「写実的に」「より渋い色彩で」──アニメ「BASTARD!! ー暗黒の破壊神ー」をベースにあるものとは【尾崎隆晴監督インタビュー前編】
Netflixにて、ついに配信を開始したアニメ「BASTARD!! ー暗黒の破壊神ー」。
本作には、監督を務める尾崎隆晴さんの作家性が色濃く反映されている。それによって濃密なビジュアルと物語が見事にアニメとして発展したといえよう。
アキバ総研では以前にも尾崎監督にロングインタビュー(「アニメ・ゲームの“中の人”」第24回)を試み、撮影監督出身であり、3DCGアニメを経てきた経験がもたらす演出論を詳らかにしている。
今回のインタビューによって、尾崎監督が「BASTARD!!」に惹かれた少年期が明らかになり、その尾崎監督を擁したアニメ「BASTARD!! -暗黒の破壊神-」がいかに信頼と期待に耐えうるものかを世に伝えられるものとなった。
自分の好きなものがすべて入った「BASTARD!!」を写実的な作品に
――まず、「BASTARD!! ー暗黒の破壊神ー」アニメ化決定特番の際、監督が「BASTARD!!」に対する思い入れを語っていらっしゃいました。原作を読まれていたということですが、リアルタイムで「BASTARD!!」のファンだったんですか?
尾崎 読んではいましたが最後まで追っていたわけではなく、正直、今回のアニメ化で「『BASTARD!!』ってこういう話だったな」とは思いました。自分としては、「どういうストーリーだったか」よりも、古典ファンタジーな世界観が初めて表現された作品、という印象が強かったんですよね。ルールや内容という点ではファンタジーは得意ではなくて、特番でも言ったんですが、もともと「英雄コナン」シリーズや「ターザン」シリーズの表紙などを描いたフランク・フラゼッタとか、SFやファンタジーのビジュアルアートがすごく好きだったんです。ただ、映像化される作品というのはあまりなく、今のように「ロード・オブ・ザ・リング」や「ゲーム・オブ・スローンズ」が見られるような時代ではなかったんですね。
――「ネバーエンディングストーリー」くらいで、以降でも「ラビリンス/魔王の迷宮」や「ハイランダー 悪魔の戦士」があったくらいの印象です。
尾崎 そうですそうです。「ハイランダー」は後半にスコットランドが登場していましたね。なので、ファンタジーに触れる機会はなかなかなかったときに登場したのが「BASTARD!!」で、自分の好きな雰囲気のイラストで、キャラクターが動いたりしゃべったりする作品だったんですね。しかも、少年漫画の範疇なのに青年向けに近い内容が入っていました。エッチだったりバイオレンスだったりという、子供からすると興味津々な部分が描かれたシーンですよね(笑)。そういうワクワク感、「どうなるんだろう?」が駆り立てられる作品でしたね。
――中高生からかなり濃い世界に入り込んでいたようですが、きっかけとなる作品はあったんですか?
尾崎 やはり「英雄コナン」シリーズでしょうね。のちに「コナン・ザ・グレート」と映画化されたときは「こうなるのか」と思いました。あとは、「ヴァンピレラ」ですね。あのイラスト。少しキャラクターが(アーシェス・)ネイに近い気もしますが、そのあたりに影響を受けました。当時、SFも流行っていたと思うんですが、「スターログ」というSF映画雑誌を買ったり、SFっぽいところからファンタジーの要素を覗き見したり。でも、そこからホラーに行っちゃったんですよね。
――「エクソシスト」や「オーメン」、「サスペリア」の影響で日本でもブームになりましたよね。
尾崎 まさに、ダリオ・アルジェント作品が好きでした。それで中学くらいからはファンタスティック系やホラー系の映画が好きになり、レンタルビデオ屋が普及し始めた頃ということもあって、子供ながらに小遣いを投資して借りまくりましたね。1本借りると1,500円や2,000円とか、映画のチケット代くらいしたんですが。あとは、兄貴がいたので、東京で「ファンゴリア」というホラー雑誌を買ってきてもらったり。で、「BASTARD!!」ってホラーの要素もあわせもっていて。
――少年雑誌に掲載していた作品にしては描写が凄惨でした。
尾崎 そうですね。デザイン的にも。なので、自分が好きなビジュアルが全部入っている、みたいな感覚でしたね。
――おうかがいしていて、今作で「BASTARD!!」らしい要素のクオリティが高いのは、監督の嗜好が反映されているからだと感じました。また、作品のテイストとしても撮影監督出身なのが伝わりますし、あるいは、よくお仕事をご一緒された浜崎監督のテイストも感じました。
