「マクロス7」30周年に向けて──“歌バサラ” 福山芳樹×作詞家・K.INOJOが熱気バサラを語りまくる!「ダウトメン feat MACROSS 7」LIVE&CD発売記念インタビュー

1994年放送のテレビアニメ『マクロス7』は、大ヒットアニメ「超時空要塞マクロス(1982)の世界観や登場人物を引き継いだ正統後継作品ながら、それまでの「マクロス」の常識を打ち破るような数々の斬新なリアレンジに挑戦し、「マクロスF」(2008)、「マクロスΔ」(2016)など、後に続くシリーズでのさらなる飛躍への橋渡し役ともなった作品だ。

その『マクロス7』が、来年2024年10月に放送30周年を迎える。オープニングテーマ「SEVENTH MOON」を始め、Fire Bomberの数々のレパートリーの作詞を担当し、実質、主人公・熱気バサラの性格や心情を形づくる役割を果たした作詞家・音楽プロデューサーのK.INOJO氏。彼のテクノユニット:ダウトメン(Doubtmen)が、バサラのボーカルを担当した “歌バサラ”こと福山芳樹氏を迎え、30周年の前哨戦となるライブを2023年12月14日に開催する。年明けにはそれらの楽曲を収録したアルバム「ダウトメン feat MACROSS 7」の発売も決定しているという。

今回は、そのプロジェクトの要となる、K.INOJO氏と福山芳樹氏を迎え、『マクロス7』ソングの誕生秘話や、ライブ&CD発売に向けての思いを対談形式で語っていただいた。

こちらもどうぞ!
【プレゼント】マクロス7の名曲が蘇る!「LIVE Doubtmen!!! ~CD ALBUM『ダウトメン feat MACROSS 7」先行発売ライブ~」に抽選で5名様をご招待!

■バサラのキャラクター性は楽曲がはぐくんだ!?

──お2人の最初の出会い、ファーストコンタクトはいつ頃でしょうか?

福山 この『マクロス7』のお仕事が最初の出会いです。たぶん、神宮前のビクタースタジオですね。会議室のような部屋に関係者が集まっての顔合わせがあったんですよ。INOJOさんはもちろん、河森正治さんやアミノテツロー監督とも、その時に初めてご挨拶しています。

K.INOJO そうだったっけ? スタジオで会って、すぐにレコーディング作業が始まったような気がしてたけど。

福山 いや、レコーディングは確かに大急ぎで始まったんですよ。だって10月放送開始だったのに、その時点でもう8月くらいで、スケジュールとしてはかなり厳しい状態でしたから。最初の2日間でいきなり6曲レコーディングしたんです。僕は、作曲家さんが作ったデモテープは聴いていましたけど、完成したアレンジはまだ聴いてなくて、歌詞もまだ見ていない状態でした。その日、スタジオで初めて歌詞と完成アレンジに対面して、「うわー、キー結構高いっすね~」なんて笑いながら冷や汗かいてました。そんな中での出会いです(笑)。

K.INOJO 俺もデモテープだけもらって、とにかく歌詞を急いで作っといて!と言われた。デモテープってワンコーラス分しか入ってなかったりするから、2番や3番の感触がわからないまま、とりあえず詞を作るしかなかったりね。そのままスタジオに行って、その日にやっと届いた完成アレンジを聴きながら、その場で歌詞をなんとか形にするような感じだったな。

福山芳樹さん

──かなりの突貫工事、というか修羅場だったんですね……

福山 INOJOさんと僕と、音楽プロデューサーの佐々木史朗さん(当時:ビクターエンタテインメント株式会社プロデューサー/現:株式会社フライングドッグ代表取締役)の3人で、「ねぇ、これ、どうする?」って頭を抱えながら、「2コーラスハーフのつもりだったのにオケが3コーラスで来ちゃった。ここに歌詞足して!」とか、「この言葉は2番より3番のほうがいいな」とか、「バサラはこんな語尾は使わないな」とか激論しながらワードを切り貼りして、最後にINOJOさんがクリーンアップするような進め方してましたね。

