アニメライターが振り返る、2018年注目アニメ映画レビュー

2018年に公開された映画の中から正月休みに必見の作品を紹介。絶賛上映中の最新作から、Blu-ray・DVD化された話題作まで、全5タイトルをラインアップしました。「響け!ユーフォニアム」のスピンオフ「リズと青い鳥」、アクション満載の「映画 クレヨンしんちゃん 爆盛! カンフーボーイズ~拉麺大乱~」、ハチャメチャな展開が気持ち良い「ニンジャバットマン」、劇場版第20作「ドラゴンボール超 ブロリー」、プリキュア15周年記念作品「映画 HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ」の5作品を紹介します。

リズと青い鳥

主人公の鎧塚みぞれを見ていると、アニメーション研究会に入った学生のころを思い出す。アニ研にも彼女と同じように、無愛想ながらも不思議と慕われている先輩が何人かいた。そんな先輩たちは、絵が抜群にうまかったり、膨大な知識を身に付けていたりと、卓越した才能の持ち主であることを知って得心したものだ。
吹奏楽部に所属するみぞれもオーボエにすべてを注ぎ込んだ少女であり、その才能に多くの人々が引き寄せられていく。オーボエ担当の1年生やトランペット担当の2年生、外部指導者のコーチまで、みぞれと1対1で話そうとするのだが、そのとき彼女たちはなぜか真っ正面から向かい合うのである。
そのいっぽう、傘木希美は明るい性格でいつも部員たちに囲まれているが、誰も彼女と正面から向かい合おうとはしない。希美から音大を受験することを告げられたコーチも、その構図を避けるように、別の方向へ歩き去ってしまう。『リズと青い鳥』での才能は、相手の足を自分に向かせる力として画面に表れているのだ。「大好きのハグ」が忘れられないシーンに仕上がっているのも、2人が互いに向き合っているからに他ならない。



映画 クレヨンしんちゃん 爆盛! カンフーボーイズ~拉麺大乱~

劇場版第26作は春日部にある中華街・アイヤータウンが舞台。伝説のカンフー・ぷにぷに拳を習得したカスカベ防衛隊とヒロインの玉蘭(タマ・ラン)が、ブラックパンダラーメンで人々を凶暴化させる怪しげな組織と対決する。全編にわたってバトルシーンが盛りだくさん。正統派のカンフーを披露する蘭と、コミカルな動きで敵を翻弄するしんのすけ。異なるタイプのアクションを堪能できる。
注目は蘭の師匠を演じたゲスト声優の関根勤さん。敵に秘孔を突かれて「パン・ツー・まる・見え」というセリフしか喋れなくなる難しい役柄を熱演した。喜怒哀楽のすべてを「パン・ツー・まる・見え」で伝えようとする様子はおかしいが、どこか人生の悲哀も漂っている。物語終盤の意外な展開やクライマックスの解決方法も、正しさを押しつけない「クレしん」らしさが感じられて小気味よい。



ニンジャバットマン

バットマンはDCコミックスのコンテンツであり、本編でどんな破天荒なストーリーを繰り広げようと、最終的には元通りにして返さなければならない。本作はバットマンが戦国時代にタイムスリップするというカオスな物語でありながらも、その原理原則はしっかり守った一級のエンタメ作品である。当然バットマンが死ぬこともなければ、過去に置き去りにされることもない。踏み越えてはいけないラインは抑えつつも、原作への深いリスペクトや派手なアクションを詰め込んでおり、観客は安心しながら映画を楽しめる。
だが途中で挟まる牧歌パートだけは話が別。通常とは違う絵柄で表現されたこのシークエンスは、『バットマン』という作品に爪痕を残す気マンマンで、明らかに一線を踏み越えてしまっている。ジョーカー役の高木渉さんをはじめ、キャスト陣の怪演も相まって、一度見たら決して記憶から消せない衝撃を観客に与える。もし85分の上映時間すべてが牧歌パートだったら、2019年のバットマン80周年は迎えられず、その歴史に幕を降ろしていたのではないか……。そんな妄想してしまうほどの危うさを孕んだ一作。



ドラゴンボール超 ブロリー

過去の劇場版でオリジナルキャラとして登場し、圧倒的な強さで観客を震え上がらせた伝説の超サイヤ人・ブロリーが最新作で復活。後半は戦闘シーンの連続で、まるでアトラクションを体験しているかのような酩酊感に打ちのめされる。最初は青空が映える氷原で戦っていたはずが、気付けば割れた大地からマグマが吹き出してスクリーンは赤く染まり、最終的にはどこだかわからない空間になってしまっても悟空たちは戦い続ける。作画と3DCGによって描かれた壮絶バトルは、IMAX上映に相応しいド迫力だ。
物語はブロリーの誕生から地球襲来するまでの数十年を描いており、キャラクターの幼少期も同じキャストが演じていることもポイント。孫悟空役の野沢雅子さんは父親のバーダック役も担当。さらに千葉繁さんがラディッツの子供時代を演じているのも、思わずニヤリとさせられる。



映画 HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ

「映画 プリキュア」は子供たち一緒に劇場をおとずれたファミリー層と、ひとりでノコノコやって来たオタとでは、まったく異なる感想を抱く映画を作り続けてきた。今作の敵・ミデンは、プリキュアの記憶を奪ってしまう役柄であり、歴代プリキュアの名ゼリフを発しながら襲いかかってくる。その姿は演じた宮野真守の熱演も相まって、悪ふざけをしているオタそのもの。これは「すべてのプリキュアを知っているオタ=敵」という、東映アニメーションからの宣戦布告以外の何者でもないだろう。
たしかにミラクルライトを振って喜んでいる子供たちより、我々はプリキュアに詳しいはずだ。それこそ映画に登場するプリキュア全55人の顔と名前まで一致してしまうが、はたしてそれはいいことなのか、他人に胸を張って誇れることなのだろうか。そんな苦悶を抱えながらスクリーンを眺めていると、「HUGっと!プリキュア」のハリハム・ハリーが第四の壁を軽々と破って、観客たちに語りかけてくる……。プリキュアを見続けてきたオタさえ受け入れるハリーのやさしいセリフを確認するためにも、いち早く映画館に駆け付けるべき名作。



(文・高橋克則)

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