「【推しの子】」星野アイがもしも現実に存在したら橋本環奈クラス? 作中の描写から影響力を考える

発行部数1200万部、アニメも大好評だった「【推しの子】」。現実のアイドルやタレントたちと照らし合わせて、「彼女がもし現実に存在したとしたら」を考えてみる。

リアルな芸能界と浮世離れした星野アイの影響力を考える


原作・赤坂アカ氏、漫画・横槍メンゴ氏がタッグを組んだ「【推しの子】」。原作コミックのシリーズ累計発行部数は1200万部に到達するなど、アニメ放送終了後も加速度的にその勢いを増している。

本作はキャラクターの魅力やストーリーの面白さもさることながら、赤坂氏の綿密な取材によって芸能界がリアルに描かれている部分も、読者から支持を得ている理由のひとつ。その芸能界のリアルな描写とは裏腹に、現実離れしたスター性で芸能界を席巻する星野アイというキャラが本作には登場する。残念ながらアイは夢半ばで亡くなってしまうのだが、彼女が織り成すシンデレラストーリーには、思わず引き込まれてしまう魅力がある。

そこでふと思ってしまうのは、もしアイが現実に存在したら一体どれほどのアイドル兼タレントだったのかということ。ここでは、作中の描写をヒントに、現実のアイドルやタレントたちと照らし合わせて、「彼女がもし現実に存在したとしたら」を考えてみたい。

星野アイをおさらい


まず、星野アイがいったいどんな人物なのか、おさらいしておこう。

彼女は、アイドグループ「B小町」の絶対的なエースで年齢は16歳。第1話時点では、結成から4年でメディアへの露出がじわじわと増え始めたとの説明があり、武道館でライブしている描写もある。

アイドル活動を一時休止するも、再開後はすぐさま音楽番組に出演。その際に番組スタッフは「名前くらいは知ってるけどここ半年話は聞かないな」「地下上がりだろ」「苺プロだって知らん事務所」と発言していることから、その時点では地下アイドルに毛が生えた程度の認知度かもしれない。

原作第4話では、アイが「今月の給料2●万円」と発言しているコマがある。少なくとも20万円以上ではあるのだろう。7人組グループでひとり頭の給料が20万と考えると、それなりに売れているほうではないだろうか。

第5話では、モデルにラジオのアシスタントパーソナリティ、端役でありながらも初のドラマと映画に出演。6話ではクイズ番組や雑誌の表紙グラビアに掲載されている。

そして8話では、街頭広告でイメージモデルを務めるほどになっており、SNSのフォロワー数は100万人を達成している。自身が主演を務めたドラマの瞬間最高視聴率は14.2%、「B小町」のほかのメンバーも仕事が埋まる状態に。そして東京ドームでのライブ目前に、とある理由でこの世を去ることになる。

1話時点ではアイドルとしては有名程度?

ここからは、現実に存在するタレントと比較して、アイの影響力がどれほどのものだったのか調べてみたい。まず1話時点で武道館にてライブができているという点。「推しが武道館いってくれたら死ぬ」というマンガがあるとおり、武道館はアイドルグループにとって目標に掲げられることが多い。しかし、ほんのひと握りのグループしか立てない場所であるのが実情だ。

情報総合サイト「ライブ部」では、武道館でライブを行ったグループが集計されている。ここから、今まで武道館でライブをしたアイドルグループをまとめてみた。武道館でライブを行ったグループは全部で32。アイドルグループは大小合わせると3000ほどあると言われているため、武道館に立てるのはその中のわずか1%程度であり、非常に狭き門であることがうかがえる。