尾崎 浜崎さんとは映像の趣味が合うんですよ。お互いに王道ではなく、ちょっと変化球な、抽象的な作品が好きでね。浜崎さんはもうひと世代上なので、話していると出てくるたとえが1960年代前後の映画ではあるんですが。ただ、僕も大人になってからビデオでそれらを見てはいますし、よく映画の話はしましたね。ヌーベルバーグ時代のフランス映画をはじめとするヨーロッパ映画、それからアメリカン・ニューシネマであるとか。
――今回の「BASTARD!! -暗黒の破壊神-」でも、そういった映画や浜崎監督作品との共通点を感じました。特に色合いに渋さを感じるというか。
尾崎 そうですね。渋い映像作りというか、写実的な方向に持っていきたい気持ちがあるんですよね。実写はそのまま撮ると結構彩度が低いんですよね。だから、あとで色調整で上げることも多いですが。ヨーロッパ映画を見ていると、乾いた街並みに空だけ青いとか、服にだけ奇抜な赤がポンと入っているとか、渋い情景に差し色が入った感じのものが多いと思います。そういうところで浜崎さんとはすごく話が合いましたね。デイヴィッド・リンチ的なイメージの世界とか、日本の電線はかっこいいといった話とか(笑)。
――電線や電柱のファンは多いですね。それこそ庵野秀明監督が有名ですが。
尾崎 そうなんですよね。海外は電線を地中に埋めているのが多いので非常に日本的な風景ですし、そこからの抽象的な表現にはつながっていきますね。その、キャラクターを出さずに心情をどう表現するかといったところで浜崎監督とは話が合うんですよ。あとは間の取り方ですね。TVシリーズの場合、フォーマットがあるので間を持たせることは難しいんですが、時間さえあればワンカットで数分いけるんじゃないか、止め絵で数分もつんじゃないか、というのに憧れていますね。
――アニメ「BASTARD!! -暗黒の破壊神-」にもそういう要素が少し入ってきている?
尾崎 かもしれませんね。今回の「BASTARD!! -暗黒の破壊神-」でも写実的に、少し渋くしたい気持ちはあって、原作の色分けが多いので、いつもよりは色要素が多いと思いますが、彩度は通常のアニメよりもすごく下げています。見慣れると色がついているように見えますが。
――キービジュアルのポスターも風合いを感じる色合いで、そこが「BASTARD!!」の世界観が持つダークさと非常にマッチしています。
尾崎 もちろん自分の好みや趣味も入っていますが、そこは、写実的な空気感を出したいという考えからですね。青の使い方も、レトロな雰囲気を出そうと全体的に黄色や緑に寄せた色味にしています。フィルム感といいますか、フィルムノイズがあったり、焼きを間違えて赤っぽくなったり緑っぽくなったりとか、そういう予測不可能なレトロさがあるといいと思ったんですよね。最近はデジタルの時代になり、画質が4Kや8Kまで上がっていますからフィルム感みたいなものを知っている人が減り、表現が難しくなっているんですが、本当はフィルムシミュレーター的なもので色味を一律でやりたいとは思っていました。
――監督のオファーを受けたときに描いた青写真としてはどのようなものでしたか?
尾崎 自分の中ではまず、「週刊少年ジャンプ」連載当時の「BASTARD!!」の印象をある程度残したいと思っていました。今風にアレンジするというよりも、’80年代、’90年代に作ったような雰囲気を持たせたかったんです。渋い色味を使うのもその中での話ですね。キャラクター造形に関しては、「BASTARD!!」を知っている人にとっては当たり前すぎるエロやバイオレンスという要素以外の部分、真っ当なそれぞれの愛の形や友情を感じさせる何かが必要だと思いました。ビジュアルを渋くしたいという以外にも話の根本を押えたかったんですよ。「BASTARD!!」には健全たる少年漫画の要素もあって、そこを大人の目線でとらえることを意識しました。
――大人の目線で捉えるというのは?
尾崎 たとえば、どうしても少年漫画では規制が入ってきますが、本来はそこも含めてだと思うんです。それが大人の世界で、エロやグロやバイオレンスといった部分を隠して健全な精神が育つのか、というところは考えてしまいますね。見せたい部分も見せたくない部分も両方入れたうえで初めて判断できる、という健全さですね。
後編に続く!
(取材・文・撮影/清水耕司)
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