エクアたち逃がし屋の活躍はこれからも続いていく!? 「エスタブライフ グレイトエスケープ」橋本裕之監督インタビュー
フジテレビ系列での放送を終えたTVアニメ「エスタブライフ グレイトエスケープ」。アキバ総研では、音楽の藤澤慶昌さん、シリーズ構成・脚本の賀東招二さんと、本作に携わるスタッフのインタビューを展開してきた。そして放送終了のタイミングでご登場願ったのが、監督の橋本裕之さん。「エスタブライフ」シリーズの世界観から、エクアたちメインキャラクターの誕生秘話、各話に登場した多彩なクラスタやゲストキャラクターなどなど、作品について多方向から語っていただいた。
「エスタブライフ」シリーズは今後、ゲーム「エスタブライフ ユニティメモリーズ」、劇場アニメ「エスタブライフ リベンジャーズロード」とメディア展開していく。それらの後続作品にエクアたちの出番はあるのか? 気になる方は、ぜひこのインタビューを最後まで読んでほしい。
※編集部注:本稿には最終回までのネタバレが含まれます。まだ本作を観ていない方はご注意ください。
全12話かけて、エクアのことを信じてもらえればいいなと
──TVアニメ「エスタブライフ グレイトエスケープ」は今後、ゲーム、劇場アニメと続いていく「エスタブライフ」シリーズの先陣を切る作品になりました。まずは参加の経緯から教えてください。
橋本 原案・クリエイティブ統括の谷口(悟朗)さんから、TVアニメの監督として指名があったんです。僕は谷口さんが監督を務めた「コードギアス 反逆のルルーシュ」('06~'07)に原画として入っていたんですね。スタジオで谷口さんと話をしたときに、演出に興味がありますと言って。そうしたら、アフレコやダビングに連れていってくださったんです。でも、その後は特にご一緒したこともなく、今回、監督に指名されたと聞いたとき、誰かと間違われているんじゃないかと思いました(笑)。
──いや、間違いということはないでしょう(笑)。
橋本 自分も監督を務めるようになると、ほかの監督のやり方を学ぶ機会は少なくなってしまうので、今回せっかく声をかけていただけたのだから、谷口さんの作品作りのノウハウを学ばせていただこうと思ってお引き受けしたんですけど、いざ制作が始まってみたら、すごく大変なことになりました(笑)。
──すごく大変というのは?
橋本 まず谷口さんから、作品の世界観について教えていただいたんです。ザ・マネージャーという世界を統括するAIがあって、それのもとにいくつもの街(クラスタ)が作られていて、そこには人間だけでなく、多様な亜人種が住んでいる。クラスタはそれぞれが分断されていて、モデレーターというAIによって管理され、すべての中心にザ・マネージャーがいる大江戸城がある。クラスタに住む人々は、ザ・マネージャーやモデレーターによる管理に特に不満があるわけではなく、ザ・マネージャーを倒して新しい世界を築く、というような機運は生まれていないということでした。
──「エスタブライフ」シリーズの基本設定ですね。
橋本 クラスタごとに特色があって、人間もいれば獣人もいればサイボーグも魔族もいる。多様化の極みで、つまりは何でもありの世界なんです。おそらくゲームにしやすい世界設定ということだったと思うんですけど、細かい設定は全然決まっていなくて。具体的にどんなクラスタがあるのか、それぞれのクラスタにはどんな歴史があるのか、谷口さんに聞いてみたら、それはTVアニメのほうで自由に決めていただいて大丈夫と。
──シリーズ構成の賀東招二さんも、同じことをおっしゃっていました。細かい設定についてはTVアニメのスタッフで決めたことが多かったと。
橋本 そうなんですよ。TVアニメだけだったらいいんですけど、同じ世界観でゲームと劇場アニメも作っていくわけじゃないですか。だから、こっちで勝手に作った設定がおかしかったら、世界観を破綻させてしまうぞと思ったんですけど、谷口さんの中では「どんな設定が来ても、俺はなんとかできる」と思われていたんじゃないでしょうか?(笑)。
──なんでも受け入れるということですか?
