斉藤朱夏、中島由貴、高槻かなこ──声優たちが新譜に込めたメッセージを読み解く! 【月刊声優アーティスト速報 2022年6月号】
いま注目したい声優アーティスト作品をレビューする本連載。2022年6月号では、斉藤朱夏(しゅか)さん、中島由貴さん、高槻かなこさんによる3作品をピックアップした。
ライブ会場に集まったファンと笑顔で交わす“はじまりのサイン”から、誰でもない自分自身のためにもっとていねいに生きていこうと涙を誘うメッセージまで、それぞれが楽曲に込めた想いを大いに感じ取っていただきたい。
斉藤朱夏 配信シングル「はじまりのサイン」(5月25日発売)
斉藤朱夏さんのライブがあるから笑顔になれるのか。それとも、笑顔の人だけが彼女のライブに集まるのか。そんな“鶏と卵”のような命題なんてどうでもよくなってしまうほど、ただ“音を鳴らす”という意味ではなく、いまや人生を捧げる表現方法として、斉藤さんの音楽には“生き様”が乗り始めたと思う。
そう感じたのは、新曲「はじまりのサイン」の中でも〈君が笑って 思わずつられて/君に向かって 僕も笑って/何度も繰り返して 重なり合って/響き合う きっとそれが僕たちの合図〉という、斉藤さんの織りなすライブを凝縮したかのようなワンフレーズを浴びてのことだ。コロナ禍で活動も思うようにいかず、ファン側も声援なども制限される中、その代わりにステージとフロアでハンド“サイン”を交わすなど、斉藤さんはどんな場面であれ、最後にはその状況を丸ごと楽しむように走り続けてきた(ちなみに後述するライブ中には、キツネの手遊びで斉藤さんの“ゲラ”を誘うファンも)。この楽曲には、斉藤さんのライブのすべてがある。
同楽曲のプロデュースを担当したのは、デビュー当時からタッグを組むハヤシケイ氏。既存曲「くつひも」「ひまわり」といった、純真ひたむきで王道感あるギターポップの系譜をたどりつつ、これまで以上にキラキラとしたアレンジが施されている。また、サビのフレーズは〈はじまりのサイン〉の“ai”でライムを踏み、ひとつひとつのフレーズを印象的に光らせたり、大サビ最後ではトラックの音を抜くことで、斉藤さんの歌声をますますストレートに届けたりと、ポップスとしての強度を強める仕掛けが随所に見つけられる。もはや“安定感”という言葉の意味に収まらぬほど、斉藤×ハヤシの楽曲は間違いないと確信させられるはず。
かっこいいのはこれだけではない。実は「はじまりのサイン」は、斉藤さんが今年4月に開催した「朱演2022 LIVE HOUSE TOUR『はじまりのサイン』」のために制作した楽曲……なのだが、ライブ本番ではこの新曲を制作していたことが、サプライズで明かされたのだ。つまり、新曲の存在をライブタイトルで先出し、後から“コタエアワセ”のようにきれいな伏線回収をしたのである。
しかもその後には、8月より最大最長のライブハウスツアー「朱演2022 LIVE HOUSE TOUR『キミとはだしの青春』」を予定していることも発表。本職のバンドが選ぶような、ステージとフロアの距離感が限りなく近い300~500名収容規模のハコ選びをしている点で、ライブを見る前からさすがに圧巻である。
2年前に世界の状況が一変したあの頃、こんな未来を誰が想像できていただろうか。斉藤さんとファンがライブで交わした“はじまりのサイン”は、来る夏に向けてますます輝きを増していくに違いない。
中島由貴 2ndシングル「Route BLUE」(5月25日発売)
中島由貴さんの新シングル表題曲「Route BLUE」とカップリング曲「うつろいと君」はともに、真崎エリカ氏が作詞、sky_delta氏(Hifumi,inc.)が作編曲を担当。声優アーティスト作品数多しといえど、シングル全曲で担当作家を統一する例は珍しい。とはいえ、実際に楽曲を聴いてみると、どちらも中島さんの歌声の持ち味である清涼感を大いに生かしながら、それぞれでまったく方向性が異なっているから驚きだ。
