バサラの痛み、ミレーヌのとまどい……「マクロス7」第5話は、最終回へ向かって静かに走りはじめる【懐かしアニメ回顧録第90回】

今年、「超時空要塞マクロス」(1982年)が、放送から40周年を迎える。その後につくられた続篇の中でも、1994年に放送された「マクロス7」は、テレビシリーズとして2番目の作品。全49話を通して、主人公・熱気バサラが歌の力で戦争を終わらせるまでの苦闘が描かれる。
第1話~第4話まで、バサラは謎の敵が来襲するたびに愛機であるファイヤーバルキリーに搭乗し、武器を使わずにスピーカーポッドを撃ちこんで彼らに歌を聞かせつづけた。彼と同じバンドに所属する少女・ミレーヌは、バサラの突発的な行動を疑問に思っている。しかし、第5話で状況に変化が訪れる。バサラやミレーヌたちが暮らすマクロス7船団の居住区に敵が潜入し、バサラは民間人を守るために、やむを得ずミサイルを撃ってしまうのだ。
歌の力を信じて、それまで決して引き金をひかなかったバサラ。しかし、1度目はたまたま、2度目は自分の意志でミサイルを撃ってしまう。彼の受けた衝撃がどのように演出されているか、子細に第5話を見ていこう。

“重さ”と“痛み”を感じさせる、重力下でのロボットアクション


バサラとミレーヌは、レックスという女リーダーに率いられた暴走集団にからまれる。彼女たちがバサラたちの演奏するライブ会場を訪れたとき、いつも襲来する敵のロボットが船内に潜入する。敵ロボットが居住空間を襲うのは、この第5話が初めてのことだ(それまでは宇宙空間が戦いの舞台だった)。

(1) バサラの乗ったファイヤーバルキリーは地表ギリギリで建物を避けるが、敵ロボットは避けきれずに地上に停められた車両に突っ込んでしまう。
(2) 敵ロボットはファイヤーバルキリーを回し蹴りし、バルキリーは地面に倒れる。
(3) バサラがミサイルを撃つと敵ロボットに命中し、もぎとれた右腕が地面に落ちる。

このように、重力を強く感じさせるアクションシーンが初めて描かれる。(1)で人の乗る車輛と対比された敵ロボットは強大で、(2)で繰り出されるキックはねっとりとした動きで、重量感がある。(3)で、背中を見せていた敵ロボットが振り向きざまにミサイルを受ける芝居は人間的で、地響きをたてて右腕が落ちるさまも強烈だ。第5話のロボットアクションは、肉体を感じさせる。暴力的で「痛そう」なのだ。
重要なのは(2)で、蹴とばされたバルキリーのコクピット内で、バサラは右腕を怪我してしまうのだ。彼はバンド仲間でバルキリーを調達したレイに指示されるまま、1発目のミサイルを撃って敵ロボットを攻撃してしまう。その直後、(2)で怪我を負う。重さ・痛さを感じさせるアクションの連続とバサラの受けた右腕の傷が相乗して、言葉以上にバサラの受けたショックを視聴者に伝えるのだ。


「ヒロインがペットにしている小動物」は、物語でどんな役割をする?


「畜生、2度も撃っちまった……」と、バサラは後悔したようにつぶやく。だが、彼がミサイルを撃ったのは、敵ロボットに襲われたレックスたちを助けるためだった。戦闘後、レックスは「助けてくれたお礼」として、バサラにキスをする。その様子を目撃してしまったミレーヌのリアクションが、第5話のもうひとつの見どころだ。
レックスがバイクで走り去り、バサラは彼女を見送る。そのバサラの背中をミレーヌはあっけにとられたような顔で見ているのだが、彼女の長い髪から小さな毛玉のようなペット、グババが顔を出す。グババは、怒った顔をしている。

バサラはファイヤーバルキリーのコクピットに戻るが、右腕に受けた傷が痛む。彼の背後から様子をうかがっていたミレーヌは、「私が代わりに操縦してあげるわ」「その傷、痛むんでしょう?」と、強引にコクピットに入りこむ。
ミレーヌの親しげな態度とは裏腹に、あいかわらずグババは怒った顔をしており、バサラは「おい、なんかグババの機嫌が悪いぞ」といぶかしむ。ミレーヌは「えっ?」と意外そうな顔をするが、言うまでもなく、グババが怒っているのはバサラがレックスとキスをしたためだ。ミレーヌといつも一緒にいるグババは、彼女が潜在意識に眠らせている嫉妬心を代弁しているのではないだろうか。


物語には、ラストまでに解決すべき「主系的葛藤」と「傍系的葛藤」がある


ヒロインにかわいい小動物をからませて心理描写するのは、アニメーションならではの伝統的手法である。「太陽の王子 ホルスの大冒険」(1968年)では、善と悪の心をあわせ持つヒロイン・ヒルダの両面性を、フクロウとリスの2匹の動物を使って表現していた。それこそミレーヌの髪からグババが現われるように、フクロウとリスは感情に応じてヒルダの背後から入れ替わりに顔を出す。
ミレーヌがバサラへの気持ちに気がつくのは、なんと第49話、最終回になってからのことだ。グババの怒り顔は、「ミレーヌはバサラのことをどう思っているのか?」という「マクロス7」全体を貫く傍系的葛藤を、さりげなく示唆しているのだ。

そして、信念に反してミサイルを撃ってしまったバサラの苦悩は、「歌の力は万能ではないかもしれない」「やはり、軍事力で敵を倒すべきでは?」という最終回へ向けた主系的葛藤に直結する。
バサラの痛み、ミレーヌのとまどい。2人を乗せて、ファイヤーバルキリーは飛ぶ。ミレーヌがアカペラで口ずさむエンディングテーマが、いつもとは違って聞こえる。少しずつ人間関係が進展し、意外なかたちで隠れていた心情が描かれる。そのわずかな変化をキャッチするのが、長いテレビシリーズを見ていく醍醐味ではないだろうか。

(文/廣田恵介)

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