絶賛公開中「映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」のキーマンが語る! 木下麦監督×平賀大介プロデューサー×伊藤裕史プロデューサー対談

「映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」が大きな話題を呼んでいる。映画公開から4週目で興行収入が1億3000万円を突破と、小規模公開の劇場アニメ作品としてはかなりのヒットになっている。

2021年4月から6月までTVアニメとして放送された「オッドタクシー」は、ファンシーでユーモラスな動物キャラクターからはイメージできない謎に満ちた展開とサスペンスな内容で、多くの視聴者から注目を集めた。芸人やラッパーといった個性的なキャストを多く起用し、本物のお笑い芸人であるダイアンに、お笑い芸人の悲哀を演じさせたシナリオも話題となった。

クチコミでじわじわと人気が拡大していったという経緯も、近年のアニメーションでは異色だ。

そんなTVシリーズを、物語に関わった人たちの証言集という形で再構成し、新作パートを加えた「映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」が公開されたのは、2022年4月1日のこと。冒頭で述べたように異例のヒットとなった本作は、その好評を受けて劇場公開のセカンドランに突入する。

このタイミングで、木下麦監督、P.I.C.S.の平賀大介プロデューサー、ポニーキャニオンの伊藤裕史プロデューサーという本作のキーマンお3方に、「オッドタクシー」について語っていただいた。

「オッドタクシー」前夜を振り返る

──「映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」を昨日改めて見に行ったのですが、池袋の劇場は満員御礼でした。公開3日間で興行収入5200万円を突破したとうかがいましたが、大台は超えた感じでしょうか。

平賀大介プロデューサー(以下、平賀) 1億円はもう超えてますね。

伊藤裕史プロデューサー(以下、伊藤) 2週間で超えていたと思います。

平賀 非常に順調です。ここからまだセカンドランもあるので、いい状況で来ているなと思います。

──ありがとうございます。では改めて、まずは作品の入り口、「オッドタクシー」という企画の成り立ちからうかがえますか。

木下麦監督(以下、木下) 5~6年前に、動物のキャラクターで大学生のリアルな人間ドラマをやりたいという内容の企画書を平賀プロデューサーに出しました。平賀プロデューサーのその時点の反応としては、キャラクターデザインは面白いけど、内容や話はパンチが弱いかもしれないという意見でした。

──初期の企画が大学生の物語ということは、樺沢太一の自分探しや自己顕示欲、田中が承認を求めてガチャに傾倒していく感じなどが企画の原型に近い?

木下 当初はそこまで踏み込んだテーマは掲げていませんでしたが、イメージでは主人公は樺沢で、大学生の日常を描く話だったと思います。そこから勝負できる企画として改めて練り直す中で、かわいい動物のキャラクターと物語のギャップを出して、リアルなサスペンスとドロドロした人間模様を描くことを根っこのコンセプトに置きました。その後、脚本家の此元和津也さんにチームに入っていただいて、その3人(木下監督、平賀P、此元さん)で企画がスタートしました。

平賀 企画を詰めながら製作委員会の組成を進めている時に、伊藤さんのいるポニーキャニオンに話を持って行って、その際に面白いと言っていただきました。そうやって企画としても事業としても「オッドタクシー」が始まっていった感じですね。だいぶ長い期間の話をまとめて話しましたが(笑)。

伊藤 最初に企画を見た時は、言葉を選ばずに言うと、深夜アニメの法則に沿ったものでは全くないアニメーション、企画なんだろうなという印象を受けました。深夜アニメをメインにやっている会社は受け取れないだろうな、受けても社内の理解が得られないだろうなと思ったんです。その点、ポニーキャニオンは実写作品の製作なども行なっていたので、サブカルチャー寄りのIPというものについてほかの会社さんよりは通せるかもしれない……と感じました。でも正直うちでもなかなかに難しいと思えたので、どうやって企画を通そうかと腐心しました。

平賀 その前から企画をあちこちに持っていっていて、担当者は面白いと思っても、会社を通すのは難しかったということも実際ありました。伊藤さんは企画の基本は何も変えずに、これは面白いと思うということで生かして、通してくださいました。それは本当にありがたくて、クリエイターの側に立ってもらえたのはよかったなと思います。

伊藤 そのうえで、うちが入らせていただくにあたって、主題歌やパッケージビジネス、委員会の運営などの面で、この作品を最大化するにはどうすればいいか、という提案をさせていただきました。だから「オッドタクシー」では、僕がビジネス寄りのことをするプロデューサーで、クリエイティブのプロデュースを平賀さんに担当していただいた感じです。そのあたりの分担がほかの作品と少し違うポイントだと思います。



キャスト、オーディオドラマと散りばめられたギミック

──プロジェクトとしては、ミキ、ダイアンといった吉本興業の芸人や、METEORさんのようなラッパーなど、非アニメジャンルから参加したキャストも印象的です。そのあたりの経緯や意図をうかがいたいと思います。

