「グランツーリスモ」を手がける開発会社ポリフォニー・デジタルの新オフィスの全貌が明らかに! 生みの親・山内氏によるプレゼンも行われた「グランツーリスモ」シリーズ25周年スタジオツアーをレポート

2022年12月15日、都内某所にある「グランツ―リスモ」開発会社、ポリフォニー・デジタルにて、「グランツーリスモ」シリーズ25周年を記念したスタジオツアーが開催。シリーズ最新作であるPlayStation 5/PlayStation 4用ソフト『グランツーリスモ7』(以下、『GT7』)の開発現場の見学のほか、シリーズの生みの親・山内一典氏(以下、山内氏)による同シリーズ25周年を迎えてのプレゼンテーションも行われた。

ツアーの対象となったポリフォニー・デジタル 東京スタジオは、以前から都内にあったが移転のタイミングがCOVID-19流行前だったため、メディア向けの公開は今まで長く見送られていた。そのため、現東京スタジオを紹介するスタジオツアーは世界初になるという。


ツアーの対象となったポリフォニー・デジタル 東京スタジオは、以前から都内にあったが移転のタイミングがCOVID-19流行前だったため、メディア向けの公開は今まで長く見送られていた。そのため、現東京スタジオを紹介するスタジオツアーは世界初になるという。


ワンフロアを使った広大な開発スタジオ。トレーニングルームや和室をはじめ、さまざまなデザインのコミュニケーションスペースも完備




社屋に入ると、まず見えたのはプレゼンテーション用のステージや「GT7」の試遊コックピットが12も並ぶプレイスペース。さらにお酒を飲めるバーや、来客やここで大会を行う際に来訪した選手が荷物を入れるためのロッカールームも完備されていた。今回のイベントのためなのか、場内のライティングは全体的に薄暗く、置かれている設備も相まってかなりシックな雰囲気だ。


ロッカールーム。それぞれに、これまで「グランツーリスモ」シリーズの各ソフト内に収録されてきたサーキットコースが描かれている


ロビーにあるバー。ドイツの有名なコース「ニュルブルクリンク」に実在するバーレストラン「デビルズダイナー」をイメージしている


カウンターに立つ山内氏


スタジオの入口に置かれていたヘルメット。伝説的なF1ドライバー、故アイルトン・セナ氏の悲願を受け、地元ブラジルの恵まれない子供たちのために設立されたアイルトン・セナ財団から贈られたという


「グランツーリスモ6」(PS3用)には、アイルトン・セナへのトリビュートとして、彼のレースキャリアを追体験するゲームモードが収録されている。

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ツアーが始まると、まずはプレゼンテーションのための空間を右に抜けて奥の部屋へ。ここは、テーブルやソファ、楽器類にホワイトボードが置かれている休憩室で、山内氏をはじめとする社員が社内で楽器を演奏することがあるほか、同社の福岡スタジオとオンラインセッションをすることもあるとか。ホワイトボードにはどこかの風景らしきものが書かれていたが、これは山内氏による落書きらしい。


社員用の休憩室(喫煙室)


記者のリクエストにこたえ、即興でホワイトボードに車を描く山内氏


「サウンドルーム」では、開発スタッフの作業を間近に見ることができた。ここでは音響の確認や音の制作を担っており、パソコンを始めとする多数の機材が並んでいる。奥のモニターには走行中の車と、それが発する音の方向が黄色い円錐で表示されており、レース中の音の状態はこと細かくチェックされているようだった。


サウンドルーム



最初の会場に戻って、今度は普段は閉まっているという大きな扉を抜けると、クリエイター達が詰めている開発エリアにつながっている。室内は白と黒を基調としたモノトーンの雰囲気で、各スタッフの作業デスクが整然と並んでいた。開発スタジオは、中央部にあるパーテーションで仕切られたスタッフの開発スペースが大部分を占めていて、その周囲に各種施設が置かれているというイメージだ。


「トレーニングルーム」。中央奥にある機材は、ドイツにあるニュルブルクリンクのサーキットで行われるGT3レースに参加する時の山内氏が、車のブレーキを踏み込む筋力を足に付けるために導入したという


