【「怪人開発部の黒井津さん」特集!】「黒井津さんと一緒に成長できた」──放送終了記念、黒井津燈香役・前田佳織里インタビュー!
秘密結社アガスティアでヒーローを倒す怪人を生み出すべく日夜、研究に明け暮れるヒラ研究員・黒井津燈香を主人公に据えたアニメ「怪人開発部の黒井津さん」。
「怪人開発部の黒井津さん」は、「COMICメテオ」(フレックスコミックス)にて連載中の。水崎弘明さんによるマンガが原作のアニメだ。
正義と悪がぶつかり合う世界で、幾度となく正義のヒーローに倒されていく悪の怪人たち。秘密結社アガスティアの研究室でヒラ研究員として働く黒井津燈香は、予算やスケジュールと戦いながら、数多の怪人を生み出していく。
そんな黒井津さんの奮闘を描いたTVアニメ「怪人開発部の黒井津さん」が、ついに最終回を迎えた。さまざまなキャラクターが登場し、大きな盛り上がりをみせた最終回だったが、放送を終えたタイミングで、黒井津さんを演じた声優の前田佳織里さんに、改めてこの作品を振り返ってもらった。
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面白さが伝わってよかったです。「でしょ!」って言いたくなりました
──収録終えての感想をお願いします。
前田佳織里(以下、前田) 最終回の収録を終えたあとの気持ちはすごく覚えていて、やり切ったという気持ちがすごくありました。主演を務めさせていただいた作品としては2作目なのですが、最初の主演作品とはまた違ったベクトルでの責任を感じていました。
収録時は先輩の皆さんと同じブロックでお芝居をするという光栄な機会もいただけて、私としても毎話挑戦させていただいてきました。今はコロナ禍で、大人数で集まって収録することはできないんですけど、なるべく一体感が出るようにスタッフの方々が調整してくださって、チームワークのいい、温かい現場になっていたと思います。
もちろん寂しさもありました。これで終わりか、あれ?……って、帰り道に寂しくなって泣いてしまったり。生涯忘れることがない作品になったと心から思いました。
──豪華な声優陣でしたからね。
前田 声優になる前から作品を見ていた方々ばかりでしたし、いつかご一緒できたらとひそかに思っていた方々との共演がかなったいう意味で、黒井津さんと一緒に夢をかなえていったような感じでした!
──ちなみに一緒に収録していたのは、どなたなんでしょうか?
前田 基本的には梅原裕一郎さん(佐田巻博士役)と、天野聡美さん(ウルフ役)とやっていたんですけど、後半は、釘宮理恵さん(サラマンダー役)や堀江由衣さん(日賀谷雄杜/マギアズワルト役)ともご一緒させていただいたりしました。これもスタッフさんのお心遣いというか、主演としていろいろな方と掛け合いができたり話せたほうがいいだろう、ということだったんです。私も、「それならば勉強させていただきたいです!」と、収録後もスタジオに残って先輩の演技を拝見する機会をいただいたりしました。
──今は、他人のお芝居を見て学ぶ機会がないみたいですからね……。
前田 そうなんですよ! だからこそ生でお芝居をしている先輩の背中を、それこそ目を皿のようにしながら見ていました(笑)。
──放送の反応・反響はいかがでしたか?
前田 1話からすごい反響で、トレンドにも入っていましたし、自分でも感想を見たりしたんですけど、「本当に面白い」とか「令和のダークホース」って言われ方をしたりして、確かにそうだなって思いました(笑)。悪の組織にスポットを当てることもなかなかないですからね。新しい作品、ジャンルだと思うんですよ。
かと思いきや、「お仕事あるある」な笑えるところもあったりして、アニメスタッフさんの遊び心も満載で、毎話いい意味で予想を裏切られて、目が離せないんですよね。視聴者の皆さんが、一緒に驚いてくれるのが本当に嬉しかったです。
でも、「これはひいき目なしで面白い作品だ」ってアフレコのときから思っていたんです! 絶対に面白くなると思っていたので、それが伝わってよかったし「でしょ!」って言いたくなりました(笑)。
──やっているときは、自分たちだけの判断になるけど、それがみんなと共有できたときの「でしょ!」感はいいですね。
前田 天野聡美ちゃんとは、原作も面白いし収録も純粋に楽しいよねって話していたんですよ。それが真っ直ぐフィルムにも乗っていたんじゃないかなって思います。
──現場には特撮好きな方もいたのですか?
