Liyuu、高野麻里佳、内田雄馬、小倉唯──今聴くべき声優アーティストの新譜は、この4枚!【月刊声優アーティスト速報2022年3月号】
いま注目の声優アーティスト作品をレビューする本連載。2022年2月は、声優シンガーによるリリース活動が活発だった。そこで今月号では多数の作品から代表して、Liyuuさん、高野麻里佳さん、内田雄馬さん、小倉 唯さんの全4作品について振り返っていきたい。
■Liyuu 1stアルバム「Fo(u)r YuU」(2月9日発売)
中国・上海出身のコスプレイヤーから、日本の人気声優/アーティストに。そんな経歴を書いてみると、現在のアニメ/声優シーンを取り巻く状況も見えてくるだろうか。
オフショア、かつ近似ジャンルから新たな才能を発掘する。そんな期待が集まっているのが、Liyuuさんである。メディアミックスコンテンツ「ラブライブ!スーパースター!!」にて、劇中のスクールアイドルグループ「Liella!」の唐可可(タンクゥクゥ)役を演じている注目の人物だ。
“Kawaii” “CLUB” “ROCK” “Ballade”……1stアルバム「Fo(u)r YuU」にて、Liyuuさんが挑戦する4つのテーマがこちら。その内容は本作のアートワークが象徴するところだが、こうした色とりどりな方向性での表情を披露しながら、タイトルにある通り「FOR YOU=あなたへ」のメッセージを届けてくれるという。
収録順に沿って楽曲をいくつか抜粋すると、「めたもるふぉーぜ」は、脱力感とまでは言わずとも、全体的にゆるめの歌モノなフロウを奏でつつ、時折しっかりとしたラップでバイブスを上げるバランス感が面白い。フューチャーなムードを漂わせるチルトラップなサウンドは、TikTokなどのユーザーからも好感触を得られそうだ。
「カラフルホライズン」は、チップチューン的なエレクトロポップ。1番サビの〈空色ソファで飛ぼう スエルテ/リガ ハラジュク コッツウォルズ/タラップ スキップ 好奇心/あっちも こっちも どこ行こう?〉など、実在する世界の地名を並べながら、それを自由自在に飛び回る内容のフレーズに、彼女のワールドワイドな存在感が大いに反映されているように感じる。何より、おそらくこの楽曲の方向性も影響を受けていると思われるが、それこそ原宿の名前も出てくるくらいだし、きゃりーぱみゅぱみゅを本当に好きで聴いているのだろう。
デジロックチューン「BLUE ROSE」では、上海から東京へと生活の拠点を移し、表現者として夢を追いかけるLiyuuさんの境遇が、楽曲の主人公とどこか重なる。タイトルの“BLUE ROSE”、つまり青いバラは、もともとはこの世に存在しえなかった花。それが人の力により生まれたことで、“不可能”から“不可能を可能にする”と、花言葉さえ変わったものだ。そんな背景も押さえながら、ぜひ歌詞を堪能してほしい。
そこからさらにLiyuuさん自身の内面を深く掘り下げたのが、アルバムのラストを飾るバラード「Reply」。この曲で描かれるのは、コスプレイヤーになる以前に歌手を目指しつつ、その目標を一度は諦めたという想い。晴れてアーティストデビューを果たした彼女が、ファンへのメッセージソングとして何を歌うのか。泣き虫だが決して弱くはない、Liyuuさんの人柄を知れる1曲だ。
日本語の扱いには長けているLiyuuさんなのだが、ネイティブスピーカーではないからこそ、いい意味で言葉の輪郭がふわっとした響きをまとっているように感じる。これは決してネガティブな指摘ではなく、むしろ歌声がある種、デフォルメ化されたような印象を聴き手に与えてくれる。これは、声優アーティストとしては、オリジナリティに昇華できる点だろう。
だからこそ「カラフルホライズン」のように、一定の関連性を持った固有名詞を羅列しながら、まるで呪文のように、リズミカルにその言葉の響きを楽しむ歌詞が非常によく映える。常套句にはなるが、“歌声が楽器”のようなのだ。
前述した独特な発声スタイルのほか、リズムキープ、声そのもののオリジナリティ、そのキャラクターを発揮できる歌詞……あらかたの要素がもう全部ある。だからこそ、彼女の音楽活動は今後、さらに多くの支持を獲得していくに違いない。
本作で、多様なジャンルと引き合わせたという点で、制作スタッフがLiyuuさんにかける期待感や情熱が伝わってくる全10曲だった。
■高野麻里佳 1stアルバム「ひとつ」(2月23日発売)