K.INOJO ひどいよね(笑)。でも、現場で練り上げながらみんなで作ってる一体感は強かったですね。今だと、詞も曲もアレンジも何人かに発注して、その中からオーディション的に選ばれて組み合わせて完成……みたいな形が多いけど、『マクロス7』の頃は、’70~’80年代的な音楽の作り方がまだまだ主流で、「ここはお前に任せるから」と信用してもらってポンと投げられることも多かった。だから、「ここで俺がサボったら、この番組終わりだな……」みたいな責任感(緊張感)の中で、気持ちよく作れた記憶がありますよ。

福山 そう、現場で話し合いながら作ってましたね。だから、熱気バサラという男のモノの考え方とか、口調とか、振る舞い方のベースを作ったのは、INOJOさんがまとめ上げた詞の世界だと僕は思ってますよ。もちろん、アニメ側のスタッフや、声を担当された神奈延年さんとの共同作業ではあるんですけど、バサラの内面を探究して、それを言葉に置き変えて、皆に伝わるような形にしたのは、やはりINOJOさんの力なんですよ。

K.INOJO もちろん設定資料やシナリオももらってはいたんだけど、バサラが何を思って行動してるのか、何がやりたくてFire Bomberにいるのか……なんてことは書いてないわけです。でも、「バサラが作った歌」を作るには、それが必要なんですよ。だからバサラの思想を作ること、それが一番重要な仕事でしたね。

福山 無口な役柄ではあったけど、自分の内面を表に出すのは、やはりほとんどが「歌の中」でしたよね。神ちゃん(神奈延年)も、「バサラってさぁ、歌ってばかりでセリフ少ないんですよね~」って当時ボヤいてましたから(笑)。

K.INOJO アニメの映像を作るチームと、俺たち音楽のチームは、制作が走り出したらそんなにひんぱんに会議をするわけでもないので、どうしたって別々に作業が進むんですが、その中で「バサラってこういうヤツだよね」という共通イメージがなんとなくでき上がっていくんだよね。打ち合わせしたわけでもないのに。その過程は面白かったな。

K.INOJOさん

──キャラクターの世界観を詞に乗せて描くようなタイプの作詞を、当時のINOJOさんは得意とされていたんでしょうか?

K.INOJO 尾崎南さんの漫画作品(「絶愛-1989-」など)のイメージアルバムをいくつも手がけていたので慣れていましたし、自分でもノってやれるタイプの仕事でした。でも、その頃の音楽業界では、漫画やアニメ関係の仕事は低く見られていて、「あ~ぁ、INOJOもついにアニメなんかに手を染めたか……」みたいにバカにされるような時代でした。俺はそういうのはまったく気にしてなかったし、『マクロス7』はロックバンドのアニメだと聞いて、「おぉ、やるやる!」とやる気満々で臨みましたけどね。後にオープニングテーマになる「SEVENTH MOON」の歌詞を最初に作って渡したら、その他の曲もお願いしますと言ってもらえたんです。だから「SEVENTH MOON」だけは、まだバサラの世界になってないんですよ。ちょっとカッコよくしようとして、当時、俺が手がけていたバンド・FENCE OF DEFENSEの世界にかなり引きずられていますね。

──ということは、「SEVENTH MOON」は、最初は主題歌として作られたわけではなかったんでしょうか?

K.INOJO 少なくとも俺が作詞した時点では、主題歌になるとは聞いてませんでした。今話したように、『マクロス7』の福山君のボーカル曲の中でも、「SEVENTH MOON」だけは異質なんです。バサラの世界がまだ反映されてない、要するにFire Bomberのレパートリーになりきれてないんです。今思えば、だからこそ、その微妙な違いを監督やスタッフがしっかり見抜いて、主題歌に選ばれたのかもしれないですね。

