テレビアニメ「16bitセンセーション ANOTHER LAYER」みつみ美里×甘露樹インタビュー──「美少女ゲームの系譜に興味を持って楽しんでいただけたら」

10月放送開始のテレビアニメ「16bitセンセーション ANOTHER LAYER」が、いよいよ終盤を迎え、目の離せない展開となっている。

原作は、ゲームクリエイターとして活躍するみつみ美里さん(アクアプラス)、甘露樹さん(アクアプラス)と漫画家の若木民喜先生により、コミックマーケット96での頒布からスタートした同人誌「16bitセンセーション」。1990年代の秋葉原を舞台に、美少女ゲーム制作の現場と、それを取り巻く世間のカルチャー・ムーヴメントの移り変わりが主人公・上原メイ子を軸としたキャラクターたちの物語とからめながら描かれている。同人誌は第6話まで販売されており、KADOKAWAより単行本が刊行中だ(既刊2巻)。

その原作をもとにしつつ制作されたアニメ「16bitセンセーション ANOTHER LAYER」は、新たな主人公・秋里コノハ(CV. 古賀葵)を軸としたオリジナルストーリー。コノハがひょんなことから譲ってもらった美少女ゲームのパッケージを開くと……なんと美少女ゲーム黎明期である1992年にタイムリープしてしまう。そこで出会ったアルコールソフトというゲームメーカーのメンバーとの物語が描かれていく。

どの時代にタイムリープするかの謎が解明しかけた第8話では、なんと「PC-98」をこよなく愛するプログラマー・六田守(CV.阿部敦)が1985年へと跳び、さらなる不思議な展開に突入。そんな、毎回目の離せない展開を繰り広げる本作について、原作のみつみ美里さんと甘露樹さんにお話をうかがった。

■始まりはその場のノリで返事したこと

――アキバ総研で「16bitセンセーション」のインタビューは初となりますので、まずは改めて原作である同人誌がいかにして誕生したのかお聞かせください。

みつみ 若木先生とはたまにご飯を食べたりお酒を飲んだりするのですが、「なにかしたいね」と話していたときに、「こういう(美少女ゲームの)記録を残した漫画とか書きたい」と若木先生が言ってきたんです。若木先生は美少女ゲームが好きで、私はその会社で働いている――遊んでいる側と作っている側から当時のことを漫画にできたらいいねと。それで同人誌をやろうとなりました。

ただ、私も「やろうやろう」と答えてはいましたが、その場のノリだったので、後日「あの話どうします?」と言われたときに、なんの話なのか記憶になかったんですよ(笑)。

――甘露さんもその場にいたのでしょうか?

甘露 いえ、僕はその場にはいなくて、みつみ先生から協力してほしいと誘われたのがきっかけです。でも、細かな内容までは聞かずに、気軽に引き受けちゃったんですね(笑)。しっかり話を聞いてみたらこういう内容でしたので、過去の自分のCGを見るなどして、記憶を掘り起こすところからスタートしました。

――実際に同人誌を作っていくうえで、2人はどのような関わりをしているのでしょうか?

みつみ 基本的に私たちはネタの提供ですね。ヒロインの(上原)メイ子というキャラクターを作る際には、「私は大学のときにこうしていた」「ゲーム会社ではこうしていた」といった話をたくさんしました。もちろん私とメイ子は全く違いますし、私たちの自伝ではないですけど、当時あった面白いネタとか作業環境の話などを提供して、それを若木先生がまとめて物語として完成させています。

なので、普通にいち読者として楽しんでいる感じです。たまに自分のことすぎるエピソードがあってビックリしますが(笑)。

甘露 僕も、ネームがあがってきたときに読む“最初の読者”だと思っています。

みつみ 私たちがネーム段階でチェックしているのは、あまりにも史実、現実と違いすぎる場合ぐらいですね。

――そして、同人誌から単行本となり、今回TVアニメとなりました。アニメ化はどのような経緯で実現したのか教えてください。

みつみ コミケで私たちのサークルを手伝ってくれている友達がいまして、その方が(本作のアニメーション制作である)st.シルバーさんで働いていたんです。もともと別のところで知り合った人なのですが、彼女が「アニプレックスで次にやる題材を探しているんですが、『16bitセンセーション』とかどうですか?」と提案してくれたんです。

