【インタビュー後編】AIと人間が共存する近未来を描く「AIの遺電子」! 原作者&監督対談インタビュー。作品が見やすくなるポイントや、見どころについて語る

AIと人間が共存する未来を描くSFアニメ「AIの遺電子」。“近未来の医師を主人公とした社会派ドラマ”とでもいうべき内容で、2023年7月の放送開始から話題を呼んでいる。(写真は山田胡瓜さん(左)と佐藤雄三監督)

本作の舞台となるのは、様々なテクノロジーやAIが発達しているが、現代社会とそう変わらない考え方を持つ人間

が暮らす、“地続きの近未来世界”。

なかでも特徴的なのが「ヒューマノイド」だ。AIと機械の身体で構成されており、ヒトと同等の感情や人権を有し、老化して寿命で死んでいく存在だ。身体が機械であることのメリットは大きく、重傷を負っても頭部さえ残っていれば治療できるし、心に問題が起きても電脳の書き換えで治療が可能だ。一見すると理想的な存在だが、ヒトと同じ心を持つゆえにさまざまな悩みや問題が存在している。

これを解決するのがヒューマノイドを治療する医者である、主人公の須堂。彼は危険な依頼を引き受ける裏の顔も持っており、ワケありのヒューマノイドやヒトに向き合っていく。人格のコピー、自身の限界に悩むヒューマノイド、同性を愛する女性ヒューマノイド、伝統芸能を習得しようとするヒューマノイド、ロボットに技術を教える頑固な鍛冶師……といった“地続きの近未来世界”ならではのドラマが展開するのだ。

余韻を残しつつ考えさせられる話と、“地続きの近未来世界”のリアルさで評価の高い本作だが、早くも全12話のうち折り返しを迎える。そこで山田胡瓜さん(原作者)と佐藤雄三さん(監督)に、本作の今後の見どころやAIの行く末といった広範なテーマについて語り合ってもらった。

前編に続いて、濃厚なトークが展開する後編をお届けしよう。

技術的な視点から人間らしい物語を紡いでいく「AIの遺電子」らしさ


――「AIの遺電子」の連載中、お話を考えるうえでは「人情やドラマ」と「人の暮らしに影響を及ぼしそうな技術」のどちらから発想されたのでしょう?

山田 まずは技術的、SF的な視点からです。これがないと、単なる人情ドラマになってしまいますから。このアイデアをどうドラマに落とし込んでいくかを考えつつ、SF、SFした話にはならないように苦心しています。人間が人間臭く暮らしているさまを見せたいですから。あまり極端に未来的にしない方向性を選択しています。

――技術をヒントにSF的な視点で発想しつつ、未来的にし過ぎてはいけない。

山田 未来のお話になると親しみがなくなってくるじゃないですか。これを徹底的に突き詰める方向性もありますが、「AIの遺電子」ではあえて現代人になじみのあるものを登場させています。そのうえで「なぜ現代から変化していないのか」というSF的な問いかけをして成立させている世界なわけですから、ここからかけ離れすぎると説明しなきゃいけないことが増えちゃうんです。

佐藤 アニメでも、設定を作りすぎちゃうと「見せなきゃいけなくなり過ぎてしまう」ことが起こりますね。

山田 あまり未来的にすると、取り上げられている技術に触れている人には説明はいらないけれど、知らない人には意味がわからなくなってしまうんですよね。たとえばスマホがなかった時代に、スマホのような端末があるという設定をするなら、作中の人物がスワイプして操作して……という描写をしても奇妙なものにしか見えなくなってしまいますし、そうしないためには説明が必要になってしまいます。「AIの遺電子」では、こうした事態を防ぐために、わざと古めかしくしているところはあります。単純な未来予測をするのではなく、今現在、漫画を読んでいる方が楽しめることを重視しているということですね。

佐藤 作中で描かれている描写に反応している人はいましたね。「この世界では、脳内インプラント(※)を血管注射で生成できるんだ」って。

※インプラント

「AIの遺電子」では、身体にナノマシン(微少な機械)を注射し、端末なしでネットワークに繋げられるようにすること。スマホを持たなくてもネットが使えるような状態となる。作中では身近な技術であり、チャットやゲームなど現代と変わらない日常的な用途に活用されている。児童が当たり前に使いこなすことも珍しくないようで、現代のデジタルネイティブ世代を思わせる。高校生たちがクラスメイトどうし「トークルーム」というスペースに集って会話するという描写もあり、現代のLINEに近いイメージか。作中では腕に注射した後、ナノマシンが脳にインプラントを構成するという説明がされており、予防接種なみのカジュアルさが本作らしい。

