わりのある金子氏だが、今回はすべての楽曲で作編曲を担当。いわばサウンド面に関しては、金子氏のプロデュース作品といっても過言ではないのだ。
本連載の先月号にて紹介した近藤玲奈さん 「11次元のLena」でも、作家のhisakuni氏がプロデュースを担うなど、日本コロムビア所属アーティストでは、このように信頼と実績を兼ね備えた作家1名を指名し、まとまった曲数を制作依頼する例が続いている。実際、担当する曲数が増えるにつれて、作家が自身のキャンバスで描くイメージをより具体的に表現できるようになってきている。
その結果、アーティストのまだ見ぬ才能を発掘し、新たな色を付け足していく。今回の「あじゅじゅと夜と音楽と」を追い風に、こうした制作スタイルを採用する声優アーティストが、今後ますます増えてくるかもしれない。
Machico シングル「ENISHI」(1月12日発売)
今年5月でアーティストデビュー10周年を迎えるMachicoさんから、自身名義では約2年ぶりとなる新シングルが到着した。
表題曲「ENISHI」は、TVアニメ「幻想三國誌 天元霊心記」オープニングテーマに起用。オリエンタルな雰囲気のミッドバラードなトラックに、戦乱へと旅立つ男性を、もどかしい想いで待ち続ける女性の心境を歌った歌詞が重なる1曲だ。Machicoさんの強みであるロングトーンが終始冴え渡り、Bメロの1ループ目がほとんど無音のアカペラ状態となったりと、“歌の力強さ”が全編から感じられる仕上がりだ。彼女が得意ではなかったというシャウトにも挑戦しており、ボーカリストの“生感”が伝わる歌唱表現もぜひ体感してみてほしい。
そんな「ENISHI」は、「幻想三國誌 天元霊心記」で監督を務める町谷俊輔氏が、彼女が2019年11月に発売したアルバム「マチビトサガシ」収録のバラード「Everlasting Glory」を聴いたところから制作に至ったとのこと。「マチビトサガシ」といえば、Machicoさん自身の“やりたい”を詰め込んだ、サウンド的に尖った楽曲の多い1枚。自身の思い入れある作品が、新たな楽曲への“縁”(=えにし)を運んできたといったところか。
カップリング曲「向こう見ずFORWARD」は、ボーカル表現の中で、ベースやドラムといったリズムプレイヤーのグルーヴを同時に意識したというアッパーチューン。今回のシングル発表から間もなく、1月24日開催の「リスアニ!LIVE 2022」(SUNDAY STAGE)にて披露をしているあたり、“ライブバンガー”の役割を持つ役割の楽曲として、相当な自信を持っているのだろう。バラードとロック……対極な表現を乗りこなすMachicoさんの新作を、ぜひ丸ごと楽しんでみよう。
25時、ナイトコードで。2ndシングル「限りなく灰色へ/アイディスマイル」(1月19日発売)
最後に紹介するのは、「25時、ナイトコードで。」。2020年9月ローンチのスマホ向けリズムゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」から誕生したオリジナルユニットで、宵崎奏(CV:楠木ともりさん)を中心に、朝比奈まふゆ(CV:田辺留依さん)、東雲絵名(CV:鈴木みのりさん)、暁山瑞希(CV:佐藤日向さん)らで構成されている。劇中に登場するチャットツール「ナイトコード」に25時になると集まり、楽曲制作をするという正体不明の音楽サークルだ。
「プロジェクトセカイ」についてかいつまんで紹介すると、宵崎奏ら作品オリジナルキャラクターたちが、タイトルにある初音ミクや鏡音リンら“バーチャルシンガー”に遭遇。彼女たちの後押しを受けながら、現実世界での苦悩を克服していく姿が描かれる……というストーリーのコンテンツだ。
「25時、ナイトコードで。」も例に漏れず、中心人物の宵崎奏が過去に大きなトラウマを持っていたり、サークル参加者の“雪”が消息を断ったところから彼女たちの物語が動き出したりと、人のネガティブな側面にスポットを当てた作風が特徴といえる。前段が長くなったが、そうした経緯もあり、「プロジェクトセカイ」の楽曲には、初音ミクらバーチャルシンガーも歌唱に参加しているのだ。
「限りなく灰色へ」は、本連載でも夏川椎菜さん「アンチテーゼ」の作詞・作編曲にて紹介歴があるボカロP・、すりぃ氏がプロデュース。“才能”をキーワードに、自らが生み出す芸術を “理解してもらえない”苦悩を鏡音リンとともにぶつける1曲として、こぽこぽとした水音のSEを交えたハウス調のナンバーに仕上がっている。「アイディスマイル」は、2014年夏発表の「ツギハギスタッカート」を代表曲に持つボカロP・とあ氏が書き下ろし(とあ氏が、なんと約3年ぶりに発表した楽曲!)。こちらはMEIKO(本作に登場するバーチャルシンガー)とともに、大切にしたい相手との距離感に悩む想いを歌う1曲となっている。
声優アーティストがボカロP提供曲を歌った例には枚挙にいとまがないが、近年は「プロジェクトセカイ」のほか、「電音部」にバーチャルライバーグループ・にじさんじ所属のバーチャルタレントが声優として参加。さらには佐倉綾音さんが、バーチャルシンガー・花譜さんに迎えられる形で、コラボ楽曲「あさひ」を発表するなど、声優/声優アーティストとバーチャルタレントらが接近する機会を目にする機会が多い。「25時、ナイトコードで。」を含めて、こうした文化的クロスオーバーを見せる作品が、いずれはメインストリームの枠でも大きな革新をもたらしていくのだろう。
(文/一条皓太)
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