【映画「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」特集】「カトキさんのかっこよさと安彦さんの肉体感を融合できないか」田村篤(総作画監督・キャラクターデザイン)×森田修平(3D演出)インタビュー前編

映画「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」が、現在、絶賛上映中だ。

1979年に放送された日本ロボットアニメの金字塔にして、ガンダムの原点であるTVアニメ「機動戦士ガンダム」の第15話「ククルス・ドアンの島」。ファンの間では名作として知られる本エピソードは、主人公のアムロ・レイと敵対するジオン軍の脱走兵・ドアンとの交流を通じて戦争の悲哀が描かれ、今もなお語り継がれている。

そのいっぽうで、後の劇場版3部作では割愛されてしまったということで、ある意味「知る人ぞ知る」エピソードとも言える。

今回、その「ククルス・ドアンの島」がまさかの映画化を果たした。

本作の監督は、TVアニメ「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザイン・アニメーションディレクターであり、コミックスの累計発行部数1,000万部を超える漫画「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」(以下、「THE ORIGIN」)を手がけた安彦良和さんが務める。

そんな注目の映画公開を記念して、アキバ総研ではスタッフやキャストにインタビューを実施。今回は、総作画監督・キャラクターデザインを務める田村篤さんと、3D演出を務める森田修平さんにお話をうかがった。

左より森田修平さん、田村篤さん


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「機動戦士ガンダム」を見ていた頃の気分をいかに再現できるか

――安彦監督にインタビューした際、周りのスタッフには「ククルス・ドアンの島」にこだわりの強い人が多いと話されていて、そこで田村さんの名前もあげられていました。まずは、お2人がTVアニメの「ククルス・ドアンの島」を見て、どのように感じたのかお聞かせください。

田村 当時のアニメは1年通しの作品が多く、ときどき番外編というか中休みのようなお話がありましたよね。「機動戦士ガンダム」における「ククルス・ドアンの島」はそういう立ち位置のお話だったと思います。でも、アニメファンからすると、そういうお話って作品の奥行きが深まるし、いつもとは違う流れでキャラクターが出てくるのが面白いんですよ。

森田 僕は1978年生まれなので、1歳の時に“ファーストガンダム”が始まりましたが、僕らの世代も“ファーストガンダム”は高校生になったら必ず見る、そして「哀戦士」(映画「機動戦士ガンダムII 哀・戦士編」主題歌)をカラオケで熱唱する。そんな感じでした(笑)。

田村 そういう流れですよね(笑)。

森田 そんな世代ですが、僕も「ククルス・ドアンの島」の記憶がめちゃくちゃあるんですよ。でも、それはネットとかで騒がれている「作画崩壊」といったような記憶ではないんです。僕には兄がいて、ガンプラ世代だった兄は当時ケンプファーなど(のガンプラ)を作っていたので、敵をかっこよく感じていたんですね。その敵が正義側として現れた! しかも子供を守っている! みたいな記憶なんです。

ただ、ファンの気持ちもわかるなとも思います。以前関わったガンダム関係の仕事終わりに、3Dアニメーターが遊びでザクの3Dモデルを使用してザク同士が殴り合っているカットを再現していたことがありました。それを見て「知ってる! ドアンザクだ!」みたいな会話で盛り上がったことを覚えています。やっぱり好きな人は好きなエピソードなんだと思いました。

田村 緑色のザク同士が戦っているのも、また異質でしたよね。「ウルトラマン」の偽ウルトラマンが出てくる回(「ウルトラマン」第18話「遊星から来た兄弟」など)に近いというか。同じ形のもの同士が戦う面白さや魅力も感じていた気がします。

――自分も同世代ですから、その感覚はわかります。少し年齢が上がると、その奥底にあるテーマ性も感じるようになって。

田村 そうですね。大きくなってみると、深い話だったんだなって気づくんですよ。ドアンが“敵側の脱走兵”であることに、とてつもない奥行きを感じますよね。人間ってそういうものかもしれないと思い始めた年齢でこのお話を突きつけられて、作品に対する信頼が増した感覚もありました。

森田 敵の中にも複雑な思いがあるのは、僕も子供心ながらになにか感じた気がします。

――そんなお2人は、本作で総作画監督と3D演出を務めています。TVアニメから安彦さんがふくらませた「ククルス・ドアンの島」というエピソードを、どのように見せようと思ったのか、特に意識したポイントをお聞かせください。

田村 基本的には「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」のフォーマットに沿う形ではありますが、それにプラスして、それこそ僕が40年ぐらい前に“ファーストガンダム”を見ていた頃の気分をいかに再現できるか。どうやったらそれができるかを常に考えながら描きました。

森田 僕が、案外すごく重要だと思ったのは、キッカたちなんですよね。もちろんアムロも重要なんですが、キッカたちが出てくると当時の気分に戻るというか。それと、音も重要ですよね。

田村 そうですね。みんなの思い出とちゃんと繋がるようにしたいなと思っていました。キャラクターだけじゃなくて、モビルスーツの表現、背景美術、音楽、効果音……すべての分野でそれを意識しました。それがこの作品の特殊性だと思います。

――キャラクターで言えば、島で暮らしている子供たちが3人から20人に増えています。このあたりは大変でしたか?