甘露 それは知らなかったです(笑)。

みつみ そのときも「どうぞどうぞ。アニメ化されたらすごいよね」みたいな軽いノリで答えたら、「向こうも興味を示しているから、企画にしてやってみない?」という話になり、「やるならOVAを3話ぐらいかな」と進展していきました。そして、若木先生にその話をしたところ、「まだ原作も終わっていないし、3話ではストーリーがまとまらないからオリジナルのヒロインを立てるのがいいのでは」となりました。コロナ前だから、3年以上前のことです。

甘露 コロナで中断したんですよね。コロナの間は音沙汰がなかったんですけど、収束してきた頃に、やっぱりTVアニメにしましょう! という話になったんですよ。せっかく考えた新しいヒロインもいることですし、彼女を主軸に話を構成してアニメ化することになりました。

■当時を再現して描いた絵がテレビに映るのは恥ずかしいです

――そうして新たに誕生したのが主人公のコノハです。アニメではコノハを主人公に据え、内容をタイムリープものにしたことについて、詳しく教えていただけますでしょうか?

みつみ OVAにしようとなったときに、原作のままだとまとまらないから新しくヒロインを立てたと話しましたが、そこで若木先生がタイムリープもののプロットを持ってきたんですよね。

甘露 当時はオリジナルで全3話の予定でしたから、新しいヒロインを立てて3話に収まる形にしようと。

みつみ タイムリープものにしようとなったのは、アニメ化しても“おっさんホイホイ”にしかならないのはダメじゃないかと考えたからです。当時のことを知らない人たちも多いし、原作のままではターゲット層が狭すぎます。それよりも、現代の子(コノハ)がタイムリープ先の世界を紹介する形にしたら、当時を知らない若い人にも興味を持って見てもらえるんじゃないか、お仕事ものとしても見てもらえるんじゃないか、と思いました。


――ということは、今回のアニメの設定、案出しにも結構お2人の意見が入っているわけですね。

みつみ はい。OVAの話があったときに私たち3人とアニプレックスの人と考えたことが、今回のアニメでももとになっています。でも、アニメのメインストーリーをどういうものにして、原作のどこを使い、どこをオリジナルにするかは若木先生がメインで考え、シナリオ会議でアニメ関係者の人たちの意見をふまえて詰めていきました。コノハと守の関係性だけは私が結構言いましたけどね(笑)。9割方は若木先生が作られています。

甘露 そんな感じで、基本的に若木先生がプロットを考えて、脚本担当の方やアニプレの方などの意見で変更などしつつ完成させていきました。ストーリー以外でいえば、僕は後半に出てくる何人かのキャラデザインをやっています。

みつみ そうですね。私は服のデザインと、作中に出てくる絵をいっぱい描きました。アニメでのメイ子の絵は全部私が描いた絵なので、テレビにそのまま映るのが恥ずかしかったです。

――自分が描いた“絵”が出るのもこの作品ならではですね。

みつみ そうなんですけど……実はあまり嬉しくないんですよね。今の絵ではなく、当時を再現するために昔の絵を見ながら描いたものですから。今の絵はこうじゃないんだ! って気持ちが大きいです(笑)。

甘露 それでいうと、だいぶ昔に描いた「Pia♥キャロットへようこそ!!」のポスターがずっと貼られていて、うわ〜ってなりながら見ていました(笑)。

■7畳ぐらいの部屋に5人くらいが作業していたことも

――そういう恥ずかしさも含めて、実際にアニメをご覧になっていかがですか?

みつみ いち視聴者として見て楽しんでいますね。ただ、たまに先ほど言ったような絵が出てきて現実に引き戻されて、恥ずかしくなるって感じです(笑)。

甘露 僕はもう完全にいち視聴者として楽しんでいます。

みつみ むしろ、リアルタイムで見ながら、SNSでの皆さんの反応を楽しんでいるところはありますね。

――反響で印象的だったものはありますか?

みつみ 自分の絵が出たときは「みつみ絵」ってたくさん言われました(笑)。それと、コノハが結構受け入れられていたのが、本当によかったです。新しく立てたヒロインですし、コノハが受け入れられないとこのアニメ自体が受け入れられないかも……と思っていたので。若木先生はとにかく「かわいく、かわいく」と言っていて、声優さん(古賀葵さん)のおかげもすごくあって受け入れられた部分があると思います。

甘露 僕はリアルタイムでは見られていないんですけど、あとでネット老人会の皆さんが盛り上がっているのを見て、アニメ化されてよかったなと思いながら(SNSの書き込みや動画の)コメントを読んでいます(笑)。

みつみ 当時だったら生々しかったと思うんですよ。でも、20年以上経っていますから、多少はいい話になっていたり、そこまで生々しくなく見ることができたりしているのかなと思います。当時ならもっと嫌な話が出てきそうですけど、思い出話的にはいいのかなと思っています。

――やはり当時の美少女ゲームは、あのような環境で作られていたのですよね?

