アニメライターが選ぶ、2022年冬アニメ総括レビュー! 「平家物語」「怪人開発部の黒井津さん」など、5作品を紹介!!【アニメコラム】
2022年冬アニメの中から注目の5タイトルを総括レビュー。誰もが知る古典文学をアニメ化した「平家物語」、写真の世界が舞台の「時光代理人 -LINK CLICK-」、コスプレがテーマのラブコメディ「その着せ替え人形は恋をする」、COMICメテオ連載のコメディが原作「怪人開発部の黒井津さん」、WOWOW開局30周年記念オリジナル長編アニメ「永遠の831」、5作品をピックアップしました。
アニメオリジナルキャラクターの[びわ]が、視聴者と重なる存在であるのは言うまでもない。先を見通す右目によって平家が滅亡することを知っており、未来には介入できないという共通点に加えて、物語の後半では時や場所を問わず平家の一族の前に現れて、彼ら、彼女らを驚かせる。「見ても何もできぬのなら、何も見とうない」と語っていたびわが、見届けて語り継ぐことを決意し、登場人物から超常的な存在へと変わっていく様子が映し出されている。
そのいっぽうで、語る言葉を持たない平盛子の存在感も恐ろしい。9歳で嫁ぎ、11歳で夫を亡くし、24歳で急死した盛子は、公式サイトの相関図に名前が記されていながら、セリフがひと言もない唯一の人物だ。4話で初めて現在の姿を見せたときは、すでに亡骸になっており、受け継いだ財産を守るために新しい嫁ぎ先を探してもらえず、平家の犠牲になった人物として語られる。後継者になった女性たちが鮮烈な記憶を残す傑作。
写真館を営むトキとヒカルが、依頼者の写真の中に入ってミッションを解決していくSFサスペンス。トキは撮影者の精神に乗り移って写真の世界で行動する能力を、ヒカルは写真撮影後に起きた出来事を把握する能力を持つ。過去にダイブして、機密情報を盗み見したり、誘拐犯の手がかりを探ったりと、探偵ものとしての魅力が備わっている。
「過去の改変をしてはならない」というルールがあるため、トキはヒカルが指示したセリフをしゃべり、命令通りに動かなければならないが、正義感の強さゆえに暴走することもしばしば。アドリブを連発する役者と、それに手をこまねく監督のような関係性は、ほかのバディものにはない面白さだ。もともとは中国のWebアニメであり、スコープサイズで描かれる中国の都市や田舎の背景美術も見どころ。割り勘のときにスマホを取り出す仕草があるなど、文化の違いがうかがえるのも興味深い。
第11話、五条新菜(ごじょうわかな)は喜多川海夢(きたがわまりん)のコスプレを撮影中、図らずも勃起してしまう。あらゆるカメラアングルを試していたところ、いつの間にか騎乗位の体勢になっていると気付いたからだ。五条のはく作務衣は怪しげにふくらみ、上に乗った海夢の臀部を押し上げていく。その力強い描写から、彼に与えられたギフトが裁縫だけではなかったことを知らされる。
これまでもTVアニメというメディアでは勃起がたびたび描かれてきたが、多くは間接的な表現に留まっていた。目撃した相手の反応だけを見せたり、似たフォルムの動物に置き換えたり、サーモグラフィーを通してみたり、「もっこり」というセリフはあれど、股間は映さなかったり……。五条の勃起は原作通りの展開とはいえ、作品において欠かせないエッセンスがあるからこそ描画されたに違いない。
振り返ると「着せ恋」は、和の世界に洋のテイストが闖入(ちんにゅう)してくる物語だった。メイド服などの洋装を好む海夢は、五条にコスプレの衣装作りを依頼し、和室に押し入って水着姿を披露し、夢の中にまで現れてスカートをまくり上げる。みだらな夢を見た五条をとがめるように日本人形の頭が睨んでいるカットからは、禁欲的な和と官能的な洋という対比さえ思い浮かぶ。そう考えると海夢が和服しか持たない五条に洋服を着せようとショッピングに行く場面は意味深である。あの作務衣を破らんばかりの怒張も、これまで侵入を許してばかりだった五条が、ついに内から外への進撃を開始するという点において重要だったのだろう。
続く最終話では、五条が甚平、海夢が浴衣を着て、夏祭りに出かけるエピソードで締められる。初めて同じ和服に身を包んだ2人がこれからどのような物語を歩んでいくのだろうか。
