「本当にすごい方(キャスト)たちと同じ場にいるんだと改めて感じました」秋アニメ「SHY」下地紫野(シャイ/紅葉山テル役)インタビュー

テレビ東京系列ほかにて好評放送中の2023年秋アニメ「SHY」。本作で主人公・シャイ/紅葉山テルを演じる下地紫野さんのインタビューをお届けする。

原作は、実樹ぶきみ先生によるヒーローコミック(「週刊少年チャンピオン」にて連載中)。人前に出るのが超絶苦手な恥ずかしがり屋の少女ヒーロー「シャイ」の、仲間との絆や戦いを通じて成長する姿が描かれ、日本国内のみならずヨーロッパなど海外でも人気を集めている。

監督を務めるのは「クズの本懐」「がっこうぐらし!」などを手がけた安藤正臣さん、シリーズ構成・脚本は中西やすひろさん、アニメーション制作はエイトビットが担当。映像の美しさや迫力もさることながら、登場人物の心情描写も秀逸だ。

キャストは、シャイ/紅葉山テル役の下地さんをはじめ、シャイの正体を知る唯一の一般人・小石川惟子(こいしかわいこ)役に東山奈央さん、シャイのヒーロー活動をサポートしてくれる相棒・えびお役に杉田智和さん。さらに、能登麻美子さんや三木眞一郎さんなど、ヒーローやヒーローと敵対する面々も豪華メンバーが揃い作品を彩っている。

今回、原作を読んで「SHY」にハマったという下地さんに、作品の魅力からアフレコのこと、共演者とのエピソードまでたっぷりとお話をうかがった。

■下地紫野が感じる「SHY」の魅力とは?

――「SHY」ということで、やはり聞いておきたいのですが、下地さんはシャイですか?

下地 私自身はシャイだと思っていて、現場でもピッタリだねと言っていただくことが多かったんですけど、客観的に「SHY」のアニメを見たら意外と違うのかもなって思うようになりました。もちろん、共感できるところも多いのですが。

――こうやってインタビューしていても、ものすごく人見知りという感じではないですからね。

下地 「人見知り」は、いまだにどういう条件下で発動されるスキルなのかわからないです(笑)。でも、あまり話したことのない人が多い現場だと、話しかけたくても話しかけられず、静かに台本を見ているようなタイプですね。

――そういう現場は、率先して話しかけてくれる人がいると助かる、とよく聞きます。

下地 本当にそう思います。「SHY」の現場は、東山奈央さん(小石川惟子役)が率先してみんなにお話を振っていて。場を暖かくやわらかくするのが上手な方だなと思いました。それに、(役者としても)惟子ちゃんが奈央さんだと聞いて納得したんです。どんな役でもできる方ですけど、とにかくぴったりだと思いました。

――共演者については後ほど改めてお聞きするとして、まずは「SHY」という作品について、下地さんは原作を読んでかなりハマったとのことで、その面白さを語っていただければと思います。

下地 原作は、オーディションを受けるときに資料としていただいて読みました。先ほど言ったように、今はシャイやテルと少し違うところもあるなと思っていますけど、初めて読んだときは「これは私だ!」と思ったぐらい感情移入しちゃいました。どんなに明るい人でも、「恥ずかしい」とか「怖い」という感情は持っているでしょうし、そういう弱いところを彼女はすごく持っている子なんですよね。そんな彼女が勇気を振り絞ってひとつひとつの壁にぶつかっていき、越えていくところにすごく勇気をもらいました。毎エピソード、ちょっと泣いちゃうぐらいでしたね。

彼女自身は実はすごく強い子ですけど、シャイなことを自覚しているからこそ、思うような毎日を送ることができない中で戦っています。そんな彼女を応援しつつ、私自身も応援しているところがあると思うんです。彼女を通して、自分の弱さを受け入れることはできなくてもやさしく抱きしめてあげられるような、そんな気持ちになる作品だと思いました。

――自分も原作の第1話を読んで、これは泣ける作品なのでは? と思ったんですよ。

下地 そうなんですよ! 私も第1話でジェットコースター脱輪事故に遭った惟子ちゃんを半分助けられたけど、助けられなくて……というシーンを読んだときにハッとして、続きが気になって仕方なかったです。でも、そのあと、怖いけどがんばる勇気を手にした彼女にこっちも勇気をもらいました。第1話のあの展開からすごすぎて、虜になりましたね。

――登場人物はアメコミヒーローのような雰囲気もあるから、バトル全開の楽しさに振った作品なのかと思って読み始めたら、それだけではありませんでした。

下地 キャラクターの心のやり取りが、すごくていねいに描かれていますよね。特に私は母のことが大好きなので、今回のアニメで描かれているお話も涙なしには読めませんでした。シンプルに楽しい作品も大事ですし、演じていて面白いですけど、こういう繊細なやり取りができる作品も、ありがたいと思います。

