女性型ロボプラモ「機動動姫 MoMo」をめぐる“思春期とオタク文化の蜜月時代”を、デザイナーであり 原作者の島本娼弘氏が熱く語る!【ホビー業界インサイド第78回】
「機動動姫 MoMo(モモ)」という女性型ロボットのプラモデルが発売されている。現在発売中なのは、白・黒・金で成型された「オルカ」。2022年4月には、黒・赤・鉄色の「ドレッドレッド」も発売予定で、バリエーション展開が始まっている。
スナップフィットで色分け済み、誰でも手軽に組み立てられるプラモデルなのだが、発売元は「侵略ロボ」。多くの人が初めて耳にするメーカーだと思うが、それもそのはず、「侵略ロボ」は、島本娼弘(しまもとまさひろ)さんという個人作家のブランド名なのだ。この「機動動姫 MoMo」をプラモデル化するため、安定したサラリーマンの暮らしを捨てたという島本さんに、「女性ロボのどこがそこまで魅力的なのか?」、秘められた胸のうちをうかがってみた。
ゲームの世界は、クリエイターの「作家性」を表現しづらい状況へと変貌していった
──島本さんは以前、大手ゲームメーカーに勤務してらしたそうですが、「機動動姫 MoMo」発売までの道のりを聞かせてください。
島本 幼少の頃からオタクで、絵やマンガ、アニメといった業界を目指すため大阪芸大へ入ったのですが、在学中に絵よりもゲームが好きになってしまい、結局ゲームメーカーに入社しました。いろいろなタイトルに関わらせてもらいましたが、最後に担当したのは、実在するリアルな動物同士が戦う格闘ゲームでした。サメとライオンが戦うなど本来はあり得ないシチュエーションのキッズ向けカードゲームで、10年ほどシリーズ展開し、終了しました。
ちょうどその頃、会社が別業種の大手企業と合併したのです。影響もあって、それによってメジャーなIPが使えるようになり、これは普通に考えればめでたいことで、同僚は「これで売り上げが上がる」と喜んでいましたが、自分は正直、「うーん」と悩んでしまいました。自分は、版権キャラを使うよりは、オリジナルのゲームを作りたかったからです。たとえば「オリジナルのロボットのゲームをつくりたい」と言えば、「ならガンダムのゲームでいいじゃない?」という感じで、オリジナル企画では勝負しづらくなっていました。
それには、この十数年でゲーム業界が大きく変遷したことも関係しています。現在は日本だけでなく海外も市場となっているのですが、海外でも売れるのは尖ったオリジナル物ではなくて、ゴルフやレース、スポーツ、釣りなどといった、誰にでもなじみのある万人向けのゲームなんです。アイデア勝負の実験的な作品や、独特な世界観のオリジナルもので勝負できたのは、初代プレイステーションの時代までだったかと思います。
また、ハードの進化にともなう表現力の向上により、プロジェクトの規模が大きくなってゆきました。そのため、1本のゲームに関わるスタッフも100~200人ぐらいが普通となり、個性的な才能のある人よりは、誰とでも仲よくなれるコミュニケーション能力が問われるようになっていました。また、個人のクリエイターが担当できるのは全体のごく一部だけ…というのも普通となり、「もの創り」というよりは、いわゆる「分業・作業・」という感覚となってゆきました。
例のキッズ向けカードゲームにしても、最初は企画の立ち上げからアイデア出し、シナリオ、セリフ、キャラクターのデザイン原案も……といった現場に関わらせてもらっていたのですが、次第に管理側の業務へとシフトせざるを得ませんでした。別に偉くなったわけではなく、単に年齢の問題ですね。スタッフの工数管理やスケジューリングが日々の仕事の8割で、それ以外にもえらい人への根回しといった政治的な作業が多くなり……しかもそれは、いくら習熟してもその組織の中でしか通用しないローカルなルール、あえて言うなら「しきたり」です。会社の外に出たら、何の役にも立ちません。そんな中、「今の自分は本当にクリエイターなのか?」という疑問を抱きつつ、日々の業務に忙殺されておりました。
──その間も、「侵略ロボ」というブランド名でガレージキットを作っていましたよね?