トレーニングを実演する山内氏


次に案内されたのはライブラリ。中は資料室といった感じで、入ってすぐ前に並んだ棚には車のカタログや世界中の風景を収めた資料が、さらに左の棚にはスポーツカーのプラモデルが詰め込まれており、車好きにはたまらない空間だ。そのほかにも、プレイステーション系のハードで登場した新旧のゲームタイトルも収められていた。
今でこそ、自動車メーカー各社もさまざまなデータをデジタルアーカイブしているが、その昔は紙であったり、色見本サンプルなどモノでしか存在しない時代があった。
ここには、「グランツーリスモ」シリーズの開発現場とともに歩んだ、それぞれの時代の資料や見本が大切に保管されている。





2010年に山内氏がニュルブルクリンクでの24時間レースに出場した際、実際に乗っていた車のフロントフェンダー


続いてセミナールームへ。ここでは実機の映像を交えながら福岡スタジオと会議をしたり、学生を招いて「一日でゲームを作ってみる」というワークショップなどを開催したりしているという。ふだんはデスクを円形に組むのではなく、学校の教室のような配置にしているとのこと。


セミナールーム



次はビデオルーム。室内の奥には、映像合成に使われるグリーンバックがセッティングされている。ここは文字通り映像収録に使われているそうで、プロモーションビデオや公式世界大会「グランツーリスモ ワールドシリーズ」の解説者のライブ中継の収録を行うなど、その用途は幅広いようだ。




スタジオの一角には和室も用意されていた。畳と座布団、掘りごたつが用意されており、ふすまの向こうはホワイトボードになっている。打ち合わせも行えるが、年末のパーティーではお抹茶をたてられるスタッフが和服を着て、ゲストたちを迎えるのだとか。




山内氏に先導されてさらに進んでいくと、「グランツーリスモ」を遊ぶための専用の機材が。


右が通称「GT家具」。左がアクセス社製の七軸シリンダー制御のドライビングシミュレーター

写真右は、山内氏いわく「リビングルームでハンドルコントローラーをセッティングして『グランツーリスモ』を遊びたいが、家族に怒られてしまう人のためにデザインした」家具だそうで、ふだんはPS5や、ハンドル、椅子などを収納しておきテレビ台として使用できるように設計。ゲームをしたい時は、それらを引っ張り出すことで、あっという間に「グランツーリスモ7」を遊べる環境になる。試しに何台か制作してみたが、家具は販路を確保するのが大変なようで販売はされていない。残念!


運転席を模した左側のシステムは、サーキットに関わる製品などを手がけている会社・アクセスが開発した可動式のシリンダー制御ドライビングシミュレーターで、ゲームと連動して座席が動くのだという。以前、東京ゲームショウなどで試遊できたこともあったので、ご存じの方もいるのではないだろうか?


以上でスタジオ内のツアーは終了。ロビーに戻った後は、山内氏による「グランツーリスモ」シリーズ25周年のプレゼンテーションに移った。


山内氏による「グランツーリスモ」シリーズ25周年のプレゼンテーション




プレゼンテーションが始まると、まず山内氏は自身が率いている開発スタジオ「ポリフォニー・デジタル」(以下「PDI」)について解説。本スタジオは初代『グランツーリスモ』が発売された翌年の1998年に設立され、旧ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)のサテライトカンパニー制度により始まった。そして、PDIの根底には1980年代のPCカルチャーがベースとなり、挑戦や実験的な試みを行う社風があることや、設立時の理念として「世界の森羅万象を量子化して計算可能な存在にする」、「社会に対して開かれた存在であること」などを、スクリーンに投影したスライドを交えながら語っていただいた。



企業文化や社員比率といった話題を経て、つぎに「グランツーリスモ」シリーズのコースづくりに関する話に。解像度やフレームレートを比較するくだりでは、1作目の「グランツーリスモ」(PS用)の描画に使われている解像度が320×240、フレームレートが秒間30だったのに対し、最新作の「GT7」(PS5/PS4用)の解像度は3840×2160(4K画質)、フレームレートは60になっているとのこと。レースゲームはプレイヤーが遠くを見ることが重要なので、解像度が高くなることは特に重要だという。

