【インタビュー】音楽でいろいろな遊びができる作品でした──作曲家・伊賀拓郎、「スローループ」の劇伴を語る

両親の再婚によって、新たに家族となった同い年の少女2人が、釣りや料理を通して心を通じ合わせていくTVアニメ「スローループ」。そのエンディングテーマ「シュワシュワ」のシングルCDが、2月23日に発売となった。
メインキャスト3人によるユニット「Three∞Loop(スリーループ)」の歌唱による「シュワシュワ」も、爽やかで聴きごたえのあるナンバーだが、今回、注目したのは、初回限定盤の特典CDに収録される同作のサウンドトラック(劇伴)。
「私に天使が舞い降りた!」や「月がきれい」、「恋する小惑星」など、日常系アニメの音楽を多数手がけてきた伊賀拓郎氏の作曲による全44曲が収録され、「スローループ」のほのぼのとした世界観を音楽で堪能できるのだ。
お話をうかがう中で浮かび上がってきたのは、「スローループ」の劇伴のたぐいまれな特徴。いったいどのような過程を経て、劇伴は完成していったのか、興味深いエピソードの数々を紹介する。

ひよりと小春の日常は、僕が最初に想像したよりもにぎやかでした


──「スローループ」の劇伴は、いつ頃に制作されたのでしょうか?

伊賀 楽曲打ち合わせがあったのが2021年の5月中旬で、そこからスタートして7月に完成しました。楽曲打ち合わせはリモートだったので、実は今にいたるまで、秋田谷(典昭)監督とも音響監督の土屋(雅紀)さんとも、直接お目にかかっていないんです。このご時世なのでオンエア終了後の打ち上げもないでしょうから、このままになってしまいそうで、寂しい限りです。

──時節柄、しょうがないですよね。伊賀さんは、秋田谷監督とも土屋さんとも「スローループ」が初仕事だったんですよね。

伊賀 はい、お2人とも「初めまして」でした。それなのに最初から僕でいいと言ってくださったみたいで、ありがたい限りです。

──最初の音楽打ち合わせでは、どのようなことを話し合われたのでしょうか?

伊賀 まず、秋田谷監督から「スローループ」の音楽の全体的なイメージについての話がありました。「女の子3人の日常を描く作品なので、劇伴も厚い編成ではなく、音色をかわいらしくしてほしい」、「コミカルな曲は、いろいろと遊んでくれていいですよ」というざっくりした感じですね。それを踏まえて、音響監督の土屋さんが具体的な音楽メニューを作ってくださいました。

──「スローループ」という作品に対する、伊賀さんの第一印象はどのようなものでしたか?

伊賀 ひよりと小春という高校1年生の女の子が、お互いの親同士 再婚したことによって同居を始めるという設定で、2人ともそれぞれ お父さんやお母さんと死別しているんですよね。だから、女の子の楽しい日常が描かれつつも、どこか陰影がある作品だなと感じました。キャラクター的にも、小春は明るい子だけど、ひよりはかなりの人見知りで、もうひとりのメインキャラの恋ちゃんも落ち着いた感じの子だったので、今まで自分が音楽を担当してきた「日常系 」作品よりも、大人っぽくて、落ち着きのある作品なのかなと。それが第一印象でした。


──たしかに設定は少し重たいんですよね。

伊賀 そういう前提がありつつ、釣りやアウトドアの気持ちよさを感じさせる作品なのかなと思ったので、最初に作ったデモは、もっとまったりとした、落ち着きのある曲調になったんです。ところが、秋田谷監督から修正依頼が出て……。

──監督からは、どんな指摘があったんですか?

伊賀 主人公2人の重たい部分が強調されてしまうような曲ではなく、あくまでかわいらしさを意識して、はっちゃけた感じにほしいと言われました。それとは別に、広々とした野外で食事するシーンに使う曲は、アイリッシュの曲調が合うかなと思って入れてみたんですけど、民族音楽に振れすぎているという修正もありましたね。なるほどと思って、監督や土屋さんとやり取りしながら、改めて曲を作っていきました。

──この作品の全体的な雰囲気をどうとらえるか、最初は伊賀さんと監督の間に、多少のズレがあったんですね。

伊賀 脚本や原作の漫画を読んで、僕が最初にイメージしたひよりと小春の日常は、やさしく穏やかに時間が流れていく感じだったんですけど、アニメで描かれるのは、もっとにぎやかで感情の起伏が激しい毎日なんだなと思い直しました。そうすると自然に脚本のとらえ方が変わり、音楽も変わっていったんです。そこからの作業はスムーズで、土屋さんの音楽メニューに沿って、具体的なシーンを想像しながら楽曲を作っていきました。

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