毎年2月22日に誕生日を迎える高野麻里佳さん。昨年2月24日には、アーティストデビューシングル「夢みたい、でも夢じゃない」を発売した。2月末は何かと記念日づくしな彼女から、今度は2月23日に1stアルバム「ひとつ」が到着した。
同作に収録されるのは全10曲。うち新曲8曲すべてが、高野さんのアイデアから生まれたものだ。
表題曲「ひとつ」は、“高野麻里佳のテーマソング”として制作された1曲。完パケ時には、楽曲を聴いたマネージャーが涙したという逸話もあるという。この曲と同じく、彼女の嗜好するグッドミュージック調を引き継いだ「Oh my future」では、突き抜けるような力強い歌声を響かせる。そのほか、ドリーミーなメロディで、“ASMR”を意識した「Sweet Voice」、お祭り騒ぎな“和ロック”楽曲こと「カリソメアワー」などが、アルバム前半に並ぶ。
後半で印象的なのが、7曲目「Hide & Seek」。デビューシングルのカップリング曲「I tie U」を手がけた鈴木裕明氏による楽曲で、どこかサウンドの路線的に通ずるものを感じる。高野さんいわく、レコーディング時には「ビリー・アイリッシュを参考にした」という、ゾッとする恐怖感や不穏さがクセになるホラーロックだ(参考:声優アニメディア 2022年3月号)。
それに続くは、YOASOBIを筆頭とする“日常系ロック”のジャンルに挑戦した「夜更かして、午前2時」。日々の生活に全力投球できず、心に抱える本音をうやむやにしたまま、鬱屈とやるせない気持ちを、書き殴るようにキックする。いわば、高野さんのグレた一面を感じられる1曲だ。一転して、チルフレイバーな「Flavored hug」は、駅に流れるチャイム、スマホの着信音やカメラのシャッター音など、日常の生活音をSEとして挿入。大切な人とハグをした時、むしろ身体よりも近い距離感を感じる“香り”をテーマとした、とっておきのポエトリー浄化ソングだ。
本作で聴き比べてほしいのは、全曲を通じて、高野さんの歌声がまるで別人のように切り替わり、異なる質感を携えていること。簡単に言えば、声優としての職能である歌い分け(あるいは演じ分け)の技術のたまものなのだろうが、ここまで幅広い楽曲やサウンドにフィットするよう、表現の方向性を変化させられるとは。ここ数年間でリリースされた声優アーティストによるポップスアルバムを辿ってみても、かなりの指折りな作品だといえる。
いわゆる“高野さんボイス”な楽曲として、いい意味でナチュラルなオートチューン(エフェクト)がかかったように聴こえる、ハイトーンボイスでのフロアバンガー「Ready to Go!」。ある種、その対極的な位置付けとしての「Hide & Seek」や「Flavored hug」。まずはこの3曲を聴けば、前段落に記した内容も自然と理解してもらえるだろう。きっと、インタビューなどでまだ明かしていないような、年齢や性格、職業や背景にある人生観など、各楽曲にあわせた独自な人物設定もあるように思える。そんな可能性だらけの1枚だった。
■内田雄馬 9thシングル「Good mood」(2月9日発売)
実は、この2022年3月号にて、本連載も2周年を迎えるのだが(本当にありがとうございます!!!)、今回は初の試みとして、男性声優アーティスト作品について筆を執ってみたい。
ここで紹介するのは、内田雄馬さんのニューシングル表題曲「Good mood」。この楽曲に、前月号にて紹介した“とある作品”と、サウンドの観点で大きな繋がりを感じられたのだ。その作品とは、“夜”をテーマにしたコンテンポラリーR&B楽曲集こと、和氣あず未さんのコンセプトアルバム「あじゅじゅと夜と音楽と」。同作の詳細は前月号を参照いただくとして、今回は内田さんの作品を紐解くことで、ぜひ双方の作品の共通点を発見し、願わくば声優アーティスト以外でも、類似するジャンルの楽曲に手を伸ばすきっかけとなれば幸いだ。
「Good mood」は、表題曲としては自身初となるバラードナンバー。ひょっとしたら、このかなわぬ恋がうまくいくかもしれない。だが、きっとそうはならない。心のどこかでは悟っているが、思わず目の前の可能性に賭けてみたくなる。つまり、タイトルの“Good mood”とは、淡くはかない予感。そんな男心をうまくとらえた、大人びた切ない恋愛模様が歌詞では描かれる。
内田さんはレコーディング時、あえて自身の感情を前のめりにせず、ストーリーテラーのように物語を歌うことを意識したというが、本人の滑らかで、それでいて情熱的な火照りが漏れる歌声が、後述のサウンドとも好相性をはぐくんでいる。
