寿美菜子インタビュー 念願の「ポジティブな逃避行」を歌ったシングル「save my world」リリース
声優アーティスト・寿美菜子さんが12枚目のシングルとなる「save my world」をリリースする。表題・カップリングとも「ポジティブな逃避行」をテーマにした作りで、それぞれ異なるジャンルの曲を楽しめる作りになっている。とりわけ表題曲「save my world」は彼女が現在熱心に取り組んでいるダンスミュージックで、MVのダンスを含めさまざまな挑戦がそこに見える。スフィアの充電期間中に磨いた彼女の表現を見つめてみよう。
ロサンゼルスで経験したダンスレッスンから見えたもの感じたもの
──今回のニューシングル「save my world」は、1年前に発表された3rdアルバムの「emotion」で切り開いたダンスチューンの延長線上に位置づけられそうですが、ご自身としてはどのように取り組まれましたか?
寿 アルバムの後に出るシングルについて、方向性はやはり考えました。それは2ndアルバムの「Tick」の後に「black hole」をリリースするときも同じでした。アルバムをひとつ作るとやはり達成感が強いので、次のステップへという認識になるのですが、いっぽうで「emotion」をやりきったからこそできることもあるなと。そこで、繋がっていつつもさらにワンランク上のシングルにしたいなと思っていました。
──アルバムで作った路線を定着させつつ、新たな一面もこのシングルで覗かせようと。
寿 そうですね。ただ、アルバムで広げた要素をより深く掘っていくことがシングルとして本当に正解なのかはわからないという意味では挑戦という1曲な気がします。
──寿さんはご自身の挑戦について積極的ですよね。
寿 そうですね(笑)。よく「挑戦してます」ということが多いですね(笑)。今回もある種の挑戦でもありましたし、それはドキドキしつつ思い描いた形になりました。シングルのテーマとしても、作詞の内容としても挑戦だったと思います。個人的にシングルの裏テーマとしてあったのは「ポジティブな逃避行」です。今まではとにかく、前に前にというスタンスだったので、そういうことをあまり考えたことがなかったのですが、それも今回のシングルを通して勉強になりました。普段私の「逃避行」は旅や、映画を観たりマンガを読んだり音楽を聴くといった作品に触れることなんです。作品に集中するからこそ別の世界に行けるという感覚があるので、「逃避行」は私の中でネガティブな印象はないんですよ。別の場所に行くことによって元の世界を愛することができるみたいな認識ですね。
──アルバムに続いて今回のシングルでも作詞を手がけられましたが、「save my world」のテーマはある程度、事前に考えられていたものでしたか?
寿 「逃避行」という大枠のテーマは事前に決めていましたが、作詞家さんに書いていただくか、自分で書くかどうかは当初決めてはいなかったんです。ただ、「逃避行」の感覚がどれくらいのものかを示すには自分で書いたほうがいいなということになり、自分で書くことに早い段階で決まりました。そのあと楽曲を聴いたところ、自分に対して嘆く部分や過去を振り返る部分がありながらも希望が見える「逃避行」にしたいという形に固まりました。
──振り返るというのはどんな思いから浮かんだテーマですか?
寿 今の社会人の人たちにとっては、こういうことがあるんだろうなという予想と、私に見えている社会の組み合わせからですね。今から過去を振り返るというよりは、今後何か陥ったときに未来から現在を見るという意味での振り返り。時には一度逃げてみることも必要だと思ってもらえたらいいなという思いで書きました。
──寿さんの中で2018年は吸収ができる時間はありましたか?
寿 はい。たくさんありました。2017年にロサンゼルス(LA)をひとり旅したのですが、今年も行ってきまして、そこで念願のダンスレッスンを受けることができました。私はジャズ・ファンクというジャンルが好きで、とにかく振付をするレッスンもあれば、ひたすら基礎をいろんなジャンルの音楽に合わせて行なっていくグルーヴスという授業もありました。踊ったことはなかったけど面白いジャンルにもトライできたりと、いろいろな発見がありました。LAではすでにプロのダンサーが自分のスキルを磨くために来ていたり、とにかく踊ることが好きで習いに来ているという人もいたりして、それを見ているだけでもすごく楽しいし刺激的でした。「弱音吐いてちゃいけない」と思わされるくらい、向こうの方は自己表現が強かったりして面白いと思った部分と、逆に繊細な部分は日本やアジア圏にしかないなと感じました。日本のダンサーさんでも海外に行ったことで日本のダンスがスゴいと感じられたとおっしゃる方がいて、それまでは私も「言うても本場のほうがスゴいんじゃない?」と思っていたのですが、実際に行くと、なるほどと思いました。先生から教えてもらったものを、割とみんな大きく表現します。向こうではそれでよいんですけど、日本で格好いいとか美しいとされるのはもう少し繊細で細やかだからとその両方を知ることができましたね。あとは初めて韓国に行ったりと、自分の好きな物事にたくさん向き合うことができました。それはスフィアの充電期間中だからこそできた、とても充実したインプット期間でした。
──ダンスチューンを歌ううえでの特徴的なことは何かありますか?
寿 まずは歌でリズムをきちんと表現することを大事にしています。1音1音に対して歌詞をはめて、ニュアンスを出せる部分は出しつつ、味付けを濃すぎないように、いかに音楽的に聴きやすい曲にした中で味付けをしていくか。ダンスチューンにはずっと繰り返しているループに当てていく気持ちよさがありますし、だからこそ、韻を踏むということが大事なんです。この曲はメロディラインもしっかりしているので、リズムに当てつつも流れるように歌えているんです。そこが絶妙なバランスになっていて、キラキラ感がありつつも切なさもあって、低音で響くリズムがより加速させます。Dメロに書いた「加速していく高鳴る鼓動」も、この曲のメロディラインだけで高鳴り、すごく加速していく感じがあると思ったので書いたんです。そのくらい歌いがいのある曲でした。
──寿さんは以前からダンス曲がお好きでしたよね。
寿 そうですね。憧れのひとつを今回かなえてもらいました。ミュージックビデオ(MV)でも踊っています。今回の振付師さんは初めてお願いした方なのですが、すべてお任せして、まず1コーラス踊ってもらって、そこで歌っている側としての意見を伝えて、そこからフルコーラス分の振り付けを作っていただくという形でした。踊れば踊るほど、自分の歌詞をこんな風に解釈して振り付けてくれたのだという喜びがありました。私はDメロの「思 わず緩んで溢れ出る涙がきらめいて」の振り付けが一番好きなんですけど、ここはポジティブに希望が見えている歌詞を書いてはいたのですが、それをダンスにすることでさらに希望と切なさが加わって見えてくるんです。そうして表現が広がっていくことにまた感動しました。MVができあがってから、また私が歌う段階になったらどういう風に変わっていくんだろうかと、今後も楽しみですね。監督も元ダンサーの方で、どこをどう切り取ると格好よく見えるか、そして格好よくなりすぎないかの塩梅が絶妙なんです。「逃避行」感を出すために、雲の上にいたり、紙飛行機を使って、浮いているようなシチュエーションで撮ってくれました。ファンタジーとかパステル感あるかわいらしい感じなんですけど、そこにこの曲がハマることによってカッコカワイイみたいなのが絶妙なバランスで作られていたかなと思います。そこでの衣装も今回初めてスタイリングをお願いした方で、いろんなアイデアを出してくださって、私の振り付けにニュアンスが出やすい動きのあるワンピースを用意してくださいました。新しいエッセンスが入ることでドキドキもあるのですが、結果的にはすごく面白い世界が開けたかなと思います。
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