「新幹線変形ロボ シンカリオンZ」完結記念インタビュー第1弾──「シンは自分の子供であり、魂を分け与えたような存在だった」津田美波が語る主人公・新多シン!

先日、1年間に渡る旅路の完結を迎えたテレビアニメ「新幹線変形ロボ シンカリオンZ」(以下、「シンカリオンZ」)。

Z合体など、格好いいシンカリオンZのメカニカルな魅力はもちろん、中盤以降はW主人公であるシンとアブトとの戦いや想いが熱い展開とともに描かれ、無事大団円となったことに安堵した人も多かったのではないだろうか。

アキバ総研ではそんな「シンカリオンZ」の完結を記念して、本作のメインキャラクターを演じた3人にそれぞれインタビューを実施。第1回は、新多シン役・津田美波さんのインタビューをお届けする。

ハヤトに背中を押してもらい、ようやく認められた気がしました

――1年間お疲れさまでした。まずは、シンを演じきった感想からお聞かせください。

津田 私もだと思いますが、なによりシンが人間としてすごく成長したなと感じました。最初の頃のシンはまだまだ幼さが残っているというか、未熟さのある子供だったんです。それに対してアブトは、「好きなことをバカにするな!」と言えちゃう成熟さや大人らしさがありましたよね。でも、そんなアブトがテオティという敵対する側に行ってしまって。アブトを取り戻すためにシンが手を差し伸べて、最後に手を取って「やっとつかまえた」と言えたのは、隣にもう一度立てることでもあると思うんです。本当に成長しましたよね。

――物語の展開は始まった段階ではわからなかったと思いますが、物語を通して重要だと感じたシーンや特に印象に残っているシーンをあげるならどこでしょうか?

津田 ハヤト(前作『新幹線変形ロボ シンカリオン』の主人公である速杉ハヤト)と出会ったところですね(第33話)。ハヤトに背中を押してもらって、私の中で芯ができたというか、ようやく「シンでいいんだよ」と認めてもらえたような気がしました。「シンカリオンZ」はW主人公、言い換えれば2本の柱でやってきたんですけど、その1本の柱が敵になって1本になってしまった時に気持ちが負けてしまいそうになることがあったんです。でも、前作で1本柱としてやってきたハヤトに認めてもらえた瞬間に、「シンはシンという1本の柱でいいんだ」と思えたのが本当に大きかったですね。

――ハヤトが出てきた時は、もしかして一緒に戦うのかな? と想像した人もいたと思います。

津田 池添(隆博)監督はシンとハヤトが一緒に戦う話も考えたとお聞きしました。それはそれで嬉しいですけど、逆にシンに任せてもらえたこと、一緒に戦って取り戻すのではなくシンがアブトとぶつかって取り戻す話にしてくださったことが本当に嬉しかったです。ハヤトは余分に引っ張り上げるのではなく、本当に必要な分だけ手を差し伸べてくれて。ありがたい存在ですよね。

――そのいっぽうで、ハヤトは相変わらず好きなことには早口になっていました。そこはシンも負けてられない感じもあったのかなと。

津田 負けていられなかったですね(笑)。私、ハヤトのキラキラ顔がすごく好きなんです。でも、シンのキラキラ顔もいいんだぞ!って見せたいと思っていたから、シンのキラキラ顔を大事にしなきゃと思って演じていました。

――ハヤトが活躍した前作も大人気でしたし、やはり本作で座長を務めるのはプレッシャーがありましたか?

津田 そうですね。前作がすごく人気作品で大事にされているからこそ、その続編を私たちがぶち壊しちゃいけないってプレッシャーはありました。とはいえ、つらい、とかではないんです。本当に楽しくやらせていただいたので。



津田さんが鬼頭さんに言いたかったこととは?

――ハヤトの登場もそうですし、物語後半は熱い展開の連続でした。物語についてはどのように感じていましたか?