「Route BLUE」は、TVアニメ「可愛いだけじゃない式守さん」エンディングテーマに起用。「BEMANI」シリーズなど、ゲーム音楽界隈で実績のあるsky_delta氏謹製のトラックは、爽やかなエレクトロポップを基調にしつつ、時折に80’s テイストの質感を持つ音色、さらにはこうした楽曲には数少ないギターソロが挿入されるなど、かなり面白い楽曲構成となっている。曲中の歌詞で例えるなら、まさに〈メランコリーな至福〉。
そんな「Route BLUE」の(特にキーボードの音色に感じる)余韻を残しながら、「うつろいと君」では疾走感あるバンドサウンドを展開。こちらは、彼女が恋の熱に打たれて、体がふわふわと浮き流されるような歌声の印象を与えられる。少し伝わりづらいかもしれないが、その透明感や一抹の危うさから、sky_delta氏は“青春の音がする”中島さんの歌声の特徴を熟知しているはず。
歌詞に〈青い熱〉というフレーズが出てくることにも、彼女の音楽活動への解像度の高さがうかがい知れる。
高槻かなこ 3rdシングル「Before the Nightmare」(5月25日発売)
ここまで2作連続となった表題曲のロック路線は最新作でも健在。TVアニメ「ブラック★★ロックシューター DAWN FALL」エンディングテーマとなっている「Before the Nightmare」を含めて、高槻かなこさんが全収録曲で作詞するスタイルも引き続き踏襲している。
アニソン/声優アーティスト楽曲の線引きこそ曖昧ではあるものの、高槻さんのアニソンシンガー的な自意識がひしひしと迫ってくるのが、前述した「Before the Nightmare」。パラレルワールド的な世界線を描くTVアニメ本編に寄せて、高槻さん自身も実際に私生活で悪夢を見たのちに、楽曲の作詞に取りかかったとのこと。
作編曲は、LiSAさんらの楽曲を手がけ、高槻さんとはかねての付き合いであるというeba氏(cadode)によるもので、イントロ/アウトロのシンガロングをはじめ、eba氏曰く“バキバキ”だというヘビーロック調は、前作シングル表題曲「Subversive」からますますの尖りを見せてくれる。
そして、高槻さんの作品で欠かせないのがカップリング曲。これまで「I wanna be a STAR」「soda」といった数多くの名曲を生み出してきた収録枠だが、今作ではフュージョン的なタッチの「嘘つきダーティ」と、ピアノだけのイントロから始まるバラード「Love myself, All myself」の全2曲を用意。「嘘つきダーティ」は、ボカロP・市瀬るぽ氏を迎え、人から言われた何気ない嘘を題材に、自身のなかの怒りのエネルギーを歌詞に昇華したとのことだ。
対して、高槻さんが自身のベールをめくるように、ありのままの人柄を露わにしたような歌声を聴かせる「Love myself, All myself」。こちらは彼女の目標とする姿を歌っているとのことで、誰でもない自分自身のためにもっとていねいに生きていきたいというメッセージが、赤裸々かつ力強く刻まれている。なかでも〈しがみついてぐしゃぐしゃになってた/未来図は紙で持ってなくたって/その時流れる 時が導く 流れに乗ろう/時に形は必要ない〉は、形あるもの/ないものの対比をうまく捉えた、今回のシングルでも随一のパンチラインでは。
特にカップリング曲に当てはまるが、全楽曲とも想いの出発点こそ違えど、自分自身に向き合った楽曲ばかり。高槻かなこさんという人を多角的に捉えたからこそ、シングル全体を通して取り扱うサウンドがいい意味でバラバラなことにもうなずけるだろう。
いまの高槻かなこさんが詰め込まれた1枚、ぜひ通して聴いていただきたい。
(文/一条皓太)
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