プロデューサー・松倉友二 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第55回)

ライターcrepuscularの連載第55回は、株式会社ジェー・シー・スタッフ(J.C.STAFF)の制作本部長で、プロデューサーの松倉友二さん。業界最速 最年少でJ.C.STAFFのプロデューサーになった松倉さんは、その後31年間、アニメを作り続け、日本のアニメ制作現場を支え続けている。プロデュースした作品数は世界トップクラス、成功したタイトルも枚挙にいとまがない。まさに“アニメ界の成功請負人”である。「少女革命ウテナ」、「あずまんが大王」、「灼眼のシャナ」、「ハチミツとクローバー」、「ゼロの使い魔」、「のだめカンタービレ」、「とある魔術の禁書目録」、「とある科学の超電磁砲」、「バクマン。」、「探偵オペラ ミルキィホームズ」、「WIXOSS」、「食戟のソーマ」、「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」、「斉木楠雄のΨ難」、「まちカドまぞく」……ジャンルも多種多様、笑いあり涙あり、いずれも観る人の心を震わせる傑作ばかりだ。今回の独占インタビューでは、そんな松倉さんが手がけてきたアニメの数々を実例としながら、独自のプロデュース・ノウハウを詳らかにしていく。どういう基準で企画・スタッフ・キャストを選び、どういうアプローチで作品を成功に持っていくのか。今日のアニメ業界の問題点についても、松倉さんならではの視点からご指摘いただいた。アニメの鉄人が明かすヒットアニメのレシピ、知りたい方はぜひ最後までお読みいただきたい!

「監督とクライアントをつなげて作品を成功させる」プロデューサー


─日々の制作で大変お忙しい中、本当にありがとうございます。早速ですが、松倉さんにとって「アニメプロデューサー」とはどういう存在でしょうか?


松倉友二(以下、松倉) 自分的には「監督やスタッフとクライアントをうまくつなげて、作品を成功させる人」だと思っています。なので、「監督が作りたいものを作らせる人」でも、「クライアントの言う通りに作る人」でもありません。双方に寄り添って作品を成功させるのが究極の目標で、そのためには何だってやるのが、自分の考えるアニメプロデューサーです。


─ ほかのプロデューサーと同様に松倉さんも、クレジットを使い分けておられまね。「だぁ! だぁ! だぁ!」(2000~02)や「ゼロの使い魔」(2005~12)で「アニメーションプロデューサー」、「あずまんが大王」(2002)や「探偵オペラ ミルキィホームズ」(2010~16)で「プロデューサー」、「灼眼のシャナ」(2005~12)、「とある魔術の禁書目録」(2008~19)、「リトルバスターズ!」(2012~13)で「プロデュース」、「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」(2015~)や「斉木楠雄のΨ難」(2016~19)で「アニメーション制作統括」といった感じで。


松倉 自分はいろんなクレジットを使っていますけど、責任職として名前を載せないといけないだけで、具体的な役割を表しているわけではありませんよ。


─松倉さんの言う「成功」とは、商業的な成功、「ヒット」のことでしょうか?


松倉 自分は「ヒットだけが成功ではない」と思っています。作り方やアプローチを工夫すればヒットの確率を上げることはできますが、アニメはある種のバクチなので、すべての作品をヒットさせることはできません。最初からヒットする確率のかなり低い作品もありますし……。その場合には、「原作サイドに満足してもらえる、その原作なりにおもしろい作品ができれば、それも成功にしよう」と考えています。


─どのような時にやりがいを強く感じますか?