福山 えー、そうだったんですか!? 僕も初めて知りましたよ! それで思い出したけど「SEVENTH MOON」は、例の「2日間で6曲」のセッションには入ってなかったんですよ。その後しばらくして佐々木史朗さんから「ごめん、主題歌録るの忘れてた。すぐ来て!」って言われて、夜中の12時頃に新宿のスタジオに行ったんです。そこで「すみません、僕、曲まだ聴いてないです……」って言ったら、佐々木さんがその場で歌ってくれたりして(笑)。やっと録音が終わったら、今度はスキャット・バージョンですって「トゥートゥットゥー」みたいなのも録って。さらに主題歌だからTVサイズ用も録ります~って、朝までかかってヘトヘトですよ(笑)。だから「SEVENTH MOON」は、最初のレコーディング作業の中でも、最後に録った曲だったんです。

K.INOJO 逆に俺はその経緯を知らないんだよね。真夜中だったんでさすがに立ち会ってなくて(笑)。 

──本当は、もっと腰を据えてじっくり作りたかった気持ちもありましたか?

福山 最初のセッションの数曲は、そんなバタバタでできあがった歌ばかりだし、当時は確かに、もっと時間をかけて作りたかったとも感じてましたね。でも今思い返すと、あの勢いとテンションだったからこそできた歌だったんじゃないかなとも思います。キーが高いのをむりやり歌ってるような感じも逆にバサラっぽいし。今となっては、この最初のレコーディングセッションのテンションが、その後の熱気バサラを決めたんだろうなって。

K.INOJO 「REMEMBER 16」をレコーディングしてるときも、調整室で佐々木さんと「福山君、キーきつそうだけど、どうする?(直してる時間ないけど)」、「え……いや、大丈夫じゃないっすかねぇ?」みたいに話してたの覚えてるよ(笑)。

福山 人ごとだと思って、ひどいなぁ。「REMEMBER 16」はバックコーラスも自分でやってたんだけど、やっぱりどうしても高音が届かなくて、僕の自分のバンド・HUMMING BIRDのメンバーを急遽呼び出して手伝ってもらったりもしてます。スタジオの近くに事務所があって、そこでちょうどメンバーがファンクラブ会報誌のコピー作業してたので(笑)。

K.INOJO でも最初にレコーディングした曲が、ちゃんと売れてくれてよかったよね。歌モノのレコーディングはお金がかかるから、簡単に追加録音はできないし。でも、バンドのアニメだから、劇中でいつまでもおんなじ曲しか歌わないんじゃ、バンドとして人気が出るわけないし(笑)。


■バサラに対する共通認識ができた状態で楽曲制作された中盤以降

──『マクロス7』の音楽は、Fire Bomberや他のアーティストの楽曲、それがラジカセから流れている状態など、すべて劇中に存在する「実音楽」で、いわゆる「劇伴音楽」を制作していないというのも斬新な手法でしたね。

福山 そう! 劇伴を作らないから、その分の予算もボーカル曲に使える!……と思ったら、そう甘くはなかったんですよね。僕も当初は、各シングルと、最初のミニアルバム「MUSIC SELECTION FROM GALAXY NETWORK CHART」(1995年1月21日発売)が出たら、そこで終わりと聞いていました。

K.INOJO もしそうなってたら、Fire Bomberはファーストアルバムも出せないまま終わってたわけで(笑)。

福山 初期のセッションで僕の6曲と、チエ・カジウラさんのミレーヌボーカル曲を4曲くらいは録ってあったので、フルアルバム=Fire Bomberのファーストアルバム「LET'S FIRE!!」(1995年6月7日発売)が出せるくらいの曲はもともとあったんですよね。本当に出せてよかった(笑)。

K.INOJO ただ、最初のミニアルバムの売れ行きで、その後の展開を見計らっていたからか、後続曲の着手は若干遅かったのかもしれないね。「SECOND FIRE!!」(1995年10月21日発売)は番組終了直後の発売だったし。

福山 でもその間にも実はいろんなCDが出てたんですよ。櫻井智さんによるリン・ミンメイのカバー盤(「Mylene Jenius sings Lynn Minmay」/1995年5月3日発売)とか、日本青年館のライブ盤(「LIVE FIRE!!」/1995年8月23日発売)とかね。

K.INOJO 最初のフルアルバムが、リン・ミンメイカバーだったのはちょっと驚いたよね。「あれ?オレたちの曲じゃないの?」って(笑)。

──そもそも熱気バサラのボーカルパートを担当しているのが福山さんであることも、かなり長い間秘密になっていましたよね?