悪の秘密結社・アガスティアで働く研究員・黒井津燈香が、無敵の変身ヒーロー・剣神ブレイダーを倒すため、怪人開発に勤しむアクションコメディ。悪の組織側をメインに描いた作品で、特撮番組のパロディ要素が多数盛り込まれているが、注目は北海道から沖縄まで全国各地に実在するローカルヒーローがそのまま実名で登場するところだ。
福島県白河市のダルライザーはただのおじさんがコスプレをしただけではあるが、ダルマさながらの七転び八起きの精神で何度倒しても起き上がるなど、ユニークなヒーローが多数登場。日本にはこんなにたくさんのヒーローがいるのかと驚かされ、その多彩さに誰もがお気に入りのヒーローを見つけられるだろう。2000年代後半にアニメ化された「天体戦士サンレッド」もゲスト出演。アニメ版のキャラクターデザイナーが作画を手がけている点もファン心をくすぐられる。最終話は協力団体の名前がズラリと並ぶエンドクレジットが壮観で、このためにヒーローを大勢出していたのかと感激してしまう一作。
主人公は新聞奨学生という珍しい設定が興味を引く本作。早朝の配達はもちろん、新聞代を滞納している購読者への集金も仕事であり、ひと癖もふた癖もある厄介な客とのやりとりは、ニュース番組の特集コーナーを見ているようなリアルさがある。だが「返品するから金は払わん!」と新聞の束を投げつけられた瞬間に物語は一変。新聞は宙に浮かんだまま、世界は静止してしまう。主人公は怒りが頂点に達すると、自分の意思とは無関係に時間の流れを止める能力者だったのだ。
しかし人智を越える力を持ちながらも、それを使って何かを成し遂げようという意思は主人公にはない。ただ時間が止まった世界で客の家に侵入し、金を取って新聞代に当てるという日々を過ごすだけ。きちんと領収書を置いて帰るところも小物っぷりを際立たせる。多くのアニメで時間操作能力者が重要な位置を占めてきたのに比べると、あまりにも情けないではないか。この無力感が極まるのは、同じ能力者の存在を知った際、動けるのにも関わらず止まったフリをしてやり過ごすシーンだ。モーションキャプチャを用いた3DCG作品でありながら、動かない芝居を求めるという束縛感も相まって、サスペンスフルな場面に仕上がっている。
そしてもっとも驚くべきは、本作がWOWOW開局30周年記念アニメとして制作されたことであろう。この30年間、日本は止まったままだったというメッセージは、我々にとっても決して無縁ではない。平均給与は変わらないままだし、アキバ総研のアニメレビューの原稿料は8年目を迎えても上がる気配を見せない。「永遠の831」の世界のように止まったままだ。現代にはびこる閉塞感を打ち破るために、まずは報酬のアップを期待して待ちたい。
(文・高橋克則)
(C) 「平家物語」製作委員会
(C) bilibili/BeDream
(C) 福田晋一/SQUARE ENIX·「着せ恋」製作委員会
(C) 水崎弘明・COMICメテオ/「怪人開発部の黒井津さん」製作委員会
(C) 神山健治・CRAFTAR・WOWOW/「永遠の831」WOWOW
おすすめ記事
-
アキバ特価情報(2022年8月19日~2022年8月21日)
-
Switch向けダウンロード版ゲーム「パズドラGOLD」、2020年1月15日より配信開始!
-
「SPA!デジタル写真集 三橋くん『甘美な誘惑』」発売記念! 純白ビキニで美しいプロ…
-
タカラトミーの新ホビーレーベル「T-SPARK」からTOYRISEシリーズ誕生!「ガオガイガ…
-
Ka signatureより機動戦士Zガンダム MSVシリーズが始動! 第1弾「量産型百式改」登場…
-
「機動戦士ガンダム 水星の魔女 ヴァナディースハート」より、キユウ・ラボットの駆…
-
【開店】「ペッパーランチ 秋葉原中央通り店」、末広町駅すぐ近くに新規オープン!…
-
10月発売の「薄桜鬼 真改 天雲ノ抄」PV&特典情報公開!豪華「オトメイト ロイヤルス…
-
【TGS2019】「FFVII」に「聖剣伝説3」に「龍が如く」に……最新ゲームを遊び倒してきた…
-
「機動戦士ガンダム」の名シーンからインスパイア!「THE LAST SHOOTING」をテーマに…
-
【閉店】「鶏そば鯛そば きょうすけ」が、周辺地域の再開発を受けて明日9月30日(土…
-
「鬼滅の刃」胡蝶しのぶの誕生日記念PVが2月24日(金)0時にプレミア公開!