「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」暗殺者チームとの熱い戦い、開幕!【犬も歩けばアニメに当たる。第44回】
心がワクワクするアニメ、明日元気になれるアニメ、ずっと好きと思えるアニメに、もっともっと出会いたい! 新作・長期人気作を問わず、その時々に話題のあるアニメを、アニメライターが紹介していきます。
今回取り上げるのは、10月から放送中の「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」です。
第5部の舞台はイタリア。ギャングスターに憧れるジョルノ・ジョバァーナは、ギャング組織「パッショーネ」に入団し、子どもに麻薬を売る正体不明のボスを倒すため、ブローノ・ブチャラティらとともに行動します。
第5部は「ジョジョ」シリーズのなかでも独自の魅力を持つ人気のパート。原作ファンの筆者が、第5部アニメの楽しみ方をご紹介します。
トリッシュを護衛して逃げきれ!「暗殺者チーム」との戦い
第1クールの放送を終えて、「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」がおもしろくなってきた。
ことに、ナランチャ・ギルガとホルマジオの、緊迫感あふれる1対1の対決を描いた9話〜11話は盛り上がった。
ボスの娘トリッシュ・ウナの護衛の任務を受けた「ブチャラティ・チーム」と、トリッシュ奪取をもくろむ「暗殺者(ヒットマン)チーム」の初戦だ。勉強や細かいことを覚えるのが苦手なナランチャが、たった1人で敵と遭遇して「大丈夫なのか?」と思わせる流れから入っておいて、スタンド戦での勝負強さを見せる展開は、熱い。
「スタンド」と呼ばれる「具現化した異能力」を駆使して戦うのが、「ジョジョ」第3部以降の特徴だ。ナランチャのスタンドは、小型飛行機のかたちをした「エアロスミス」。ホルマジオのスタンドは、傷をつけた生物を小さくすることができる「リトル・フィート」だ。
スタンドそれぞれの能力には秘密や限界がある。相手のスタンドがどんな能力なのかをさぐりあい、相手の意図を見抜き、その裏をかく。いっぽうが優勢になったと思えば、たったひとつの行動で攻守が逆転し、命の危機が迫る。
どちらもひとりきりで、仲間の助力はない。ギャング同士だから、傷つけ、殺しあうことに迷いはない。ナランチャはトリッシュを追わせないためにここで追っ手を倒すことを決意し、ホルマジオはどんな手を使ってでもトリッシュの居場所を突き止めようとする。
能力をぶつけあい、ギリギリの状況で逆転のチャンスをねらいあい、最後はそれぞれの覚悟がむき出しになる。爆発して炎が吹き出す派手な戦闘を、劇的なBGMが盛り上げた。
原作からのファンにとっては、CGで精密に作画された「エアロスミス」が楽しい。細かいギミックを見せてナランチャの腕から肩に着陸するシーンには、心がときめいた。
過去に傷つき、運命にあらがう「生きざま」を描く第5部
「ジョジョの奇妙な冒険」は、各部が関連もありつつ独立していて、主人公も戦う相手も テーマも異なる。第1部〜3部では、ジョナサン、ジョセフ、空条承太郎と、三代にわたるジョースターの血族の戦いが描かれた。第4部では日本の杜王町を舞台に、ジョセフの隠し子の東方仗助が主人公となった。
第5部の主人公は、ジョルノ・ジョバァーナ。ジョースター家の宿敵だったDIOと、日本人女性の間に生まれた息子だ。ただし、DIOの肉体がジョナサン・ジョースターの首から下を乗っ取ったものだったため、血筋としてはジョースター家の末裔でもある。ジョルノの意志の強さや、弱者を踏みにじる者を憎む正義感は、ジョースター家に共通するものといえる。
いっぽうで、これまでの主人公たちと異なるのが、ジョルノは家族の愛や絆が欠けた環境で育ってきたことだ。心に深い傷を受けた過去をもち、孤独だったからこそ際立つ強さを持っている。
ジョルノが目指すべきヒーローとしてギャングスターに憧れたのは、親や周囲から邪険にされた自分を、人として尊重しきちんと接してくれたのが、ギャングの男だったからだ。ここでは、何が正しく何がまちがっていて、何が自分の人生にとって価値あるものなのかの逆転が起こっている。
そしてそれは、同じチームのギャングたちにも共通している。覚悟も強さもやさしさも、理不尽な過去と、自分が選択した現在から生まれている。
だから第5部では、ジョルノはもちろん、ブチャラティをはじめとしたチームの1人ひとり、レオーネ・アバッキオ、グイード・ミスタ、パンナコッタ・フーゴ、ナランチャの、運命にあらがう「生きざま」を見せていく色合いが強い。