みつみ そうですね。最初は本当にアパートの一室のようなところでした。その後はちょっと大きくなりましたけど、100人とか200人ではないですからね。グラフィックのメンバーだけで別の部屋を借りてやっていたときは、7畳ぐらいの部屋に5人ぐらいいて「狭っ!」と言いながらやっていました(笑)。

Leafも最初は3人でしたし、「人数増やさないとね」と言いながら3人で企画会議をしていたんですよ。修羅場のときは泊まりまくっていて、本当にあんな感じでした。

――甘露さんも最初の頃はそういう経験をされたのでしょうか。

甘露 はい。(会社が入っている)ビルに原画の作業をするため泊まると、朝の8時に掃除のおばちゃんが来て起こされるんですよ(笑)。今だから言えることですが、そのまま出勤のタイムカードを切って仕事をすることは割とありました。

Leafに移ってからも、修羅場になると現在では考えられないような作業環境で働いていまして……。今はそういう時代でもないので、これを肯定するのはよくないですが、面白いゲームを作るにはそのぐらいの熱量が必要だったのかな。熱量のあるメンバーだったなと思います。

みつみ みんながすごくアイデアを出し合っていましたね。特に、「こみっくパーティー」はLeaf東京開発室を立ち上げての1作目でしたから、めちゃくちゃがんばりました。

甘露 できることは全部やろう! 全部盛り込もう! みたいな感じでしたよね。

――少人数だからこその熱量はあるかもしれないですね。近年だと人数は多いけど、より分業化が進んでいる気もしますし。

みつみ 大きくなればなるほど、降ってきた仕事をする感じになりかねないですからね。私たちはそこまで大きい会社ではないので、会議に参加して「こういうキャラはどうか」「こんなデザインにしたい」などと密にできているのは助かっています。

■SFとしてもすごく練り込まれていると感じます

――そんな当時の状況も垣間見えるアニメではありますが、オリジナルのストーリー展開も面白いです。お2人は物語としての面白さはどのように感じていますか?

みつみ ばんばんタイムリープするところが面白いなと思います。コノハだけが浦島太郎で、向こうからしたら何年ぶりだよ、ってなるのも面白いです。もちろん、1992年や1999年などいろいろな時代に行くことで作品をたくさん紹介する、という意味で必要なことではありますが、面白い仕掛けですよね。第8話では逆に守くんがタイムリープしちゃいましたし。

甘露 美少女ゲームの話ではありますけど、ストーリー自体がシナリオ会議で聞いたときから面白いなと思っていました。若木先生がファンタジーではなく「SF」と言っているように、SFとしてもタイムリープの原理や考え方がすごく練り込まれています。若木先生はSF映画もいっぱい見ていますから、その影響があるかもしれないです。

みつみ ちゃんとSFですよね。

――第8話で守がタイムリープした1985年は「天使たちの午後」が発売された年であり、ファミコンだと「スーパーマリオブラザーズ」が発売されました。お2人はまだ社会に出る前ですが、当時からゲームやイラストは結構やられていたのでしょうか?

甘露 当時はまだ美少女ゲームはなかったですけど普通にゲームをしていました。中学生の頃はパソコンで遊んでいて、ベーシックでプログラムを書くこともしていましたね。

みつみ 私はパソコンを持っていなかったので、ファミコンで「ドラゴンクエスト」とか「女神転生」とかやっていましたね。絵も描いていました。

――そして、第10話ではコノハが2023年に戻ると世の中が激変していました。どうなるのか気になる終盤の見どころをお聞かせください。

みつみ 個人的には、コノハと守の関係性を見てほしいですね。美少女ゲームのことはどうなの?と思われそうですけど(笑)。

甘露 2023年では既存キャラは当然年齢を重ねていますので、どうなるのか楽しみにしてほしいです。個人的にはいろいろなキャラのデザインをしていますので、そのあたりも見てもらえたら嬉しいですね。

みつみ オープニングに出てくる知らない女の子とか、そのあたりは全部デザインしていますからね。私は新キャラではコノハしかデザインしていませんが。

――キャラクターで言えば、山田冬夜(CV.山根綺)もアニメでは過去の姿で、印象が大きく違っていました。

みつみ 彼女は地味な感じにデザインしました。もともと、コスプレしているときと会社をやっているときの2種類の姿を同人誌で描いていて、アニメでは若い頃の地味でメガネをかけている姿をデザインしたんです。そうしたら、「このほうがいい」といった声もあって。受け入れてもらえてよかったなと思っています。

――では、アニメに関わらず「16bitセンセーション」で今後に期待したいことはありますか?

