【新作ゲームレビュー】「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」は、弱くてしぶといゴラムを表現したステルス&パルクールゲーム

2023年6月22日に「The Lord of the Rings: Gollum(ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム)」のPlayStation 4、PlayStation 5版が発売される。本稿ではPS5版についてレビューしていこう。

「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」は「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」に登場するゴラム(ゴクリ)を主人公とした高難度のステルスゲームである。

これまでにも「ロード・オブ・ザ・リング」は繰り返しゲーム化されており、主要キャラクターであるフロドたちをはじめ、さまざまなキャラクターが活躍してきた。そうした中、本作「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」は、作中でも特に印象的なキャラクターであるゴラムを主人公に据えたという点で異彩を放っている。



ゴラムについてはわざわざ解説する必要もないだろう。強大な力ゆえに、誰もが求める「つの指輪」に取り憑かれた存在である。

指輪の影響で体も心もねじ曲がってしまい、皆に忌み嫌われつつも指輪を「いとしいしと(人)」と呼んで渇望する。その哀れな姿から、観客は苛立ちと同情という相反する感情を掻き立てられるのだ。ゴラムは非力でありゲームで扱いやすいキャラクターとは言えないし、人によっては強い拒否感を覚えるキャラクターでもあるのだから、主役に据えるのは挑戦的な試みといっていいだろう。

そのため、本作をプレイする前には、小説「指輪物語」や映画「ロード・オブ・ザ・リング」三部作を履修しておくことを強くオススメする。ゴラムが「いとしいしと」とつぶやくたびにファンはグッとくるが、知識がなければ何が何だかわからないだろうからだ。


捕らえられたゴラムは、魔法使いガンダルフから尋問される



「一つの指輪」を奪われたゴラムは、これを追って旅に出る


本作でプレイヤーはゴラムとなり、奪われた指輪を取り戻すべく旅に出ることになる。とはいえ、自分は哀れなゴラムなので、華々しい剣戟(けんげき)や目を見張るような魔法とは無縁。パルクールとステルスを駆使して、ほかの者に見つからないように先へと進んでいくのだ。

ゴラムは小さな体にすぐれた運動能力を備えており、険しい地形も踏破することができる。垂直に切り立った崖を登ったり、壁のわずかな出っ張りにしがみついたりするのも朝飯前。高いところから落ちても、下に水さえあればピンピンしている。そんなゴラムだから、操作に慣れれば複雑な洞窟や建造物も難なくクリアすることが可能だ。壁と壁の間を飛び渡り、わずかな隙間に潜り込み、柱を鉄棒のようにつかんで勢いを付けてジャンプするといったアクションを駆使し、厳しい自然や厳重に警備された場所へとスルスル忍び込んでいく。

そのさまはまるで忍者のようだ。

暗闇もゴラムを妨害することはできない。超感覚「ゴラムセンス」を発動すれば、壁の向こうの生物もハイライトされて丸見えになるのに加え、進むべきルートがぼんやりと表示される。これだけ動けるゴラムが邪悪な心を秘めて追いかけてくるのだから、本編のキャラクターたちに同情したくもなってくる。



壁に貼り付き、水を泳ぎ、ゴラムは指輪を求めてひたすら進んでいく



「ゴラムセンス」を発動すれば、壁の向こうの敵も丸見え。進むべきルートも示される


非凡なパルクールを見せるいっぽうで、戦闘に関してはとことん非力なのがゴラムであり、その落差が本作の特徴となっている。ステルスゲームのお約束である、背後からのステルスキルも可能ではあるのだが、これも兜をかぶった敵には使えない。「戦闘かステルスかという選択肢が与えられている」というよりは、「基本的にステルスで進み、たまにステルスキルできる敵もいる」というほうが近いだろう。


敵が兜をかぶっていないなら、背後から首を絞めて倒せる。とはいえ、たいていの敵はしっかりと兜を装備している


敵の視界に入ってしまうと一発でアウトになるということは、視界に入らなければよいということだ。敵の背中は必ず死角になっているのに加え、ゴラムは「這う」ことで音を立てずに移動できる。

たとえ見張りの兵士がいても、体の向きを変えた隙をとらえれば、這って突破することが可能だ。明るい場所で完全に体をさらしているのでない限り、敵がゴラムに気付くまでにはしばらくの猶予がある。危険な場所にはたいてい木箱や柱といった障害物があるため、見つかるまでに素早く隠れてしまえばいい。

小さな体はここでも役に立つ。壁に空いた小さな穴や、床と地面のわずかな隙間に潜り込めば、もう敵は追ってこられない。危険なときこそ周囲を観察することが大切なのである。