松倉 一番はもちろん、作品がヒットした時です。ヒットするということは、作品を認めてくれた人が大勢いるということでもありますから。自分が思った通りのアプローチができた時もうれしいですね。どちらも達成できることはなかなかないんですけど、「ハチミツとクローバー」(2005~06)は、かなりうまく行った例だと思います。


─「ハチクロ」は、拙連載でもお話をうかがった、EGG FIRMの大澤信博さんが参加していますね(編注:#


松倉 大澤さんの部下の松尾光広さんが「一緒にやりませんか?」と持ち込んでくれて、自分は「ハチクロ」が大好きだったのですぐにOKしました。少女漫画ものは当時、アニメで成功しないと言われたジャンルのひとつでしたので、「『ハチクロ』で、少女漫画アニメの成功例を作ってやろう!」と思っていました。そして、大澤さんと「この作品はOLにも観てほしいから、なるべく夜の浅い枠にしたいよね」と話していたら、当時フジテレビのプロデューサーだった山本幸治さんも乗ってきてくれて、「ノイタミナ」の第1弾作品として「ハチクロ」が放送されることになったんです。


─ものづくりにあたり、一番影響を受けた作品は?


松倉 アニメで一番となると、高山文彦監督と一緒に作った「超時空世紀オーガス02」(1993~95)です。


─ご自身が制作に関わった作品が一番なのですね。


松倉 世代なので「宇宙戦艦ヤマト」(1974~75)も「機動戦士ガンダム」(1979~80)も「伝説巨神イデオン」(1980~81)も観ていたし、ほかにも子どもの頃に観たアニメはそれぞれ好きだったんですけど、自分が最初に目指したのは、ゲーム業界だったんですよ。アニメの学校にもゲーム業界に入るために通っていたし、ぶっちゃけてしまうと20歳の頃は、「有名なクリエイターと知り合いになれたら、すぐにアニメを辞めてゲーム業界に戻ろう」と思っていました。けれど、高山さんと「オーガス02」に出会ったことで、考えは180°変わりました。高山さんは仕事が遅く、全然絵コンテを上げてくれない。毎日ご自宅に通っても、1日10カットぐらいしかもらえなくて、でも読んだらすごくおもしろくて、続きが気になってしょうがない。もらったコンテに応えられるスタッフを用意して、段取りを組んで……全てを自分でやらなきゃいけない、そんな気持ちにさせてくれた作品なので、「オーガス02」が自分のアニメの原点なんです。


─ゲームはどういったものがお好きなのですか?


松倉 シューティングが好きですね。一番好きなのは、ナムコさんの「アサルト」(1988)ですが、古いアーケードゲーム全般が好きですよ。今着てるTシャツの「ダライアス」(1987)も大好きです。10代の頃からアーケードゲームの基板を集めたりもして、自宅でプレイしていました。「ハイスコアガール」(2018~19)の時、嫁さんに「これは資料だから!」と言って、念願の筐体を買いました。もちろん、欲しかった基板もあわせて購入です(笑)。

「タイトルごとにアプローチを変える」松倉流アニメ術


─お得意とする企画はありますか? 「シャナ」、「ゼロ使」、「のだめカンタービレ」(2007~10)、「とある」、「バクマン。」(2010~13)、「ミルキィホームズ」、「WIXOSS」(2014~21)、「食戟のソーマ」(2015~20)、「ダンまち」、「斉木楠雄」など、いろんなジャンルを制作されていますね。


松倉 自分はロリコンもの以外なら、アクションでも、少女漫画でも、ギャグでも、何でも作れるよと言うようにしています。ロリコンの定義もいろいろあるとは思いますが、小学生を性の対象として描くものは、絶対にダメ。お話をいただいても全部、断っています。おもしろいものならよろこんでやりますし、できれば全部成功させたい。だから、原作付きであれオリジナルであれ、タイトルごとにアプローチを変えているんです。


─最近は「なろう系」と呼ばれる、Web小説原作のアニメが毎期作られていますね。


松倉 J.C.は、なろう系に関しては後発ですね。ライトノベルは早かったと思いますが。「シャナ」は、深夜枠のライトノベルアニメで大成功した、最初の作品だと思います。どんなジャンルでも、「どうせやるならパイオニアになってやるぞ!」という気持ちで作っていますね。


─何かわかりやすい作品があれば、紹介していただけますか?


