中国での映画興収が「すずめの戸締まり」、「スラムダンク」の順番になった理由と 注目が集まらない中国の4月新作アニメ事情
中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。
今回は中国の動画サイトで配信されている日本の4月の新作アニメに関する動向や、中国でも大人気になった「THE FIRST SLAM DUNK」の中国での受け止められ方などについて紹介させていただきます。
遅れて配信の始まった新作はあるものの、注目がなかなか集まらない4月の新作アニメ
中国本土での大人気ぶりや興収の記録などが聞こえてくる日本の劇場版アニメ作品とは対照的に、中国の動画サイトで配信されている日本の新作アニメに関しては、相変わらず厳しい状況が続いている模様です。
中国のオタクな方々から聞こえてくる話によると、4月の新作アニメは中国での期待作や話題作の多くが配信されていない、あるいは配信時期が不明な状態だったこともあり、中国のオタク界隈では新作アニメ関連の話題がいよいよ減ってきているようで、
「新作アニメを通じて二次元が盛り上がる、新人が入ってくることは当面期待できそうにない」
といった嘆きの声も出ているとのことでした。
一応4月スタートの新作アニメの中にも日本とのタイムラグがあまりない状態で順調に配信が行われている作品もあり、「スキップとローファー」などは見た人からの評価は高いものの、新作アニメとして注目され大きな話題になるというほどではないそうです。また実質1シーズン遅れて「とんでもスキルで異世界放浪メシ」の配信が新作アニメ扱いで始まると、堅調な人気を獲得している模様です。
それ以外では、遅れて「マッシュル-MASHLE-」の配信が始まって再生数も堅調に伸びているそうで、さらに6月に入ってからようやく「鬼滅の刃 刀鍛冶の里編」の配信が始まったそうです。最も「鬼滅の刃」に関しては圧倒的な再生数を誇った以前のシーズンを考えるとやはり盛り上がりに欠けるところがあるうえに、削除や修正されたシーンも目立ち何かと不満が出ているとのことです。
このような状況に関して中国のオタクな方からは
「以前は新作が始まる前に中国のオタクたちはどの作品を追いかけるべきか討論して盛り上がっていました。最近の新作アニメに関する話題の少なさを見ていると、開始前の討論の影響が大きかったことを意識してしまいます」
といった話もありました。
それに加えて近頃の国際情勢における中国の立場が難しくなってきていることや、日本で開催されたG7サミットなどにより、また日中間の空気が緊張していくのではないか、それが中国国内における日本のコンテンツの扱いにも影響するのではないかといった不安の声も聞こえてくる中、中国における日本の新作アニメの配信に関しては何かと頭の痛い状況が続いている模様です。
中国での映画興収が「すずめの戸締まり」、「スラムダンク」の順番になった理由
ここしばらくの間、中国では日本のアニメ映画が新作旧作ともに立て続けに上映されています。なかでも「すずめの戸締まり」と「THE FIRST SLAM DUNK」は中国における日本映画の歴代興収ランキングを塗り替えるレベルの人気となっており、中国のオタク界隈でもこの2作品に関しては大きな話題になっています。
またこの2作品に関して中国のオタク界隈では、話題性や知名度の高さなどから何かと比較されているそうで、特に興収の数字に関しては「なぜそうなったのか?」と興味を集めているそうです。
この記事を書いている6月初めの時点における、各作品の中国本土での興収は「すずめの戸締まり」が約8億元(約157億円)、「THE FIRST SLAM DUNK」が約6.5億元(約127億円)となっているようですが、中国のオタクな方々の話ではこれらの数字に関して納得できるところもあれば意外に感じられるところもあるのだとか。
中国市場における「すずめの戸締まり」の大人気の背景に関しては前回の記事で大まかにまとめさせていただきましたので、今回は主に「スラムダンク」に関して書かせていただきます。
中国では、「THE FIRST SLAM DUNK」は上映開始の4月20日が近づくにつれて大きな盛り上がりとなっていきました。上映直前になると中国のネットのSNSやオタク系のフォーラムでは