ステルスゲームの定番である、わざと物音を立てて敵をおびき寄せる作戦も有効だ。落ちている「石」を拾い上げ、家具に投げつければ、音を聞きつけた敵がそちらに歩いていくので、悠々とうしろを通り抜ければOK。戦いさえしなければ、ゴラムは「強い」のである。




多くの場面では番兵に見つかっただけでゲームオーバーになるし、カットシーンでもボコボコにされたり、しいたげられる哀れなシーンがやたら多い。ゴラムは苛立ちと同情を掻き立てるキャラクターであると先述したが、本作ではゴラム=自分自身であることと相まって、同情のほうがまさってくる。

ゴラムがかわいそうな目に遭う機会が多いのは、原作が再現されているということでもある。それだけに、体がデカいばかりの番兵を出し抜いてうまく潜入したときなど、ゴラムらしい爽快感も増すのである。


なおゴラムの心には、臆病で善良さを残す「スメアゴル」と、疑心暗鬼で粗暴な「ゴラム」という2つの人格が存在しており、折に触れて両者は会話や議論をする。

本作では、決断をする際にスメアゴルとゴラムのどちらを支持するか、プレイヤーが決められることがある。たとえば、虫を見つけた場合、スメアゴルは逃がしてやるように主張し、ゴラムはスパイであるとして殺したがるといった具合で、両者は正反対の主張をする。どうするかはプレイヤーの選択次第。原作を履修していないととまどうと思うが、ゴラムらしいフィーチャーといえるだろう。


死にそうになっている男。ゴラムは彼の鑑札を回収する仕事を課せられている。慈悲をかけてそのままにしておくか、それとも鑑札を奪い取るか?


プレイヤーがスメアゴルとゴラムの議論に介入することも。スメアゴルとしてゴラムをどう説得するか考えなければならない


本作は「ロード・オブ・ザ・リング」へのリスペクトと、ゴラム愛があふれたゲームと言えるだろう。ゴラムはちゃんと弱くて、しょっちゅうボコられる。しかし、やせ細ったゴラムが諦めずに進む姿にはある種のカッコよさがある。それでいて、カッコよすぎない、という絶妙なバランスがある。

ゲーム化が難しいキャラクターだけに、不気味すぎないラインを攻めたキャラクターデザインと合わせ、評価されるべき挑戦と言えるだろう。




いっぽう、ゲーム的に少々クセがあることは指摘しておかなければならない。難度は基本的に高めで、ちょっとしたことでゲームオーバーになってしまう。敵に見つかると一発アウトなのに加え、地形が結構複雑なため、ゴラムセンスを使っても目的地がわかりにくいことがある。たとえゲームオーバーになってもすぐリトライできるのは確かだが、状況によってはチェックポイントから問題の難所が遠いこともあり、ストレスを感じる場合もある。ステルスゲームとしては、少し懐かしいタイプであるのは確かだ。




先に発売されている海外PC版では、急激なパフォーマンスの低下やグラフィックカードに高負荷をかけるなど、最適化不足も指摘されている。こうした事態に対し、開発元であるDaedalic Entertainmentは「期待に応えられなかったことを認識」し、「失望を招いたことを深くお詫びする」とする声明を発表している(#)。本稿ではPS5版の「パフォーマンス」モードを用いたが、プレイした範囲ではそこまで深刻な問題は起こっていない(とはいえ、あらゆる状況を想定した正確な検証が行えたわけではないが)。なお日本国内での発売時には、最新パッチ「1.003.000(PS5)/1.03(PS4)」が配信されており、複数の不具合の修正やグラフィック・UIの改良、パフォーマンスやゲームの品質の改善が反映されているので、プレイする前にゲームのアップデートを行ってから開始することをオススメする。


そんなわけで、海外PC版のネガティブな噂を聞いて二の足を踏んでいた方も、「ロード・オブ・ザ・リング」のディープなファンであれば、本作のプレイを通じて開発陣のゴラム愛を感じ取ることができるのではないだろうか。



  • 【タイトル情報】
  • ■「The Lord of the Rings™: Gollum」(ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム)
  • 発売日:2023年6月22日
  • 対応プラットフォーム:PlayStation 5・PlayStation 4
  • 価格:7,480円(税別6,800円)
  • ジャンル:アクションアドベンチャー
  • プレイ人数:1人
  • CERO:C(15才以上対象)
  • 対応言語:日本語、英語、中国語(繁体字/簡体字)
  • 発売元:株式会社3goo

※PS4版はPS5デジタル版への無料アップグレードに対応。


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