前田 メギストス役の稲田徹さんはやはりすごく詳しくて、最初の頃にご一緒させていただいたんですけど、ヒーローとお酒の話をさせていただきました! 先輩とゆっくり話す機会もなかったので、お話ができて嬉しかったです。
稲田さんは特撮作品にたくさん出られていますし、ほかのキャストさんもヒーロー物に関わっていらっしゃる方が多いので、ファンからすると「このキャスティングやばい!」ってなったと思います。
──絶対零度参謀メギストス様は、かなり面白いキャラでしたね。
前田 めっっっちゃ、理想の上司ですよね! 仕事が終わったあとに夜な夜な周りに迷惑にならないよう、PCを開いて仕事をしているとか、本当にかわいいんですよ!
──黒井津さんをちゃんとホテルに泊めて、自分はサウナ店で雑魚寝でしたからね。なんていい上司なんだって。
前田 心配をかけさせないように怖いことを言って、本当はどこにいるのか言わないでおく。本当に理想の上司ですよ!
──原作漫画も面白いのですが、アニメでパワーアップしているところも多かったと思います。アニメならではのよさはどこに感じていましたか?
前田 冒頭のナレーションもとてつもないキャスティングをしていましたし、ローカルヒーローが出てきたりしてびっくりしました。あと、EDテーマの「ご協力いただきましたローカルヒーロー様」でローカルヒーローが出てきて、最後に「このヒーローたちはフィクションではなく実在します!」って書いてあるのも面白かったです。いろんなパターンがあるEDテーマも面白かったですし。あと個人的には次回予告チャレンジですかね。毎回最後まで言わせてもらえないっていう。
──あれ、チャレンジだったんですね(笑)。やけに途中でぶった切られているなと。
前田 収録自体は全部録っているんですよ。意外と尺入りそうだねってところまでいっていることもあるんですけど、私もどう使われるかはわかっていなくて。で、オンエアを見てみると、思ったよりもぶった切られてて、笑っちゃいました(笑)。中盤の回では、だんだんイヤになりだしたり、急に略しだしたり、次回予告だけで笑いが組み込まれているのはさすがだなって。
──最初にサブタイトルが出ますけど、あれも絶対に読めないタイミングで消えますしね。あと、オリジナルと言えば、派遣社員の水木香恋と松山平気ですかね。
前田 せち辛いですよね(笑)。2人のいつもかわいそうな感じがすごくよくて。でもだんだん2人の関係性が変化していったり、見ていてほっこりする部分もあったりするから面白いですよね。あれも元ネタがあるって聞いて、すごい!って思いました。怪人開発部の黒井津さんの攻略本みたいなのが欲しいですよね。ここでこういうネタがありますとか(笑)。
──細かいネタはかなりありましたからね。
前田 有名なヒーローらしき人たちが居酒屋で話している第9話のエピソードも、すごくシュールで面白かったです。
──居酒屋でケンカし始めたローカルヒーローもちゃんとEDで紹介されていましたけど、これは鈴村展弘さんのコネクションが可能にしたものだそうです。どこの世界もコネクションは大事ですね。最終話もそんな内容でしたし。
前田 人脈は確かに大事ですし、人と人との助け合いって社会でも大切ですよね!
──そうですね。「社会人あるある」としても非常に面白い作品でした。
前田 特撮に詳しくない人も、普通にお仕事アニメ、コメディアニメとして見てほしいんですよ。しかも女の子たちがみんなかわいいんですよね。私はちょくちょく入るウルフくんのシーンが好きです。
──ウルフくんと黒井津さんって、結構いい感じでしたよね?
