星山博之脚本の「銀河漂流バイファム」第23話で、子どもたちはいかにしてジェイナス号を取り戻したのか?【懐かしアニメ回顧録第91回】

サンライズの公式YouTubeチャンネルで、「銀河漂流バイファム」(1983年)の配信が始まった。謎の異星人の攻撃によって、13人の子どもたちが植民惑星から避難。子どもたちは、練習艦ジェイナス号を自分たちで操舵しながら、敵に連れ去られた両親を救出するため宇宙を旅する。第23話「ジェイナスは僕らの船だ!! 新たなる出発」は、全46話のターニングポイントに位置する。この後、2話も続けて総集編がはさまるせいもあり、「バイファム」前半の魅力が第23話には凝縮されている。
シナリオは、「機動戦士ガンダム」(1979年)で、カイがミハルと懇意になる第27話「女スパイ潜入」や、青春の挫折を描いた「メガゾーン23」(1985年)などで、ロボットアニメの世界に繊細で抒情的なムードを添えた名脚本家、星山博之氏である。では、「バイファム」第23話を細かく見ていこう。

ビリヤードの玉を突くように、キャラクターがキャラクターを動かす


ジェイナス号に、ローデン大佐の率いる地球側の援軍が到着し、艦は大人の軍人たちによってコントロールされている。しかし、大人に頼らずジェイナス号を操舵してきた子どもたちは、補給部隊の到着や敵の来襲をきっかけに、再び自分たちの仕事に戻る。第23話は、プロの軍人たちの仕事をあっさり奪ってしまう子どもたちのたくましさが見どころだ。

このエピソードの冒頭では、ブリッジに座っている軍人たちとローデン大佐が、こんな会話を交わす。
軍人A「たいしたもんですね、こんな老朽艦がまだ動いていたなんて」
ローデン大佐「彼らは、その老朽艦で大人顔負けのことを遂行したんだ」
軍人B「例の中継ステーションを撃破したことですか?」
ローデン大佐「うん。それも含めて、このジェイナスを彼らだけでここまで動かしてきたことだ」
さて、このカット。ブリッジに座った4人の軍人たちをゆっくりとPANで捉えて、最後にローデン大佐が映るようにカメラが動くことを覚えておいてほしい。

次に、キャラクターの動きに注目してみよう。
軍人たちの並ぶブリッジに顔を出すのが、ジェイナス号の中でもっとも年長で、キャプテンとしてふるまってきたスコットだ。軍人に見つけられたスコットは「ただ、習慣で」と照れ笑いし、ローデン大佐は「ここはワシらに任せて、休んでいたまえ」とほほ笑む。
その後、スコットからジェイナス号に積まれた遺跡を見せてもらったローデン大佐は「ここは君たちの船だ、遠慮はするな」と態度をやわらげる。
第2陣の補給部隊が来ると聞いたスコットは、軍人の座るコンソールの前に乗り出して「こっちのスイッチです。燃料は第2より第1格納庫のほうが使いやすいんです」と出しゃばって、「あのな!」と軍人ににらまれる。しかし、ローデン大佐はスコットの助言に従って、「第1格納庫へ誘導しろ」と指令を出す。スコットは思わず「ハイッ」と返事をしてしまう。最初は「ワシらに任せて」と言っていたローデン大佐が、少しずつスコットの介入を許していく過程が、無理なく自然に組み立てられていることがわかる。


「慣性速度」「出力ゲージ」……さり気ない専門用語が、説得力をアップさせる


そして、敵が接近していることを知った子どもたちは、一気にブリッジに乗り込んでくる。年少のフレッドは「それ、癖があるんだよ」と、スイッチの押し方を軍人に教える。
軍人C「うるさい、いちいち。壊れてるんじゃないか、このスイッチは?」
フレッド「いえ、壊れてるんじゃなくて、調子が悪いんです、それ。ギュッと叩くように押さないとだめなんです。違う違う、向こうへ押す感じで」
軍人C「チッ……こうか?」
フレッド「ね?」
にっこりと笑うフレッド。くどいようでいて、どこか舌ったらずな子どもらしい説明に、何とも言えない手触り感がある。
ローデン大佐は「手を借りよう」「ジェイナスは、ここにいる子どもたちにやってもらう」とブリッジで宣言する。子どもたちは「わーい」と両手をあげて喜び、明るいテーマ曲が始まる。
女子のリーダー格であるクレアが、大人の軍人に「すみません、そこ私の席なんです」と声をかける。反対側の席でも、少し年下のペンチが「すみません、慣れてるんです」とほかの軍人と席を代わってもらっている。
クレア「ペンチ、ジェイナスの慣性速度をチェックして」
ペンチ「はい」
阿吽(あうん)の呼吸でやりとりするクレアとペンチ。シャロンとマキも、それぞれ自分の持ち場について、コンソールに視線を移す。
マキ「シャロン、コースは安定しているみたいよ」
シャロン「わかった。……ちょっとゴメンな」
と、席をゆずってくれた大人を気づかうのが、小気味いいアクセントになっている。
シャロン「あれ、ナノ5秒ずれてるぜ。誰だ、こんなプログラミングしたの!」
と苛立つシャロンを、カチュアが「シャロン」となだめる(真横にプログラミングした軍人が立ったままだからだ)。
次にカメラは横にPANしてペンチ、クレア、フレッドの順にとらえていく。
ペンチ「あれ、これ何?」
クレア「ごめん、出力ゲージを送ってしまったわ」
フレッド「マイナスになったよ、戻して」
矢つぎ早に専門用語をまじえた会話をかわす子どもたちを前に、あっけにとられている軍人たちに、ローデン大佐が「なにボケッと突っ立っとるんだ!」と檄を飛ばす。このカットは、冒頭近くと同じカメラワークだ。右方向へPANして、最後にローデン大佐が映る。ただし、コンソールの前に座っているのはもはや軍人たちではなく、子どもたちである。同じカメラワークだからこそ、状況の変化がダイレクトに伝わるのだ。
そして、最初に大人たちの間に割って入ったスコットが一発、二発と小さな花火を打ち上げ、戻って来た子どもたちが一斉に散らばってあちこちで花火を開花させるような美しいシナリオ展開に心が解放され、キャッチボールのように弾む臨場感あふれる会話に、つい何度も聞き入ってしまう。配信されたら、必ず見てほしい名エピソードである。

(文/廣田恵介)

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