次は、ゲームに実在のコースを取り入れる際の基準の話に。高低差を含めて、その構造は走っていて楽しいものなのか、知名度や歴史的なコースであるのか、景観は美しいのかといったいくつかのポイントがあげられるとのことだった。ちなみに、架空のコースを作る際は、世界中の景観を参考にしているとのこと。



さらに山内氏はコースを取材する際の段取りも公開。スペインにあるカタロニア・サーキットが映ったスライドを交え、どこをどのチームが担当するのか、どの機材をどこで使うのかといった役割分担を、事前にしっかり決めてから取材に臨んでいると語った。ちなみに、ひとつのコースを制作するにあたり、徒歩によるカメラ撮影だけで平均3万点以上の写真を撮っているという。

さらに8K対応のカメラを積んだ車によるパノラマビデオ撮影、レーザースキャン、複数の写真から3DCGを生成するフォトグラメトリといったさまざまな方法も取り入れており、実在のコースをゲームで再現することへのこだわりを感じた。

次にカーモデリングの話へ。コース作りの紹介と同様、こちらでも山内氏は1作目の「グランツーリスモ」から最新作「GT7」に至るまでの変化を取り上げた。同シリーズにおける車のモデルを作る際に使っていた頂点(ポリゴンを構成する要素。頂点が3つ以上合わさって1つのポリゴンという面になり、さまざまな描画が可能になる)の数は、第1作が250個、第2作で2,000個、「GT7」では100万個にまで増えているとのこと。スライドではトヨタのスープラのヘッドライドがサンプルとして紹介されたが、1作目はポリゴンの粗さが目立つのに対し、「GT7」では車のカタログにそのまま載せても遜色ないほどの再現ぶりだった。



その後のスライドでは、各車のモデルの制作数や頂点数、そして完成に至るまでの日数が表で出された。プレイステーションで発売されていた初代「グランツーリスモ」や「グランツーリスモ2」では、1台のモデリングの完成までにかかる日数は3日。プレイステーション3の「グランツーリスモ5」や「グランツーリスモ6」の場合は180日で、約半年。そして前作の「グランツーリスモSPORT」や最新作の「GT7」では270日と、1年の3分の2以上を車のモデリングに費やしていることがわかった。



なお、スライドの表組を見ると、収録台数は「グランツーリスモ6」の1200を頂点に減っていることがわかった。これにはモデリングの技術やハードの性能が上がったことにより、全体的な制作日数が増加したり、そもそものデータをゼロから作り直す必要が生じていることも関係しているのだろう。それでも「GT7」の収録台数は450に達し、さらにすべての車の内装に至るまで細部までこれでもかというほど忠実に再現している。また現在も、毎月のペースで車輛が追加され続けており、それらを踏まえると、「GT7」の収録台数は質と量を両立させていると感じた。

モデリングに関する話のほかにも、山内氏は車の選定基準についても解説。その車が人にどれほどの影響を与えたのか、歴史上でどのような存在なのか、デザインはどうか、人気はあるのかなど、さまざまな点を重視していることがわかった。


さらに今度はサウンドの話題へ。レコーディングの拠点は、日本国内のほかに北米とヨーロッパにもあり、それぞれに実車を持ち込んでエンジン音を録音しているという。方法としては、馬力や燃費を確認する機械のシャーシダイナモを使うのが基本で、どうしてもシャーシダイナモに持ち込めない車は、収録機材を積み実際にサーキットで走らせ録音しているようだ。



エンジン音の再現にも多彩な手法が採られている。最初に発せられた音が反射や屈折をくり返し、最終的に人の耳へ届くまでに発生した変化や差分を表現する「インパルスレスポンス・リバーブ」のほか、シリンダー内で起こる爆発をもとに、音が出てくるところまでを物理シミュレーションを使って表現する「エンジン音シンセサイザー」、さらに対象の車の上限を超えたエンジン回転数を生成するAI技術などが用いられているという。



次に、「グランツーリスモ」シリーズが辿ってきた25年を振り返る話へ。「グランツーリスモ」の出発点について山内氏は、自動車文化への憧れがあった以外にも、リアルタイムで3Dを描写する性能や物理シミュレーションといった、プレイステーションが当時持っていた斬新な機能を使ってゲームを作れることに対する思いがあったとも語った。また「グランツーリスモ」という名前は、かつて欧州で貴族の子息が教養を学ぶためにヨーロッパ大陸を旅し、さまざまな経験をすることを指す言葉に由来しており、そこで使われていた馬車のことを「グランツーリスモ」と呼んだのだという。


