【2013年秋アニメを振り返ろう!】「ガンダムビルドファイターズ」「弱虫ペダル」「キルラキル」今も続く人気シリーズが誕生!【アニメ10年ひとむかし】

「十年ひと昔」と申しますが、アニメの世界で10年前は大昔のように感じることもあれば、今でもバリバリ現役のシリーズ作品がすでに放送されていたりという、微妙かつちょうどいい間合いの時間です。

今回はそんな10年前──2013年の秋クール、TVアニメの世界でどんな作品が放送されていたのかを見ていきたいと思います。

●ガンダムビルドファイターズ


2023年現在も展開を続ける「ガンダムビルド~」シリーズは、2013年秋シーズンのスタートです。

1979年にスタートした「機動戦士ガンダム」シリーズは多岐に展開しましたが、シリーズに登場するモビルスーツ(人型機動兵器)を模型化したガンプラを台座にするという、ありそうでなかったアプローチを採ったのが本作です。舞台となる近未来では、我々の世界と同様にガンプラが発売されており、これを用いたシミュレーション「ガンプラバトル」が大ブームとなっています。ガンプラ作りは得意だが操縦は苦手なセイは、戦いを得意とするレイジと出会い、二人三脚で「ガンプラバトル」の大会に挑むことに。2人はさまざまなライバルたちと戦い、切磋琢磨しながらガンプラの高みを目指していくのです。

「機動戦士ガンダム」シリーズが戦争や人の業を描くのに対し、「ガンダムビルドファイターズ」はホビーアニメに徹しており、ガンプラの戦いやスポーツもののような熱い展開を楽しめるのが特徴。本来なら接点がない別シリーズの機体が戦う、夢のカードが目白押しなのが魅力のひとつです。こうした部分はこれまでゲームが得意とする領域で、ゲームシステムを越えたバトルのディテールについてはファンたちが自分で想像するしかありませんでした。いっぽう、本作ではゲームで実現できない頭脳戦や意外な逆転、そしてホビーアニメとしての気持ちが乗った、アニメならではのバトルを楽しめます。

自作ガンプラで戦うのは、男の子が昔から抱く夢。1982年の漫画「プラモ狂四郎」において、本作の「ガンプラバトル」と似た「プラモシミュレーション」でガンプラが活躍して以降、全国のガンプラ少年たちの変わらぬ憧れであり続けました。本作は真正面からこの憧れをアニメでかなえた作品ともいえます。「プラモ狂四郎」に登場し強い印象を残した「パーフェクトガンダム」が「ガンダムビルドファイターズ」に登場するさまは、30年を経た遠い遠いラブコールにほかなりません。

なお、ガンプラを戦わせるという夢は実現に近づきつつあります。3DスキャンでガンプラをCGモデル化し、これを戦わせることを目標とした「ROAD TO GUNPLA BATTLEプロジェクト」が、現在進行中。関係イベントで体験して胸を熱くした人も多いでしょう。ガンプラは自由である、というのは本作の根幹を成す考え方ですが、技術の発展で本当に自由を獲得するかもしれないわけで、そうした意味では現実とのリンクも楽しいアニメなのです。

●弱虫ペダル


渡辺航氏の人気コミックが、連載5年目でついにアニメ化。現在、原作コミックは連載15年を越えていますが、アニメ版も2023年11月現在で9年間に5シリーズという大河作品となっています。

本作の見どころは、自転車競技という、漫画では比較的珍しい題材を扱っていること、そして個性的なキャラクターたちが織りなす人間ドラマにあります。

主人公の小野田坂道からして、オタクでありながらクライマーとしての才能を秘めるがその自覚はなく、40キロ以上離れた秋葉原にママチャリで通い続けたことで足腰が鍛えられた、という設定なのですから前代未聞。クールだが負けず嫌いで激情を秘める今泉、ナルシストかつ頭脳明晰ではあるものの真面目な一面もある東堂、勝利のためには手段を選ばない御堂筋、みずからの筋肉に名前を付けて愛する泉田など、個性的な選手が各チームに参加し、入り乱れるさまは、まさに群像劇。坂道を作品世界への案内人とし、視聴を重ねていくとあちらこちらと目移りしていく奥深さが魅力のひとつです。

彼らは皆、自転車競技に熱い思いを持つ者たちですが、それぞれが背負った事情は千差万別。抜くか、抜かれるかの極限状態のレースの中、自分自身の意地やチームメイトへの思い、限界に挑む気持ちの熱さが際立ちます。そんな皆が日常で見せる意外な側面、レースとのギャップも大きな魅力で、ひと粒で二度三度とおいしいのが本作と言えるでしょう。

