ハネケンの劇伴デビュー作にして、究極の「アニメ・レアグルーヴ」盤!「Columbia Sound Treasure Series 宝島 オリジナル・サウンドトラック」【不破了三の「アニメノオト」Vol.02】
「アニメノオト」第2回は、2018年11月28日に発売になったCD「Columbia Sound Treasure Series 宝島 オリジナル・サウンドトラック」(音楽:羽田健太郎、演奏:ケン・アンド・フラッター・オーケストラ)を取り上げます。
「宝島」は、1978年10月8日から1979年4月1日にかけ、日曜日18時半から日本テレビ系で全26話が放送されたテレビアニメ。製作は「巨人の星」(1968)、「アタックNo.1」(1969)、「侍ジャイアンツ」(1973)等、スポ根作品で一時代を築いた東京ムービー新社 (現:トムス・エンタテインメント)が担当しています。同社の「エースをねらえ!」(1973)で実力を発揮していた演出家:出崎統、作画監督:杉野昭夫を再び迎え、名作文学を原作とした新路線として製作した前作「家なき子」(1977)に続き、同じコンビが引き続き担当した第2弾作品。高名なロバート·スティーブンスンの冒険小説を、さらに暖かみと深みのあるドラマへとふくらませながら、見事に映像化を成し遂げた作品として今なお語り継がれている、テレビ·アニメーション史に残る傑作です。
音楽を担当したのは、作編曲・ピアニストの羽田健太郎(1949~2007)。後に「戦国自衛隊」(1979)、「超時空要塞マクロス」、「スペースコブラ」「西部警察 PART-II」(いずれも1982)等で、サウンドトラック音楽の大家として大ブレイクを果たす“ハネケン”さんですが、この「宝島」は彼にとっての記念すべきサウンドトラック作品デビュー作。当時、腕利きのピアニストとして、その実力は音楽業界に知れ渡ってはいたものの、作曲家としてはまだまだ未知数の部分が多かった羽田さんを、「巨人の星」から前作「家なき子」まで、東京ムービー(新社)作品を数多く手がけてきた作曲家:渡辺岳夫に代わる人材として大抜擢したのは、日本テレビ音楽の飯田則子プロデューサーだったそうです。
羽田さんいわく、「どういうわけだか知らないけど、当時の日本テレビ音楽の飯田則子さんに抜擢されたんです。その前にも若干CM音楽なんかは書いてはいましたし、作曲の仕事もできますよとマネージャーさんにも営業してもらっていたので、作曲家としての力量を全く知らずに僕をツモったわけではないんだろうけど。結果、めくってみたら僕にとっても作品にとってもドラだったみたいな感じでしょうか(笑)。もともとテレビが好きだったし、テレビから自分の作曲した音楽が流れてくるっていうのは、やっぱり感動しましたよ。これだけの大編成でアレンジさせてもらったのも初めてだったし、そもそも日本のテレビアニメの音楽で、ここまで大きな編成を使うというのも、まだ珍しかったんじゃない? アニメの音楽が効果音の延長上のような簡易な劇伴から、映画とそれほど違わない本格的な“サウンドトラック”に変わっていく、ちょうど境目の頃だったように思います。そういう場面に自分の音楽が立ち会えて、嬉しかったですよ。」(CD「ハネケンランド 羽田健太郎・サウンドトラックの世界」(2003)ライナーノートより)……とのこと。
このように、ハネケンが並々ならぬ意気込みで取り組んだデビュー作である「宝島」のBGM音楽は、過去に3回、商品化されています。ひとつ目は放送期間中の1978年11月、LPレコード「宝島 ヒット曲集」として、挿入歌とともにごく一部のBGM曲(レコード用録音のためステレオでレコーディングされている)を収録。2つ目は1980年にLPレコード「TVオリジナルBGMコレクション 宝島」として、実際にアニメ本編で使用されたモノラル音源のみで構成されたアルバムとして。そして3つ目は1992年に発売されたCD「FOREVER SERIES 宝島」。インターネットの普及前、パソコン通信の会議室に集ったファンたちが知恵を結集して選曲・構成を行い、ステレオ版・モノラル版の双方を収録した初の商品として世に出ました。しかし、これら3度の商品化を経てもなお、「宝島」の音楽すべての収録はかなっていませんでした。今回発売されたCD「Columbia Sound Treasure Series 宝島 オリジナル・サウンドトラック」は、これまでに発売された音源はもちろん、今まで収録されたことのない初商品化音源も豊富に含んだ「完全版」サウンドトラックとして製作されました。「宝島」放送から40年の時を経て、ファンの宿願がようやく成就することになったわけです。
