映画「ゆるキャン△」大ヒット公開記念インタビュー後編! 「『ゆるキャン△』は、ちょっとずつしっかりと変化していく日常のドラマ」京極義昭監督インタビュー

映画「ゆるキャン△」(原作:あfろ/マンガアプリ「COMIC FUZ」にて連載中)が、現在、大ヒット上映中だ。

高校時代、キャンプを通じて関係を育んでいった、なでしこ、リン、千明、あおい、斉藤。時を経てそれぞれの道を歩んだ5人が、とあるきっかけでキャンプ場を作ることになる……というあらすじの本作。

劇場のスクリーンでみせる彼女たちの物語は、これまでの「ゆるキャン△」の魅力はもちろん、新たな要素も加わって観るものの心にほっこりとした感動を届けてくれる。

そんな映画「ゆるキャン△」はどのように作り上げられていったのか、なにを描きたかったのか、テレビシリーズから引き続き本作でも監督を務める京極義昭さんにお話をうかがった。

映画「ゆるキャン△」大ヒット公開記念インタビュー前編! 京極義昭監督が語る、なぜ映画では大人のキャンプを描いたのか?



映画でもあfろワールド全開の料理

――今回の映画でも出てくる料理が全部おいしそうで、観ていてお腹が空きました。

京極 ありがとうございます!(笑)

――種類がいっぱい出てきますし、絵のクオリティもすごいですね。

京極 本当にスタッフが気合を入れて描いてくれました。「カニの甲羅の色、間違えてます」「え?どこが違うの?」「ここ白なんです」「あ、そうですね」みたいな(笑)、誰も気づかないようなところまでこだわって描いてくれたんですよ。

――すごいですね。出てくる料理は今回も実際に作られたのですか?

京極 はい。「ゆるキャン△」に登場する料理は、作って食べて実感して写真に撮って……と必ずやるんですけど、どうしても大量に作れないので食べられない人が出てくるんですよ。そうすると、食べられなかったスタッフからの文句がすごくて。「なんで呼んでくれなかったんですか!!」って(笑)。

――料理に関してはあfろ先生もこだわりを持っていて、ご自身で作られているとのことですが、先生からはなにか注文があったのでしょうか?

京極 基本的に、シナリオの段階で「こういうシチュエーションで料理を出したいです」「こういう雰囲気の料理だと嬉しいです」とお話して、先生に料理のアイデアをいただく形を取っていました。それで先生のほうから「こういう料理はどうでしょう」とか、時には「ちょっと今作ってますので待ってください」「実際に作ってから考えますので待ってください」とか言われて(笑)。そういう感じでしたので、料理に関しては本当にあfろワールドといいますか、あfろ風味になっていると思います。

――「ゆるキャン△」の料理として間違いないですね。

京極 そうなんですよ。でも、魚料理が二段階で出てくるのには本当に驚きました。予想の斜め上を行くのが先生の持ち味なので、ここはぜひ見ていただきたいですね。そうくるか! みたいな料理になりますので。

ちくわが年齢を重ねた姿も自然なこととして描くべきだと

――キャラクターに関してもお聞きします。原作のなでしこやリンは時間が進むにつれて髪が長くなって大人っぽさが出ていた印象でしたけど、今回の映画版では髪も短くなり違った大人っぽさがありました。髪型などの見た目はどのように決めていったのでしょうか?

京極 髪型や服装に関しては、あfろ先生にたくさんラフをいただいて、基本的にそこからデザインをおこしました。「こんな風になるんだ…!」と驚いたキャラもいましたね。なでしことリンの髪型は先ほどお話ししたなでしこの妄想(TVアニメ第1作目第12話)のときから2人とも短かったので、自然と受け入れた感じです。大人になってからの長い髪の姿も見てみたいですけどね。

――成長したのは見た目だけでなく、セリフの端々にも感じました。なでしこのセリフもいいなって思いましたし。そういったセリフなどはどのように考えたのでしょうか?

京極 そう言ってもらえると嬉しいです。僕もいろいろなアイデアは出しましたが、実際にそれをストーリーやダイアログに落とし込んでいくのは、田中仁さんと伊藤睦美さんの脚本チームで。「そうそうそう、それを見たかったんだ」というシーンをどんどん作ってくれました。やっぱり第1作目のときから一緒に、どうやったらこの作品の魅力を伝えることができるか喧々諤々(けんけんがくがく)やってきたチームの信頼関係があったからこそだと思っています。

――キャラクターによっては、コミカルな方向というか「あ、そうなっちゃうのね」と思った人もいますが(笑)。

京極 いますね(笑)。どういう大人になるかは、もちろんあfろ先生にも常に脚本を見ていただいて、(先生の考えと)ブレないようにしています。

――個人的には、ちくわ(斉藤恵那の愛犬)もすごく印象的でした。年齢が上がれば当然ちくわも年を重ねるわけですから、変わらぬかわいさはありつつ、それだけではない感慨深いところもあって。ちくわを描くうえで意識されたことはありますか?