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そして、「B小町」が武道館でライブをした描写があるのは一度だけ。32グループの中から1回だけパフォーマンスしたグループにフォーカスしてみると、全部で17グループ。その中には、「AKB48」のように“国民的アイドルグループ”と呼ばれているものから、すでに解散はしているがアイドルシーンで伝説的な人気を誇った「CY8ER」、新潟県を拠点に地方グループとして躍進を果たした「Negicco」など、規模はさまざま。いずれもアイドル界ではメインストリームとして認知されていたグループなのは間違いない。「B小町」は、アイドル界隈からすると、認知度が高かったグループであると思われる。




第2話から第3話ではCM放送や音楽番組に出演

第2話は、アイが休業していたアイドル活動を再開。音楽番組に出演するという話なのだが、作中で「大丈夫?ちゃんとご飯食べてる?」と、番組内で誰かがアイに話しかけている描写がある。このセリフから連想される人物は、テレビ朝日系列で放送されている音楽番組「ミュージックステーション」のタモリだろう。

過去3年間で、「ミュージックステーション」に出演したアイドルグループを調べてみると「BiSH」「新しい学校のリーダーズ」「日向坂46」「ブルーベリーソーダ」「乃木坂46」「櫻坂46」「AKB48」「STU48」「=LOVE」「ラストアイドル」の名前があがった。もし「B小町」が」ミュージックステーション」に出演したとするならば、これらのグループの規模感と同等程度はあったのではないかと考えてよさそうだ。



第3話では、7thシングル「スーパーモーター」のCMが放送されている描写がある。「こないだ出したシングルオリコン3位」と作中で語られているのだが、これが「スーパーモーター」のことを指しているのであれば、お茶の間にCMが流れるわけなので、アイドルに興味がない人でも、名前だけは聞いたことがあるという人が多かったのではないだろうか。

第4話ではアイの給料が判明、そこから考えられる認知度

第4話は、アイドルの給料事情に言及するストーリー。冒頭でも話したとおり、4話ではアイの給料は少なくとも20万円以上ということが判明している。これがアイドルにとって多いのか少ないのかも、ひとつの判断材料になるはずだ。

アイの給料が、総支給が20万なのか、それとも手取りで20万なのかは不明。なお雇用されている場合は、厚生年金や健康保険料が天引き、もしくは自分で支払わなければいけないため、結果として「15万7972円」になるとのこと。

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元「Bis」のプー・ルイさんは、グループを辞める直前3か月間の給料として約35万円が支払われたと動画上で公開している。月給換算すると約12万円ほど。この額面には、オリコン4位を記録したほか、国技館規模をソールドアウトした際の活躍も含まれているという。アイも、オリコン3位にランクインし、さらに国技館より1.5倍のキャパシティを誇る武道館でライブをしているので、最低20万円という数字は実はかなり妥当、もしくは少し高いぐらいなのかもしれない。



なお、2010年に始動した「Bis」は、破天荒なプロモーションや過激な特典会などで認知を拡大。2014年には横浜アリーナで解散ライブを行うほどまでに成長したアイドルグループだ。当時の一般的な認知度では、「AKB48」や「ももいろクローバーZ」と比べると劣っていたと思うが、それでも「Bis」は今でも語り草になっているほど伝説的なグループで、“アイドル戦国時代”を一気に頂点まで駆け抜けて、立つ鳥跡を濁さず潔く解散。アイドルライブに足繁く通っていた人であれば、当時「Bis」に興味はなくとも名前ぐらいは聞いたことがあるほどであった。

仮に、4話時点の「B小町」を「Bis」と同じぐらいのグループの規模感とするのであれば、「B小町」はアリーナで解散ライブを行えるほどの伝説的なグループとして認知されていたのかもしれない。

第5話から第8話で飛躍的な成長を遂げる


アイは第5話で、モデルやグラビア、アシスタントパーソナリティ、初ドラマ・映画、バラエティ番組への出演を果たしている。アクアいわく「絶賛売り出し中のアイドル・タレント」とのこと。