前田 ウルフくんの中身(脳)は男の子なんですけど、黒井津さんは母親のような気持ちで、全然異性としては見ていないんですよね。ウルフくんは俺も何か手助けできたらってがんばるんですけど、黒井津さんはさっとやれちゃうから、あまり手助けが必要ない、みたいな感じもいいですよね(笑)。
でも、だんだん黒井津さんがウルフくんをからかったり、後半にかけてはキュンとする部分があったりするので、2人のからみは見ていてかわいいなって思いました。
──それで言うと、カノン(CV.土岐隼一)とヒュドラ(CV.藍川ふみ、松田利冴[一姉・三姉]、松田颯水[二姉・四姉])の関係性もいいんですよ。
前田 そうですね! カノンくんめちゃめちゃ好きなんですよ。カノンくんは実写での爆破シーンでわしづかみにされました。急な実写!って(笑)。あれは本当に腹抱えて笑ったなぁ。「カノンく──ん!」って。(※第2話Cパート)
──叫んでいましたね(笑)。第2話の、めっちゃがんばって企画を考えても、トップのひと言ですべてがひっくり返るのは、本当に社会人あるあるなので、ぜひ多くの人に見てほしい。
前田 これから新社会人になる方はぜひ見てほしい! 最後にカノンくんが爆破されたあとの「そして、顧客に必要だったもの」っていうオチがすごく面白かった(笑)。
途中で流れていたBGMとか、飲み会のシーンでの「さぁ行くぞ! 行けるぞ!」って雰囲気、そこからEDテーマが明けた瞬間の爆破……。カノンくんはホントに面白かったな~。展開を知っていたのに面白いってすごいですよね。だいたいギャグアニメって展開が分かると、2回目3回目って突発的な笑いはこないんですけど、黒井津さんは笑えますよね。くだらないんだけど真剣にやっているから面白いし、そこがうまく成立している作品だなって思います。
──そこでカノンくんは退場するのかと思いきや、次の話で普通に出ていて、その後はずっとヒュドラといい感じになっているという(笑)。
前田 2話で見せ場が終わりかなと思いきや、そこから男らしいところを見せて、ヒュドラちゃんといい感じになっていましたね(笑)。3話で転職活動していたのも本当に面白かったなぁ。その転職活動も黒井津さんの大切にしている部分が表れていると思うんです。怪人への愛があるからこそ、ゆとりを持たせることによって、自由度の高い怪人になる。開発側が怪人自身の成長を決めないっていうのを大事にしているんですよね。
本人が危機になったときに自分で対応できるようになれるよう、怪人だけではなく、いろんなことを学ばせている。そこは「プロフェッショナル仕事の流儀」じゃないですけど、黒井津さんの仕事に対する熱意とか指針を感じました。ちゃんと怪人を作っているんですよね。
黒井津さんに出会えて、本当によかったなって心から思います
──開発した怪人で思い入れある怪人はいますか?
前田 後半だったら、怪人アイドルのマミーちゃんのエピソードが神回でした(第10話)。リハVを見ただけで泣いちゃいました。マミーちゃんはアイドルを目指すけど、声が出せないっていう。
──元は対剣神ブレイダー特化型怪人だから、しゃべる機能を付けていなかったんですよね。
前田 そこからアイドルを目指して必死に努力するんですけど、それを見ていて、私自身もアイドルコンテンツで活動しているから、すごく胸に来るものがあったんです。最終的に声が出てよかったねってところでは、感動し過ぎてちょっと泣きの芝居を入れてしまったんですけど、そこは泣かなくてもいいかもって演技指導をいただいたんです。黒井津さんはよかったねとは思っているけど、あくまで開発者としての冷静な一面というか、大人としての立場があるからそこは忘れずにいてください、というディレクションをいただいて「なるほど」と。でも、マミーちゃんの回は本当によかったです!
──曲を作っていたのがメギストス様だというオチもよかったですが、ここも黒井津さんの怪人への向き合い方がわかる回でした。
前田 怪人がヒーローを倒すためにがんばるというのもいいんですけど、黒井津さんの作り出した怪人って、ひとりひとり自立しているし、その人格を大切にしているところが、すごくいいなって思うんです。モノ作りを担う立場としても、黒井津さんは尊敬しているので、私も彼女みたいな仕事ができたらいいなと思っています。だから、ただのコメディではないんです! 黒井津さんは人生!
──では、好きなシーンはありますか?