木下 全体的にコメディの要素も大きかったので、会話の間(ま)や言い方がとても重要になってくるなと脚本段階から思っていたんです。僕も此元さんもお笑いがすごく好きで、プレスコという収録方法を提案していたこともあったので、本職の芸人さんに参加してもらって真価を発揮していただけたらいいなと考えました。

平賀 芸人さんには芸人さんの間でやってほしいね、とは監督とも話していました。そして作品的に、もともとのアニメファンの人たち以外の層、カルチャーに敏感な人たちにも見てほしい、反応してほしいという意図もありました。やっぱりラッパーさんやお笑い芸人さんの出演をきっかけに興味を持ってもらえることもあると思ったので。僕はアニメ業界の知見は少ないので、伊藤さんたちにも意見をもらいながら夢プランを作っていたら、運やタイミングにも恵まれて希望していたキャスティングが実現していきました。

──ミキ、ダイアン、トレンディエンジェルのたかしさんといった顔ぶれのキャスティングの理由、期待していたことなどあれば教えてください。

平賀 ダイアンさんは監督が大好きだもんね。

木下 大ファンだったというのもあります(笑)。あとは関西人のキャラクターで、ギミックとしてラジオを入れたいというアイデアもあったのでお願いしました。樺沢はこもり気味の声で、失礼な言い方かもしれませんが「イキリ陰キャ感」が出ればいいなと思って、たかしさんにオファーしました。

──たかしさん演じる樺沢の演説は、声優とも芸人ともまた違う独特の雰囲気がありますよね。

平賀 いいですよね。

木下 独特な感じですね。

──ホモサピエンスのお笑いコンテスト14年目に対する想いとか、ハガキ職人の長嶋の、痛いんだけど芯を食ってる感じとか、お笑い周りの解像度が非常に高い印象です。

木下 そのあたりは此元さんがお笑いへの造詣が非常に深いので、そこから出てきたものだと思います。

平賀 お笑い芸人の描写に関しては監督の感覚も入ってるよね。ハガキ職人が出てきて、みたいなディティールは此元さんだと思います。タクシーの中で聞こえてくるラジオというものをうまく使えたらいいよね、という話はすごくしていました。

──声優のキャスティングも基本は指名だとうかがいました。無口な中年タクシー運転手に花江夏樹さんという、一番旬の声優さんを起用するのは面白い試みですよね。

木下 そうですね。小戸川は順当に考えたら枯れた渋めな声だと思うんですが、彼にも大きな裏の設定があるので、普通の声にはしたくないなという考えがありました。若い時にトラウマになる出来事があって、どこか時が止まっているような(小戸川の)キャラクター造形が僕の中にあったんです。だから声の中に活力や若さがある花江さんに、新しい試みとしてオファーさせてもらいました。

──TVアニメの放送中には、YouTubeでオーディオドラマが配信されて、リアルタイムで物語の裏側が描かれたり、新たな謎が投下されたりといった仕掛けがありました。このギミックはどのように生まれたのでしょうか。

木下 大体本編の9話ぐらいを制作しているころだったかな? 製作陣の方からそういうギミック、新しい仕掛けをやりたいという相談がありました。

平賀 プロデューサーの宣伝会議の中で出てきたものなんです。この番組は考察が絶対盛り上がるから、そこをさらに盛り上げたいよねと。

伊藤 言い出したのは僕だったと思います。実はTVアニメの「オッドタクシー」はかなり脚本を削っているんですね。積み上げた設定や展開を尺の関係で出せていないキャラクターがかなりいて、それがもったいないなと感じていたんです。だったらWeb配信のオーディオドラマとしてリンクさせて深みを出すのはどうですか?みたいな。その頃、実写ドラマの「あなたの番です」の展開を見ていて、日本テレビでドラマを放送しながら、Huluで各部屋の話を配信するような仕掛けがあって、それでキャラクターの設定を積み重ねているなと思っていたんです。そのあたりもヒントに、オーディオドラマで少しでも設定や描写を拾えたらいいな、そしてファンが楽しんでくれたらいいなということで提案させていただきました。

平賀 脚本がかなり長めに上がっていたので。そこからカットした部分と、新たな書き下ろしを加えてオーディオドラマを作っていきました。でも結局、ほとんど書き下ろしになったんですけどね(笑)。

伊藤 ボールペンというギミックを用意した時点で、ほぼ完全に新作書き下ろしに近いことになりました(笑)。

平賀 それでアニメチームに相談して、こういう形でボールペンを作中に登場させられますか?という無茶な後出しじゃんけんをお願いしました。

──制作途中にそういう追加要素が入るのはなかなかに大変なのでは。

木下 そうですね、その頃は9話あたりの制作中だったので、さかのぼって絵コンテにボールペンを入れたりして、確かにちょっと大変でした。でも結果的にすごくいいコンテンツに仕上がったので、よかったと思います。

平賀 時系列を整理しないと自分たちでもわけがわからなくなる感じでしたね。監督が作った時系列表に、ボールペンはこの時点ではここだという資料を作って、此元さんと共有しながら作っていきました。