そこから2年の月日がたった第8話では、イメージモデルとして何かの商品の街頭広告に掲載されている。現実でも渋谷駅前にある渋谷憲章シート広告というものがあるが、こちらは2週間の掲載で700万円ほどかかるそう。掲載だけで700万なのであれば、さまざまな契約料を考えるとかなりの金額が動いていると思われる。

また、街頭広告に掲載されるレベルの話であれば、いわゆる大手メーカーの商品である可能性が高い。大手メーカーの商品のモデルということは、やはり訴求力が重要で、一般人への認知度も相当なものでないと務めることは難しいため、第8話時点でのアイの知名度は相当なものだろう。

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同じく8話では、アイが主演を務めたドラマが、14.2%の視聴率を記録したと事務所の社長が発言しているコマがある。アイドルから女優に転身した系譜といえば、元東京パフォーマンスドールの篠原涼子を思い出すが、彼女の代表作「アンフェア」の平均視聴率は15.4%ほど。同じくアイドル時代を経て、現在は女優として活躍する橋本環奈の代表作「今日から俺は!! 」の全話の平均視聴率は10%前後。アイも、この人気ドラマ群と肩を並べる作品に出演できたと考えると、一世を風靡した女優としても認知されていたのではないだろうか。

また、アイのSNSのフォロワー数が100万人を達成したという描写も見逃せない。「X(旧Twitter)」で100万人前後のフォロワーを抱える、元・現在含むアイドルを調べてみたところ、約130万人の柏木由紀、105万人の松井玲奈、88万人の川栄李奈、84万人の宮脇咲良の4名が候補にあがった。全員誰もが知っているアイドルグループのメンバーであり、その中心人物。何かツイートをすれば、数千から数万の「いいね」やリツイートをされるレベルなので、8話時点のアイが何かツイートをすれば、最低でも数千の反応は付くということである。

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そして東京ドームでのライブを目前に控えているという展開になるわけだが、ここで東京ドームに実際にライブしたグループを調べてみた。収容人数で言うと55,000人のため、1 話開始時点でライブをした武道館の5倍のキャパシティだ。

再び「ライブ部」で調べると、東京ドームに過去に出演した女性アイドルグループは「櫻坂46」「日向坂46」「乃木坂46」「ももいろクローバーZ」の4組だけ。グループの誰かしらが毎日テレビ番組に出ていたり、冠番組を持っていたり、歴史ある歌番組にも出演できたりといった、すなわちトップグループたちだ。同じくドームでライブ予定が決まっていた「B小町」も、第8話の時代ではトップグループとして扱われていたと考えるのが妥当だろう。



星野アイの影響力はトップアイドルを凌駕するほど

以上をまとめると、1話開始から4話目までのアイと「B小町」は、現実に当てはめるとアイドルシーンでは有名だが、世間的には知られてはいない程度となる。

しかし、人気絶頂を迎えた8話では、女優としてならば篠原涼子や橋本環奈に匹敵する活躍ぶりで、広告に起用すれば相当な金額が動くレベル。アイドルの枠で考えると、柏木由紀や、松井玲奈、川栄李奈、宮脇咲良に並ぶインフルエンス能力も持ち合わせており、「B小町」自体もトップグループといった具合だろうか。もはやアイドルとしての枠を超えた存在と言っても過言ではない。

弱小事務所から生まれたアイドルとしては異例の事態だったのだろう。作中で斎藤ミヤコが「あんな奇跡は二度も起きない」とアイの活躍ぶりを例えていたが、まさに奇跡というべき存在だったと改めて感じさせてくれる。

本稿を読んで、物語の序盤であれだけインパクトを残した彼女がどれほど偉大であったか実感することで、より「【推しの子】」の世界に没入してもらえたら幸いだ。

  • 【原作情報】
  • 集英社「週刊ヤングジャンプ」連載
  • 著:赤坂アカ×横槍メンゴ
りゅうこ

りゅうこ

フリーのライター・編集として活動。アニメ・マンガ・ゲームが好き。フルパVALORANTにあこがれています。

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