田村 20人に増やすと聞いた時は驚きましたけど、デザインに関してはラフで描いたものがそのまま通ったので、ほとんど苦労しませんでした。安彦さんが決めたキャラクターもいますから、僕がデザインしたキャラクターに関しては、ですけど。

――そこも含め、作画に関して安彦監督からなにかリクエストや具体的に言われたことはありましたか?

田村 細かいことはありませんでしたが、大まかに言うと「手を抜かないでほしい」ということですね。日本のアニメって“手を抜く技術”がすごく発達しているんです。それはそれでとても大事な技術ですけど、仕方なく手を抜いてたところがあるんですね。枚数が使えないとかスケジュールがないとか、それでできた文化なんです。でも、本来アニメーションはすごく手のかかる大変なものなので、大変な思いをしてちゃんと作ろうよと。CGを使ったモビルスーツも手を抜かずに、表現したいものを突き詰めていこうと。それが安彦さんのおっしゃりたいメッセージだと思いました。

ガンダムは地に足のついたヒーロー


――いまお話があったように、本作ではガンダム(RX-78-02)をはじめとするモビルスーツをすべてCGで描いているとのことで、新たな試みやチャレンジもあったと思います。森田さんは3D演出という立場で、どのように制作を進めていったのでしょうか?

森田 お話をいただいた際に、「3Dの人たちから、いろいろ提案をさせていただきながらやりたい」と伝えました。実は、“3D演出”ってなかなかないポジションなんです。普段は演出が作画もCGも見るんですが、CGはCGで全然文化が違うんですよ。アニメを作る想いは一緒なんですけど、たとえばリテイクの仕方が、作画の場合は紙とシートでコミュニケーションを取るのに対して、CGは口頭ベースというか、実写に近いと言ったらいいかもしれない。「もうちょっとこう寄ってほしい」などと言いながらトライ&エラーで試していくんです。

――少しずつ変えていきながら確認することができますからね。

森田 逆に(CGをやってきていない)作画や演出の人は、こういう風にしたいけどCGでできるのかわからなかったりするんです。僕はもともと3Dで作品を作っていましたし、作画も「東京喰種トーキョーグール」を監督・演出した時に見ていましたから、“3D演出”のような役割がいればもっと盛り上がるのではないかと思いました。

――安彦さんからは、どのような言葉が?

森田 安彦さんは最初に「ガンダムはヒーローなんです」「ロボットでもあるけど、地に足のついたヒーローにしてほしい」と僕らに言ってくださって、そこで方向性がバシッと決まった感じですね。

進めていくうえでは、イム ガヒ副監督や田村さんには本当に感謝しています。お2人は全てのチェックに来てくださいましたし、田村さんはパテで“安彦さん仕様のガンダムに改造した”ガンプラを持ってきてくださったんです。

田村 安彦さんの描くガンダムと、ガンプラのモデルになっているガンダムってスタイルが微妙に違うんですよ。こっちとしては安彦さんの描くガンダムに寄せたいわけだから、立体としてどうしたら安彦さんのガンダムっぽくなるのか個人的に検証していて。それを見せて「こういうモデルにしたらどうでしょう」といった提案をしたんです。

森田 そういうキャッチボールがいろいろありました。僕も演出として見た時に、“安彦さんらしいアニメーション。ヒーローであること”、それと“メカデザインがカトキ(ハジメ)さんであること”、この2つの要素が合わされば最高なんじゃないかと思いました。田村さんの助けもあって、立ち姿のかっこよさや「もうちょっとここは足が細くなるんじゃない?」といったところまでトライ&エラーしてこだわりました。僕らとしてもやりがいがありましたね。

――確かに、カトキさんがデザインするガンダムのスタイリッシュさと、安彦監督の描くガンダムのよさの両方あると感じましたから、細かな造形まで見直すと面白そうです。

田村 ガンダムって、同じ機体でも表現する人によっていろいろなデザインがあるんです。横浜に立っているのも違いますし、安彦さんが描くのも違う。別作品のガンダムはまた違うデザインだったりするんですよ。会社的にはそれを限定せずに、作り手によっていろいろなニュアンスを出していい方針だったので、今回は安彦さんの描くガンダムの魅力を表現できたらいいなと思ってやりました。

カトキさんのかっこよさと、安彦さんの人間らしい表情を持つ肉体感のある仕草やたたずまい、これって水と油なんですけど、なんとか融合できないか。しかもCGで。すごく無茶なトライでしたが、すごくいい出来栄えになったと思います。


後編に続く!

(取材・文・撮影/千葉研一)

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