また、楽曲のサウンドは、和氣さんのアルバム収録曲とは少し毛色の異なるものの、オントレンドなコンテンポラリーR&Bとなっている。ピアノ一本弾きの1番が終わると、2番からは打ち込みのビートと、オートチューン(エフェクト)を施したボーカルラインに移行。何より特徴的なのが、内田さんのリズムの転がし方と表現すればよいだろうか。〈もしかしてGood mood〉という、タイトルをからめたフックの歌い出しから、“u-u”の母音で終盤まで軽やかに韻が踏まれていく。ポップスとラップ双方の魅力をあわせ持つ、スムーズなグルーヴの作り方だ。聴き手を楽曲へとどんどんのめりこませ、何度もリピートしたくなるような心地よさを運んできてくれる。
2021年9月発売の2ndアルバム「Equal」で、自身の持つポジティブなメンタリティを表現するフェーズがひと段落したという内田さん。これまでタイミングを見計らって温め続けてきた「Good mood」のリリースには、新たな挑戦の意味合いがあったという。
ただ、本人がかねてより、こうした曲調の楽曲をひとつの武器とするアーティスト・三浦大知さんをリスペクトしているという情報を書き残しておけば、今回の楽曲が誕生した背景も、おのずと納得していただけるのではないだろうか。
■小倉 唯 4thアルバム「Tarte」(2月16日発売)
今年7月で、記念すべきアーティストデビュー10周年を迎える小倉 唯さん。新アルバム「Tarte」には、そんな10年間で築き上げた、誰でもない小倉さんの確固たるブランディングと、今後に続く表現者としての飽くなき探求心が詰め込まれている。
というのも、「Tarte」は自身初となるセルフプロデュースアルバムだからだ。彼女は本作に辿り着くまで、作詞のほかに、フォーメーションを含めたダンスの振り付け、さらにシングルボリュームでは、すでに作品のプロデュース経験を重ねるなど、自己プロデュース能力を磨いてきた。
今回、リード曲のMVで映像監督や、アルバムボリュームでのセルフプロデュースを担当するのも、もはや自然な流れといえるわけだ。
だからこそ、タイトルに掲げるのが、過去のアルバムに登場した、1stアルバム「Strawberry JAM」の〈いちご〉、2ndアルバム「Cherry Passport」の〈チェリー〉、3rdアルバム「ホップ・ステップ・アップル」の〈アップル〉を大盤ぶるまいに全部乗せした“タルト”というのも、大いにうなずける。
さて、リード曲「ta・ta・tarte♪」は、アルバムの内容を一手に代弁する1曲。夢や目標に向けてひたむきに努力をしながらも、それゆえにネガティブな出来事にぶつかってしまうなど、順風満帆とはいかない道のりが描かれる。まさに、小倉さんのアーティスト人生やメンタリティ、この楽曲でいえば“欲ばりかわいい”タルトが完成するまでをなぞるかのようだ。
また、〈タ・タ・ル・タル・タル・タ・タ・タ・ta・ta・tarte♪〉といったように、何かの呪文のようにダメ押しでキャッチーさを貫き通す大サビの振り切りまくった歌詞は、小倉さんらしさを結集した総攻撃。恐るべき「ta・ta・tarte♪」。This is 小倉 唯。
アルバムを締めくくる自身作詞の「桜色ラビネス」は、彼女の得意とする王道アイドルポップ路線曲だ。こちらの歌詞には、昨年7月に開催した配信ライブ「小倉 唯 LIVE 2021 「#Re♥LOVEcall」」で感じた想いが刻まれているとのことだ。その内容は、このライブ全体を通して表現された、小倉さんとファンが紡ぐかけがえのない毎日、あるいは幕間映像などで描かれたドキドキな恋物語の続編としても受け取ることができるもの。アルバムの最後の最後で歌われる歌詞が〈また会いたい〉というのも、なんて粋な置き土産なのだろう。
そのほか「PRISM BEAT」では、2021年8月発売の14thシングル表題曲「Fightin★Pose」より新規開拓された“オグラップ”の進化を披露。彼女と同世代のキャリアウーマンをイメージしながら、女性ならではの悩みや“強くありたい”という想いが、ストイックなメッセージとして届けられる。
また、ボカロP・Junky氏によるプロデュース曲「CiaoCiao Afternoon」は、“SNS映え”や“ASMR”を意識した1曲だ。小倉さんのTikTokアカウントでは、早くも同曲を使用した動画が投稿されているので、ぜひそちらもご覧いただきたい。
⇒小倉唯さんのTikTokアカウントはコチラ
(文/一条皓太)
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