本盤の企画・構成・原稿執筆を担当しているのは劇伴音楽研究サイト「劇伴倶楽部」の腹巻猫さん。みずからもインディーズのサントラCDレーベル「SOUNDTRACK PUB」レーベルを主宰し、昨年12月にはCD「家なき子 総音楽集」をリリースしています。続く今回の「宝島」は日本コロムビアからの発売ですが、今年の2~3月にも、Columbia Sound Treasure Seriesから「超合体魔術ロボ ギンガイザー オリジナル・サウンドトラック」が、SOUNDTRACK PUBレーベルから「ブロッカー軍団IV マシーンブラスター オリジナル・サウンドトラック」が相次いで発売されているように、2社が連携して埋もれた名曲BGMの発掘・商品化に取り組む姿勢は、相互に補完し合いながらアーカイブ化を進めていく理想的な共同事業として、サントラファンから大いに期待を集めています。
また、Columbia Sound Treasure Seriesでは、これまでにも「ルパン対ホームズ オリジナル・サウンドトラック」(音楽:玉木宏樹とジャズフレンズ/2015)、CD「海のトリトン オリジナル・サウンドトラック」(音楽:鈴木宏昌/2015)、CD「大恐竜時代 オリジナル・サウンドトラック」(音楽:SHOGUN/2016)など、アニメ劇伴であると同時に、日本のジャズ/クロスオーバー/フュージョンの名演の記録でもあるこれらのサントラ盤を、音楽的視点から再評価する試みも行われてきました。「ファースト・コール・ミュージシャン」(最も人気のあるスタジオ・ミュージシャンを称える通称)として日本のレコーディング業界にその名を轟かせたハネケンが、満を持して作曲活動に乗り出した「宝島」の音楽には、ハネケンだからこそ熟知している当時第一線のスタジオ・ミュージシャンとの、息の合った演奏がふんだんに含まれています。スピード感あふれる16ビートに流麗なストリングスがからむアレンジや、エレキギター、トランペット、サックス等が自由闊達なインプロビゼーションを繰り広げるジャム·セッション風の曲など、後に数多くの作品でファンを惹きつけることになる“ハネケン・サウンド"とでも言うべきアレンジのアイデアが、この時点ですでに、ほぼ完成されていることに驚かされます。なかには、名作文学アニメに付けられる音楽としての常識的なイメージをはるかに超越した、あまりにも切れ味するどいセッションも。「宝島 ヒット曲集」にも含まれており、当時のファンの度肝を抜いた大セッション曲「大海戦~夕陽の大船団」(ディスク1:Track12)はもちろんのこと、今回初収録となった「アクションI [MM-11-1]」(ディスク2:Track51)、「夢の世界/追跡 [M-51]」(ディスク2:Track58)などは、完全にテレビアニメ用BGMの演奏カロリーを超えたテンションとクオリティ。サウンドトラック初作に賭けるハネケンの意気込みのすさまじさを感じずにはいられません。
惜しむらくは、これらの名演奏を支えたミュージシャンたちの記録が残っていないこと。日本コロムビアのアニメ関連レコードへの演奏ミュージシャンの記載は、1977年のLP「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」で先鞭がつけられ、LP「エキセントリック サウンド オブ スパイダーマン」(1978)、LP「マーチ組曲 恐竜戦隊コセイドン」(1978)等、「宝島」と同時代の作品へと波及しつつありました。しかし、「宝島 ヒット曲集」は主題歌・挿入歌を含む子ども向け商品としての性格が強く、羽田さんの述懐として数名の名前があがっている(本盤のライナーノートに記載)ものの、残念ながら演奏ミュージシャン等の正確なレコーディング・データは残っていません。