監督は「D.Gray-man」「とっとこハム太郎」を手がけた鍋島修氏、シリーズ構成は「D.Gray-man」で鍋島氏とコンビを組み「けいおん!」「バクマン。」など原作モノも多く手がける吉田玲子氏、キャラクターデザインは「おおきく振りかぶって」「N・H・Kにようこそ!」の吉田隆彦氏。熱血少年漫画でありつつも女性人気の非常に高い原作をアニメとして昇華させ、長期シリーズとなっていく基礎を固めました。もちろん、原作で迫力だったレースシーンも見事に再現されており、ファンを喜ばせています。

「弱虫ペダル」はアニメ化だけでなく、実写ドラマ化や舞台化も果たしており、どちらを見ても「弱ペダ」、とでもいうべき時期があったのも記憶に新しいところ。なかでも舞台版は、パントマイムで全てを表現する劇団「惑星ピスタチオ」で伝説となった西田シャトナー氏が、舞台化困難な自転車レースを「俳優にハンドルだけを持たせる」手法で表現して話題を呼んでいます。原作愛あふれるアニメ化をはじめ、多彩なメディアミックスに恵まれた作品が「弱虫ペダル」と言えるでしょう。

●キルラキル


「サイバーパンク エッジランナーズ」「SSSS.GRIDMAN」などパワフルな作品で広く国内外に名を知られる制作会社TRIGGER。同社が初めて手がけたオリジナルタイトルが2013年の「キルラキル」です。

主人公の流子が父の仇を追って流れ着いたのは、着用者と一体になって特殊能力をもたらす「極制服」で生徒会が学生たちを支配する本能字学園。ひょんなことからしゃべるセーラー服・鮮血を手に入れた流子は、仇の手がかりをつかむため、生徒会長の皐月にたどり着くべく、親友・マコの力を借りつつ、学園に存在する無数のクラブと戦うのです。

熱血ロボットアニメ「天元突破グレンラガン」のスタッフが興したTRIGGERなだけに、本作も実に熱い作品。「男一匹ガキ大将」「リングにかけろ」「炎の転校生」「覚悟のススメ」「ハレンチ学園」などなど懐かしい少年マンガの面白さと熱さと、女子高生+学園+能力バトルという近年流行のフォーマットを組み合わせているのがユニークです。

作画は1980年代のOVA全盛期を思わせるもので、アクションシーンでなくてもデフォルメの効いたキャラクターが動きまくるのですから、これまた熱い。当時でさえアニメファンたちの目を惹いたこの作風がCG全盛期の2013年に現れたのですから、その画面は驚きと新鮮さを兼ね備えたものとなりました。

己が目的や美学のためにまっしぐらな濃いキャラクターたち。学園モノというフォーマットと「極制服」の組み合わせにより、ボクシング部やテニス部といった運動部から、園芸部や落語部といった文化部までもがライバルとなる熱いバトル。本能字学園が日本支配を着々と進め、できの悪い一般生徒は貧民窟に住まわされ、トラップだらけの通学路を進む「ノー遅刻デー」や、学園中で生徒が戦う「壊惨総戦挙」といった狂気の行事が行われる奇想天外な世界観による驚きと笑い。明るいお色気。手描きのテイストを強く打ち出した画面。デフォルメという意味であえて崩したキャラクターによるダイナミックな動きなど、少年マンガやアニメの原点を問いかけるのが「キルラキル」と言えるでしょう。

本作がリスペクトする作品は多く、画面のあちこちに1970年代にまでさかのぼるネタが散りばめられていますが、そうした知識がなくても楽しめるのは本作のいいところ。流子と皐月のライバル関係のスリルに、流子と鮮血が互いにわかり合っていくバディものとしての楽しさ、流子とマコの友情といった、普遍的な面白さのエッセンスがしっかりと込められているからです。

監督は「天元突破グレンラガン」「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」の今石洋之氏、原作に「天元突破グレンラガン」「のだめカンタービレ フィナーレ」の中島かずき氏、キャラクターデザインは「キスダム -ENGAGE planet-」「ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島」のすしお氏。本作の後、TRIGGERは「リトルウィッチアカデミア」「異能バトルは日常系のなかで」「ダーリン・イン・ザ・フランキス」などの作品を制作し、多くの支持を集めることとなります。


(文/箭本進一)

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