福山 そうです。今、話に出た日本青年館のイベント(ライブ「LET'S FIRE!!」/1995年5月21日開催)で初めて、チエ・カジウラさんと一緒にファンの皆さんの前に出ました。番組スタートから7か月後まで秘密でしたね。ちなみに言うと、まだ「秘密」なんですよ! カラオケで「福山芳樹」と検索してみてください。『マクロス7』の歌はみんな「Fire Bomber」名義なので、全然ヒットしませんから。「マクロスF」以降だと、ちゃんと「シェリル・ノーム starring May'n」みたいになってるでしょ? チエさんは、2つ目のエンディングテーマ「…だけど ベイビー!!」がチエ・カジウラ名義なので名前が出るようになってるんですけど、僕はずっと秘密のままなんです(笑)。

──物語の中盤以降に登場する数々の新曲は、初期の曲とは違った作り方になったんでしょうか?

福山 そうですね。軌道に乗った感じで余裕が出てきました。なによりも、その頃にはもう、「バサラってこうだよね?」とか、「バサラならこう歌うだろ」みたいなコンセンサスがほとんど完成していたので。

K.INOJO ロックバンドですし、当初はバサラの過去の恋愛経験に重なるような若干セクシーな歌詞も書いてたんですけど、佐々木さんと「バサラの昔の恋愛話とかしていいのかな?」とか議論になったこともありました(笑)。そんな過程を経て、「バサラはこんなことしねーな」とか「こんな言い方はないな」とか、進むべき方向が見えていたので、迷うことなく言葉を選べるようになってきたんですよね。バサラの人間像が、俺と福山くん、佐々木さんの間ではでき上がってきていたというか。

福山 実は結構ヘビーな戦争の話なのに、バサラはずっとラブソングを歌ってるという愚直さとか、そのくせバサラに恋愛要素がほとんどないとか。「マクロス」なのにだよ?(笑)バサラを中心に回っている、そういう不思議なバランスが『マクロス7』独特の魅力になったんだと思いますよ。ファイヤーバルキリーで戦場に駆けつけて、思いっきり反戦ソングを歌う展開だって、あり得たわけじゃないですか。でも、「戦争反対!」なんてひと言でも言ったら、それはもうバサラじゃない。真っ直ぐにただラブソングを歌う、これが『マクロス7』の一番のミソだと思いますよ。

K.INOJO とにかく「オレの歌を聴け!」ですからね。「オレの歌を聴いて●●してくれ」という、その先がない。あまりに真っ直ぐすぎて、社会性がないんだよね。でもバサラの魅力はそこ(笑)。バサラがちょっとだけ心の葛藤を吐露するような、若干ダウナーな「SPIRAL ANSWER」という曲も書くには書いたんだけど、ほとんど使われなかったね(笑)。

福山 アミノ監督の発注にも、そういう「悩み」の歌があったんですよね。でも結局、あんまり使われなかった。

K.INOJO まぁ、でも発注で指定されても素直に聞くような俺たちじゃないし、すぐにはでき上がらないしね。福山君も自分の曲持って行ったりしてたし。「TRY AGAIN」とかね(笑)。

福山 持ち込みましたね。でもなかなか本編で流れなくて「あれ~?」と思ってたら、最終回でカッコよく採用してもらえたので、とっておきの1曲と思ってもらえたのかなぁ~って。

K.INOJO たぶん監督が忘れてただけだよ。

福山 ひどいな!(笑)

──いわゆる作曲家・編曲家などのサウンド面のスタッフと、スタジオで直接会って仕事をされる場面はあったのでしょうか?