みつみ 今後……いまは年内ですべてが終了する予定でがんばっているところなのであれですが……(苦笑)。

甘露 今年の冬コミで原作が完結するので、ぜひ来てください!

みつみ (インタビュー時点では)まだ若木先生からネームすら来ていないから心配ですけど(笑)。ちゃんと今回で完結しますので、ぜひ皆さんに見ていただきたいです。そして、先日keyも新作の美少女ゲーム(「anemoi」)を発表しましたし、また美少女ゲームがいろいろ出たらいいなと思っています。

■当時を知らない人にも、美少女ゲームや派生したタイトルを遊んでもらいたい

――「16bitセンセーション」を通じて、世代じゃなかった方たちが当時の作品に触れたり、再評価されたりしたら嬉しいですよね。

みつみ そうですね。新しいプラットフォームで遊べるタイトルもありますし、ぜひ遊んでみてもらいたいです。ただ、当時は大丈夫でも今だとヤバい内容のものもたくさんありますから、厳選しないといけないとは思いますが。

甘露 権利関係が行方不明になってしまったタイトルとかは、どこかが回収して新しいプラットフォームで遊べたら嬉しいですけど、それは難しいでしょうね。

みつみ 失われていくものは失われていきますよね。ゲームではなく本のことですが、私、国会図書館にはすべての本があると思っていたんです。でも、全然そんなことはなくて、やっぱり失われていってしまうんだとすごく感じたことがありました。

――そう考えると、この作品は架空の部分もありますけど、こういう時代があったという記録になるかもしれないですね。

みつみ 同人誌はそれを目的に作ったところもありますから、皆さんの頭の片隅に残ってくれたら嬉しいです。

――そして、当時の美少女ゲームもやってみたいと思ってもらえたら。

みつみ (当時を知らない)新しい方にも楽しんでもらえるように作ったので、美少女ゲームそのものじゃなくても、この系譜のものに興味を持って楽しんでいただけたらいいなと思います。

甘露 現代は、美少女を扱ったゲーム、小説などがたくさんありますから、いろいろ楽しんでもらいたいですね。

――美少女ゲーム全体のこともお聞きします。現在の美少女ゲームに関してはどのように感じていますか? それこそ、“美少女を扱ったゲーム”ととらえれば山ほどありますが。

甘露 多様化してどこを見ても美少女がいるような世界になりましたよね。ゲームもワールドワイドになり、PCのSteamでも最近は美少女ゲームがたくさん出ていて、外国の方が作っている作品も多いです。すごく世界が広がったと感じています。

みつみ 美少女ゲームの本来の形からの派生したタイトルは、ソシャゲでもいっぱい出ていますからね。自分好みのゲームを選べるのはいいことだと思います。むしろ美少女ゲームのノリのシナリオは、海外のゲームの方が引き継いでいるところもあって、面白いなと思って見ています。「ブルーアーカイブ」とかで特に感じますね。

以前、海外の方から「『To Heart3』はまだですか?」と聞かれたこともありました。いつか出るかもしれないし出ないかもしれませんから、何もお答えすることはできなかったんですけど、海外の人にもちゃんと広まっているのを感じます。

甘露 将来が楽しみですよね。大袈裟な言い方をすると「人類的に受け入れられる文化」なんだと思います。

――美少女の絵的なトレンドに関してはどのように感じていますか?

みつみ 絵的には、VTuberが最先端を走っているんじゃないですかね。

甘露 そうですね。VTuberのデザインを見て、みんな入ってきますから。

みつみ 美少女ゲームで10人キャラクターを出すとして、「語尾はこうしよう」「口癖はこう」「猫や犬が好き」「料理が下手で」……といったキャラ付けの方式は、(VTuberのデザインに)すごく影響を与えている気がします。そんな影響なんてない!と言われるかもしれませんが(苦笑)。

――最後にせっかくですので、ほかに宣伝したいことがあればお願いします。

みつみ 「うたわれるもの ロストフラグ」をよろしくお願いします!

(取材・文/千葉研一)

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