津田 もどかしかったですね(笑)。アブトを助け出すのにひと筋縄ではいかなくて、これでなんとかいけたかな?と思ったらまたすれ違いが起こってダメだったり、セツラのことで誤解を生んでしまったり……。それがあったので、やっとつかまえた時にはホッとした気持ちでした。

――もどかしさは見ている側も感じていました(笑)。

津田 この作品は対話の必要性をすごく大事にしていて、やっぱりアブトとシンも対話が足りていないんですよ。対話したくてもできない状況ではありましたけど、対話しろ!って言いたかったです。

――そうですよね。ただ、その対話の前段階というか、シンカリオンZ同士なのに最後は拳で戦っていたのも熱いなと思って。

津田 いや〜、やっぱり男は拳なんだな〜って(笑)。そこがミソですよね。剣でザクザクと切ったりしていたら伝わるものも伝わらないですし、古くから伝わる拳というのは偉大だったんだなと思います。拳で語れとはよく言ったものだと。シンカリオンZってロボットだから、本来であれば中にいる人にリアルな傷はつかないはずなのに、武器ではなく拳で戦うのは、“ロボットだけど生身の人間が拳で対話している図”が描かれていてすごいなと思いました。

――2人の戦いもそうですし、戦いを経てダークシンカリオンがダークシンカリオンアブソリュートになる、闇が光になる展開も熱かったです。

津田 激アツでしたね。監督にどこまで最初から考えていたのか聞きたいんですよ。アブトはテオティ化したら姿も髪も真っ黒になるし、“アブソリュート”も“アブト”をもじっているわけじゃないですか。それって、いつから考えていたんですか?って。

敵になるわけだから、それを喜んだりキュンとしたりはいけないはずだけど……私は黒髪アブトも格好よくて好きなんです(笑)。(鬼頭)明里ちゃんに「黒髪のアブトってかっこいいよね!」って言いそうになるのを、いつも我慢していました。「ダメダメ、敵対する気持ちなのに、そんなことを言ったら複雑な気持ちにさせてしまう」って。でも、津田美波としては、黒髪アブトも格好いい!と思っていました。

――それは完全に津田さんの趣味ですね。

津田 趣味です(笑)。もう、ほんとに格好いいんですよ。闇と光を両方持っているアブトってすごくないですか? (属性の)総取りじゃないですけど、すごくうらやましいキャラクターだなって思います。最終的に敵の総大将に手を差し伸べるのもアブトだからできることだし、やっぱりアブトは格好いいです!

――ロボット同士でも差し伸べた手をつかんだり、抱きかかえたりするし、その後の2人の姿も微笑ましくて。

津田 そうなんですよ。2人が仲良く電車に乗っている姿とか、すごく微笑ましかったです。アブトって、敵対する前はシンに対してそんなに心を許していたわけじゃないと思うんです。でも、敵対したことを乗り越えたあとはアブトの微笑み率が高くなったというか、投げかける言葉もやさしい気がして。それって信頼の証だし、ちゃんと友達になれたんだなぁと思えて嬉しかったですね。最終話の碓氷家3人で電車に乗っているシーンで、ようやくアブトの子供らしい部分が垣間見られたのもよかったなと思います。

――何かつっかえてみたものが取れたみたいな感覚でしたよね。我慢していたのか強がっていたのか、いろいろあるでしょうけど。

津田 そうですね。アブトのお父さんもお父さんで、言葉がめっちゃ足りないので(笑)。「もう、お父さん! それは言わなきゃあかん!」みたいなところがありますから。アブトもそれを受け継いじゃったところがあると思うんです。やっぱり言葉で伝えるのって大事ですよね。

――そして、ラストシーンでの「シンの夢は」からのアブトが振り向くところは、序盤からの繋がりを感じられました。

津田 シンは最初から「宇宙人と友達になりたい」って夢を語っていましたけど、宇宙人は身近にいましたからね。でも、正直、アブトが宇宙人じゃなかったら友達にならなかったのかと言われたら、そうじゃないなと思うんです。アブトがアブトだったから友達になったのであって。結果として宇宙人だったというだけで、シンに「アブトが宇宙人じゃなかったらどうなの?」って投げかけたら、きっと「それでも友達になる!」って言うだろうなって。シンはきっと誰とでも友だちになれる。それが“宇宙人”という言葉に表されていたのかなと思います。

――「シンカリオンZ」はメインの運転士のひとりである月野メーテルをはじめ、コラボやちょっとしたオマージュもたくさんありました。そういったことは事前に知っていたのですか?