K.INOJO いえ、作曲や編曲のチームとは別班で動いていて、ほとんど会う機会がなかったんですよ。だから『マクロス7』の歌モノは、ほとんどが曲先(まず作曲家がメロディを作り、そこに作詞家が詞を当てはめていく作り方)で作られています。そこで重要だったのがトンさんの存在ですね。佐々木史朗さんの統括の下で、音楽面・サウンド面のディレクションを担当していた林敏明さん(音楽制作プロダクション「フラワーズランド」ディレクター/鈴木茂のバンド「ハックルバック」の元ドラマー)です。作詞・作曲・編曲・歌手・演奏ミュージシャンなんかの手配も、林さんが仕切られていました。

福山 さらに言えば、チエ・カジウラさんのミレーヌ曲とも別チームで作業が進行していました。だからこそ、それらすべてをまとめる林さんの存在が大きかったんですよ。僕とINOJOさんのバサラチームは、林さんがサウンドチームに発注し、アレンジもレコーディングも終わって完パケたオケを受け取って、歌詞を仕上げたり、ボーカルを入れたりしていたわけです。その全体を林さんがコントロールしていたということですね。バサラの世界観は僕とINOJOさん、佐々木さんの3人で形にしていったかもしれないけど、じゃあそれをボーカルとしてどう表現するのか、Fire Bomberのサウンドの中でどう形にするのかを作り上げたのは佐々木さんと林さんですね。「もうちょっと言葉詰めて歌って!」とか、「もっと張り切った感じで!」とか、僕に対するボーカル指導もめちゃくちゃ厳しかったですよ。

■新たな世代にFireBomberを伝えるために

──今回、30周年を翌年に控えたタイミングで、『マクロス7』楽曲のカバー・プロジェクトが始動するわけですが、これにはどのような経緯があったのでしょうか?

K.INOJO これまで作詞やプロデュースなどの裏方に徹してきたんですが、昨年、「ダウトメン(Doubtmen)」というテクノユニットを青木庸和くんと組んで、表に立つことも始めたんです。さまざまなアーティストやアイドルをフロントに立ててフィーチャーしてるんですが、だったら『マクロス7』をフィーチャーする機会があってもいいんじゃないかと思い立って、すぐに福山くんに連絡したら乗ってくれたんです。折しも30周年が近いタイミングでしたし。もちろんフライングドッグの佐々木さんや、「マクロス」の権利関係を統括しているビックウエストさんにも許諾をいただいてます。

福山 僕もINOJOさんも、ある意味、『マクロス7』で人生が変わってるんですよね。番組も音楽もちゃんとヒットしたし、おかげでその後も音楽家としての活動を続けてこられたわけだし。

K.INOJO そう。だから当時のファンの皆さんと一緒に30周年を祝いたい、恩返しをしたいというのが素直な動機ですね。ただ、これまでの『マクロス7』を振り返るイベントでは、Fire Bomberのバンドサウンドを再現するライブとか、福山君がアンプラグドでしっとり歌うとか、そういう方法が中心でした。でも、『マクロス7』の歌は全般的に楽曲のクオリティ自体が高いので、もっといろんな展開ができるんじゃないかと以前から考えてたんです。そこで自分のユニット:ダウトメンの方法論で、多様なテクノアレンジをしてみようという方向性が生まれました。

──だから、さまざまなアーティストを曲ごとにフィーチャーするという、ダウトメンが展開している方法が、今回のアルバム「ダウトメン feat MACROSS 7」でも採用されているわけですね。

K.INOJO そうです。演奏再現とか同窓会的なリユニオンアルバムではなく、どうせ新しく作るなら次の時代への展開を模索したかった。だから思い切ってフロントも新世代に、しかも複数の才能に任せてみたかったわけです。ただ、それだけだとファンの皆さんにとっては物足りないかなと思って、やはり本物の“歌バサラ”にもご登場願ったわけです。

福山 僕も自身も、テクノに乗って歌うのは初めての経験なので、ちょっと緊張しました(笑)。

K.INOJO 最初にデモを聴かせたとき、びっくりしてたもんね。

福山 「うわ、こういうのか~!」って、そりゃびっくりしますよ。僕のバサラとしての歌い方を大きく変えるわけにはいかないので、オケのほうがここまで変わってくれるのは、ギャップが出て面白いんですよね。こんな僕をイマドキなテイストにしてくれて、ほんとありがとうございますって感じで(笑)。