前田 それはいっぱいあります!! 特に「魔法少女ピリアマギア」の2人が出てくるところはすごく好きなんです。
──田村ゆかりさん(式島玲央/マギアローゼ役)と堀江由衣さんですね。
前田 「やまとなでしこ」です! 発表された時もすごかったですよね。トレンドにずっと入っていましたし。あの2人の関係性が激萌えだし、シンプルにキャラデザも好きですし、魔法少女の感じがめっちゃかわいいと思うんです! で、玲央ちゃんがツンツンしていて、がんばり屋さんで引っ張る立場なんですけど、雄杜くんはちょっと支えたりするんですよね。それに雄杜くんが変身すると女の子になるというのもめっちゃいいなと思いました。
──堀江さんの男性声も楽しめますからね。
前田 それですよ。魔法少女だから女の子になっちゃうんだろうけど、2人の関係性がいいんです。あと剣神ブレイダーに変身する佐田巻健司との、お弁当屋さんでのシーンもいいですよね。毎話剣神ブレイダーとは戦っていますけど、ヒーローも大変そうだなって同情しちゃったりしました。それに、女性に免疫がないっていう設定もめちゃめちゃ好きで。メルティちゃんのバレンタインのチョコをもらったときは嬉しくなって、謎の感情になるとか。あそこの噛み合っていない感じがめちゃくちゃよかったです。
──あと、博士とブレイダーが兄弟関係だったことが第8話でわかったのは衝撃でした。普通に最初から名前が同じだったのでわかるんですけど、改めて同じ部屋にいるんだっていう。
前田 あの兄弟のスピンオフでもあったら見たいなって思いました(笑)。バレそうになったらどうするんでしょうね。そう思うと、みんな気づいていないのが面白いですね。
──黒井津さんと剣神ブレイダーといつも戦っているのに、お弁当屋ではまったく気づかないですからね。すごく近くにいるのに気づかないのはジワジワきます。そして最終話ですが、これはほぼオリジナルになります。原作のエピソードが足りなくて、原作の水崎弘明先生がほぼプロットを書いてくれたと斎藤久監督がおっしゃっていました。外資系企業からの買収の危機という、シビアな題材も入っています。
前田 12話は最終回ならではのエピソードで、「秘密結社ゼットアークが、いかにやばい組織かっていうのが分かるよう、お芝居もシリアスにガラッと変えてやってください」と言われていたんです。なので深刻にやっていました。あとは黒井津さんの中で絶対に触れてはいけない怒りが何度も湧き上がっていて、「ワンオフ怪人なめるんじゃないわよ! 怪人開発にはいくらでも可能性があるのよ!」っていうのを、心を込めて言いましたね。バタバタ展開ではあるんですけど、そういうところは見ていても胸が熱くなるところでした。
──ここまでで、怪人への愛情はわかっていましたから、モノみたいに怪人を扱う組織は許せなかったでしょうしね。変身もしましたけど、どうでしたか?
前田 大変でした! まさかブラックブレイダーになるとは……。収録はご一緒できなかったんですけど、寺島拓篤さんの剣神ブレイダーの演技にすごく助けられたと思います。寺島さんの入れた声を聞きながら戦いのシーンを演じたんですけど、寺島さんの存在感だけで自分はやりやすくて、ブレイダーと共闘するというのはこういうことなんだなって思いました。だから自宅で練習していた時には出なかった演技が出ましたね。
でも何より画がカッコよかったんですよ! カットがめちゃめちゃ早いし、ボコボコにするシーンとかもあったんです。は!は!は!は!はー!みたいなところは、ボールド(セリフの尺のこと)は気にせずにやってくださいということだったので、スピード感重視で、ラスボスがタコ殴りにされている感じを意識しながら演技させていただきました。
──せっかくのヒーロー物ですし、ヒーローになって必殺技を叫んでみたいとかは思いませんでしたか?
前田 めっちゃ思っていました。黒井津さんも「カノンく──ん!」とか叫んではいたんですけど(笑)、悪の組織にいる時は、カッコいい黒井津さんを意識していたんです。でも、ヒーローになった瞬間に、黒井津さんがブラックブレイダーになるならばどうするのかっていうのをすごく考えましたね。めちゃめちゃカッコよくなったし、こんな大事なシーンを任せていただけるのは光栄だなって心から思いました。そして杉田智和さん演じられるゼットアハトの冷酷さと有無を言わせない威圧感がものすごくて、収録されたセリフを聞きながらお芝居させていただけたことも嬉しかったです。本当にこの作品を通して、黒井津さんと一緒に成長できたなって思います。
収録は終わってしまいましたけど、これからもお仕事をしてく中で辛いこととかがあったら、黒井津さんがふっと頭を浮かんで、背中を押してくれることがいっぱいあるんだろうし、黒井津さんに出会えて本当によかったなって心から思います。
──前田さんにとっても、大きな作品だったんですね。
前田 大げさですけど、黒井津さんを演じたことで、お芝居観とか、声優人生も結構変わったと思っているんです。それでいて、お仕事をするうえで大切なことも学べるし、でも肩肘張らずに見て楽しむこともできるので、本当にいい作品です。もう黒井津さんは心の友みたいな感じになっているし、私の人生にとってなくてはならない作品なので、ぜひ皆さんもこの作品を心の友にしてもらいたいです。
──皆さんの声が届けば、2期へとつながっていくはずです。
前田 黒井津さんたちも、きっとそんな話をしているんでしょうね。次は第2期のPR怪人を作りましょうよとか言っているかもしれません(笑)。
(取材・文・撮影/塚越淳一)
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