TVアニメ「その着せ替え人形は恋をする」篠原啓輔監督インタビュー 「自分の感覚を信じない」ことで生まれたスタッフワーク
アニメやゲームが好きで、好きなキャラクターのコスプレに憧れるギャルの女子高生・喜多川海夢(きたがわまりん)と、それを主に衣装作りの面から支えるクラスメイトの男子・五条新菜(ごじょうわかな)との人間模様を描いたラブコメディ「その着せ替え人形は恋をする」(「着せ恋」)。この人気原作マンガを、丹念な演出で見事なアニメ化をした篠原啓輔監督に、その演出術を詳細に聞いた。
「着せ恋」のリアリティを支える“色”と”声”
──「着せ恋」のTVアニメは率直に面白かったと同時に、驚かされることも多々ありました。なかでも最初に驚かされたのは第2話で、コスプレの採寸をする話だけで1話分を費やしていたことです。この大胆なシリーズ構成はどのように考えられたのでしょうか?
篠原啓輔監督(以下、篠原) 映像化のお話を頂いたときに、これは原作のよさをできるだけ映像に落とし込んだほうがいい作品だなと思いました。アニメ制作がスタートしたときはまだ原作の第4巻が出たばかりのタイミングで、分量的に最終回まで作れるか難しかったので、シリーズ構成上の最終回はその段階では決められませんでした。そのため、綺麗に全体の構成を考えていくよりは、各話数を最大限に面白くすることを目標に最初は進めていくことになりました。そこで第1話をどうしようかと考えたときに、やはりラストは、
海夢「『聖♡ヌルヌル女学園 お嬢様は恥辱倶楽部ハレンチミラクルライフ2』の黒江雫たん!」
新菜「なんですって?」
というやりとりで終えるのが、もっともインパクトのある第1話になるだろうと考えました。それがまず最初にあります。第1話がそうなると、第2話は原作通り採寸の話になるわけですが、その先の学校の話まで入れようとすると、今度はお話として何が見せたいかがわかりにくくなってしまいました。逆算的に第2話は採寸の話だけに留めて、演出でどうにか面白くしようとしました。それに対して作画さんが全力で応えてくれたという感じです。
──では第1話のエンドをその形に決めたことで、原作からふくらませて途中の尺を伸ばす形になったわけですね。第1話の絵コンテは監督が描かれていますが、どのようなことを念頭に置かれましたか?
篠原 正直に言って、悩みました。第1話は後半で海夢の内面がだんだんと見えてくる構成にしたかったので、前半に彼女の描写を足していっても種明かしになってしまい面白くありません。だから、新菜の描写を増やすことでしか第1話は尺を足せなかったんです。彼が住んでいる家の描写を多くするために美術監督の根本(洋行)さんと副監督の平峯(義大)さんと詰めて、念入りに新菜の家を作っていきました。そこでの生活感は出せてたかなと思います。ただ、途中で内面描写のほうが多くなり、出だしが少し暗くなってしまったという反省点があります。
──演出や描写の仕方について、シリーズ全体としてはどのような方向を目指しましたか?
篠原 コミカルな印象が強い原作だと思いますが、最初からそういう演出を立てすぎてしまうと2人が関係性を築く過程が軽くなる気がして、序盤は写実的……というと言い過ぎですが、リアリティラインが高めになるよう意識しました。自分もどちらかといえば、マンガ的な表現を映像に落とし込むのがあまり得意なほうではないのもありました。ただ、リアル一辺倒にはせず、バランスを取るようにしていました。第1話Bパートの被服実習室のシーンの終盤では演出を重視し、光源についてはウソをついています。このシーン以外でも、ここぞという場面でウソをつけるよう、シリーズ前半は地に足をつけた演出を心がけていました。
──リアリティに関連してうかがいたかったのが、本作に登場するコスプレ衣装についてです。実際のコスプレには次元の壁があるので、コスプレイヤーはキャラクターの衣装を着ている感じがひと目でわかります。ただ、アニメの場合は元のキャラクターもその人物が着る衣装も2次元なのでそこに差異が生まれず、コスプレをしている状態のキャラクターを表現するのが難しいと思ったのですが、そこを本作ではどのように解決していきましたか?
篠原 原作を出来る範囲で再現しようと思っていました。コンセプトを立てたというよりも都度都度の修正を重ねていった結果だと思います。ただ、色の要素は重視していました。この作品の制服は色を抑えめにしてリアルに寄せています。いっぽうでコスプレの服はアニメ寄りの色相にしています。それによってうまく差異が出せたのではないかと思います。このあたりは色彩設計の山口(舞)さんがこちらのわがままに付き合ってくれたおかげです。あと、第5話のコスプレイベントのシーンでは、モブキャラの着ている衣装が版権に引っかからないよう、副監督の平峯さんにオリジナルのコスプレ衣装を描いてもらいました。平峯さんとは以前からオンラインゲームで一緒に遊ぶほどの仲だったので、ファンタジー系のデザインが多くなり、そこで「着せ恋」の世界でのコスプレキャラのリアリティラインが作れたのではないかと思っています。
──色に関係する話として、撮影はどんなところをこだわられましたか?
篠原 この作品の根本はコメディだと思っているので、基本的に撮影処理は抑えめにしていました。いっぽうでドラマチックにしたいところでは、ワンカットごとに調整してるところもあります。最終話は本撮影に入るまでに念入りにテストをしてから臨んだので、満足の行く仕上がりになりました。ここでも撮影チームの皆さんがわがままに付き合ってくれました。今まで社内に仕上げ・撮影部がある会社で仕事をしたことがなかったので、CloverWorksさんの環境はとてもありがたかったです。
──たとえば最終話の花火大会のシーンですか?
篠原 そうですね。打ち上げ花火自体はテクニカルディレクターの佐久間(悠也)さんが担当してくれて、そちらはタイミングの指示や、こういう花火にしたいという要望は言いましたが、花火があのクオリティまで到達できたのは佐久間さんが粘ってくれたからです。調整が大変だったのは花火が直接画面に写らないシーンです。画面外の打ち上げ花火はさまざまな色になるので、それぞれの色がどのようにャラクターの顔に反射するか、そのタイミングまで含めて撮影監督の金森さんと何度もテストを繰り返していきました。リテイクも多く出たシーンでしたが、おそらくぶっつけ本番だったら成功しなかったと思います。
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