――「キャラクターの心のやり取り」と出たように、この作品は「心」がキーワードになっていて、そういうところも面白いし考えさせられます。

下地 第1話でもSNSのような描写がありましたけど、ちょっと視点を変えてみることって大事だと思うんです。相手のことも、自分のことも思いやりながら生きることって大切だよな、って感じましたね。

――シャイの言葉もすごく刺さるんですよね。

下地 彼女はアウトプットが苦手ですけど、やさしい人たちに囲まれているからこそまっすぐなままでいられるんだろうなと思います。でも、それってきっとみんなが持っている美しさだと思うので、この作品を見た人に「ちょっと勇気を出そう」とか「ちょっとやさしくしよう」と思ってもらえたら嬉しいです。

■◯◯シーンの経験不足から、Aパートを録り直したこともありました

――そんなシャイを、どのように役作りして演じたのでしょうか?

下地 そんなに役作りをしないようにしたといいますか、原作を初めて読んだときにシンパシーをすごく感じたので、体当たりでぶつかっていくようなイメージで演じました。私自身も結構自信がなく生きているところがあるんです。そういった不安や自信のなさを増幅させて演じた感じですね。(第1話で)きちんと助けることができずに怪我をさせてしまったのは、彼女にとって大きな失敗であり挫折だったと思うんです。私も本当にビックリするぐらい些細なことでもすごく落ち込んでしまうので、そういったところも共感しました。

――彼女のように言葉が出てこなくて言いよどむのって、演じるのは難しいのでしょうか? 淀み方がすごく自然だなと感じたので。

下地 彼女はいまどんな気持ちなんだろう? なんで言いよどんでいるんだろう? 気持ちが先行しちゃったのかな? などと考えていったら、それほど苦労せずにやれました。ただ、こんなに言い淀んだのは初めてです。逆に苦労したところは、すごく熱い想いを出すシーンですね。見切り発車でぶつかっていくシーンもあるので、どこまでやればシャイやテルから外れないのかのあんばいが難しかったです。

――ちなみに、監督や音響監督からはなにか印象的なディレクションはありましたか? 安藤監督とは「ハクメイとミコチ」(2018年1月〜3月放送)や「逆転世界ノ電池少女」(2021年10月〜12月放送)でも一緒でしたよね。

下地 そうですね。安藤さんとは直接やり取りすることは少なく、いつもニコニコして見守ってくださっていた印象です。音響監督の濱野(高年)さんとは初めてで、いろいろディレクションしていただいたのですが、シャイのアフレコを始めてわかったことがありました。私、意外と戦ったことがないんです。ゲームの汎用ゼリフとして「やられたとき」とか「攻撃したとき」のボイスを録ったことはありますけど、アニメのシーンで流動的に戦う、ここでパンチして、ここで蹴られて……みたいなことって実はほとんどしたことがなかったんですよ。

――ちょっと意外です。

下地 こんなに大変なのは経験値が浅いからなんだと気がつき、濱野さんにいい意味で追い詰められながらアフレコしました。たぶん濱野さんも、私とシャイ/テルとのシンクロを見越して追い込んでくれていたと思うんです。第4話で、ある人と戦ったシーンは本当に苦労しました。テストをして本番をやったあとに、Aパートをほぼ録り直したんですよ。戦闘シーンをひとりで。自分ができないこともわかっていたし、想像力も追いついていなくて……。しかも、結構やられるシーンが多くて喉も消耗していき、精神的にもきつかったです。でも、そこは追い込まれても諦めないシャイとリンクできたところでもあるのかなと思っています。

――戦う相手が誰なのかは、ぜひオンエアで見てもらうとして、その相手を演じた方とは一緒にアフレコできたのでしょうか?

下地 はい。一緒にできました。本当にやさしい方で、シャイとテルのセリフだけを録り直すことになっても、ずっと後ろに座って見守ってくださっていました。すごくいい緊張感でできたなと思います。それに、初めましてだったのに、「どうしたらいいですか?」と相談したら「こういう風にやったらいいんじゃないかな」とやさしくアドバイスもしてくださり、すごくいい時間を過ごせました。

――その方は百戦錬磨ですからね。いい先生というかお手本というか。

下地 原作を読んだときから、このキャラクターは“あのキャスト”以外考えられなかったので、まさに私が想像した通りのキャラクターがそこにいて感動ひとしおでしたね。本当に語彙力がなくなって、「すごかった!」という言葉でしか表せなかったです。