松倉 4コマ漫画のアニメ化でいえば「あずまんが大王」(2002)、少女漫画でいえば「ハチクロ」、百合系だと「青い花」(2009)とかね。近年の作品でいえば、今千秋監督の「Back Street Girls -ゴクドルズ-」(2018)と「極主夫道」(2021)ですね。両方ギャグものなんですけど相当イレギュラーな作り方をしていまして、「この原作はこういう作り方が一番、おもしろくなるんです!」とクライアントを説得して作らせていただきました。あえてマンガのコマを100%再現して、口以外まったく動かさない。代わりに、テンポを楽しめるようにする、みたいな感じです。もちろん、「アニメなんで動かしてほしい」という意見もありますが、映像コンテンツとしてどの手法が一番おもしろくなるかを考えたつもりです。「ゴクドルズ」は、オンエア翌日に検索ワードトップになったりしたし、「極主夫道」も、Netflixでアニメの国内再生数No.1だったりしました。北米ランキングも1桁台でしたね。共に原作者さんや編集部にもよろこんでもらえたので、間違いではなかったはず。

製作委員会に損をさせない「高打率プロデューサー」


─昔だけでなく今もヒット作や話題作がすごく多いですね。


松倉 プロデューサーを長くやっているので、人より多くの経験値と方法論を持っているということだと思います。あと、チャレンジが大好きなタイプでもあります。今はちょっと打率が落ちちゃったかもですが、若い頃は製作委員会の出資回収できる確率が、7割を超えていたんですよね。まさに、安打製造機(笑)。「でもそれだと、ホームランは打てないでしょ?」と突っ込まれたこともありますけど、プロデューサーとしてクライアントに損はさせたくないですし、J.C.の経営者のひとりとして最低限、会社はつぶしちゃいけない。仕事を受け続けて、スタッフにギャラを払い続けられる組織は維持しないといけない、と思ってやっています。


─ファンタジーも数多く手がけておられますが、個人的には「よみがえる空 -RESCUE WINGS-」(2006)、「初恋限定。」(2009)、「青い花」、といった、日本を舞台にしたリアリティある作品も大好きです。特に「よみがえる空」は、海外ドラマ顔負けの、大変クオリティの高いお仕事・職業系ドラマでした。


松倉 「よみがえる空」は、自分も大好きなんですよ。商業的にはうまくいかなかった作品ですけど、制作に至る過程のところからできあがったものすべてに対して満足してます。「クライアントと監督が、好きなものを好きに作れた」という部分では成功だと思っています。バンダイビジュアル(現:バンダイナムコフィルムワークス)のプロデューサーだった杉山潔さんは、いまだに作品を持ち歩いていて、あちこち売り込みをしてくださっています。2019年3月には東京都立川市のシネマシティで、全話オールナイト上映もされたんですよ。なので、「よみがえる空」は「すごく売れる作品」ではなかったけれど、「すごく愛される作品」にはなったと思います。


─「青い花」も、物語・映像ともにすばらしい作品でした。


松倉 今振り返っても、「青い花」は相当完成度の高い作品だと思います。この作品もすごくやりがいを感じた作品です。監督・カサヰケンイチ、キャラクターデザイン・音地正行、シリーズ構成・高山文彦、美術監督・小林七郎というドリームチームでした。音楽もOP/EDを空気公団さんが、劇伴を羽毛田丈史さんが担当してくださって、最高でしたね。ぜひ、見てほしい!


─いろんなアニメに対応可能ということでしたが、アニメ化は難しいと思う原作はないのでしょうか?