京極 やっぱり、斉藤さんにとってちくわは一番大切なパートナーですし、とても大事にしている子ですよね。だから、そこはしっかり描きたいし、年を重ねていったちくわもていねいに描かないといけないなと意識しました。

――具体的にどのシーンかの言及は避けますが、ちくわに斉藤さんがかけた言葉もすごく胸に響きました。

京極 いいシーンですよね。シナリオの段階からよかったんですけど、声の芝居も作画もすごく雰囲気が出ていて。

やっぱり「ゆるキャン△」って変わらない日常ではなくて、ちょっとずつしっかりと変化していく日常なんですね。しかも、それを盛り上げすぎるわけではなく、感傷的になるわけでもなく、自然に描かれるというか。受け止める側にゆだねられているところがあるんですよ。だから、ちくわの描き方は難しかったですが、ごまかしてはいけない。犬を飼っている方はショックかもしれなくても、自然なこととして描くべきだと思いました。


周りの新キャラクターにも注目してほしい


――テレビシリーズのときから、「ゆるキャン△」のアニメは風景の描き方もそうですし、光の使い方がすごく上手だなと感じていました。今回は映画ということで、普段のテレビシリーズにプラスアルファして意識したことはあったのでしょうか?

京極 大きくは変えていないです。風景とか光にこだわるのは、“そこにキャラクターたちが立っていることを感じさせたい”からなんです。彼女たちがそこに実際にいて、キャンプをしているんだと感じられるようにしたい。その大前提や方針は変えずに、どうやったらよりよく見せられるだろう? と各シーンでちょっとずつ工夫しながら作っていきました。

ただ、今回ちょっと特殊だったのは、都会が出てくることなんです。今まで描いてなかった名古屋が出てくるので、どうなるんだろうと。描くのはとても大変でしたが、美術チームが本当にがんばってくれました。愛知県出身のスタッフが「感動した」「地元が出てきて嬉しい」と言ってくれたので安心しました。

――確かに、名古屋には何度も行ったことがあるので、「あ、名古屋駅のあそこだ!」「有名なあの子がいる!」などとちょっと嬉しくなりました。

 

京極 この作品はロケハンが基本なので、名古屋にも2回ほど行きました。とにかく何度も何度もロケハンに行って地道に再現する、自分たちが見た魅力的な風景を絵に落とし込む作業は(テレビシリーズと)変わらずにやりましたね。



――音楽に関してはいかがですか?

京極 今回は、完全なフィルムスコアリングで作りました。それに、「キャンプ場づくり」をテーマに新しい音楽を取り入れたいと思って、今までにない「吹奏楽」という要素を入れているんですよ。ぜひ音楽も注目して聴いていただきたいなと思っています。

――これまでもキャンプ場ごとに曲を作るなど、さまざまなテイストの音楽が魅力的でしたが、今回は楽器の音色など聴いていて今までにない雰囲気を感じました。それを劇場の音響で聴くとさらによかったですね。

京極 そうなんですよ。環境音もすごくいいので、よく耳を澄ませて聴いていただきたいです。

――最後に、これから映画を2回、3回と観に行こうと考えている人もいると思いますので、こういうところに注目して観てみるのも面白いよ、といったことを教えてください。

京極 結構面白いのは、新しいキャラクターなんですよね。特に周りの大人たちがすごくいい感じで、先生のデザインも含めて魅力的なキャラクターがたくさん生まれたと思っています。ですので、なでしこたち5人だけではなく、周りで見守る大人たちにも注目してほしいです。個人的には(リンの職場の先輩と上司である)刈谷さんと編集長がすごく気に入っています(笑)。あんな先輩がいたらいいなぁと。この辺りはもうちょっと深掘りしたいと思いながら作っていたので、ぜひ注目してみてください。

――なでしこが勤務するお店に来店するお客さんたちも、それぞれドラマがありそうでしたし、いろいろな視点で楽しみたいと思います。ありがとうございました!


(取材・文/千葉研一)

おすすめ記事