やがて山内氏は、それまでのゲーム業界にはなかった各自動車会社のリアルなクルマを収録した「グランツーリスモ」の第1作を作ろうとするが、当時はプレイステーションもまだ世に出ていなければ、ソニー・コンピュータエンタテインメントも設立されていない。その状況で自動車メーカー各社からの使用許諾をとりつけるため、非常に苦労したというエピソードが紹介された。ゲームの形や会社など、具体的な物を見せられない状態でどうやって自動車メーカーの皆さんを説得するかが、自分にとって最初の難関だったという。



そこで山内氏は、ソニー・コンピュータエンタテインメントという会社、プレイステーションというゲームハード、そして「グランツーリスモ」というタイトルそれぞれに関する3つの企画書を作る。

プレゼンは、自動車メーカーを1つひとつ訪ね交渉してまわる地道なものだったという。当初はお断りされていたばかりだったものの、ある時、トヨタ自動車の代表に電話をかけ、出てくれた担当者に会って企画書について説明したところ、ふたつ返事で「やってみましょう」と言われ、ついに最初の許諾が得られたという。トヨタ自動車の許可が出てからは、ほかのメーカーからも協力が得られるようになったということで、トヨタ自動車には今でも感謝の気持ちを持っていると語った。

スライドでは、1995年当初、山内氏が最初に制作した「グランツーリスモ」の企画書も紹介された。「グランツーリスモ」というタイトル名や車、人物のイラストが描かれた企画書の表紙と思しきページや、地形データを交えたシステムの説明に関するページもあり、どれも貴重な資料と言える代物だった。



その後、さまざまなコラボレーションを通し、アスリートを大切にするナイキに出会い、人を大切にする姿勢や「人を感動させるのは人である」という哲学に感銘を受け、ゲ-ムユーザーからリアルプロレーサーを育成する「GTアカデミー」や、「グランツーリスモ」の公式世界大会である「グランツーリスモ ワールドシリーズ」の開始につながっていった。また「きっかけさえ作れば、自動車メーカーも理想のスポーツカーをデザインしてくれるのではないか」と思い、自動車メーカーにゲーム内の車をデザインしてもらう企画「ビジョン グランツーリスモ」を考案したという逸話も。

そんな貴重なプレゼンテーションを聞いたり、試遊コーナーに用意された「グランツーリスモ7」を試遊しているうちに、あっという間に時間は過ぎ、スタジオツアーは終了となった。

開発エリアと社内を見せてもらうスタジオツアーとプレゼンテーションは合わせて3時間ほど。スタジオからはシリーズ開発への誠実な姿勢が感じられるとともに、山内氏のプレゼンテーションでは「グランツーリスモ」に対する思いや展望を存分に知ることができた。ゲームはもちろん、現実のレースでも活躍の幅を広げる「グランツーリスモ」シリーズは、今後どのような盛り上がりを見せてくれるのだろうか。

最新作「GT7」は、2022年12月15日より新規収録車種やスケープス特集追加を含むアップデートを配信開始。12月23日よりフェラーリ社が初めてバーチャルモータースポーツ用に製作したコンセプトカー「フェラーリ ビジョン グランツーリスモ」がゲーム内で購入できるようになるなど、日々進化を続けている。

今後も引き続き「グランツーリスモ」シリーズから目が離せそうにない。

(文・夏無内好)

【タイトル情報】
■「グランツーリスモ7」
発売日:発売中(2022年3月4日)
対応機種:PlayStation 5/PlayStation 4/PlayStation 4 Pro
ジャンル:リアルドライビングシミュレーター
CERO:A(全年齢対象)


<PS5用>
パッケージ版
・スタンダードエディション 8,690円(税込)
ダウンロード版
・スタンダードエディション 8,690円(税込)


<PS4用>
パッケージ版
・スタンダードエディション 7,590円(税込)
ダウンロード版
・スタンダードエディション 7,590円(税込)


<PS5・PS4用>
ダウンロード版
・25周年アニバーサリーデジタルデラックスエディション 10,890円(税込)

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