主人公のジョルノは、ブチャラティ・チームに加わった新人であって、参謀でもリーダーでもない。しかしだからこそ、彼の言動が仲間たちをどう動かし、どう変えていくのかは、見どころのひとつでもある。
もうひとつ、ジョルノは歴代の主人公と異なり、ケンカに強いマッチョではない。また、彼のスタンド「ゴールド・エクスペリエンス」は、「物質に生命エネルギーを与える」能力を持つ。これは、第4部の主人公・仗助が「破壊したものを元に戻す(人体の場合は、傷を治癒させる)」能力を持っていたのと同じく、一見バトルには不向きな力だ。これを駆使する意外性のある戦いは、この先たっぷり見られるだろう。
細かいところは楽しく、バトルはダイナミックに、覚悟は熱く
生死に関わるシビアな戦いが展開される第5部にふさわしく、キャラクターデザインは、黒いカゲを多用した陰影の濃いものになっていて、原作に通じる「キャラの濃さ」をうまく表現している。
トリッシュとブチャラティ・チームを追跡する敵「暗殺者チーム」は、人気の高い登場人物だ。原作では、顔ぶれも能力もまったくわからない彼らが、戦いごとにひとりずつ姿を表すのが楽しみのひとつだ。
しかしアニメでは、暗殺者チーム9人全員を、10話で初登場させた。これは、原作ファンにとってうれしいサービスであると同時に、初見の視聴者に、これから対決する敵のイメージを鮮明に印象づけることにもなった。
木村泰大監督は、ジャパンプレミアの発表時に、「原作のエピソードは削ることなくアニメ化する」と語っている。
その意気込みを感じたのが、7話で登場した、通称「ギャング・ダンス」だ。「7話のギャング・ダンスの再現度すごい」「笑った」と、SNSでも話題になった。
ナランチャ、ミスタ、フーゴの3人が、敵に情報を吐かせようと拷問しながら踊りだす──という、ブラックでシュールでユーモラスで、「ジョジョ」らしさを感じるシーンだ。
それを、音楽に乗せてリズミカルに、しっかりとアニメらしくやってくれたのだ。これで原作ファンの心はわしづかみだ。あのポップでサイケデリックでヤバい映像……「アニメになってよかったー!」と思える瞬間だった。
スタンドバトルに色と動きと音楽がついてノリノリで見られるのは、アニメの楽しみだ。なかでも、CGでメカニックが細かく作画され、風景を俯瞰しながらスピーディーに飛び回るエアロスミスには、爽快感がある。また、ミスタのスタンド「セックス・ピストルズ」は、原作どおり、細かく表情や動きが描きわけられている。6人(「匹」と数えるのは禁物!)の個性を見分けてほしい。
細かいところは楽しく、バトルはダイナミックに、覚悟は熱く。この先もこのように楽しめることを期待したい。
名ゼリフが炸裂する「VSプロシュート&ペッシ戦」はこれから
ここからの物語は、ボスの正体をつきとめるためにトリッシュを奪おうとねらってくる「暗殺者チーム」と、護衛する「ブチャラティ・チーム」の戦いがつづく。
なかでも、大きな見どころとして期待できるのが、時速150kmで疾走するフィレンツェ行き超特急を舞台とする「VSプロシュート&ペッシ戦」だ。
「覚悟はいいか? オレはできてる」
ブチャラティのキャラクターPVにも登場した、彼を代表する名ゼリフが登場するエピソードでもある。
暗殺者チームのプロシュートとペッシは、兄貴分と弟分のコンビだ。プロシュートは、冷徹でそっけない言動に熱い心を秘め、弟分のペッシを叱咤して一人前のギャングになれと声をかける。その面倒見のよさや男前なところから、敬意をこめて「プロシュート兄貴」とファンに呼ばれる人気キャラだ。
スタンド能力を全開にした極限のやりとりの中で、手に汗にぎる危機また危機がつづき、心に刺さる名ゼリフが展開される。第5部の「ベスト・バウト」にあげるファンも多い一戦。期待せずにはいられない。
ストーリーをひっぱる謎のひとつが、ボスの娘のトリッシュだ。父を知らずに育ち、護衛されているだけの彼女が、少しずつブチャラティたちと交流して変わっていく。
先の展開を知っている原作ファンからすると、ブチャラティのチームがそろって行動しているこの時期の描写は貴重でもある。
第5部「黄金の風」の放送は、3クールが予定されているという。ジョルノたちの戦いの物語は始まったところだ。まだまだ先は長い。暗殺者チームとの戦いを、今から追えば、心を熱くする 名ゼリフ、名シーンにいくつも出会えるだろう。
(文・やまゆー)
(C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険GW製作委員会
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