津田 全く知らなかったです。台本を読んでビックリしました。キティちゃん(ハローキティ)も唐突でしたけど、実は一緒に収録したんですよ。横にキティちゃんがいる!って(笑)。キティちゃんはロボット(シンカリオンZ)でもかわいくてすごいですよね。

それに、CMのオマージュとか、私そういうのが大好きなんですよ。子供は初めて観て「へぇ、こんなCMがあったんだ」ってなるけど、大人は「そうそうそう! このCM!」ってなるようなオマージュがあるのも「シンカリオンZ」の大好きな部分です。

男の子の喜怒哀楽や、押し返すのではなく“受け止める演技”は大変でした

――演技についてもお聞きします。男の子の役は以前からやりたかったとのことですが、改めてシンに決まった時のことや、どのように演じていったのか教えてください。

津田 シンを演じる前から少年役のオファーいただくことはありましたが、こうやって主人公の男の子をガッツリ1年間演じるのは初めてでした。最初は、私自身があまり女の子女の子した声ではないので、男の子役は素で演じられると思っていたんです。でも、マイク前に立ったら、男の子の気持ちや動き、どうやって怒るのか、どうやって喜ぶのか……喜怒哀楽が女の子とは違っていて。やっぱり素の津田美波は女性なので、ひと筋縄ではいかなかったですね。

――喜怒哀楽の中でも、特に怒ることに関しては、音響監督の三間(雅文)さんに結構言われたそうで。

津田 そうですね。バン!と頭ごなしに怒るのではなく「お腹で怒れ」と言われました。だから、私の台本には「腹筋」とか「お腹」っていっぱい書いてあるんですよ(笑)。悔しさやもどかしさといったものを全部込める時は、ただ低いだけではなくお腹の奥底から引き出すことが必要で、それがすごく大変でした。

――シンの声自体は津田さんの素の声と比べて極端に低いわけではないですが、そういう話を聞くと奥深さを感じます。

津田 演技って難しいなと思いましたけど、やっていて楽しかったです。男性と女性の怒り方の違いとか、「シンカリオンZ」に関わらなければなかなか勉強できなかった部分なので、私自身も本当に成長できたなと思います。

――物語の後半では、もどかしい気持ちや叫びなどが増えて怒りの質も少し変わったのかなと思います。演じ続けてきたことで、そのあたりは最初の頃よりもスッと出せるようになったのでしょうか?

津田 いや、怒りをスッと出すことはずっとできなかったです。怒りといっても、その時その時のシチュエーションによって感情が違いますし、声を張るのか、ひとりごちて言うのかによっても違いますよね。いろいろな種類の怒りや悔しさを出していましたけど、毎回スッとは出せなかったです。

――では、その中でも特に苦戦したシーンやセリフをあげるなら、どのあたりでしょうか?

津田 やっぱり最後のほうですね。アブトを救い出すために、拳で語っていたシーンは、それこそ本当に全力で殴るぐらいの気持ちで、声もそのぐらいの音量や声質になっていたと思います。

あと、(「E5ヤマノテ」が)シールドを出してアブトの気持ちを全部受け止めるシーン。ここは「押し返してしまうと、“受け止める”じゃなくなってしまうから、押し返すな。全部受け止めろ」と三間さんに言われました。でも、受け止めるにはどういう声にすればいいのか。言葉を出すものだから、どうしてもグッと押しちゃう部分があるんですけど、そうじゃなくて言葉を出しながら受け止めなきゃいけない。それが本当に大変でした。

――それにしても、小学5年生にして相手の気持ちを全部受け止めるってすごいですよね。

津田 そうなんですよ。シンってこんなに広い心、人を受け止めるぐらいの可能性があるんだと思って。成長というか、シンの人間としての幅(の広さ)が見えた気がしましたね。

泣きそうになるほど嬉しかった、あの人とのアフレコエピソード

――W主人公のひとりであるアブト役の鬼頭さんとは一緒に収録できたのでしょうか?

津田 アブトがテオティとして敵対している時は別組で収録していましたけど、それ以外はほとんど一緒に収録できました。

――ぶつかり合ったり受け止めたりするシーンなど、演じる時に2人でなにか話したことはありましたか?