──アニメソングのカバーアルバムは何年か置きにブームが巻き起こるほど人気がありますし、’90年代末には、パラパラや「音ゲー」ブームでアニメソングのテクノアレンジが量産されましたが、福山さんはその際にも、『マクロス7』曲のテクノカバーは歌われていなかったんですね。

福山 やってないですね。今回が初めてです。いつもブームに乗り遅れてます(笑)。流行りのものとか、みんながやってることは、逆にちょっとやめておこうかなという気持ちもどこかにあるんですよ。ただ、今回は『マクロス7』30周年だし、なにより2024年は熱気バサラ誕生の年らしいじゃないですか。だったら乗るしかないですよね。INOJOさんとも、いろんな方向から話題になることをやろうと話していますし、「F」や「Δ」で「マクロス」を知った若い世代にも届けたいですよね。

K.INOJO 今回のCDも「なんで全曲福山さんじゃないんですか?」って思うファンの方もいるとは思うんですけど、『マクロス7』の楽曲を後世にしっかり伝えていくには、こういう思い切りも大事だと思っています。この30年間で音楽に関するテクノロジーもレコーディング技術も大きく変わっていますから、そうした進化を反映したサウンドや展開方法もいろいろと考えています。ボーカルは同じテイクなのにオケがまるで別物になっているバージョンとか、逆に同じアレンジを複数のボーカリストで歌ったりとかね。なので12月14日開催のライブ「LIVE Doubtmen!!!~CD ALBUM「ダウトメン feat MACROSS 7」先行発売ライブ~」も、ホールやライブハウスではなく、爆音と重低音でサウンドを体感できる渋谷のクラブを押さえました。

福山 僕も『マクロス7』のライブで、ギターを持たずに歌うのは初めてになると思います(笑)。

K.INOJO 今回のサウンドは、あえてギターを封印してるので、福山君がギターを持って登場するのは確かにおかしい。いっそマイクすら持たずにヘッドセットで歌うとかどう? すごい新しいバサラ(笑)。

福山 新しすぎませんか? それ(笑)。

K.INOJO あ、1曲だけ、「Angel Voice」には、バービーボーイズのギタリスト・いまみちともたかくんに参加してもらって、思い切りギターを弾いてもらってます。彼のソロをフィーチャーするためにインストで仕上げています。

──バービーボーイズ時代のいまみちともたかさんの、あの小さい丸メガネを少し下げてかけているビジュアルって、バサラのライブスタイルにすごく似てませんか?

K.INOJO そうなんですよ! 俺も本人に、「今度頼むのはこういうアニメの歌で……」って資料見せたら、「あれ? こういうメガネ、オレよく使ってたなぁ」って言って、今でも持ってるそのバサラのメガネの写真が送られてきました。もしかしたらキャラクターデザインのときに、ちょっと参考にされたのかもしれないよね。今度河森さんに聞いてみよう。

福山 あとOVA「超時空要塞マクロスII -LOVERS AGAIN-」(1992)の歌姫・笠原弘子さんが参加しているのもすごいですよね。マクロス的には、僕の直属の先輩にあたる方ですけど(笑)、笠原さんとは、ライブイベント「スーパーロボット魂」でずっと共演してきましたし、その中で『マクロス7』ソングをいくつもデュエットしてるので、実はけっして遠くないんです。

K.INOJO そこも意外性と化学反応を見てみたかったからですね。いろんな人が不思議な縁でつながっているのが面白いし、それが30年を経てきた証しみたいなものじゃないですか。

──それでは今回のライブ&CD発売に際しての意気込みなどをあらためて伺えますか?