しかし、ハネケンとその仲間たちによる、これらのあまりにスリリングでカッコいい曲と演奏が、当時のアニメファン、アニメ関係者たちの耳にとまって大いに評価され、「宇宙戦士バルディオス」(1980)を経てSF/アクション路線に開花。「超時空要塞マクロス」、「スペースコブラ」、「西部警察 PART-II」、「宇宙戦艦ヤマト 完結編」(1983)、「さよならジュピター」(1984)等、80年代の劇伴作家の筆頭と言えるほどの大活躍へとつながっていくわけです。90年代以降は、「タモリの音楽は世界だ!」「ニュースステーション」「題名のない音楽会(21)」等での軽妙なおしゃべりでお茶の間にも知られた存在になっていく羽田さん。「爆竜戦隊アバレンジャー」(2003)で久々に熟練のアクション劇伴を聴かせ、ファンを大喜びさせてくれたものの、本当に惜しいことに2007年に享年58歳という若さで生涯を閉じています。
若干29歳のピアニストが、作曲家という大海に漕ぎ出した、その第一歩の記録である「宝島」の音楽は、羽田健太郎さんの人生の半分、折り返し地点に置かれたマイルストーンのようなもの。そして我々が愛した「ハネケン・サウンド」の原点も、間違いなくここにあるのです。
(文/不破了三)
【商品情報】
■CD「Columbia Sound Treasure Series 宝島 オリジナル・サウンドトラック」
・発売日:2018年11月28日
・価格:3,500円(税別)
・レーベル:日本コロムビア
■収録内容
ディスク1
<宝島(ヒット曲集)>
1. 宝島
2. ベンボーと僕
3. 海は僕の生命さ
4. シルバー船長はすごい奴
5. ゆかいな船旅~遠い南の島
6. 小さな船乗り
7. まだ見ぬ世界へ
8. 不気味な宝島
9. 俺たちゃ海賊
10. 遠い故郷
11. 航海日誌
12. 大海戦~夕陽の大船団
<ボーナストラック>
レコードサイズ・カラオケ
13. 宝島 (オリジナル・カラオケ)
14. 小さな船乗り (オリジナル・カラオケ)
海賊の合唱コレクション
15. 海賊の合唱
16. 海賊の合唱 (アカペラ) ※
17. 海賊の合唱 (オリジナル・カラオケ)※
18. 海賊の合唱 (デモ) ※
TVサイズ・カラオケ&メロオケ
19. 宝島 (TVサイズ・カラオケ) ※
20. 小さな船乗り (TVサイズ・Saxメロオケ) ※
21. 宝島 (TVサイズ・EGtメロオケ) ※
22. 小さな船乗り (TVサイズ・EGtメロオケ) ※
TVスポット用音楽
23. OP TVスポット用Bタイプ ※
24. ED TVスポット用Aタイプ Pfメロ ※
25. ED TVスポット用Aタイプ Saxメロ ※
26. ED TVスポット用Bタイプ Saxメロ ※
27. ED TVスポット用Bタイプ Pfメロ ※
Alternate BGMコレクション
28. 別離 (別テイク) [M-34A] ※
29. おどり (薄め) [M-56A] ※
30. 舟歌 (short) [M-57A] ※
31. 風琴 (別テイク) [M-58B] ※
32. ジムの決意 (別テイク) [M-65B] ※
33. 居酒屋 (薄め) [M-70A] ※
34. わーッうれしい (A) [コンマ2A] ※
35. え、なんだって? (B) [コンマ6B] ※
36. びっくり (A) [コンマ7A] ※
37. びっくり (B) [コンマ7B] ※
38. 不安 (A) [コンマ8A] ※
39. たいへんだ急げ (A) [コンマ10A] ※
40. たいへんだ急げ (B) [コンマ10B] ※
41. 恐怖のタッチI [MM-4-2] ※
42. 恐怖のタッチII [MM-4-3] ※
43. 恐怖のタッチIII [MM-4-4] ※
44. 尾行 short I [MM-9-2] ※
45. 尾行 short II [MM-10-2] ※
46. アクションのタッチI [MM-11-2] ※
47. アクションのタッチII [MM-11-3] ※
48. わらべうた ※
49. わらべうた (カラオケ) ※
50. 宝島 (TVサイズ Solo Version) (宝島 Solo Version)
ディスク2
アバンタイトル~オープニング
1. アバンタイトル
2. おどり [M-56B]
3. 宝島 (TVサイズ)
ベンボー亭
4. 朝の海 [M-2]
5. 村の情景 [M-10]
6. 昼間の海 [M-3]
恐怖のビリーがやって来た!