山田 脳に入る物質に対する関門があるのに通れるのかな……とは思います。今だったら、視神経に常駐するような描写にするでしょうね。どういう設定にするかは悩んだんですが、作中では親機のようなものを持っているという設定にはなっています。ローテクのほうに寄せたわけです。

山田胡瓜さん

佐藤 最近はナノマシンを注射して循環器系の治療に使う例もあるそうですしね。

山田 脳にデバイスを取り付けることにより、頭でコンピューターをコントロールしたり、コンピューターから脳に指令を送って身体の動かなくなった部位を動かす「ブレイン・マシン・インターフェース」の研究も盛んだったりしますし。侵襲型にしろ、非侵襲型(※)にしろ、ゆくゆくは脳に何か埋め込む技術は出てくると思います。すでにイーロン・マスク氏の会社が臨床実験を開始する許可を取ってもいますから。

※「侵襲型」「非侵襲型」

簡単に言えば手術を必要とするか否かということ。

――ナノマシンのようなハイテクを利用していても、用途自体は通話やゲームといった人間臭いものであるところが「AIの遺電子」のよいところだと思います。須堂先生も「エロいの見たけりゃプライベートモードにするんだね」なんて忠告してくれたりして。

佐藤 4話(※)もそんな話なんですよね。

※4話「4つのケース」
原作第35話(第4巻)「痛恨の混濁」、第79話(第8巻)「妄想マシン」、第41話(第4巻)「ボタン」のアニメ化。男子高校生は同級生の女の子をモデルにした恋愛VRゲームに手を出すが、当の彼女から意外なアプローチを受ける。リサはAIで作り出したバーチャル須堂が演じる、ラブコメ風やBL風などさまざまなシナリオを見る。また、彼女持ちの男性が浮気癖を治すべく欲望を抑える「賢者ボタン」を実装するなど、恋愛にVRや先端技術が介入した悲喜こもごもを描く。

山田 4話は結構えぐいんですよね。思った以上に生々しくてよかったです。物議をかもす作品を目指したところはありますから。

――実際に「VRChat」という、アバターをまとってVR空間で会話するソフトもありますからね。実在感がすごくて、美少女アバターに近寄られると、中身が同性の友達であることがわかっていてもドキっとしますし。

佐藤雄三監督

構えずに見られる「AIの遺電子」は、すべての話がオススメかつ見所

――これから「AIの遺電子」を見る人に向けて、ここを押さえておくと話がわかりやすいといったポイントを教えてください。

山田 まずはヒューマノイドという存在でしょうね。普通、AIでロボットと聞くと“道具として人間に使役される存在”と考えます。その延長線上でヒューマノイドを見て「このヒューマノイドの持ち主は誰なんだ?」となる方が多いようですね。

本作のヒューマノイドは人権も持っていて、ヒトと対等の存在であり、持ち主がいたりはしません。“ヒューマノイドという新しい人種が増えた世界”と考えていただけるといいんじゃないでしょうか。

――なるほど、新しい人種と考えるとわかりやすいですね。

山田 そして、ヒューマノイドとは別に、“道具として人間に使役されるロボット”としての「産業AI」たち……ぬいぐるみのように愛玩されるポッポや、恋人ロボットのジョーのような存在がいるわけです。

佐藤 必要な説明はアニメのほうでもしていますし、説明がなくても瞳の形で見分けることもできます。人間が丸型、ヒューマノイドが横長、産業AIが人間に近い丸型ですね。あまり説明しすぎても「この部分、ドラマを描くのに必要なの?」となってしまうので。

山田 「誰がヒューマノイドなのかわからないよ」(※)というお声もあるんですが、見分けなくても別に大丈夫です(笑)。基本的には、ここがわからなくてもお話のテーマは伝わるように作っていますから。

※「誰がヒューマノイドなのかわからない」

瞳の形で見分けることが可能。原作の単行本では冒頭にヒューマノイドの瞳や産業AIの説明が入っている。ヒトは円い瞳、ヒューマノイドは横型。産業AIはヒトと似た丸型だが、白目に機械的なスリットが入っていることも。続編「AIの遺電子 RED QUEEN」ではヒューマノイドが横長の瞳を持つことから「羊目の悪魔」と呼ばれるシーンがある。

「誰がヒューマノイドなのかわからない」というのは、おそらく作中世界の人物たちも同様の体験をしているはず。読者も新しい人に会うたびに瞳の形を見てしまうわけで、作品世界と一体化できる体験であると感じられる。

――個人的には、SFやAIものということで身構えなくても面白さが伝わる話であることが「AIの遺電子」の魅力だとは思っています。

山田 「ドラえもん」感覚で見ていただければいいと思います。基本的にはドラマとしての面白さを第一にしていて、なるべく専門用語も入れないようにしていますから、ちょっと試しに見てください、ということですね。

――折り返し地点も過ぎ、ラストの12話まで走っていく「AIの遺電子」ですが、今後の見どころについてお話しいただけますか?

