プロデューサー・小川正和 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第56回)

連載第56回は、株式会社SUNRISE BEYOND(サンライズビヨンド)の代表取締役社長で、プロデューサーの小川正和さん。今の日本アニメ業界で小川さんほど、「ロボットもの」というジャンルに深い造詣と愛着を持つプロデューサーはいないのではないだろうか。小川さんは株式会社サンライズ(現:株式会社バンダイナムコフィルムワークス)入社以来、数多くのロボットアニメを作り続け、「ガンダムビルドファイターズ」や「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」といった作品をヒットに導いた。現在は、SUNRISE BEYOND初のオリジナルロボットアニメーション作品となる「境界戦機」のプロデューサーとしても手腕を発揮している。ライターcrepuscularの独占インタビューでは、そんな小川さんのプロデュース哲学を徹底解明する。彼は言う、オリジナルアニメを成功させるためには、いかなる犠牲をもいとわない"覚悟"が必要である、と。記事では彼のフィルモグラフィーを見返しながら、SUNRISE BEYONDの設立背景や「境界戦機」の制作裏話も紹介していく。サンライズとXEBEC(ジーベック)のDNAを受け継ぎ、アニメの最前線でハイクオリティなオリジナルロボットアニメを作り続ける、熱き魂のプロデューサーインタビュー、ぜひ最後までお読みいただきたい!

「企画をつなぎ、実現していく」プロデューサー


─「境界戦機」第二部制作中の大変お忙しいところお時間をいただき、本当にありがとうございます。早速ですが、小川さんにとって「アニメプロデューサー」とはどういう存在でしょうか? 


小川正和(以下、小川) 自分にとっては、「企画をつないで、実現していく人」がプロデューサーだと思っています。クリエイターだったり、プロデューサーだったり、関係各所だったり、やりたいことがどこから出てくるかは企画によって違うんですけど、その生まれた企画をプロデューサーという人間が、人から人へとつないでいって、最終的に世の中に出る作品として実現していく。


主体的に気になる人を探してつないでいく人もいれば、監督やクリエイターのほうから自然と集まってくるのを、バランス調整していい形に整える人もいる。その辺りは、プロデューサーによって人それぞれですね。自分の場合は、「あの監督と仕事してみたいな」とか、「このクリエイターさんとこういう作品をやるとどうなるのかな?」といったところから始まって、いろいろな人とのつながりの中で作品を生み出していく、というやり方をしています。そういう意味で、プロデューサーは、自分ひとりだけでは決してできない仕事ですね。


─「実現」までがプロデューサーの仕事、ということは、企画倒れではダメ、ということですね。


小川 そうですね。商業的なところ、つまりビジネスでやるのであれば、作品が世に出て、お客さんに観てもらわないと意味がありません。仲間内だけで楽しむのであれば、同人活動でやって、本人たちが満足すればいいのであって、商業でやる必然性はないですから。


─どのような時にお仕事のやりがいを感じますか?


小川 まずは作品が完成した時なんですけど、いちばん「やっててよかったな!」と思うのは、お客さんに自分たちの作品を観てもらって、何かしらのリアクションをいただけた時ですね。現在のように作品数が非常に多い時代だと、せっかく作ったのに観てもらえない……なんてこともざらにありますから。現場で作っているクリエイターさんたちは、お客さんに作品を観てもらわないと、苦労が報われない。お客さんにまでしっかりつないでいくことも、自分たちプロデューサーの役目だと思っています。


─ものづくりにあたり、一番影響を受けた作品は?


小川 大学の頃はアニメ好きの友人に勧められて、やたら「ガンダム」を観させられたんですけど、サンライズの入社試験の頃になると、中村吉右衛門さん主演のテレビ時代劇「鬼平犯科帳」を観たり、池波正太郎さんや藤沢周平さんの時代小説を読み漁っていました。面接官とも、時代劇の話で盛り上がった記憶があります。「鬼平」のような60分ドラマって、枠内で各キャラクターに特徴を付けつつ、殺陣やアクションシーンもしっかり入れて、なおかつ、お話も1話で完結しなければいけないことが多いんですよね。そういう意味では、特定の作品というよりも、あの頃手あたり次第に触れていた時代劇・時代小説には、何かしらの影響を受けていると思います。


─中村吉右衛門版「鬼平犯科帳」は、エンディングにジプシー・キングスの「インスピレイション」を使用しているのもすごいなと思いました。


小川 すばらしいですよね。作品にとって一番いい組み合わせというか、監督が求める映像と音楽のマッチングというか、その辺は自分も参考になったかなと思います。「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」(2015~17)でも、Sony Music Recordsの音楽プロデューサーだった外村敬一さん(編注:2021年急逝)が、大変すばらしいアーティストさんを「鉄血のオルフェンズ」と引き合わせてくださいました。

ロボットアニメの制作を、「隙間を見つけるような作業」にはしない


─お得意とするジャンルはございますか? フィルモグラフィーを振り返ると、「境界戦機」(2021~22)以外、小川さんのプロデュース作品はすべて「ガンダム」になりますね。