K.INOJO 熱気バサラの底抜けのポジティブ思考とFire Bomberの歌たちは、30年前のものではあるけど、今の時代にこそ合ってるし、必要なものだとも思うんです。こういう考え方、気持ちの持ち方を諦めずに伝え続けていけば、そこで救われるヤツが必ずどこかにいるはずなんです。それをFire Bomberを知らない人たち、1994年には生まれていなかった人たちにも広げていきたい。今回のライブやCDを、そのスタートにしたいと思っています。

福山 何年か前に、「全マクロス大投票」(2019)っていうNHKの番組があったんですよね。「マクロスΔ」が人気爆発してるなかで、こんな酷な企画ないわ~……と思ってたら、「突撃ラブハート」が歌部門の3位に入ってて、ちょっと感動したんですよ。ちゃんと聴き続けてくれている人たちがいるのを実感しましたし、『マクロス7』の歌がそんな存在になれるなんて、当時は思ってもみなかった嬉しい誤算です。だからこそ、今後ももっと間口を広げながら、「まだまだ歌ってるぜ!」という姿を見せていきたいですね。

K.INOJO 「マクロス」関係者のなかで、誰が一番バサラに近いか考えたら、やっぱり河森さんだよね?

福山 そう! ブロック玩具でバルキリーを作り続けたりとか、バックパッカーとして世界中を旅したりとか、子どもみたいに真っ直ぐなところは、まさに河森さんそのものですね。

K.INOJO 「マクロス」のライブを観に行っても、河森さん、いつも関係者席に座ってないんですよ。どこ行っちゃったのかな……と思ったら、熱狂の一般観客席に飛び込んでいってお客さんと一体になってて。かつ、みんなの反応も観察してるんですよね。

福山 あと、個人的な希望としては、とにかく、いつか男子の後輩をお願いします! 「マクロス」スタッフの皆さん、河森さん、ほんとに頼みますよ!

──本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

(取材・文/不破了三)

不破了三

不破了三

1968年生まれ。音楽ライター。TV主題歌・アニメソング・特撮ソング・劇伴・CM音楽等の商用音楽研究、DVD・CD等パッケージ商品の企画・構成・解説、音楽家インタビュー等を主に手掛ける。


【CD情報】

■CD ALBUM「ダウトメン feat MACROSS 7」

・発売日:2024年1月1日発売予定
・価格:4,000円(税込)
・全14曲入り、16pブックレット付きデジパック仕様

<収録内容>
1.INTRODUCTION
Violon:ミ子
2.PLANET DANCE
Vocal:福山芳樹/笠原弘子
3.HOLY LONELY LIGHT
Vocal:仮面女子
4.REMEMBER 16
Vocal:福山芳樹
5.WILD LIFE
Vocal:井出ちよの
6.星屑ハイウェイ
Vocal:うさぎのみみっく!!
7.ヴァージンストーリー
Vocal:福山芳樹/井出ちよの
8.弾丸ソウル
Vocal:K.INOJO/井出ちよの
9.SEVENTH MOON
Vocal:MASK OF GODDESS
10.HEART&SOUL
Vocal:yucat
11.REMEMBER 16(Duet ver.)
Vocal:福山芳樹/正宗幹也
Chorus:SPECIA:RIDE/七熊燐
12.突撃ラブハート
Vocal:正宗幹也 Violon:ミ子 Chorus:うさぎのみみっく!!
13.LIGHT THE LIGHT
Vocal:まおせり with 仮面女子
14.ANGEL VOICE
Guitar:いまみちともたか(Tomotaka IMASA Imamichi)


【イベント情報】

■LIVE Doubtmen!!!
~CD ALBUM「ダウトメン feat MACROSS 7」先行発売ライブ~
重低音/爆音で30年ぶりに蘇るマクロス7の名曲たち

・日時:2023年12月14日(木) 開場18:30 開演19:30

・会場:渋谷「R LOUNGE」

〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町4-7トウセン宇田川町ビル6F

・チケット料金:
「銀河最速!」「忘れかけてるエナジー付き」「宇宙でたった1つのライブ」
新作フルアルバムCD(4,000円)+K.INOJOによる解説本(500円)+スピリチュア付き特別チケット 7,777円(税込)+1drink(800円)

<出演>
Doubtmen(K.INOJO/青木庸和)

<Special Guest>
福山芳樹、笠原弘子、井出ちよの

<Guest>
ミ子(violin)、うさぎのみみっく!!…and more

DJ:川合栄一

<予約>
■チケットペイ
#
※チケットは1種類のみ。一度に申し込める枚数は1~4枚。

※今回のライブの配信はありません。

おすすめ記事