山田 1話完結のお話なので、全部が見どころです(笑)。どこからでも見られますし、エピソードごとにいろいろなテーマを扱っているというのが見どころですから。テーマ的なところを気にせずに見ていただいても面白いですし、それでいて考えさせられるところもあります。こうした部分は12話を通じてうまく表現できたんじゃないでしょうか。

佐藤 原作の物語がベースにはなっていますが、アニメとしての落としどころ、アニメオリジナルの演出は用意してあるので、原作ファンの方も最後の12話まで見ていただくとすごく面白いと思います。

山田 原作を知っている人も「そういうことになってんの?」と驚けるような変更を入れてあります。声優さんも実写映画の吹き替えもされているような方にお願いしていますし、こうしたこだわりが、ドラマに厚みを持たせてくれているんじゃないでしょうか。音楽も含めて結構“いい音”が入っているので、いいスピーカーやヘッドホンを使えば、ドラマの感じ方もやや変わってくると思います。スタジオで聞こえてくる音って、めちゃめちゃいいんですよね。音楽の収録にも参加させてもらったんですが、すごくよい音がわーっと響いてくるから「なんだこれ、劇場版か?」って(笑)。

佐藤 TVで聞いている音とは全然違いますからね。

――少し話は逸れますが、最近読まれた本や、オススメの本について教えていただけますか?

山田 漫画なんですけど、知り合いのガンプさんという漫画家がご自身の闘病記を描く「断腸亭にちじょう」は読んでほしいですね。また、設楽清人さんの「カタギモドシ」や、やしろ 学さんの「戦車椅子-TANK CHAIR-」は作画の圧がすごいです。

佐藤 僕はあまり本を読まないんです。仕事中はよくYouTubeで音楽や映像を楽しんでいます。映像だと宇宙の勉強をさせてくれるものが好きで、銀河やブラックホールの話を流してますね。人間の人生なんかとはスケール感が違いすぎて、いい意味で脳がリフレッシュされるような気がするんです。スポーツも好きなんで、大谷選手のニュースなんかは毎日チェックしています。

――今は仕事から娯楽まで普通にマルチタスクですからね。では最後に、「AIの遺電子」を見たことがない人に向けてメッセージをお願いできますか?

佐藤 AIが身近になってきたからこそ「AIの遺電子」を見てほしいですね。秘密結社のような「巨大なダーク」は出てこないですが、「プチダーク」が考えさせられる。こうしたものが近未来から迫ってきているんだということが提示されているので、構えずに見ていただきたいです。

山田 ちょっと違った味わいのアニメに飢えている人は、ぜひ「AIの遺電子」を見て下さい。「AIを扱ったSFアニメ」と聞くと、ハードなアクションやダークな世界観を持つバリバリのSF的な作品を想像する方が多いと思うんですが、そうではないところが特徴です。身近になったテクノロジーが世界を少しずつ変え続けている中「どうすればご機嫌に生きられるか」を考える一助になればいいなとは思います。

――ありがとうございました。

「AIの遺電子」は厳密にジャンル分けするならサイバーパンクものだが、普遍的なテーマを扱っており、構えずに見られる・読めるのが特徴だ。まだアニメ化されていないエピソードの中にも、自由に顔を整形できるヒューマノイドの美少女アイドルがアイドル戦国時代で生き残りを計る「顔」(原作第34話/第4巻)、サービス終了したゲームのキャラクターに思いをはせる「シックスセンス」(原作第39話/第4巻)、思想的な理由から自然治癒力に固執するヒューマノイドに須堂が向き合う「オーラ治療」(原作第22話/第3巻)、アーティスト志望のヒューマノイドが才能を求めて自らの電脳に干渉する「世界で一つだけの花」(原作第74話/第7巻)などさまざまな物語がある。

まずはアニメで作品世界に入門し、続編「RED QUEEN」や「Blue Age」も読み進めてみてはいかがだろうか。



(取材・文・撮影/箭本進一)

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