小川 自分から希望して「ガンダム」に関わってきたというより、結果的にキャリアの大半がそうなったというのもあるんですけど、「メカもの」に関しては、ほかの制作会社さんのプロデューサーよりも経験があると思います。


─「ロボットアニメ」とも言いますね。メカものの企画立案において、特徴的なことや大変なことはありますか? 余談ですが、「境界戦機」第二部第6話では、「育成担当者がロボットアニメを見せてガイを育てた」という小話がありました。こういった本筋とは直接関係のない細かなところにも、小川さんやスタッフのロボットアニメへの愛があふれているなと感じました。


小川 メカものって、設定やシナリオなどで、誰かがどこかでやろうとしていたことが非常に多くて、ヘタをすると、「隙間を見つけるような作業」になりかねないんですよね。そうなってしまうと、何のために企画を立てているのかわからなくなるので、その辺だけは気を付けています。「被ってもいいけど、自分たちがこれで作品を作ったら、本当におもしろくなるんだろうか?」という方向で考えるようにしているんです。あとは、メカものは関わるクリエイターさんたちに相当苦労をかけて、映像ができるという部分もありますので、彼らの労力が報われるものというか、やった甲斐があるものをきちんと作らなきゃいけないと思っています。

(C)2021 SUNRISE BEYOND INC

「境界戦機」の企画背景


─「境界戦機」は、未来の日本の戦争をシミュレーションするという「架空戦記もの」の側面もあります。日本の国土が諸外国の軍隊に分割占領されている、という大変ショッキングな設定ですが、この作品はどういった経緯で生まれた企画なのでしょうか?


小川 最近は「異世界もの」が多いんですけど、実は異世界ものって、富野由悠季さんが何十年も前に「聖戦士ダンバイン」(1983~84)でやっているんですよね。だから、今さら、異世界ものをオリジナルでやっても、「隙間を探す作業」に陥りかねない。いっぽうで「架空戦記もの」も、高橋良輔さんが「蒼き流星SPTレイズナー」(1985~86)で、「アメリカとソ連の冷戦が火星にまで拡大した」という設定でやっている。だったら、「同じような着想でもいいから、『レイズナー』を未来の日本でやってみたら、ちょっと違う、おもしろいことができるんじゃないか?」と思ったんです。


─「境界戦機」のロボット「AMAIM(アメイン)」は、ガンダムと比べると、サイズが随分小さいですね。第二部第4話では、トレーラーに入れられているシーンもありました。


小川 現代の延長線上でやっているので、なるべく「30~40年後にはありえるんじゃないか?」といった現実感を持たせられるように、10m前後にしました。ただし、それ以上小さくなると、搭乗型ではなく、パワードスーツみたいな装着型になってしまいますし、あまりにもリアリティを出し過ぎると、設定での補強がキツくなってしまいます。なので、その辺をどう詰めていくかが、「境界戦機」は大変でした。でも、こういった挑戦ができるのも、オリジナルだからこそなので、やっぱりやってみてよかったなと思います。

「オリジナル制作に存在意義」を見出す「SUNRISE BEYOND」


─プロデュース作品がすべてオリジナル、というのも大変ユニークですね。原作ものを避けている、というわけではないですよね?


小川 もちろん、避けてはいません。実際、OLM(オー・エル・エム)さんからのご紹介で、草壁匠プロデューサーの下、「キングスレイド 意志を継ぐものたち」(2020~21)を1クール制作させていただきました。けれども、SUNRISE BEYONDの立ち位置としては、どちらかというと、「オリジナルを作ることに存在意義がある」と考えているのも事実です。


─小川さんは「境界戦機」で、テレビ東京の紅谷佳和さんとご一緒されていますが、紅谷さんは「オリジナルはプロモーションが難しい」とおっしゃっていました(編注:#


小川 そういった意味では、SUNRISE BEYONDがバンダイナムコグループの一員であり、BANDAI SPIRITS(バンダイスピリッツ)のような、作品と連動した商品を数多く展開する企業とタッグを組んで、オリジナルアニメを企画していけるのは、すごくありがたいことだと思っています。

「境界戦機」がディープに楽しめる、小説版「フロストフラワー」


─「境界戦機」は、アニメだけではなく、「月刊ホビージャパン」で小説版「境界戦機 フロストフラワー」も連載されていますね。


小川 マンガや小説でスピンオフや外伝ものを展開する手法は、以前からサンライズの作品でも多くやっていました。テレビアニメは、できるだけ幅広く視聴者を獲得する必要があるので、よりマニアックなものを求める人たちに満足してもらうのは難しいところもあります。だから、そういった人たちにも作品世界にどっぷりとハマっていただけるよう、よりマニアックなものをスピンオフや外伝で発表するんです。マンガや小説で同時展開すれば、アニメに触れていただくチャンスも増えますしね。


─「フロストフラワー」連載に、「月刊ホビージャパン」を選んだ理由は?


小川 「境界戦機」はメイン商品がプラモデルだったので、BANDAI SPIRITSと話し合って、熱意を持って取り組んでくれるホビージャパンさんと組ませていただきました。

おすすめ記事