「すずめの戸締まりが更新したばかりの記録をさらに更新するのでは?」
「中国市場での興収は10億元を突破するのでは?」
などといった非常に景気のいい話も出ていたそうです。
しかし予約の数字や、最初の週の興収の伸びは非常に良好だったものの、以降の伸びに関しては事前の予想よりも鈍く、その後は「すずめの戸締まり」には及ばない……といった数字に落ち着いていった模様です。
「すずめの戸締まり」と「THE FIRST SLAM DUNK」の興収に関して、現時点では中国だけでなくアメリカ、韓国などでも基本的には「すずめの戸締まり」の方が興収では上になっているようですが、中国のオタクな方からは
「スラムダンクは過去に中国で社会現象レベルの大人気になったIPなので、中国市場でも興収が『すずめの戸締まり』に及ばない、むしろ割合的に見ると韓国や日本よりも『すずめの戸締まり』が強かったというのを意外に感じる人は少なくありません」
「しかしこれに関しては上映直前にあおられ過ぎた影響もあります。3月ごろはスラムダンクの興収に関しては失敗を心配する声も少なくありませんでした。しかし直前の宣伝の強さとチケット予約の好調ぶりから夢見させられてしまった人がかなり出たのではないかと……」
といった話もありました。
ほかにも映画の興収の背景に関しては
「映画サイトなどのデータを見るとスラムダンクの観客は主に30歳以上の世代が多く、『すずめの戸締まり』が若い世代の観客を中心に支持されているのとは対照的です。それに加えてスラムダンクは大都市で強く地方都市では弱かったのに対して、『すずめの戸締まり』は地方都市でも強さを発揮しているのも興味深い違いです。これがそのまま、コアな支持層以外の観客の観客数や、初週以降の観客動員数の伸びの違いにつながったのではないかと思います」
といった指摘がありました。
またこれ以外にも、現在中国のスラムダンクファンの間では映画の評価が二極化していることも、「何度も見に行くファン」が少なかった原因なのではないかという話が出ているそうです。
このあたりに関して、中国の古参のスラムダンクファンの方からは
「映画を見た人は皆映画のクオリティが高い、特に試合の描写がすばらしいということ自体は認めていますが、劇場版で追加されたストーリーやレギュラーキャラの扱いの違いに関して不満のある人は少なくありません。ほかにも中国のスラムダンクファンの多くは、昔中国のテレビで放映された吹替え版のアニメからファンになったので、過去のアニメ版との違いが引っかかる人も出ています」
といった話もあり、スラムダンクに関して中国では映画の評価とは別の部分にも難しさがあるようです。
しかしそれとは別に
「正直に言えば私は中国のスラムダンクの人気はすでに過去のもので、映画も爆死するのでは……と不安でした。スラムダンクはネットが発達する以前の大人気作品なので、ネット上では当時の中国における社会現象級の人気を正確に把握するのは困難ですし、現代のスラムダンク人気の実態もよくわかりません。中国のファンには『すずめの戸締まり』と劇場版スラムダンクの興収を比較してガッカリしている人もいますが、私は劇場版スラムダンクの日本映画としては記録的な興収を見て安心しました」
という話もあるなど、ファンとしては映画の大成功にひと安心といった面もあるようです。
実際「THE FIRST SLAM DUNK」に関しては、中国本土での上映スケジュールがなかなか発表されず、近年の中国における娯楽コンテンツ規制の強化の流れもあってか、中国のオタク界隈では中国国内で上映できるのかを心配する声も多かったうえに、上映スケジュールが発表されてからもしばらくは、現在の中国で人気になるのか半信半疑な空気が漂っていました。
そして上映が近づくと今度はアニメ作品としては近年まれに見るレベルの宣伝やネット上の盛り上がりとなり、景気のいい予想が飛び交うようになっていったわけですが、その過程をずっと見ていた人にとっては、現在の興収の数字とその扱いに関して少々複雑な気持ちになってしまう部分もあるのかもしれませんね。
(文/百元籠羊)
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