■能登麻美子さんの姿勢や集中力、沢城みゆきさんの存在感は印象的でした

――いま話した方以外も、「SHY」のキャストは本当に経験豊富な方たちばかりです。第1話に登場した能登麻美子さん演じるスピリッツも、登場シーンからインパクトがありました。

下地 すごく気分の乗った状態のスピリッツさんは本当にビックリしました。突然現れるし、最初に現れたときのテルとの温度差も面白いですよね。能登さんの澄んだ美しい声で気持ちがいい感じに来られると、私もつられてふわ〜ってなっちゃいそうで……それを抑えて抑えて演じました。

――完全な分散収録ではなくなったことで、演技だけでなく立ち居振る舞いからも学ぶところがあったと思いますが、印象的だったことがあれば教えてください。

下地 能登さんは、お芝居はもちろんなんですけど、マイク前に経っている姿勢、立ち姿が本当にきれいなんですよ。こちらの背筋も伸びる感じで、すごく印象に残っています。私はどんどん前のめりになって、猫背で台本と2人の世界になるタイプなんですけど、能登さんはずっと真っ直ぐきれいなんです。「なんの運動をされているんですか?」と聞いちゃいました(笑)。これまでもいくつか作品をご一緒させてもらったことはありますが、そのときは周りが見えていなかったんでしょうね。今回はそういう姿を見てしゃんとした気持ちになれましたし、バシッと声を当ててくる集中力も勉強になりました。

――素晴らしいですね。

下地 あと、沢城さん(ツィベタ役の沢城みゆきさん)は、敵役だからというのもあると思いますけど、ひと言目を発したときに場が締まったというか、いい意味でブースの中がピリッとなったんです。存在感にセリフの説得力がありました。本当にすごい方たちと同じ場にいるんだと改めて感じました。でも、普段は気さくにお話してくださるんですよ。演じている役は抱えているものが大きい、だいぶ重たい役なんですけど、収録の前後でお話しているときはカラッとしていて、その切り替えがすごいなと思って。私はあまり切り替えが上手じゃないタイプなので、憧れます。

――そういうのを見られるだけでも、この作品に参加した価値がありますよね。

下地 本当にそう思います。最初にほかのキャストを聞いたときに、私よりも芸歴が上の方ばかりだったので驚いたんです。私もまだまだ若手ですが声優を10年以上やらせてもらっているので、なんて作品だ!と思って。10年やっていると、自分よりも下の子がだいぶ増えてきて、チームの中で自分だけが年上ということもあったんです。今回はお芝居で引っ張ってもらうこともたくさんあるだろうとは思っていましたが、それにしてもこんなことになるとは、という気持ちでしたね。

――そういう人たちがヒーローや敵に生命を吹き込んでいるわけですが、個人的に好きとか、このキャラクターが刺さったとか、あげるなら誰でしょうか?

下地 みんな好きですけど、特に好きなのはレディ・ブラック(CV:鈴代紗弓)ですね。みんないろいろなものを背負っていて、想像を絶するような経験もたくさんあるんですけど、レディ・ブラックは乗り越えた先にあるいまの態度も含めて、すごく強くて格好いいです。アニメで描かれるところよりも先になりますが、原作でさらに彼女の過去にふれるエピソードを読んだときに、自分でもビックリするぐらい泣いちゃったんです。彼女の持っている強さは本当にすごくて、こんなふうになりたいと思いました。

――アニメを見終わったあとに、ぜひ原作で続きを読んでもらいたいですよね。きっとみんなのことが好きになる気がします。

下地 そうなんですよ。敵もみんな憎めないというか、いろいろな葛藤のもとに生きていて。選んだ道は違えど、幸せになってほしいなと思うキャラクターばかりですね。

■私にとっての「ヒーロー」は、いるだけで安心できるあの人

――そんな「SHY」が今回アニメ化されました。PVや第1話からも感じられるように映像のクオリティもすごく高いです。そのあたりに関しては、いち視聴者としていかがですか?

下地 キャラクターはかわいらしいし、本当によく動くし、色合いもやさしくて、老若男女みんなにおすすめできる作品です。原作の実樹先生の絵も繊細で素敵ですけど、アニメはアニメのよさがすごくあって、戦闘シーンなんかは漫画では見られない動きもたくさんありますので、ぜひそこも注目してもらいたいです。

――変身シーンも格好いいですよね。

下地 そうなんですよ。第1話でも変身するシーンがありましたけど、とっても素敵なので見どころのひとつです!