橋本 谷口さんの自信の表れというか、物語の世界を狭めないための方法論なんだと思います。でも、こちらにとっては、自由度の高さがむしろ難しかったですね。賀東さんとは今回初めてご一緒させていただいて、2人で様子を見ながら制作を進めていったんですけど、2人とも物語世界のことが完全にわからないままアイデアを出していかなければならなかったので、プロジェクトがスタートしてから、第1話ができ上がるまでは相当時間がかかりました。
──ストーリーに関しては、谷口さんから何か要望はあったのでしょうか?
橋本 ゲーム、劇場アニメと先の展開があるので、世界を閉じないでほしいと言われました。つまり、ザ・マネージャーを破壊するなり何なりして、今ある世界の秩序を打倒する、今の世界を終わらせるようなことはしないでほしいと。それから、いろいろなクラスタを出して、視聴者に見せてほしいと言われました。そもそも各クラスタに住んでいる人々の大部分は、今の世界に不満があるわけじゃないんですよね。別に世界が変わってほしいとは思っていない。でも、そんな中に何人かは、自分のいるクラスタは生きづらい、どこか別のクラスタで別の人生を歩みたいと思っている人はいるんじゃないかと。
──主人公たちが、別の人生を望む人たちと関わることでドラマが生まれます。
橋本 主人公たちが逃げたい人を逃がしているうちに、「この世界はいったい、どんな成り立ちをしているのか?」と世界全体のことを考えるようになってほしい。でも逃がすときのアクション中心のストーリーになるよりは自分としては、あくまでキャラクター物として今回の作品を作りたいと思いました。谷口さんが監督に自分を指名してきたのも、やっぱりキャラクター物を、という考えがあったと思うんですね。谷口さんの従来作にはない方向性で、TVシリーズを作ってほしいということで、自分が呼ばれたんだろうなと思い。それに気づいてから、世界の成り立ちに触れないようにして、キャラクターを中心に描くというコンセプトにシフトしていきました。そうすることで、おのずと世界が見えてくるだろうと。
──エクアはザ・マネージャーから「フェイタル・ラック」という能力を与えられていたことが、第10話「逃げても逃げても逃げられない」でわかりますが、彼女はザ・マネージャーのために働いていたのではなく、あくまで逃げたい人、1人ひとりに向かい合ってきたというのが、「エスタブライフ グレイトエスケープ」の物語だったと思います。
橋本 そうですね。そうやって個別のドラマを描いてきたんですけど、一番難しかったのがエクアの描き方でした。エクアはなぜ逃がし屋になったのか、「フェイタル・ラック」という能力があるにせよ、命の危険まで冒して逃がし屋を続ける理由は何か。それをまずは考えるじゃないですか。そのときに、かつて両親がクラスタから逃亡を図って殺されてしまったみたいな裏設定を作ってしまったら、エクアはこの世界を恨んでいるみたいな感じになってしまう。それは違うなと思ったんです。
──クラスタに分断されて統治されている今の世界をエクアは恨んでいないし、批判してもいないですよね。
橋本 そういうふうにしたかったんです。それで生まれたのが、あの裏表のない性格でした。そもそも、もし僕自身が逃亡するとしたら、どんな人に助けてもらいたいか考えたんです。それは自分がやっていることを信じている、ある意味、天然な人じゃないかなと。エクアは心の底から悩んでいる人を逃がしたいと思い、逃がすことで人を幸せにできると信じている。だったら、過去のいきさつなんかは描く必要がないと思いました。でも、そうすると彼女自身のドラマがなくなるんですよね。そういう主人公は難しいんです。
──心の中にかかえているものがないと。
橋本 そうそう。正直に言うと、そういう主人公のほうが作りやすいし、見ている人も共感しやすいですよね。エクア役の嶺内ともみさんも、最初、キャラ作りに困っていました。
──嶺内さんには、どのように説明されたのですか?
橋本 「この人(エクア)は笑顔のサイコパスだから」と(笑)。どんなときでも笑顔、こっちが不安になるくらい笑顔なので、最初は信じられないけれども、苦難をくぐり抜けてすべてが終わったときに、どんなに大変なときでもずっと楽しそうにしていて、それが信じられたし安心できたなと。そう思わせてくれる人です。「エスタブライフ グレイトエスケープ」は全12話かけて、見ている人たちがエクアを信じてくれるようになったらいいなと思って作りました。
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