ファンの声で動き出した映画版

──そして今回、「映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」が制作されました。制作の経緯を伺えますか。

平賀 TVシリーズの放送が終わって、一段落した夏ぐらいだったかな。アスミック・エースさんから「とても面白かったけど映画の予定はありますか」という問い合わせが来たんです。その時点ではそんな話はなかったので「具体的には決まっていません」とお答えしたんですが。

──放送後の好評や、ファンの盛り上がりを受けて映画が動き出した。

平賀 そういう形になりますね。

──TVシリーズは、謎は残ったものの余韻を残すという意味で素晴らしい終わり方をしたと思います。そこから映画で何をどう見せるか、監督はどのように考えていたのでしょうか。

木下 TVシリーズは、あれはあれでいい結末だったと思っています。ですので、映画で最終回のあとを全てがっつり描き切ってしまうのは無粋だとも思ったので、かゆいところに手を届かせつつ、いいところで終わらせる、そんなさじ加減を考えながら制作しました。

──物語を決着させるというよりは、新たな謎を配置するような、これからにも期待できる構成にも感じました。

平賀 コンテンツとしてはきれいに終わったんですけど、非常に大きな反響をいただいたこともあって、このまま終わってしまうのはさみしいな、という思いはみんなありました。続編という形はあまり考えていなかったと思うんですが、「オッドタクシー」の世界をもっと楽しめる仕掛けはないだろうか、という話はずっとしていました。TVアニメの最後はすごくきれいだし、謎が残る感じがいいなとは思っていたんですけど……。これは僕個人の見方になりますが、小戸川に対する思い入れがとても強くなっていて、ちゃんと答えを出したい、見たいなという思いが生まれていて、そこは視聴者のみなさんと同じだったんじゃないかと思います。

──TVアニメシリーズの構成はなぞりつつも、新たな作りこみが随所にあって、大変な労作だと思います。制作の大変さや、こだわったポイントなどについてうかがえますか。

木下 もとの映像が5時間ぐらいの尺があるので、それをまず1時間40分ぐらいにまとめるために、必要なシーンとそうでないシーンを切り分ける編集作業が大変でしたし、ちゃんと伝わるものにしようとこだわってやりました。新規カットについてはキャラクターの性格やバックボーンが僕の中でしっかり芽生えていたし、愛着もわいていたので、キャラクターの感情の面をより細かく描けたのではないかなと思います。

平賀 前半パートをしっかり描かないと最後のシーンも心に響かないので、大変な作業だったと思います。前半は証言という形で再構成して、TVシリーズを見てもらった人には復習をしてもらい、初めての人には物語を知ってもらう。そして終盤は、事件の流れをオンタイムで一緒に楽しんでもらえればと話していました。

──編集は大変な作業だと思いますが、映画でここは見せないと、という方針やこだわりはどのあたりだったのでしょうか。

木下 女子高生失踪事件を中心にしていくということは決めていました。ホモサピエンスや長嶋の話は、そこから外れるのでかなりカットしています。あとは12月25日に起きることはリアルタイムで見せようと思っていました。

平賀 カットしている部分もあるんですが、一気にまとめてみる分、いろいろな情報を拾って覚えたまま最後に突入できるよさもあると思います。

──最後の最後に用意されていた映像は、とても驚きました。

平賀 ああいう仕掛けを入れるのも面白いかなと思いまして。何か決まった展開をイメージしてというよりは、これから続くかもしれない「オッドタクシー」の世界を楽しみにしていてほしいという気持ちですね。チャンスがあれば常に何か仕掛けていくような、ファンの人を安心させないのがオッドタクシーらしいかなと。

──映画に対するファンの皆さんの考察や反響を、リアルタイムで見てどう感じていますか?

木下 いい意見も悪い意見もあったのかなと率直に思いましたが、反響はクリエイターとしてはいい試練というか、映画制作はいい経験になったと思います。

平賀 Twitterとかの感想をけっこう見ているんですが、皆さん本当にリテラシーが高いというか、決定的なネタバレはあまり目にしませんね。作品としてコラボしたfusetter(ふせったー。伏せ字でツイートができるサービス)を見ていると、テレビシリーズの時と同様、かなり深いところまで核心に迫っている人もいますね。もちろんわからない、だれか教えてという人もいて、幅が広いなと感じています。そういう温度感みたいなものは、TVシリーズの頃と変わっていないと思います。

──最後にファンの皆さんにメッセージを、ひと言お願いします。

伊藤 「オッドタクシー」のワールドとこのチームが仕掛ける「仕掛け」を引き続き楽しんでもらえればなと思います。

平賀 どういった形になるかはともかく、「オッドタクシー」の世界を楽しんでもらえる仕掛けはこれからも用意したいと思っています。それを楽しんでほしいです。

木下 僕もほぼ同じです。コミカライズのほうは続いているので、漫画の最終巻も楽しみにして読んでもらえればと思います。

──ありがとうございました。

(取材・文/中里キリ)

©P.I.C.S. / 映画小戸川交通パートナーズ

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