7. 恐怖の夢/尾行 [M-52]
8. 魔の手 [M-44]
9. 暴力I [M-47]
10. 舟歌 [M-57B]
行って来るよ、母さん!
11. 決意 [M-15]
12. アイルランドの自然 [M-1]
13. 母の愛 [M-13]
敵か味方かジョン・シルバー
14. ブリストルの町 [M-11]
15. 居酒屋 [M-70B]
16. 冷たい視線 (B) [コンマ1B]
17. 変だぞ?何か (B) [コンマ4B]
18. 衝撃の乱打 (B) [コンマ3B]
19. 恐怖 [M-42]
進め!宝島へ
20. 出航だ [M-18]
21. 大海原 [M-8]
22. 船乗り [M-48]
ジムとベンボー
23. 無邪気な遊び [M-22]
24. シメタ! [コンマ5]
25. わーッうれしい (B) [コンマ2B]
26. え、なんだって? (A) [コンマ6A] ※
27. いたずらI [M-36]
28. いたずらII [M-38]
29. ジムの決意 [M-65A]
夜のヒスパニオラ号
30. 夕方の海 [M-4]
31. 海の夜景 [M-5]
リンゴ樽の中で聞いた!
32. 恐怖の一夜 [M-41]
33. 苦悩 [M-43]
34. 悲しみ [M-27]
宝島で何かが始まる!?
35. 海賊達の行動 [M-19]
36. 冷たい視線 (A) [コンマ1A] ※
37. 変だぞ?何か (A) [コンマ4A] ※
38. 不安 (B) [コンマ8B] ※
39. 殺気 (A) [コンマ9A] ※
40. 殺気 (B) [コンマ9B] ※
41. 変だぞ?何か (C) [コンマ4C] ※
42. にらみ合い [M-62]
これも人生! 敵・味方
43. サメとの死闘 [M-49]
44. 大ピンチ [M-50]
45. 賛美歌 [M-28B]
46. 死 [M-29]
亡者の箱まで
47. 風琴 [M-58A] ※
48. スリラー [MM-3] ※
49. 恐怖~スリラー [MM-4-1] ※
50. 驚き~追跡 [MM-5] ※
甘くみるなョ子供じゃないぜ
51. アクションI [MM-11-1] ※
52. 尾行II [MM-10-1] ※
53. コミカルI [MMコミカル1] ※
54. コミカルII [MMコミカル2] ※
55. 尾行I [MM-9-1] ※
56. アクションII [MM-12] ※
生きてりゃこそのお宝よ!
57. 衝撃の乱打 (A) [コンマ3A] ※
58. 夢の世界/追跡 [M-51] ※
59. 暴力II [M-46]
60. 陸が見えた! [M-23]
潮風よ、縁があったらまた逢おう
61. おどりの曲 [M-55]
62. 別離 [M-34B]
63. 仲間の死 [M-28A]
64. 次回予告 (OP TVスポット用Aタイプ) ※
フリントはもう飛べない
65. 英国国歌 [M-74] ※
66. 友情 [M-32]
67. 喜びの帰国 [M-25]
クロージング
68. 小さな船乗り (TVサイズ)
※初収録音源
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