――楽曲では、エンディング主題歌「シリタイキモチ」をシャイ/紅葉山テル(CV.下地紫野)&小石川惟子(CV.東山奈央)で歌っています。

下地 最初にその話を聞いてビックリしました。テルと惟子ちゃんの関係は物語のキーになる大事なところではあるんですけど、2人で歌うのは想像していなかったから意外でした。でも、奈央さんとデュエットするのは初めてでしたし、嬉しかったですね。どんな曲なのかな? と思っていたら、これがまた泣ける曲なんです。かわいらしい曲調なのに、歌詞はすごく真っ直ぐで暖かくてやさしくて……。作品を締めくくるのに本当にピッタリだと思います。

――収録はいかがでしたか?

下地 この曲はかけ合いも重要なんですが、収録は奈央さんよりあとだったので、すごくやりやすかったです。「2人で歌って初めて成立する曲だよね」と奈央さんと話していたんですよ。よかったらお友達などと一緒に歌って、より仲を深めていただきたい、そんな曲になっています。

――具体的な言及は避けますけど、テルと惟子とのエピソードでの東山さんの演技はものすごいものがありました。

下地 すごかったですね。奈央さんはこのお話に向けてスケジュールを調整して、「今日はここに声を使うぞ!」って気合で臨んでいたそうで、まさにそんな回だったなと思います。それでこのエンディングですから、もうなんていうか……感動が倍増すると思います。このエンディングをやろうと思ってくれてありがとうという気持ちになりました。

――オープニングとは対照的な感じもあります。

下地 オープニングは真っ直ぐ王道な感じだったので、エンディングはどんな感じなのかなと思っていたんですよ。「エンディングです」と初めて曲を聴いたときは、このエピソードのためだけの特殊エンディングなのかと思ったぐらいでした。どんなエピソードの後にもホッとひと息つける曲になっていると思います。


――物語と合わせて楽曲も味わってもらったら、最終話まで視聴決定になりますね。

下地 そうですね。ぜひ余すことなく観て、聴いていただきたいなと思います。

――では、最後にお聞きします。下地さんにとって“ヒーロー”とは何でしょうか?

下地 ほかのインタビューでも聞かれたんですけど、全然答えがでなくて……すごく難しいです。でも、この作品のヒーローは、それこそ作中で「いるだけで安心できるような存在」と言っていたのが印象深いです。そう考えると、私にとってのヒーローは「母親」なのかなと思います。母にはいろいろな相談に乗ってもらったり、背中を押してもらったりしているので、私にとってのヒーローですね。


(取材・文/千葉研一)

【作品情報】
■TVアニメ「SHY

<放送情報>
テレビ東京系列:毎週月曜深夜24時~
(テレビ東京・テレビ大阪・テレビ愛知・テレビせとうち・テレビ北海道・TVQ九州放送)
BS日テレ:毎週月曜深夜24時30分~
NST新潟総合テレビ:毎週木曜深夜26時25分~
AT-X:毎週水曜21時30分~
※毎週金曜9時30分、毎週火曜日15時30分にリピート放送あり
※放送日時は変更される場合あり。

<配信情報>
各配信サイトにて順次配信

※放送・配信詳細は、公式サイト:#を要確認。

<スタッフ>
原作:実樹ぶきみ(秋田書店「週刊少年チャンピオン」連載)
監督:安藤正臣 助監督:谷口工作 シリーズ構成・脚本:中西やすひろ
メインキャラクターデザイン:田中雄一
キャラクターデザイン・総作画監督:髙井里沙 末田晃大
アクションディレクター:諸貫哲朗 CG ディレクター:相澤楓馬
美術監督:下山和人 色彩設計:斉藤麻記
撮影監督:魚山真志(chiptune) 編集:内田恵(MarvyJack)
音響監督:濱野高年 音楽:椿山日南子
アニメーション制作:エイトビット

<キャスト>
シャイ/紅葉山テル:下地紫野
小石川惟子:東山奈央
えびお:杉田智和
スピリッツ:能登麻美子
スターダスト:三木眞一郎
レディ・ブラック:鈴代紗弓
ミェンロン:村瀬歩
ユニロード:井上喜久子
スティグマ:田村睦心
ツィベタ:沢城みゆき
クフフ:日高里菜

<イントロダクション>
21世紀半ば、地球から戦争が無くなった――。
各国に突如現れた超人的な力を持ち、平和を願う“ヒーロー”によって、世界は大きく変化したのだ。
新たに得られた平和を維持すべく各国のヒーローたちが活躍する世界において、日本の平和を担っていたのは、人前に出るのが超絶苦手な“恥ずかしがり屋”の少女ヒーロー、シャイだった。

(c)実樹ぶきみ(秋田書店)/SHY 製作委員会
(c)実樹ぶきみ(秋田書店)2019

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