津田 話し合いはそんなにしていなくて、話し合うよりも全力でぶつかっていました。OKが出た時には、2人とも息が切れていたんじゃないかってぐらい全力でしたから。アブトをようやくつかまえた時には、「お、終わった……」って呆然としてしまうぐらいのカロリー消費量だったと思います。

なので、明里ちゃんとは、ディレクションを通して「アブトにこういうディレクションが出ているということは、シンはこう受け止めなきゃいけないな」とか、そういう風に感じていました。たぶん、お互いがそうだったと思います。

――すごいですね。では、アフレコの休憩時間や待機時間はどんな様子でしたか?

津田 「ねぇアブトがさ」「アブト、すごい怒ってるけど、どうしよう?」といった話をしていました(笑)。アブトがテオティ側についた後も、「アブトがテオティ側につくとは思わなかったんだけど!」「何? アブソリュートって。かっこよくない?」みたいなことを、みんなで話していて。

――視聴者が友達と会って「昨日の見た?」「そうなると思わなかった」みたいな感じですね。

津田 本当にそんな感じです。逆に、話し合いが必要だったというか、アドリブが多かったのはアユ姉(新多アユ/CV.高尾奏音さん)とのかけ合いですね。アユ姉が出てくるのは日常パートなので、結構アドリブを入れる部分も多くて。たとえば、アユ姉と食べ物の取り合いをするアドリブでは、「私はここで『もーらい』ってそっちのをもらうから、そこで返して」といった計画を裏でしていました。

――アドリブといえば、ではないですけど、スマット役の福山潤さんともアドリブはありましたか?

津田 ありました。福山さんに提案していただいて、ここは合わせて言おう、と一緒に言ったセリフがあったりして。でもそれ以上に、福山さんにはすごく助けていただいたんです。

――それはどのようなことで?

津田 「シンカリオンZ」のアフレコをしたスタジオは特殊で、広いスタジオと個別スタジオが一体型になっているんです。福山さんはガラス張りになった個別スタジオに入って、私たちを後ろから見ている状況で録っていたんですね。

そんな感じでアフレコをしている中で、私はまだまだ未熟だからなかなか求められている演技が出せなかったり、時間がかかっちゃって申し訳なかったりして、ちょっと凹む時もありました。でも、私はシンだし、主人公だから暗い現場にしてはいけないと思って、暗い顔やしょげた姿を見せずに明るくふるまっていたんです。そうしたら、福山さんが個別スタジオから出てきて「大丈夫だよ」って声をかけてくださって……泣きそうになっちゃいました。本当に嬉しかったです。

――福山さんから見たら感じるところがあったのかもしれないですね。

津田 そうかもしれないです。福山さんだけじゃなくて、大曲ハナビ役の寺崎(裕香)さんや戸隠タイジュ役の鷄冠井(美智子)さんも、言葉でなにか言うわけではないですけどすごく支えてくださいました。2人はいるだけでほっこりするんですよ。シンも私と同じようにハナビとタイジュの存在がすごく頼りになっていたと思います。

――すごくいいチームですね。それって1年という期間を一緒に作ってきたことも大きいですよね。

津田 本当にそうですね。コロナ禍でチームワークを作りづらい状況ではありましたけど、それでも作品を通して作品愛やキャスト同士の絆が深まっていったと思います。みんながいたから、私もへこたれずにやることができました。

――では、最後にお聞きします。1年間演じてきて、津田さんにとってシンはどういう存在になりましたか?

津田 ずっと家で「シンってどんな存在なんだろう?」って考えていたんですけど、うまく言葉に表せなくて。結局、落ち着いたのは、自分の子供みたいだなってことでした。自分の魂を分け与えたような存在だと思っています。

最初の頃、シンと私は似ているところがないと思っていたんです。でも、(演じて)魂を分け与えていくうちに、どんどんシンって私みたいだなと思うようになりました。感謝祭(2022年2月19日開催「超進化研究所がおくる!シンカリオンZ感謝祭」)でも、キャストの皆さんから「(津田さんは)シンだ」「シンしかできん」と言われたんですけど、そのぐらい自分の中にシンがいて、シンの中にも私が反映されているのかなって。本当にかけがえのない存在ですね。

(取材・文・撮影/千葉研一)

(C)松本零士・東映アニメーション

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