島本 はい、会社勤めのかたわら、1997~98年ごろはオリジナルのロボットを作っていました。自分の屋号となっている「侵略ロボ」は、そのときのシリーズの名称です。
幼少の頃に見ていた「マジンガーZ」が大好きで、あれは味方のマジンガーも魅力的ですが、敵のロボット(機械獣)もかっこいいのです。もしあれが主役だったら……と妄想して、オリジナルのロボット、それも悪者ロボをデザインして展開しておりました。しかし、あまり売れませんでした。……まぁ、今思うと当然ですね。あまり需要がないところを攻めてしまっておりました。
そこで、次は女性型ロボにしようと考え、デフォルメスタイルの「ピコ」というロボットを発売しました。バイクがフレームとカウルを変えるとオフロードからレース用にまで対応できるように、ピコの素体にパーツと装甲を付け替えることで、コスプレのようにいろいろな姿になります。ピコは、けっこう売れました。もっと続けたかったのですが、ちょうどこの頃、本業の方でRPGの新規立ち上げという大きな仕事が入ったため、ガレージキットの制作・イベント参加はしばらく休止して本業に専念。その結果として造形活動に10年ほどのブランクが生じてしまいました。
そんな中、2011年に東日本大震災が起きました。その影響で1週間ほど会社が出勤停止になってしまったため、この自宅待機の時間を利用し今回の「機動動姫 MoMo」の元になるものを制作。これを複製し、2012年のワンフェスで発表しました。これはパーツが多くなりすぎたために販売はせず、あくまでも自分で楽しむ用としてイベントに展示だけしていたのです。それが中国のベンチャー企業の目にとまり、完成品として商品化したいと申し出がありました。おかげさまで、2016年に「MoMo」は中国製のPVCフィギュアとして発売されました。ガレージキットは、買っても作るのが大変なため、なかなか完成させてもらえない。……そのような悩みを抱えていた自分にとって、「塗装済み完成品」として販売できることは非常にうれしかったです。しかし、そのために価格は高くなり、また再販をかけづらいというデメリットもありました。
──それと、その中国企業が解散して製品自体が手に入りづらくなったそうですね。
島本 はい。立ち上げから撤収まで、中国は何もかもテンポが速かったです(笑)。しかし、このPVC版「MoMo」は多くの反響をいただき、また海外にもファンができました。自分としても気に入っていたため、もっと継続したかった。それで、次に「MoMo」を製品化するなら、「塗装済み完成品」のあえて逆、ユーザーが安く買えて、改造も塗装もできるプラモデルにしたいと考えていました。
そんな中、2016年に例のカードゲームが展開終了となりました。自分はこれに10年間かかりっきりでいたのですが、その間に組織も変わり、えらい人も居なくなり、世の中のゲームスタイルも変わってソシャゲが全盛。今からひとりで新規タイトルの立ち上げも難しく、年齢の事もあり、浦島太郎というか、もうここ(ゲーム業界)には居場所がないなと感じました。
そんな中で思ったのは「自分は一生、ものを創っていたい」ということです。定年後にただのおじさんになるのではなく、ひとりでも、90歳になっても、人に任せず自分の手で「もの」をつくる。そのためのスキルと人脈、キャリアを積むため退職に至りました。
──2019年にクラウドファンディングで、「機動動姫 MoMo」のプラモデル化のために資金を集めていましたよね。達成率は167%で、大成功に見えますが……。
島本 たくさんの方に支援して頂いて、本当に感謝しております。ところが、プラモデル化のためのリデザインや設計を進めていく中、当初の見積もりよりも倍ぐらいの金型制作費がかかるとわかりました。自分がマスキングが苦手なこともあり、デザイン上で色が違う部分はすべて別パーツにしていたのですが、そのせいで金型が大きく、また複雑化。しかし、ここで妥協して適当なものを安く作っても意味がないと考え、そのままの仕様で進めました。クラウドファンディングで集まった資金だけでは足りないので、貯金に加えて退職金も注ぎこんで、借金もして、ようやくプラモデル化にこぎつけました。しかし、リスクが高いので、このやり方は他人にはオススメできません。
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