松倉 ありますよ。先の展開がすぐに読めちゃう薄味の作品とか、作画のカロリーだけをひたすら要求される作品とかは、ちょっと辛いなと思います。

本邦初公開! 「ジャム・クリエーション」設立秘話


─最近、エロゲー原作のアニメをめっきり見なくなりましたね。


松倉 エロゲーに限らず、もともとゲームとアニメの親和性ってよくないんですよ。ゲームはストーリーが複数あって、ヒロインが複数いたりもしますし。あとエロゲー原作に関して言えば、純粋に売上とか、人気が取れなくなってきたというのもあると思います。


─松倉さんは一時期、J.C.のアニメプロデューサーを務めるかたわら、株式会社ジャム・クリエーション代表として、エロゲープロデューサーもされていました。


松倉 自分がエロゲー会社を始めた頃は今と真逆の状況で、ある種のエロゲーブームがあったんですよ。あと当時の自分は、「何が何でもコンテンツを作る上流に行ってやるぞ!」という強い思いがありました。出版社さんは、自分のところのマンガがアニメ化して、原作が売れれば成功です。今は製作委員会方式が主流で、アニメ会社が単独で原作者になることも、作品を成功させられることも、ほとんどないですからね。J.C.が単独でオリジナルアニメを作って大ヒットさせるというのが理想的なんですけど、それは実際、かなり難しい。当たるかどうかもわからないオリジナル作品に莫大なお金と膨大な時間を突っ込まないといけないし、関わった人たちや会社にもたくさん迷惑をかけてしまいます。アニメ会社が自分たちで儲けることは不可能なんだ……そう思ってあきらめかけていた時に、エロゲーブームが来たんです。「そうか! 自分でエロゲーを作れば原作者になれるじゃん! たくさん売れれば、エロゲーだけで儲けも出せるし!」と立ち上げたのが、ジャム・クリエーションだったんです。


─雇われ社長ではなく、ご自身の意志で、エロゲー会社を作られたのですね。


松倉 そうです。立ち上げもそうだし、企画もプロデュースも店舗営業も、全部自分でやりました。当時は自分の机に2台の電話が置いてあって、J.C.用とジャム・クリエーション用で使い分けていました。深夜にエロゲー用のキャラや設定資料、デモを用意して、自分のパソコンで動きをチェックして、完成したらCD-Rに焼いて、J.C.アニメの原画の上がりを取りにいくついでに出版社にCD-Rを渡してきたり、秋葉原のエロゲーショップにも営業に行って、新作を売り込んだり……。


─入口から出口まで、社長みずから全工程に関わっておられたのですね……大変びっくりしました。しかも、アニメ制作とゲーム制作を同時進行するなんて、よくお身体を壊しませんでしたね。


松倉 自分で言うのも何ですけど、めちゃくちゃタフなんです(笑)。当時は、劇場アニメとテレビシリーズを複数本制作しながらでした。それに、エロゲーを自分で作っていろんなことが勉強できたので、本当にやってよかったと思っています。パッケージやROMの製造なんて、アニメを作っているだけだと、まず経験できないことですからね。


一エロゲーファンからは、今もジャム・クリエーションの解散を惜しむ声がありますね。ainosの「ももいろパラダイス ~住み込みバイト 恋愛付~」(2003)などは、大変高い評価を得ています。


松倉 ありがたいですね! 「ももいろ」も結構売れたんですけど、エロゲーブームも終わりつつあったし、会社が赤字にならないうちに畳ませていただきました。「自分たちは新規ブランドだから、売れるためにたくさんアニメを突っ込もう」としたのが、首を締めちゃったんです。最初の「eye’s ONLY ~その輝きは眩しさに満ちて~」(2000)は、新規ブランドってこともあって予約が全然集まらなくて、J.C.の経営陣からは「お前が勝手に始めたエロゲーで5000万も突っ込んでるけど、予約がこれで、どう回収するつもりなんだ?」と問い詰められました。幸い、「eye’s ONLY」は口コミで広がりロングヒット、資金回収できて儲けもたくさん出たんですが、スタッフにお金を払い、ブランドを続けるために次の作品を企画して、しかも何本も並行して立ち上げていくと、億単位のお金が一瞬にして溶けてしまうことになり、なかなか大きな儲けが出なくなりました……。それで猛省して、「動かないエロゲー」のブランドも作ったんですが、そうすると利益率は高いんですが、本数が思ったより売れなくて……。結局、損をしないうちに会社もおしまいにすることにしたんです。

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